異世界立志伝

小狐丸

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面白くない者達

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 ゴンドワナ帝国 帝都マイエラ 

 ゴンドワナ帝国の帝都マイエラ。皇帝サダムートは、自室で暗部からの報告を受けていた。
 サーメイヤ王国が保有していた未開地の開発を成功させたと報告が入ったのだ。

 かの未開地は、帝国から大河を挟んで対岸に位置する場所にあり、海に面した肥沃な土地だろうと推測され、帝国でも何度か侵攻した過去がある。

 しかし大河を対岸へ渡るには、帝国側に小規模ながらある、魔物の領域を抜ける必要があり、そこを被害を出しながらも大河を渡ろうとすると、水棲の魔物に襲われる。対岸に渡りきった船は皆無だった。

 川がダメなら海から大型の船に乗って侵攻すれば良いのでは、と送り込んだ軍を乗せた船は、大型の魔物に沈められ、海の藻屑と消えた。

 サダムートは、サーメイヤ王国にはあの地は開発する事は無理だと踏んでいた。何故なら、あの未開地へサーメイヤ王国側から入る為には、冒険者ギルド推奨ランクAの毒蛇王の森が、何者の進入も拒んでいたからだ。

 その不可能と思える開発を成し遂げた者がいる、帝国が警戒するのも仕方のない事だった。

「……もしや、あの未開地の開発を可能にしたのは」

「はい、かの厄災です」

 暗部の報告に、サダムートは溜息をつく。

「陛下、暗殺を仕掛けますか」

「お前達に可能か?」

 暗部の長にサダムートが冷たい視線を送る。

「失敗しても、帝国との繋がりを悟らせぬ事は可能かと」

「暗部の長よ、サーメイヤ王国と我が国は戦争状態なのだぞ」

 宰相のムスカがそう言うが、暗部の長はピンときていなかった。

「敵国を攻撃するのに、暗殺を何処が仕掛けたなど小さな事よ。疑わしいならば攻めれば良いのだから。そして、かの厄災にはその力があるのだから」

 サダムートにそう言われると、暗部の長も、戦争のキッカケにはなりたくなかった。

「ローラシア王国辺りの裏組織を使いますか?」

「ふむ、……試してみる価値はあるやもしれんの。さすがに厄災も、ローラシアの裏組織から、我が帝国を考えはしないか……」

 宰相のムスカの提案に、サダムートも頷く。

「では、そのように動け。くれぐれも帝国との繋がりを悟らせぬよう、最新の注意をはらえ」

「はっ!」

 暗部の長が部屋を退出しても、サダムートの気分は優れない。

「サーメイヤ王国が、あの未開地を開発すると言う事は、塩を他国に頼らずに済むという事だ」

「我が国は、取引はありませんが、ローラシア王国の商会やガウン王国は、塩の取引があった筈です。いきなり取引を全て無くす事はないでしょうが、取引を停止されても大丈夫な体制を整えた意味は大きいかと」

「サーメイヤ王国の一人勝ちは不味いからの」

「現状、我が国とローラシア王国、サーメイヤ王国の三国は、国力が拮抗していますからな」

「拮抗していたと言うべきであろうな」

 かの厄災は爵位を得、短期間で陞爵し、今では子爵だと言う。あの未開地は、広さだけで言えば辺境伯領と変わらない広さを誇り、開発によってサーメイヤ王国随一の豊かな地になる可能性がある。

「北の未開地を開発しますか?」

「冗談であろう。北は水が乏しく、はぐれの獣人どもが集落を作るのが精一杯であろう」

 帝国北部も井戸を掘り、遠く離れているが、河から水路を引いたりすれば開発も可能だろう。土地は平坦で広大なのだから。

「そうですね。井戸も難しいですが、水路は到底無理ですね」

 この世界の魔法使いは、土木工事に魔法を使うという発想がない。カイトが魔法を使って大規模に領地を開発していると聞けば驚くだろうが、現在、ドラーク子爵領には、侵入する事は難しい。
 先のバスターク辺境伯への侵攻で、国境も厳重に取り締まっている。
 サダムートとムスカが、現在のドラーク子爵領を見れば、奇跡でも起きたと思うだろう。

「それを思うと、ローラシア王国の土地やサーメイヤ王国の土地を奪うのが手っ取り早い方法だからな」

 他国を侵略する事を、手っ取り早いと言い切る辺りが救いようがない。






 ローラシア王国 王都アビラ

 ローラシア王国の非合法組織や裏組織と呼ばれる集団に、サーメイヤ王国の貴族暗殺の仕事が舞い込む。

「それで、ターゲットはサーメイヤ王国のどの貴族家だ?」

 スラム街にある酒場の地下で、仕事を依頼してきた男と、裏組織『毒蠍』のボスが話をしていた。

「新興の貴族家で、ドラーク子爵と言う」

「ドラーク子爵?知らないな」

 しかし、知らないという事に警戒する。臆病なほど慎重なくらいでないと、裏組織のボスなど長くやっていけない。

「つい最近、平民から貴族になった成り上がりだからな」

 つい最近、貴族に成ったばかりで、既に子爵という事は、それだけ優秀な人物なのだろう。それだけ他人からの妬みに、さらされ易いと言えるのだが。

「それで報酬は?」

「白金貨10枚だ。成功すれば、もう白金貨10枚払おう」

 一人殺すにしては高額だが、貴族の暗殺、しかも子爵となると、そのリスクを考えれば、可笑しな額でもない。

「分かった。資料を置いていってくれ」

 仕事を依頼して来た男が、ドラーク子爵の年恰好や容姿が記された、資料を置いて去って行った。
 裏組織のボスがその資料を手に取る。

「ふん、若くして貴族に成り上がったのに、気の毒な事だ。目立ち過ぎると碌なことがないという良い例だな」

 毒蠍のボスは、腕利きの暗殺者チームを送り込む事を決める。
 それで、この件は片付いたと、男の頭から忘れ去られる事になるが、自分達が何を相手にしてしまったのか、その身をもって知る事になる。

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