異世界立志伝

移住者達をサポートする

　一旦、獣人族の集落へ対する移住要請して回るのは止めて、移住して来た人達のサポートをする事にした。

　海沿いの町へ移住を希望する者、領都への移住を希望する者、領内に集落を作って暮らしたい者と、約500人居る移住者達の要望が出来るかぎり叶うように調整していく。

　種族によっても、希望する生き方は違った。
　虎人族、狼人族、猫人族には、兵士や騎士として働きたい者が多く、山羊人族や羊人族などは農業を好んだ。

「カイト様、猫人族が領都から西側に集落を作りたいって言ってるニャ」

　ユーファンが言うには、猫人族は狩を主体とした集落を作りたいみたいだ。領内の食肉事情を改善する意味でもOKを出す。

「西側なら大丈夫だよ。東の湖の側には近寄らないように言っておいてね」

「カイト様、騎士団と守備隊の新兵訓練を行います。食糧や備品を商人に手配して宜しいでしょうか？」

　ランカスとバルデスが新兵訓練の予算を請求してくる。

「あゝ、エルかルシエルに請求書を回しておいて。それで処理してくれると思うから」

「……領都の南を開墾して欲しい。山羊人族と羊人族が言ってた」

　無口なボーデンが畑の新規開墾を頼んで来た。

「分かった。作業が終わったら行くよ」

　手元の作業を止めずに返事をする。

「よし！数はこんなもので良いだろう」

「術式を書き込んだ魔石は出来たのですか。では、後はスーラに任せるであります」

　俺が何をしていたのかと言うと、増えた移住者で領都や海沿いの町以外に住みたいと希望した人達に、浄化の魔導具を造っていたのだ。正確には、その浄化の術式を描き込んだ魔石をだが。

「頼むよスーラ。俺は開墾しにいくから」

「了解であります」

　俺は後をスーラに任せて、領都の南に村を建設している山羊人族と羊人族のもとへ向かう。
　そこでは山羊人族や羊人族の人達が、俺が提供した木材を使って、村づくりをしていた。
　簡単に挨拶を交わしながら、畑の予定地へ向かい、地面に手をついて魔法を発動する。


　ゴゴゴゴゴーーーー！！

　地面がうねり、瞬く間に畑が出来上がっていく。
　用意していた肥料も混ぜ込むと、ホカホカと湯気が立つ畑が出来上がった。

「畝も作る？」

「お願い出来ますか」

「了解！」

　ゴゴゴゴゴーーーー！！

　畝を作り終えると、用水路をひく。

「肥料の追加が欲しければ言って下さい」

　俺はそう言うと次の場所へ移動する。



　海沿いの町へ転移した俺は塩田へ向かう。

　拡張された流下式塩田では、多くの人が働いていた。王国から塩の増産を指示されているので、予算も人員も多く注ぎ込んでいる。
　そこに、兎人族の人達が作業をしているのが見える。

「どうですか、仕事は慣れましたか？」

「いや～、清潔な住む場所と、温かい食べ物、塩も安く買えますし、ここなら子供を産み育てる事が出来ます。
　カイト様、本当にありがとうございます」

　壮年の兎人族の男性が感謝してくれる。

　困った事があったら何でも言って下さいと伝えて家に戻る。



「パパーーー！」

　ドンッ！

　レベルアップにより、基礎ステータスが上昇しているルキナが、凄い勢いで抱きついて来る。多分、普通の人ならノックアウトだと思う。

「ただいまルキナ」

「パパ、おかえりなさい」

　白い耳が嬉しそうにピコピコ動いている。

「今日は何をしていたの？」

「今日はね～、おばあちゃんと遊んでいたの～」

　イリアの母親で、ルキナの祖母のマーサさんは、この屋敷で住んでいる。屋敷の裏庭で小さな畑を耕し、屋敷の中の雑務をこなしてくれている。

「それとね～、お手伝いもしたよ～」

　ルキナが褒めて欲しそうに俺を見ている。

「そうか～、ルキナは偉いな～」

　俺はルキナの頭を撫でて褒め倒す。

「キャハハハッ」

「随分と懐いているね。さあ、カイト様も中にお入りよ」

　マーサさんが出て来て、いつまでも玄関にいる俺とルキナをリビングに早く入れと言って来た。

「おかえりカイト」

「おかえりなさいカイト様」

「カイト様おかえりなさい」

「あゝ、ただいまエル、イリア、ルシエル」

　ユーファン、コレット、スーラはまだ戻っていないみたいだ。
　ただ、領都予定地の屋敷、いや、城だな、その建設中の城の地下に、使用者制限を掛けている転移ゲートを設置してある。そのゲートを使いコレット達は行き来している。

「どう？移住者達の様子は？」

「あゝ、今のところは問題ないよ。でも人族の移住も促進しないと、獣人の比率が高過ぎるかもね」

「まぁ、それは大丈夫だと思うわ。お父様にバスターク辺境伯領からの移住希望者を募るようにお願いしてるから。王都からも、家や土地を継げない次男三男の移住者が一定数居るから」

　それなら大丈夫かな、誰彼なしに移住を受け付ける訳じゃない。犯罪者や問題を起こしそうな人物は、事前に調べて極力排除する努力をしている。一人の悪人も居ない状態は不可能だけど、そのために守備隊と騎士団の訓練をランカス達が頑張っている。

「諜報活動なんかの、裏から領地を守る部隊も必要になるかもな」

「王家は当然として、ある程度規模の大きな貴族家では、当たり前に運用してるわよ。当然、お父様もね」

　そうだな、戦国大名もお抱えの忍びが居たもんな。

　少し考えてみるか。