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暗殺者
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サーメイヤ王国の王都のスラムに、怪しげな酒場が有った。
まだ明るい時間帯なので、人通りが少ない暗い通りに、一人また一人と地下にある酒場に入って行く。
「全員揃ったか」
全員が黒で統一された服を着た、10人の男達が客の居ない店の中で険しい表情で話し合っている。
「しかし、情報を集めれば集めるほど、現実味がなくなるな」
男達は、ある男の情報を収集していた。
ゴンドワナ帝国でも、荒唐無稽な噂程度しか集まらなかった。
チラーノス辺境伯が、周辺の貴族家や帝都騎士団にまで兵士を借り受け、大々的にバスターク辺境伯領へ侵攻したのは、帝国人なら誰でも知っている事実だ。
だが、その詳細を知る者は少ない。
バスターク辺境伯領への侵攻は、大失敗で終わった事は帝国国民は薄々気づいているが、帝国はそれを認めない。
裏組織にいる自分達でさえ、不確かな噂程度しか手に入らなかった。
それでもチラーノス辺境伯軍を主体とした帝国軍が、バスターク辺境伯領に侵攻したものの、敗北した事までは事実だと調べ上げた。
チラーノス辺境伯領では、酷い大敗をして当主が討死していた事が分かったが、ターゲットの男がどう関わっているのかは掴めなかった。
生き残った兵士に話を聞こうとしたが、誰もが硬く口を閉ざしていた。
「集めた情報から察するに、ターゲットは先の帝国侵攻時に、比類なき活躍をして貴族になったと言うことだ」
「サーメイヤではどちらかと言えば、ターゲットの男は、未開地の開発を成功させつつあると言うので話題に上がっていたが、帝国の侵攻に関しては知らない者の方が多かったな」
「話を纏めると、ターゲットの男は帝国侵攻時に活躍して貴族となり、未開地を領地として得た。
バスターク辺境伯との関係は、バスターク辺境伯の娘を妻としているらしい。
戦争で活躍出来るほど指揮能力が高く、未開地の開発を短期間で進める内政手腕を持っている」
「ローラシア王国やゴンドワナ帝国が警戒するのも分かるな。
どちらからの依頼かはわからないがな」
「だが、多少優秀な指揮官で武人程度なら、暗殺するのもそんなに難しくなさそうだな」
「あゝ、先ずはそのドラーク子爵領へ潜入してからだ」
男がそう言うと、バラバラに店を出て行く男達、通信機器の発達していないこの世界では、情報の伝達もままならない。自分達の集めた情報が、どれほど真実の上っ面しか見ていなかったのか、男達が身をもって知る事になる。
「カイト様、ドラクロアに入り込んでいる間者の特定が終えました」
屋敷で書類整理していた俺の元に、フーガがやって来た。ドラクロアとはドラーク子爵領の領都の名前だ。
「随分早かったな」
「他国からの間者の特定は、我が領では簡単ですから。それよりもサーメイヤ王国の貴族家からの間者の特定に手間取りました」
俺の領地で、他国から間者を特定するのが簡単な理由は、ローラシア王国とゴンドワナ帝国が、人族至上主義だと言う事に関係がある。
現在のドラーク子爵領は、住民から領軍まで、大半が獣人族やエルフとドワーフで占められている。人族も増えて来ているが、まだまだ少数派だ。
これはサーメイヤ王国では、何の問題もないが、ローラシア王国やゴンドワナ帝国出身の人族ではそうはいかない。
どう上手く隠している積もりでも、獣人族などを見る目が違うのだ。
他国からの間者が、簡単に特定出来る理由は、その獣人族に対する態度で分かる。街の各所で監視するフーガの部下は全員が獣人族だから、そういった目には敏感だった。
「国内の間者に対しては警告だけで良いだろう。他国からの間者にはお引き取り願おう」
「了解致しました」
「手に余る時は、ランカスに声を掛けてくれ」
「分かりました。では失礼します」
フーガが出て行くと、また書類に目を通し始める。
ドラーク子爵領と王領の境界、それは嘗て毒蛇王の森と呼ばれた、冒険者ギルドの探索推奨ランクAの魔物の領域。
今はその森の真ん中を、広くて舗装された真っ直ぐな街道が通っている。
「……これ程の街道をいつの間に」
「しかしこの街道を行く以外に方法はないだろう」
「あゝ、魔物の餌は御免こうむる」
真っ直ぐ伸びた広い街道を行けば、自分達が多くの人に見られるリスクがあるが、それでも推奨ランクAの魔物の領域に分け入る事と比べればマシだろう。
男達がそれぞれ、街道を進むと眼前に石の城壁に囲まれた巨大な城郭都市が見えて来る。
「……これだけの城郭都市をいつの間に……、これはもしかして、危ない橋を渡っているのか?」
そして男達がドラクロアに入った時、彼等を最大の驚きが襲う。
「……何なんだこの街は、……獣人だらけじゃないか」
獣人を獣と蔑み虐げて来た国の人間には、この街は異様過ぎた。
そしてその動揺する様を、フーガの配下達が見ている事を男達が気付く事はない。
まだ明るい時間帯なので、人通りが少ない暗い通りに、一人また一人と地下にある酒場に入って行く。
「全員揃ったか」
全員が黒で統一された服を着た、10人の男達が客の居ない店の中で険しい表情で話し合っている。
「しかし、情報を集めれば集めるほど、現実味がなくなるな」
男達は、ある男の情報を収集していた。
ゴンドワナ帝国でも、荒唐無稽な噂程度しか集まらなかった。
チラーノス辺境伯が、周辺の貴族家や帝都騎士団にまで兵士を借り受け、大々的にバスターク辺境伯領へ侵攻したのは、帝国人なら誰でも知っている事実だ。
だが、その詳細を知る者は少ない。
バスターク辺境伯領への侵攻は、大失敗で終わった事は帝国国民は薄々気づいているが、帝国はそれを認めない。
裏組織にいる自分達でさえ、不確かな噂程度しか手に入らなかった。
それでもチラーノス辺境伯軍を主体とした帝国軍が、バスターク辺境伯領に侵攻したものの、敗北した事までは事実だと調べ上げた。
チラーノス辺境伯領では、酷い大敗をして当主が討死していた事が分かったが、ターゲットの男がどう関わっているのかは掴めなかった。
生き残った兵士に話を聞こうとしたが、誰もが硬く口を閉ざしていた。
「集めた情報から察するに、ターゲットは先の帝国侵攻時に、比類なき活躍をして貴族になったと言うことだ」
「サーメイヤではどちらかと言えば、ターゲットの男は、未開地の開発を成功させつつあると言うので話題に上がっていたが、帝国の侵攻に関しては知らない者の方が多かったな」
「話を纏めると、ターゲットの男は帝国侵攻時に活躍して貴族となり、未開地を領地として得た。
バスターク辺境伯との関係は、バスターク辺境伯の娘を妻としているらしい。
戦争で活躍出来るほど指揮能力が高く、未開地の開発を短期間で進める内政手腕を持っている」
「ローラシア王国やゴンドワナ帝国が警戒するのも分かるな。
どちらからの依頼かはわからないがな」
「だが、多少優秀な指揮官で武人程度なら、暗殺するのもそんなに難しくなさそうだな」
「あゝ、先ずはそのドラーク子爵領へ潜入してからだ」
男がそう言うと、バラバラに店を出て行く男達、通信機器の発達していないこの世界では、情報の伝達もままならない。自分達の集めた情報が、どれほど真実の上っ面しか見ていなかったのか、男達が身をもって知る事になる。
「カイト様、ドラクロアに入り込んでいる間者の特定が終えました」
屋敷で書類整理していた俺の元に、フーガがやって来た。ドラクロアとはドラーク子爵領の領都の名前だ。
「随分早かったな」
「他国からの間者の特定は、我が領では簡単ですから。それよりもサーメイヤ王国の貴族家からの間者の特定に手間取りました」
俺の領地で、他国から間者を特定するのが簡単な理由は、ローラシア王国とゴンドワナ帝国が、人族至上主義だと言う事に関係がある。
現在のドラーク子爵領は、住民から領軍まで、大半が獣人族やエルフとドワーフで占められている。人族も増えて来ているが、まだまだ少数派だ。
これはサーメイヤ王国では、何の問題もないが、ローラシア王国やゴンドワナ帝国出身の人族ではそうはいかない。
どう上手く隠している積もりでも、獣人族などを見る目が違うのだ。
他国からの間者が、簡単に特定出来る理由は、その獣人族に対する態度で分かる。街の各所で監視するフーガの部下は全員が獣人族だから、そういった目には敏感だった。
「国内の間者に対しては警告だけで良いだろう。他国からの間者にはお引き取り願おう」
「了解致しました」
「手に余る時は、ランカスに声を掛けてくれ」
「分かりました。では失礼します」
フーガが出て行くと、また書類に目を通し始める。
ドラーク子爵領と王領の境界、それは嘗て毒蛇王の森と呼ばれた、冒険者ギルドの探索推奨ランクAの魔物の領域。
今はその森の真ん中を、広くて舗装された真っ直ぐな街道が通っている。
「……これ程の街道をいつの間に」
「しかしこの街道を行く以外に方法はないだろう」
「あゝ、魔物の餌は御免こうむる」
真っ直ぐ伸びた広い街道を行けば、自分達が多くの人に見られるリスクがあるが、それでも推奨ランクAの魔物の領域に分け入る事と比べればマシだろう。
男達がそれぞれ、街道を進むと眼前に石の城壁に囲まれた巨大な城郭都市が見えて来る。
「……これだけの城郭都市をいつの間に……、これはもしかして、危ない橋を渡っているのか?」
そして男達がドラクロアに入った時、彼等を最大の驚きが襲う。
「……何なんだこの街は、……獣人だらけじゃないか」
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