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潜入ローラシア王国
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月明かりが照らす夜の街を走る2人に気付く者はいない。道行く人々の直ぐ横を走り抜けても、誰ひとり彼らの事に気が付かない。
俺が跳躍して二階建ての建物の上に飛び乗る。
フワリと音も立てずに屋根に降り立つ。
続けてフーガも屋根に降り立つ。
「フーガの奥さんと子供の位置は分かるか?」
探索能力に長けた俺でも、さすがに知らない人の気配や位置を探ることは出来ない。
俺に聞かれたフーガが、懸命に気配をさぐっている。その五感の全てと魔力感知を使って。
「……はい、私達親子が暮らしていた自宅に、妻と子供の気配を感じます。あそこです」
フーガが指差した場所に、普通の二階建ての家があった。家の灯りは消えているが、俺のも2人の人間の気配と魔力を察知していた。
「ただ、監視してる奴がいるな。フーガの奥さんと子供を監視する必要性が感じられないんだが」
敵国で罠にハメられ、奴隷に落とされた諜報組織の家族を監視する意味がわからない。
「妻も元同僚なのです」
フーガをハメた奴が、フーガの奥さんが自分の罪をあきらかにしようと動くのではないかと見張っているのか。
「フーガをハメた奴は、それを命令できる立場なのか?」
「はい、諜報組織の長官の息子で、私と同じ小隊長だったのですが、今はもう少し出世しているかもしれません」
「まぁ、どっちにしても、監視している奴やにはおネンネして貰おう」
屋根の上から2人の影が消える。
監視は近くに2人と、少し離れた場所に一人の3人だった。少し離れた場所に居るのがリーダー格だろう。俺はそのリーダー格の男を排除する。
音も無く監視する男の背後に近付き、スリープの魔法で眠らせる。崩れ落ちる男を抱えて人目に付かない場所にロープで縛って放置する。
近くで監視していた男2人に、フーガと俺で同時に襲いかかる。
背後から手加減して殴られ意識を失った2人を、俺とフーガが担いで、リーダー格の男と一緒に一纏めにしておく。
監視を排除した俺達は、フーガの家に忍び込む。事前に打ち合わせしていた通りに、俺がフーガの奥さんと子供にスリープの魔法をかけて、途中で起きないようにする。
「フーガは必要な荷物をまとめろ、俺は適当に家具ごと収納して行くから」
「分かりました」
素早く家の中の荷物や家具を収納して行く。
「フーガは奥さんを運んで、俺はこの子を運ぶから」
フーガの奥さんは、同じ黒豹人族だ。子供は男の子で12歳くらいだ。
奥さんの名前はノルン、息子さんがラーシュと言うらしい。フーガにノルンさんを任せて、俺はラーシュ君を担ぐ。一応、ベッドも収納すると、家の中は何もない空間が出来上がる。
家の鍵を魔法で施錠して、黒い布に覆われた親子を担いだ俺とフーガは、ドラーク領に転移する。
ひとまず屋敷の空いている部屋にノルンさんとラーシュ君を寝かせて、俺とフーガは食事を済ませる。
フーガは大急ぎで食事を済ませると、ノルンさんとラーシュ君が眠る部屋に戻った。眼が覚めるまで部屋で側に付き添うと言った。
暫く会えない日が続いたのだし、少しでも側に居たい気持ちも良く分かった。
俺がリビングでルキナを膝の上に乗せて、お茶を飲んでいると、フーガがノルンさんとラーシュ君を連れてリビングへ入って来た。
「この度は、主人を救って頂きありがとうございます。その上、私と子供もこの地へ向かい入れてくださるそうで、幾ら感謝しても足りません」
「ちょっと待って、ノルンさんですね」
このまま放っておくと、延々とお礼を言い続けそうなので慌てて止める。
「フーガを奴隷商で買ったのは、諜報部門の人材が欲しかっただけで、ノルンさん達はフーガが仕事に打ち込める様にした事だから」
「いえ、それでも主人は既に奴隷から解放されています。その事ひとつだけ取っても、カイト様は信頼するに足るお方だと思います」
「ノルン、カイト様が困っておられる。その辺にしておきなさい」
フーガが止めてくれたお陰で、ノルンさんはやっと落ち着いてくれたようだ。
「それで、住居はフーガが今使っている家族用のモノを用意しています。ローラシアのノルンさんの家から持って来た荷物は、後で届けますから、足りない物があれば買い足して下さい。フーガにお金は渡してありますから」
最近、漸く商店の数も増え、王都には遠く及ばないけど、買い物を楽しめる位にはなって来た。
「このドラーク子爵領は獣人族や妖精族の割合がとても高いの、サーメイヤ王国は人族至上主義の国じゃないから、住みやすいと思うわよ」
「こ、これは奥様ですか。申し遅れました、フーガの妻ノルンと申します」
エルがノルンさんに微笑んでそう言うと、ノルンさんが慌ててエルに挨拶しようとする。
「ハイハイ、ストップ。私はエルレインよ、エルと呼んでちょうだい」
「エル様、妻もまだ動揺しているようですので、一旦家に連れて帰ります」
「そうだな、じゃあ俺も行って荷物を置いて来るよ」
「ルキナも一緒!」
「うん、そうか。じゃあ一緒に行こうな」
ルキナを抱き上げて、フーガと一緒にノルンさんとラーシュ君を連れて、フーガにあてがわれた住居へ向かう。
ローラシアで住んでいた家よりも、遥かに大きくキレイな家を見て、ノルンさんが固まっていたのは仕方ないかもね。
俺が跳躍して二階建ての建物の上に飛び乗る。
フワリと音も立てずに屋根に降り立つ。
続けてフーガも屋根に降り立つ。
「フーガの奥さんと子供の位置は分かるか?」
探索能力に長けた俺でも、さすがに知らない人の気配や位置を探ることは出来ない。
俺に聞かれたフーガが、懸命に気配をさぐっている。その五感の全てと魔力感知を使って。
「……はい、私達親子が暮らしていた自宅に、妻と子供の気配を感じます。あそこです」
フーガが指差した場所に、普通の二階建ての家があった。家の灯りは消えているが、俺のも2人の人間の気配と魔力を察知していた。
「ただ、監視してる奴がいるな。フーガの奥さんと子供を監視する必要性が感じられないんだが」
敵国で罠にハメられ、奴隷に落とされた諜報組織の家族を監視する意味がわからない。
「妻も元同僚なのです」
フーガをハメた奴が、フーガの奥さんが自分の罪をあきらかにしようと動くのではないかと見張っているのか。
「フーガをハメた奴は、それを命令できる立場なのか?」
「はい、諜報組織の長官の息子で、私と同じ小隊長だったのですが、今はもう少し出世しているかもしれません」
「まぁ、どっちにしても、監視している奴やにはおネンネして貰おう」
屋根の上から2人の影が消える。
監視は近くに2人と、少し離れた場所に一人の3人だった。少し離れた場所に居るのがリーダー格だろう。俺はそのリーダー格の男を排除する。
音も無く監視する男の背後に近付き、スリープの魔法で眠らせる。崩れ落ちる男を抱えて人目に付かない場所にロープで縛って放置する。
近くで監視していた男2人に、フーガと俺で同時に襲いかかる。
背後から手加減して殴られ意識を失った2人を、俺とフーガが担いで、リーダー格の男と一緒に一纏めにしておく。
監視を排除した俺達は、フーガの家に忍び込む。事前に打ち合わせしていた通りに、俺がフーガの奥さんと子供にスリープの魔法をかけて、途中で起きないようにする。
「フーガは必要な荷物をまとめろ、俺は適当に家具ごと収納して行くから」
「分かりました」
素早く家の中の荷物や家具を収納して行く。
「フーガは奥さんを運んで、俺はこの子を運ぶから」
フーガの奥さんは、同じ黒豹人族だ。子供は男の子で12歳くらいだ。
奥さんの名前はノルン、息子さんがラーシュと言うらしい。フーガにノルンさんを任せて、俺はラーシュ君を担ぐ。一応、ベッドも収納すると、家の中は何もない空間が出来上がる。
家の鍵を魔法で施錠して、黒い布に覆われた親子を担いだ俺とフーガは、ドラーク領に転移する。
ひとまず屋敷の空いている部屋にノルンさんとラーシュ君を寝かせて、俺とフーガは食事を済ませる。
フーガは大急ぎで食事を済ませると、ノルンさんとラーシュ君が眠る部屋に戻った。眼が覚めるまで部屋で側に付き添うと言った。
暫く会えない日が続いたのだし、少しでも側に居たい気持ちも良く分かった。
俺がリビングでルキナを膝の上に乗せて、お茶を飲んでいると、フーガがノルンさんとラーシュ君を連れてリビングへ入って来た。
「この度は、主人を救って頂きありがとうございます。その上、私と子供もこの地へ向かい入れてくださるそうで、幾ら感謝しても足りません」
「ちょっと待って、ノルンさんですね」
このまま放っておくと、延々とお礼を言い続けそうなので慌てて止める。
「フーガを奴隷商で買ったのは、諜報部門の人材が欲しかっただけで、ノルンさん達はフーガが仕事に打ち込める様にした事だから」
「いえ、それでも主人は既に奴隷から解放されています。その事ひとつだけ取っても、カイト様は信頼するに足るお方だと思います」
「ノルン、カイト様が困っておられる。その辺にしておきなさい」
フーガが止めてくれたお陰で、ノルンさんはやっと落ち着いてくれたようだ。
「それで、住居はフーガが今使っている家族用のモノを用意しています。ローラシアのノルンさんの家から持って来た荷物は、後で届けますから、足りない物があれば買い足して下さい。フーガにお金は渡してありますから」
最近、漸く商店の数も増え、王都には遠く及ばないけど、買い物を楽しめる位にはなって来た。
「このドラーク子爵領は獣人族や妖精族の割合がとても高いの、サーメイヤ王国は人族至上主義の国じゃないから、住みやすいと思うわよ」
「こ、これは奥様ですか。申し遅れました、フーガの妻ノルンと申します」
エルがノルンさんに微笑んでそう言うと、ノルンさんが慌ててエルに挨拶しようとする。
「ハイハイ、ストップ。私はエルレインよ、エルと呼んでちょうだい」
「エル様、妻もまだ動揺しているようですので、一旦家に連れて帰ります」
「そうだな、じゃあ俺も行って荷物を置いて来るよ」
「ルキナも一緒!」
「うん、そうか。じゃあ一緒に行こうな」
ルキナを抱き上げて、フーガと一緒にノルンさんとラーシュ君を連れて、フーガにあてがわれた住居へ向かう。
ローラシアで住んでいた家よりも、遥かに大きくキレイな家を見て、ノルンさんが固まっていたのは仕方ないかもね。
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