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ローラシアの戦鬼、帝国の毒蛇
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ローラシア王国に戦鬼と呼ばれた男がいた。
王国黄翼騎士団団長、ガルフレア将軍。
その武勇は大陸に響き渡っている。
一騎当千の戦鬼ガルフレアと言えば、ゴンドワナ帝国軍やサーメイヤ王国軍を震え上がらせた。
そのガルフレアの耳に、ゴンドワナ帝国一万の軍勢が、一人の男に討ち破られたという情報が入る。
その話を聞いた、ガルフレアは狂喜した。
自らの全てを賭けて戦える相手を求めていた。
勝てると確信の持てない戦い、自身を超える強者を求めていた。
1対10000、ガルフレアは自分なら可能か考える。
策をめぐらせ周到に準備し、それでも出来るとは言えなかった。
「クククッ、面白い。こんなに血が滾ったのは何時ぶりか……」
ガルフレアは実に楽しそうだった。
「将軍、楽しそうですね」
部下が珍しいものを見た様な顔で聞いて来る。
ガルフレアは普段笑う事はほとんど無い。
何時も心の中の鬱々とした想いを溜め込んで、不機嫌に口を歪めている。
「あゝ、楽しいな。お前はサーメイヤの厄災の話を聞いたか?」
「え、ええ、ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯軍を主体として集められた、一万の軍勢を単騎で撃退したと言う話ですか?眉唾ものだと思いますけど、王都では話題に上がる事もありましたね」
ガルフレアは首を横に振る。
「お前もまだまだだな。情報の出所は王都の上の方からだ。その時点で、その情報は確かなモノだと理解しろ。
だいたい、ローラシア王国の諜報部門は優秀なのだぞ。それがゴンドワナ帝国をから得たモノを眉唾ものとはなんだ。
まぁ、俺は陛下から直接聞いてるから、疑う余地もないがな」
「なっ!将軍、それはずるいですよ」
部下の抗議にガルフレアは何処吹く風だ。
「それでどうだ。サーメイヤの厄災が真実だったら面白いだろう」
「なっ、どこが面白いんですか!そんなバケモノが敵国に居るんですよ!」
「味方じゃ戦えないじゃないか」
何をバカな事を言ってるという風なガルフレアに、部下は心底この上司が戦闘狂なのだと理解した。
「はぁ、もういいですけど、まさか陛下にサーメイヤ王国への侵攻を願ってないですよね」
「ダメだって怒られてしまった」
「もう、言葉もないですよ」
部下が崩れ落ちそうになる。
「戦ってみたいじゃないか。厄災だぞ、戦鬼が、可愛く聞こえる二つ名を持つ者と戦ってみたいと思うのは、武人として当たり前であろう。
なに、負けたら国が亡ぶだけだ」
国よりも自分の欲求を優先させるガルフレアに、あなたはこの国の将軍でしょうに、と部下は眩暈を覚える。
ローラシア王国が、今サーメイヤ王国と本格的に戦端を開く筈がない。
むしろ大きな損害を出した、ゴンドワナ帝国への侵攻を考えている。
「何とか攻め込めんかな」
「本当にやめて下さい」
部下が涙目でうったえる。
いずれ必ず合間見えんと、闘志を燃やすガルフレア。
部下の心労は溜まるばかりだった。
ゴンドワナ帝国にも、当然将軍と呼ばれる騎士は数人存在する。
その中で毛色の変わった将軍がいた。
騎士にあるまじき卑怯な手段を平気で行う。
勝つためならどんな手段も辞さない。
狡猾な蛇のような男、ザール将軍の事を人は、帝国の毒蛇と呼ぶ。
ザールは、帝国に大損害をもたらした厄災を調査していた。
正攻法で勝てるのか、厄災が大切にする人物を誘拐する事が出来るのか。
あらゆる手段を用いて、厄災を葬り去る方法を探る。
そこに騎士道精神は存在しない。
ザールは考える。負ければ騎士道精神もクソもないと。
「ふ~む、存外難しいですね」
チラーノス辺境伯軍の敗退を調べ、正攻法は最初から考えの中から外していた。
そこで厄災の妻や彼が大事にしている、周りの人間を狙う事を考えた。人質に取り隙を誘う事も考えたが、人質が通用する人物なのかも分からず、先ずその人質に取る事が大変だと分かった。
かの厄災の周りにいる者達は、下手をすると自分の率いる騎士団の人員よりも、遥かに実力があるようだ。
その前にドラーク子爵領に、工作員を潜り込ませる事が難しい。
帝国の工作員は全員が人族だ。ドラーク子爵領では、よそ者の人族はただでさえ目立つ。
獣人族を使おうにも、奴隷ではさらに目立つ事になる。
「魔物、ローラシア、犯罪組織、使えるモノは全て使うが……、いい手はないものか」
ザールは一人、自室で思考に耽る。
しかし帝国がサーメイヤ王国に侵攻して、手酷い大敗をしてから、幾度となく考えているのだが、未だにこれといった案は浮かばなかった。
王国黄翼騎士団団長、ガルフレア将軍。
その武勇は大陸に響き渡っている。
一騎当千の戦鬼ガルフレアと言えば、ゴンドワナ帝国軍やサーメイヤ王国軍を震え上がらせた。
そのガルフレアの耳に、ゴンドワナ帝国一万の軍勢が、一人の男に討ち破られたという情報が入る。
その話を聞いた、ガルフレアは狂喜した。
自らの全てを賭けて戦える相手を求めていた。
勝てると確信の持てない戦い、自身を超える強者を求めていた。
1対10000、ガルフレアは自分なら可能か考える。
策をめぐらせ周到に準備し、それでも出来るとは言えなかった。
「クククッ、面白い。こんなに血が滾ったのは何時ぶりか……」
ガルフレアは実に楽しそうだった。
「将軍、楽しそうですね」
部下が珍しいものを見た様な顔で聞いて来る。
ガルフレアは普段笑う事はほとんど無い。
何時も心の中の鬱々とした想いを溜め込んで、不機嫌に口を歪めている。
「あゝ、楽しいな。お前はサーメイヤの厄災の話を聞いたか?」
「え、ええ、ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯軍を主体として集められた、一万の軍勢を単騎で撃退したと言う話ですか?眉唾ものだと思いますけど、王都では話題に上がる事もありましたね」
ガルフレアは首を横に振る。
「お前もまだまだだな。情報の出所は王都の上の方からだ。その時点で、その情報は確かなモノだと理解しろ。
だいたい、ローラシア王国の諜報部門は優秀なのだぞ。それがゴンドワナ帝国をから得たモノを眉唾ものとはなんだ。
まぁ、俺は陛下から直接聞いてるから、疑う余地もないがな」
「なっ!将軍、それはずるいですよ」
部下の抗議にガルフレアは何処吹く風だ。
「それでどうだ。サーメイヤの厄災が真実だったら面白いだろう」
「なっ、どこが面白いんですか!そんなバケモノが敵国に居るんですよ!」
「味方じゃ戦えないじゃないか」
何をバカな事を言ってるという風なガルフレアに、部下は心底この上司が戦闘狂なのだと理解した。
「はぁ、もういいですけど、まさか陛下にサーメイヤ王国への侵攻を願ってないですよね」
「ダメだって怒られてしまった」
「もう、言葉もないですよ」
部下が崩れ落ちそうになる。
「戦ってみたいじゃないか。厄災だぞ、戦鬼が、可愛く聞こえる二つ名を持つ者と戦ってみたいと思うのは、武人として当たり前であろう。
なに、負けたら国が亡ぶだけだ」
国よりも自分の欲求を優先させるガルフレアに、あなたはこの国の将軍でしょうに、と部下は眩暈を覚える。
ローラシア王国が、今サーメイヤ王国と本格的に戦端を開く筈がない。
むしろ大きな損害を出した、ゴンドワナ帝国への侵攻を考えている。
「何とか攻め込めんかな」
「本当にやめて下さい」
部下が涙目でうったえる。
いずれ必ず合間見えんと、闘志を燃やすガルフレア。
部下の心労は溜まるばかりだった。
ゴンドワナ帝国にも、当然将軍と呼ばれる騎士は数人存在する。
その中で毛色の変わった将軍がいた。
騎士にあるまじき卑怯な手段を平気で行う。
勝つためならどんな手段も辞さない。
狡猾な蛇のような男、ザール将軍の事を人は、帝国の毒蛇と呼ぶ。
ザールは、帝国に大損害をもたらした厄災を調査していた。
正攻法で勝てるのか、厄災が大切にする人物を誘拐する事が出来るのか。
あらゆる手段を用いて、厄災を葬り去る方法を探る。
そこに騎士道精神は存在しない。
ザールは考える。負ければ騎士道精神もクソもないと。
「ふ~む、存外難しいですね」
チラーノス辺境伯軍の敗退を調べ、正攻法は最初から考えの中から外していた。
そこで厄災の妻や彼が大事にしている、周りの人間を狙う事を考えた。人質に取り隙を誘う事も考えたが、人質が通用する人物なのかも分からず、先ずその人質に取る事が大変だと分かった。
かの厄災の周りにいる者達は、下手をすると自分の率いる騎士団の人員よりも、遥かに実力があるようだ。
その前にドラーク子爵領に、工作員を潜り込ませる事が難しい。
帝国の工作員は全員が人族だ。ドラーク子爵領では、よそ者の人族はただでさえ目立つ。
獣人族を使おうにも、奴隷ではさらに目立つ事になる。
「魔物、ローラシア、犯罪組織、使えるモノは全て使うが……、いい手はないものか」
ザールは一人、自室で思考に耽る。
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