異世界立志伝

小狐丸

文字の大きさ
72 / 163

ローラシアの戦鬼、帝国の毒蛇

しおりを挟む
 ローラシア王国に戦鬼と呼ばれた男がいた。

 王国黄翼騎士団団長、ガルフレア将軍。
 その武勇は大陸に響き渡っている。

 一騎当千の戦鬼ガルフレアと言えば、ゴンドワナ帝国軍やサーメイヤ王国軍を震え上がらせた。

 そのガルフレアの耳に、ゴンドワナ帝国一万の軍勢が、一人の男に討ち破られたという情報が入る。

 その話を聞いた、ガルフレアは狂喜した。

 自らの全てを賭けて戦える相手を求めていた。

 勝てると確信の持てない戦い、自身を超える強者を求めていた。

 1対10000、ガルフレアは自分なら可能か考える。

 策をめぐらせ周到に準備し、それでも出来るとは言えなかった。

「クククッ、面白い。こんなに血が滾ったのは何時ぶりか……」

 ガルフレアは実に楽しそうだった。

「将軍、楽しそうですね」

 部下が珍しいものを見た様な顔で聞いて来る。
 ガルフレアは普段笑う事はほとんど無い。
 何時も心の中の鬱々とした想いを溜め込んで、不機嫌に口を歪めている。

「あゝ、楽しいな。お前はサーメイヤの厄災の話を聞いたか?」

「え、ええ、ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯軍を主体として集められた、一万の軍勢を単騎で撃退したと言う話ですか?眉唾ものだと思いますけど、王都では話題に上がる事もありましたね」

 ガルフレアは首を横に振る。

「お前もまだまだだな。情報の出所は王都の上の方からだ。その時点で、その情報は確かなモノだと理解しろ。
 だいたい、ローラシア王国の諜報部門は優秀なのだぞ。それがゴンドワナ帝国をから得たモノを眉唾ものとはなんだ。
 まぁ、俺は陛下から直接聞いてるから、疑う余地もないがな」

「なっ!将軍、それはずるいですよ」

 部下の抗議にガルフレアは何処吹く風だ。

「それでどうだ。サーメイヤの厄災が真実だったら面白いだろう」

「なっ、どこが面白いんですか!そんなバケモノが敵国に居るんですよ!」

「味方じゃ戦えないじゃないか」

 何をバカな事を言ってるという風なガルフレアに、部下は心底この上司が戦闘狂なのだと理解した。

「はぁ、もういいですけど、まさか陛下にサーメイヤ王国への侵攻を願ってないですよね」

「ダメだって怒られてしまった」

「もう、言葉もないですよ」

 部下が崩れ落ちそうになる。

「戦ってみたいじゃないか。厄災だぞ、戦鬼が、可愛く聞こえる二つ名を持つ者と戦ってみたいと思うのは、武人として当たり前であろう。
 なに、負けたら国が亡ぶだけだ」

 国よりも自分の欲求を優先させるガルフレアに、あなたはこの国の将軍でしょうに、と部下は眩暈を覚える。

 ローラシア王国が、今サーメイヤ王国と本格的に戦端を開く筈がない。
 むしろ大きな損害を出した、ゴンドワナ帝国への侵攻を考えている。

「何とか攻め込めんかな」

「本当にやめて下さい」

 部下が涙目でうったえる。
 いずれ必ず合間見えんと、闘志を燃やすガルフレア。
 部下の心労は溜まるばかりだった。






 ゴンドワナ帝国にも、当然将軍と呼ばれる騎士は数人存在する。

 その中で毛色の変わった将軍がいた。
 騎士にあるまじき卑怯な手段を平気で行う。
 勝つためならどんな手段も辞さない。

 狡猾な蛇のような男、ザール将軍の事を人は、帝国の毒蛇と呼ぶ。

 ザールは、帝国に大損害をもたらした厄災を調査していた。
 正攻法で勝てるのか、厄災が大切にする人物を誘拐する事が出来るのか。
 あらゆる手段を用いて、厄災を葬り去る方法を探る。
 そこに騎士道精神は存在しない。
 ザールは考える。負ければ騎士道精神もクソもないと。

「ふ~む、存外難しいですね」

 チラーノス辺境伯軍の敗退を調べ、正攻法は最初から考えの中から外していた。
 そこで厄災の妻や彼が大事にしている、周りの人間を狙う事を考えた。人質に取り隙を誘う事も考えたが、人質が通用する人物なのかも分からず、先ずその人質に取る事が大変だと分かった。

 かの厄災の周りにいる者達は、下手をすると自分の率いる騎士団の人員よりも、遥かに実力があるようだ。
 その前にドラーク子爵領に、工作員を潜り込ませる事が難しい。

 帝国の工作員は全員が人族だ。ドラーク子爵領では、よそ者の人族はただでさえ目立つ。
 獣人族を使おうにも、奴隷ではさらに目立つ事になる。

「魔物、ローラシア、犯罪組織、使えるモノは全て使うが……、いい手はないものか」

 ザールは一人、自室で思考に耽る。

 しかし帝国がサーメイヤ王国に侵攻して、手酷い大敗をしてから、幾度となく考えているのだが、未だにこれといった案は浮かばなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...