異世界立志伝

小狐丸

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エルフの国の使者

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 発展目まぐるしいドラーク子爵領に、エルフの国であるサーリット王国より使者が訪れた。

 サーリット王国は王国とは言うものの、王は象徴としての意味合いが強く。実際の政治を司るのは、六人の長老が中心となっている。

 そして猛スピードで開発が進むドラーク領に、エルフの国から使者が訪れる。

 その報せを聞いた俺は、何故王都ではなく自分の所なのか不思議に思ったが、それは同じエルフでもあるアンナさんとルシエルが教えてくれた。

 サーリット王国の使者は、俺にアポイントメントを取ると街の高級宿へ帰って行った。明日使者を迎える事になっている。


「それで、エルフの国が俺に何の用だ?」

「間違いなくルシエル様の事ですね」

 俺の疑問に、アンナさんが吐き捨てるように言う。

「ルシエルの?」

「あいつらは、ルシエル様の火傷が綺麗に治っている事を何処かで知ったのでしょう。カイト様は目立ちますから、その側にいるルシエル様の事も気付くでしょうし」

「いや、ルシエルの火傷が治っているのと、使者がどうつながるのか、意味がわからないんだけど」

「簡単な話です。あいつらはルシエル様を連れ戻しに来たんです」

「えっ?意味がわからない。どうして連れ戻すって話になるんだ?」

 俺の買ったルシエルを連れ戻すって意味がわからない。もう奴隷は解放してるけど。

「火傷がひどくて、真面に動けなかったルシエル様が、火傷の痕も無くドラーク領で活躍しているのを聞き付けて連れ戻しに来たのよ」

「カイト様、本当に申し訳ありません。
 エルフである私が、サーリット王国の為に働くのは、当たり前と考えているのです。それが一度自分達で奴隷として売った者でも。
 エルフ種族は、傲慢にも自分達以外の種族を見下していますから、他国へ来ても自分達の言い分が通ると思っているのです」

「…………バカなのか?」

 俺は思わずそう言ってしまう。

「そうです、バカなのです。それもとびっきりの」

 アンナさんが毒を吐く。

「奴等、最近エル様やルシエル様達が評判になっているのを知ったんですよ」

「評判になってるの?」

「ええ、ドラーク子爵の奥方達は、一騎当千の武勇を誇り、騎士団や守備隊を自ら鍛えていると評判になってますよ」

 どうやらウチの女性陣は、想像以上に有名みたいだ。

「はぁ~、バカには会いたくないな~」

「他国からの正式な使者ですから、一応会って下さいね」

 自身も会いたくないルシエルから言われてしまうと、俺がわがままを言う訳にはいかないよな。



 次の日の午前中に、領主館へエルフの使者が二人訪れた。

 到着を知らされ俺が部屋に入ると、すでに席に座る二人のエルフがいた。
 その時点で、俺は少しむっとしていたのだが、人族とエルフの常識が違うのかもと思いグッと我慢した。

「サーリット王国の使者の方々、遠路はるばるご苦労。カイト・ビスコント・フォン・ドラークだ」

 いつまで待っても使者の自己紹介が始まらないので、仕方なく俺から自己紹介する。
 この時点で、横にいるエルとルシエルの機嫌は最悪だ。

「カイトの妻のエルレインです」

「同じく妻のルシエルです」

 ルシエルがそう言った瞬間、エルフの二人の顔が険しくなる。



「サーリット王国のマルト・ザーグだ」

「同じく、ソルト・モールスだ」

 不機嫌に自分の名前を言うエルフに、溜息を吐きたくなる。

「それで今日はどういったご用件ですか?」

「我が国のルシエルを返して頂きたい」

「はっ?」

 いきなりの発言に、変な声を出してしまう。

「あなたがルシエルを奴隷商から買った金額の倍出してやろう。それで良いだろう」

「バカか?バカなのかお前は?」

 思わず言ってしまった。

「なっ!失礼じゃないか!誰がバカだ!我等高貴なエルフに人族如きが!」

「失礼なのは貴方です!マルト!貴方はサーメイヤ王国に戦争を仕掛けに来たのですね」

 激昂したエルフに冷たく言い放ったのはルシエルだった。

「なっ、何故戦争と言う話になる!
 ルシエル、お前がサーリットへ戻れば良いだけの話だろう。何故お前が我等エルフの味方をせず、この男の味方をする」

「貴方達は、私の自己紹介を聞いてなかったのですか?私はカイト様の妻だと言ったのですよ。
 私は既に、ドラーク子爵領の人間です。
 それに大恩あるカイト様に、生涯を捧げることを決めています」

「エルフの国を、サーリットを捨てるのか!」

「先に私を棄てたのは、サーリット王国であり、エルフの方ですが、忘れているのかしら」

 大声で叫ぶマルトにルシエルが言い放つ。

「喧嘩なら何時でも買うぞ、サーリット王国全軍で攻めて来てみろ。
 生きて来た事を後悔させてやるよ」

 俺が殺気を込めてエルフの二人に言うと、顔を真っ青にして汗を流し始めた。

「もし、そんなくだらない事で訪ねて来たんなら、もう用は無い。お帰り下さい」

 にっこり笑ってそう言ってやると、慌てて席を立って出て行った。

「カイト様、申し訳ありません」

「ルシエルは悪くないよ。
 でも一応、陛下に話しておいた方が良いよな」

「お父様と陛下に手紙を書いておくわ。サインはカイトがお願いね」

 バカなエルフの所為で、精神的に疲れた日だった。

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