異世界立志伝

小狐丸

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シバVSカイト

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 ローラシア王国とゴンドワナ帝国で暴れまわり、未開の地へと逃走した獣人族達。
 それをを追うローラシア王国とゴンドワナ帝国はシバ達討伐に本腰を入れ追撃部隊を増強し、さらに二国間が連携してシバ達を追い詰めつつあった。



「シバ、東へ逃げるのか」

 全身傷だらけの虎人族、ディーガがシバに問う。

「あゝ、深淵の森近くで潜伏する。
 いかなローラシア王国やゴンドワナ帝国の騎士団でも、深淵の森には近付かんだろう」

「その危険は我等にも等しく降りかかるのだぞ」

「分かっている。だが、このままでは徐々に範囲を狭められ、袋の鼠になるのは目に見えている。
 ローラシアやゴンドワナの騎士団も、大人数で深淵の森へ近付く愚は犯すまい」

 ディーガは溜息をつき首を横に振る。

 一番安全な逃げ場所は、サーメイヤ王国に逃げ込む事だと、彼等全員が分かっている。
 シバがそれを選ばないのは、ただプライドが許さないのだ。

 獅子人族はプライドが高く、全種族で一番優れた存在だと自負している。
 シバもこの集団を力で従えている。
 簡単に他国の庇護の下には入れない。


 ディーガは諦めて、北東方面へ逃走する事を認める。

「急ぐぞ!」

 シバは疲労の色が濃い部下達に喝を入れ、逃走を続ける。



 そしてシバ達が、何とか深淵の森が見える場所までたどり着いた時、森の側に少数の騎士達を見つける事が出来た。

 よく見る白銀の鎧の小隊と、この大陸では一家しか採用していない漆黒の鎧の小隊。
 シバとディーガは、その漆黒の鎧を見て顔を青くする。

「ドラーク子爵の騎士団か……」




 ローラシア王国とゴンドワナ帝国の騎士団が、シバ達獣人族を追い詰め、とうとうその姿をとらえた時、彼等はその背後の存在に気付き顔を青くする。

「まっ、不味い。ドラーク子爵の所の騎士団が居るぞ」

 ゴンドワナ帝国の騎士団を率いていた隊長が、顔面蒼白で馬を止める。

「どうされた。奴らは目の前ですぞ」

 ローラシア王国の騎士団を率いる隊長が、急に馬を止めた帝国側の隊長に聞く。
 しかしゴンドワナ帝国の騎士達はそれどころではなかった。漆黒の鎧の小隊の中に、一人軽装の男が確認出来る。
 その銀髪の青年を帝国騎士達は知っている。
 直接彼を知っている騎士は、恐怖に体の震えが止まらない。

「我等は撤退する!撤退準備!」

「なっ!どうされた!」

「我等は厄災と矛を交える愚は犯すまい」

 そう言うと帝国騎士達は撤退準備を進めて、そのまま本当に撤退して行った。

「なっ…………、厄災?!全軍、撤退だ!」

 ローラシアの指揮官が慌てて撤退命令を出す。
 ローラシア王国にもチラーノス辺境伯と帝国騎士団一万の軍勢が、一人の少年に散々に討ち負かされた事は、かなり詳しく伝わっている。
 ローラシア王国の騎士団は、ドラーク子爵軍の視界から外れる位置まで撤退する事を決める。



 撤退して行くゴンドワナ帝国とローラシア王国の騎士団を呆然と見るシバとディーガ達。

 シバは、改めてドラーク子爵軍を見据える。

 その中に居る、自身の恐怖を押さえつけ、ドラーク子爵らしき青年を睨みつける。

「おっ、おい、シバ!」

 一人カイトの居る方へ歩き出したシバに、ディーガが止めようとするが、ディーガもドラーク子爵軍を前に、萎縮して足が動かず止める事が出来なかった。


「ドラーク子爵だな」

「あゝ、そうだ」

 シバは相手が紛れもなく、ゴンドワナ帝国とローラシア王国から恐れられているドラーク子爵と確認すると、背中に背負っていた大剣を抜きはなつ。

「俺は獅子人族のシバ!
 獣人族の王となる男だ!
 俺はお前を倒して、お前の元に居る獣人族をもらい受ける!

 いざ!尋常に勝負!」







 俺達が訓練をしている深淵の森近くで、突然現れた獣人族の集団と、その背後にゴンドワナ帝国とローラシア王国の騎士団。
 見ていると、ゴンドワナ帝国とローラシア王国の騎士団は撤退して行った。何がしたいのか理解に苦しむ。

 獣人族の集団から、大剣を背負った獅子人族の男が一人近付いて来た。

「ドラーク子爵だな」

「あゝ、そうだ」

「俺は獅子人族のシバ!
 獣人族の王となる男だ!
 俺はお前を倒して、お前の元に居る獣人族をもらい受ける!

 いざ!尋常に勝負!」

 この獅子人族は脳筋なんだろうな、力こそ全てとか言いそうだ。
 それを聞いたランカスが前に出ようとするのを、俺が止める。
 最近、同じ相手との模擬戦ばっかりだったから、たまには違う相手と戦うのも良いだろう。

「ランカス、良いよ。
 アレは俺が相手するよ」

「分かりました。
 後のスケジュールがありますから、手早くお願いいたします」

 俺がシバの方へ歩き出すが、ランカスを含め、ドラーク子爵軍の誰も心配している様子が見受けられない。
 ドラーク子爵軍はもちろん、クリストフ君を始めバスターク辺境伯軍も、訓練を通じて俺の実力を認識しているからだと思う。


 シバと名乗った獅子人族の男が、一瞬で間合いを詰めて、大剣を上段から振り下ろす。

 ガキィ!!

 俺は大剣を籠手でまともに受ける事を選んだ。

 こういう相手には、ちゃんと実力を見せてあげないと納得しないと思ったからだ。


 こうして、ドラーク子爵軍とバスターク辺境伯軍の合同訓練は、獅子人族のシバと俺の戦いというイベントに変わっていった。



 
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