異世界立志伝

小狐丸

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井の中の蛙大海を知らず

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 ガキィ! 鉄の塊の様な大剣を、俺は籠手に魔力を纏い左手一本で受け止める。
 中々重い一撃だけど、速さも重さも足りないな。バルデスやボーデンの方がパワーもスピードも数段上かな。

 シバと名乗った獅子人族の男が、大剣を引こうとするのを筋肉の動きと、魔力の流れで読み取る。

 ドガッ! 次の瞬間、シバのボディに右拳を叩き込む。





 俺は夢でも見ているんだろうか……。

 ガキィ! 大質量の鉄の塊の様な大剣を片手で止められた。そんなバカな!

 俺は両手で持つ大剣を、必死で押し込もうとするが、ドラーク子爵は籠手を装備した左手一本が、一ミリも動く事は無かった。慌てて大剣を引き横薙ぎに大剣を振ろうと大剣を引こうとした瞬間、俺の身体に衝撃が襲い、気が付いた時には俺は吹き飛んでいた。

 吹き飛び、さらに地面を転がり、やっと止まった俺は必死で起き上がろうと身体に力を入れる。

 クソッ!身体がバラバラになりそうだぜ。

「……クッ、獣王になろって俺がぁー!こんなところで負けてたまるかぁー!」

 震える身体に鞭打ち、ドラーク子爵へ間合いを詰める。獣人族の身体能力を最大限に発揮すれば、俺達は白兵戦では最強な筈だ。

 俺は回避し難い横薙ぎに大剣を振る。
 これは避けるのは無理だと勝ちを確信した時、俺の身体に衝撃が走り、俺は地面を転がっていた。






 さすがに獣人族でも戦闘能力に長けた獅子人族だな。手加減したとはいえボディブロー一発じゃダメだったか。

 ふらつくシバが一直線に俺に走り寄り、横薙ぎに振るった大剣が、俺の胴を断ち切ろうと迫る。
 俺は迫る大剣の刃を左手でそっと摘み、シバが気付かない範囲で大剣の力を減退させながら、振られる大剣の剣速に合わせてシバの横に回り込み、右手で横腹に掌底を叩き込む。





 ……な、何がどうなった。
 避けることが出来ない間合いとタイミングだった筈だ。どうして俺が地面を舐めている。
 ドラーク子爵はその場で立っているだけだった。避けようの無い間合いで振られた俺の大剣が、ドラーク子爵の胴を両断すると思った時、横腹に鈍い衝撃が走り、気がつけば地面に転がっていた。

 ……ダメだ、身体がピクリとも動かねぇ。

 ドラーク子爵が近づく足音が聞こえる。
 完敗だな……、まともに戦闘にならなかった。
 そこで俺の意識は途切れた…………。






 さすがにもう動けないみたいだな。

「シバ以外の責任者は居るか!」

 呆然として立ち尽くす獣人族たちの集団に声をかけてみる。
 すると全身傷だらけの虎人族の男が出て来た。

「ドラーク子爵様申し訳ありません。
 シバは強い相手には挑まねば我慢出来ない性質でして……。罰は私ディーガが受けますので、シバをお許し頂けませんか。我等のリーダーにはシバが必要なのです」

「まぁ、今のは遊びみたいなものだから、気にしなくて良いよ。
 それよりディーガだったか、少し頼みがある」

 俺はディーガ達が未開の地を縄張りに、ローラシア王国とゴンドワナ帝国へのゲリラ戦を行なっていると聞き、彼等にひとつの依頼をした。

 それは俺達が見つけられなかった獣人族の集落で、ドラーク子爵領に移住する気のある者を勧誘して欲しいと頼んだ。

「ドラーク子爵領では獣人族も人族と変わらず、差別なく暮らしていると聞きます。
 戦いに向かぬ獣人族や、争いごとが嫌いな者もいるでしょうから、見つけた折にはドラーク子爵領を勧めておきます」

「ありがとう、助かるよ」

 俺はシバに近寄ると、軽くヒールを掛けておく。
 深刻なダメージはないから、ヒールで十分だろう。

「これでシバもそのうち起きるだろう」

「ありがとうございます。では我等はこれで失礼します」

 ディーガは仲間達と一緒に、シバを担いで去って行った。

「カイト様、お疲れさまです。
 獅子人族は力こそ全てですからな。一度明らかな実力の差を見せておけば大丈夫でしょう」

「そうか?あれはかなりの脳筋っぽいぞ」

 ランカスが近寄って来てそう言うけど、俺はあの脳筋っぽいシバはまた来ると思っていた。

「その時は、私やバルデスも揉んでやりますよ」

「まぁ、そうだな。
 エルとかイリア辺りに負けたら立ち直れなくなりそうだからな」

 俺達は話しながら、西へと去って行ったシバ達を見ていた。



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