異世界立志伝

小狐丸

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フォランバード王の落日

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 大陸の北東部に位置する豊かな森に囲まれた国サーリット王国。

 そのサーリット王国の今代の王がフォランバード王だった。サーリット王国には王以外に六長老という六人の重鎮が政を司る。その事がフォランバード王が愚王であっても国が何とか成り立っていた理由だが、愚王でも王座に居続ける事が出来る、この仕組みが今回は裏目に出た。

 前回、絶対の自信を持っていた結界を簡単に壊されたにもかかわらず。



 その日、フォランバード王のもとに諜報部隊【影】がルシエルの娘奪還に失敗したとの報告が入った。
 ドラーク伯爵の屋敷を襲撃した三十人の他に、街の中にサポートの人員が配置されていたのだ。そのサポート要員が作戦の失敗を慌てて本国へと連絡して来た。

「なっ!!ス、スーロベルデ!ど、どうする!」

 サーリット王国騎士団長スーロベルデは溜息しか出なかった。あれ程ドラーク伯爵への干渉を控えるよう進言していたにも関わらず、もうこの国の体制は駄目かもしれないと思った。

 暗愚な王を六長老も止めれない時点で、六長老と言うシステムも破錠していると思って良いだろう。

「陛下、何故私に無断で影を動かしたのですか。我が国の影程度がドラーク卿に通じるとでも思ったのですか」

「何とかしろスーロベルデ!」

「陛下、何とかしろと言われましても……」

 スーロベルデがフォランバード王からの無茶振りに言葉に詰まっていると、フォランバード王は癇癪を起こす。

「それでもお前はサーリット王国の騎士団長か!」

 唾を飛ばして錯乱気味のフォランバード王に、冷たい目を向けるスーロベルデ。

「……防衛準備は致しますが、落とし所を考えて置いて下さい」

 そう言うとスーロベルデは出て行った。




「影の者は居るか」

 王城の廊下を歩きながら、スーロベルデは小さな声で何処へともなく話し掛ける。

「……ここに」

 すると姿は見えずとも声だけが返ってきた。

「話は聞いていたな。このまま何もなしではドラーク卿も収まらんだろう。そこで出来れば王城へ乗り込まれる前に、ドラーク卿へ繋ぎを付けて貰いたい。出来ればルシエル様に口添え頂けるとありがたい。ルシエル様も罪なき同胞の命は取らんだろう」

「……御意」

 了解する声の後、影の気配が消える。

「ドラーク卿の理性に賭けるしかないか……」







 俺達はサーリット王国が有る森の手前までやって来ていた。

 メンバーは俺、ルシエル、イリア、ランカス、バルデス、ユーファン、フーガの七人。
 それぞれが一騎当千の仲間達だから自分だけに集中できる。

「さて、ちゃっちゃとやろうか」

 バリィンーーーン!!呆気なく結界が壊れる音がする。

 例の如く巨大な結界を破壊して森の中へと進む。

 今回はその後にマナポーションで魔力を回復させてから俺が結界を張り直す。こうして置けば魔物が国の中に入って来る事もないだろう。一般の国民に被害を出したい訳じゃない。

 少し魔力の回復を待ってからルシエルの案内でサーリット王国の王都へ向かった。
 真っ直ぐ王都へ最短距離で進む。俺達もそんなに暇じゃない。バカの相手はちゃっちゃと済ませたい。




 やがて俺達の索敵に反応がある。

「案内?ですかね。殺気も無いし、こちらを窺うような感じでもないですね」

 ランカスが言う様に、敵対したい雰囲気じゃないと思う。

「サーリット王国にも真面な人間は居ますから」

 ルシエルにとっては祖国が心底腐っていないのが嬉しいみたいだ。

 暫くすると向こうから接触をはかってきた。

「ルシエル様、スーロベルデ様よりお話を聞いて頂けないか、との言伝をお届けに参りました」

 目の前に現れて片膝をついた黒装束のエルフ。俺の屋敷を襲撃した部隊の仲間だろう。

「ルシエル、スーロベルデって知ってる奴なのか?」

「ええ、サーリット王国の騎士団長です。彼は実直な武人で部下の信頼も厚い人物だったと思います。

 それでスーロベルデ殿が私達に何と?」

「はっ、王都手前のルプル村で内密にお会い出来ないかとの事です」

 ルシエルが俺のほうを見るので俺は頷く。

「分かりました。滅多なことはないでしょうが、その時は覚悟して下さい」

「……それでは」

 黒装束のエルフが走り去った。



「ルプル村って分かるの?」

 ルシエルにルプル村の場所を知ってるのか確認しておくと、知ってるどころじゃなかった。

「私の生まれ故郷ですから。父は亡くなりましたが、母もまだ暮らして居ますし……」

 ルシエルが少し寂しそうに言った。

「なぁルシエル。うちの屋敷でお母さんと一緒に住めないか?孫も生まれた事だし」

「よろしいよですか?」

 嬉しそうな顔のルシエルの目に涙が溜まる。

「そうと決まれば早いとこルプル村へ行こう」

 俺達は進む速度を上げてルプル村を目指した。



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