異世界立志伝

小狐丸

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ルシエルの母

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 ルシエルの先導でルプル村に着いたのは、日の暮れる少し前だった。

 ルシエルの顔を見ると目に涙を溜めていた。二度と戻る事が無いと思っていたのだろう。久しぶりの故郷に溢れだす想いがあるんだろう。

「お母さんが居るんだろ、俺も挨拶したいから紹介してよ」

「……母はまだこの村に居るのでしょうか」

 昔、ルシエルが暮らした家は既に無いと言った。

「村の人に聞いてみようよ」

 村に入った時点で表に出ていた村人が、俺達を遠巻きに見ていた。いきなりエルフ以外の種族が来訪した事に戸惑っているふうだった。
 その人達に近付いてルシエルのお母さんの事を聞いてみる。

「すいません。
 ルシエルの母親が居る場所を教えて頂けませんか?」

「あ、ああ、やっぱりルシエル様だったか。
 ルノワイエ様はお身体を壊して教会で療養されています。教会は村の中央にあります」

 身体を壊していると聞いて、急いで教会を目指す。

 小さな村なので教会は直ぐに見つかった。 
 教会を訪ねると直ぐにルシエルのお母さんが療養している部屋に案内された。

「お母さま…………」

「ルノワイエ様は、ルシエル様が酷い火傷を負いさらに行方不明になられたと、六長老に聞かされた頃から体調を崩され、最近はどんどん悪くなるばかりで、回復魔法もあまり効かないようで……」

 ベッドにはルシエルの母親らしき人が横たわっていた。その顔色が悪く痩せていて、それを見たルシエルの動揺は大きいようだった。

「ルシエル、できる事をやってみよう」

「……はい」

 ルシエルが母親に回復魔法を使い始める。
 本来、回復魔法は傷や骨折は癒す事は出来るけど、病気には効きづらい。そこでルシエルに体力を回復させるイメージで回復魔法を使って貰い、その間に俺がお母さんの身体を診察する。

 身体をスキャンするイメージで魔法を使う。
 すると身体のあちこちに病巣があるのが感知出来た。
 やっぱり癌だな。……出来るのか?

 癌を治癒した経験はなかったけど、普通の回復魔法では無理だと分かった。

「ルシエル、俺が病気を治癒するから、体力の回復を強く意識して魔法を頼む」

「カイト様お願いします」

 見つかった大小の病巣を消滅させ、健康な組織を再生するイメージで魔法を使い続ける。
 極小さな病巣まで、見落とさない様に慎重に魔法を行使する。

 どれくらいの時間魔法を使っていただろう。
 やがてルシエルのお母さんの顔色が良くなって来る。息づかいも穏やかになりひとまず安堵する。

「何とかなったか」

「はぁ、はぁ、ありがとうございますカイト様」

「ルシエルのお母さんなら、俺にとっても義母親だろう。助けるのは当然だろう」

 改めてよく見るとルシエルに良く似ている。

「ルシエルのお姉さんと言われもおかしくないね」

 やつれてはいるが、ルシエルのお母さんはエルフだけあって、とてもルシエルと親子だと思えない見た目をしている。

「…………カイト様」

「分かってる。家に連れて帰ろう」

 目に見えない癌も消すイメージで魔法を使ったけど、癌は再発が怖いから目の届く範囲に居て貰える方が安心だろうな。



 暫くするとルシエルのお母さんが目を覚ました。
 随分久しぶりに意識を取り戻したらしい。

「…………ル、ルシエル?!」

「お母様!!」

 ルシエルがお母さんと抱き会って再会を喜んでいる。

「生きてまた会えるとは思っていませんでした。良く無事でしたねルシエル」

 涙を流してルシエルの手を取り喜ぶルノワイエさん。

「お母様、私がこうして無事に生きているのは、ここに居るカイト様のお陰なの。
 それに聞いてお母様、カイト様との間に子供が産まれたの。女の子でルーファリスと名付けたわ」

「まぁ、本当!良かったわね。
 私もお婆ちゃんになったのね。ひとめ会いたかったわ……」

 ルノワイエさん、自分の身体が治ったとまだ気付いてないな。

「ルノワイエさん、カイトといいます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 娘が俺との間に孫が出来たなんて、いきなり言われても困るだろうけど、一応挨拶はケジメだからな。

「いえ、カイト様。娘を助けていただきありがとうございます。生きている間に幸せそうな娘の顔が見れて、もう何も思い残す事はありません」

 涙を流し俺に頭を下げるルノワイエさん。

「……えっと、お母様、病は私とカイト様で治癒しましたよ」

「…………えっ?」

 ルノワイエさんは急に上半身をベッドから起こし、ペタペタと自分の身体を確かめている。

「あれ?痛くない。あれだけ全身が痛くて身体も動かせなかったのに……、本当に治ったの?!」

「ルノワイエさん、今の時点では治ったと言えると思いますが、この病は再発する可能性があります。ですから、ここからは俺からのお願いになりますけど、家でルシエルやルーファリスと一緒に暮らして貰えませんか。そうすれば俺達も安心なんですが」

「お母様、ルーファリスと一緒に暮らそう」

「…………お願いしても良いかしら」

 ルノワイエさんは暫く考え頷いてくれた。



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