126 / 163
ルシエルの母
しおりを挟む
ルシエルの先導でルプル村に着いたのは、日の暮れる少し前だった。
ルシエルの顔を見ると目に涙を溜めていた。二度と戻る事が無いと思っていたのだろう。久しぶりの故郷に溢れだす想いがあるんだろう。
「お母さんが居るんだろ、俺も挨拶したいから紹介してよ」
「……母はまだこの村に居るのでしょうか」
昔、ルシエルが暮らした家は既に無いと言った。
「村の人に聞いてみようよ」
村に入った時点で表に出ていた村人が、俺達を遠巻きに見ていた。いきなりエルフ以外の種族が来訪した事に戸惑っているふうだった。
その人達に近付いてルシエルのお母さんの事を聞いてみる。
「すいません。
ルシエルの母親が居る場所を教えて頂けませんか?」
「あ、ああ、やっぱりルシエル様だったか。
ルノワイエ様はお身体を壊して教会で療養されています。教会は村の中央にあります」
身体を壊していると聞いて、急いで教会を目指す。
小さな村なので教会は直ぐに見つかった。
教会を訪ねると直ぐにルシエルのお母さんが療養している部屋に案内された。
「お母さま…………」
「ルノワイエ様は、ルシエル様が酷い火傷を負いさらに行方不明になられたと、六長老に聞かされた頃から体調を崩され、最近はどんどん悪くなるばかりで、回復魔法もあまり効かないようで……」
ベッドにはルシエルの母親らしき人が横たわっていた。その顔色が悪く痩せていて、それを見たルシエルの動揺は大きいようだった。
「ルシエル、できる事をやってみよう」
「……はい」
ルシエルが母親に回復魔法を使い始める。
本来、回復魔法は傷や骨折は癒す事は出来るけど、病気には効きづらい。そこでルシエルに体力を回復させるイメージで回復魔法を使って貰い、その間に俺がお母さんの身体を診察する。
身体をスキャンするイメージで魔法を使う。
すると身体のあちこちに病巣があるのが感知出来た。
やっぱり癌だな。……出来るのか?
癌を治癒した経験はなかったけど、普通の回復魔法では無理だと分かった。
「ルシエル、俺が病気を治癒するから、体力の回復を強く意識して魔法を頼む」
「カイト様お願いします」
見つかった大小の病巣を消滅させ、健康な組織を再生するイメージで魔法を使い続ける。
極小さな病巣まで、見落とさない様に慎重に魔法を行使する。
どれくらいの時間魔法を使っていただろう。
やがてルシエルのお母さんの顔色が良くなって来る。息づかいも穏やかになりひとまず安堵する。
「何とかなったか」
「はぁ、はぁ、ありがとうございますカイト様」
「ルシエルのお母さんなら、俺にとっても義母親だろう。助けるのは当然だろう」
改めてよく見るとルシエルに良く似ている。
「ルシエルのお姉さんと言われもおかしくないね」
やつれてはいるが、ルシエルのお母さんはエルフだけあって、とてもルシエルと親子だと思えない見た目をしている。
「…………カイト様」
「分かってる。家に連れて帰ろう」
目に見えない癌も消すイメージで魔法を使ったけど、癌は再発が怖いから目の届く範囲に居て貰える方が安心だろうな。
暫くするとルシエルのお母さんが目を覚ました。
随分久しぶりに意識を取り戻したらしい。
「…………ル、ルシエル?!」
「お母様!!」
ルシエルがお母さんと抱き会って再会を喜んでいる。
「生きてまた会えるとは思っていませんでした。良く無事でしたねルシエル」
涙を流してルシエルの手を取り喜ぶルノワイエさん。
「お母様、私がこうして無事に生きているのは、ここに居るカイト様のお陰なの。
それに聞いてお母様、カイト様との間に子供が産まれたの。女の子でルーファリスと名付けたわ」
「まぁ、本当!良かったわね。
私もお婆ちゃんになったのね。ひとめ会いたかったわ……」
ルノワイエさん、自分の身体が治ったとまだ気付いてないな。
「ルノワイエさん、カイトといいます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
娘が俺との間に孫が出来たなんて、いきなり言われても困るだろうけど、一応挨拶はケジメだからな。
「いえ、カイト様。娘を助けていただきありがとうございます。生きている間に幸せそうな娘の顔が見れて、もう何も思い残す事はありません」
涙を流し俺に頭を下げるルノワイエさん。
「……えっと、お母様、病は私とカイト様で治癒しましたよ」
「…………えっ?」
ルノワイエさんは急に上半身をベッドから起こし、ペタペタと自分の身体を確かめている。
「あれ?痛くない。あれだけ全身が痛くて身体も動かせなかったのに……、本当に治ったの?!」
「ルノワイエさん、今の時点では治ったと言えると思いますが、この病は再発する可能性があります。ですから、ここからは俺からのお願いになりますけど、家でルシエルやルーファリスと一緒に暮らして貰えませんか。そうすれば俺達も安心なんですが」
「お母様、ルーファリスと一緒に暮らそう」
「…………お願いしても良いかしら」
ルノワイエさんは暫く考え頷いてくれた。
ルシエルの顔を見ると目に涙を溜めていた。二度と戻る事が無いと思っていたのだろう。久しぶりの故郷に溢れだす想いがあるんだろう。
「お母さんが居るんだろ、俺も挨拶したいから紹介してよ」
「……母はまだこの村に居るのでしょうか」
昔、ルシエルが暮らした家は既に無いと言った。
「村の人に聞いてみようよ」
村に入った時点で表に出ていた村人が、俺達を遠巻きに見ていた。いきなりエルフ以外の種族が来訪した事に戸惑っているふうだった。
その人達に近付いてルシエルのお母さんの事を聞いてみる。
「すいません。
ルシエルの母親が居る場所を教えて頂けませんか?」
「あ、ああ、やっぱりルシエル様だったか。
ルノワイエ様はお身体を壊して教会で療養されています。教会は村の中央にあります」
身体を壊していると聞いて、急いで教会を目指す。
小さな村なので教会は直ぐに見つかった。
教会を訪ねると直ぐにルシエルのお母さんが療養している部屋に案内された。
「お母さま…………」
「ルノワイエ様は、ルシエル様が酷い火傷を負いさらに行方不明になられたと、六長老に聞かされた頃から体調を崩され、最近はどんどん悪くなるばかりで、回復魔法もあまり効かないようで……」
ベッドにはルシエルの母親らしき人が横たわっていた。その顔色が悪く痩せていて、それを見たルシエルの動揺は大きいようだった。
「ルシエル、できる事をやってみよう」
「……はい」
ルシエルが母親に回復魔法を使い始める。
本来、回復魔法は傷や骨折は癒す事は出来るけど、病気には効きづらい。そこでルシエルに体力を回復させるイメージで回復魔法を使って貰い、その間に俺がお母さんの身体を診察する。
身体をスキャンするイメージで魔法を使う。
すると身体のあちこちに病巣があるのが感知出来た。
やっぱり癌だな。……出来るのか?
癌を治癒した経験はなかったけど、普通の回復魔法では無理だと分かった。
「ルシエル、俺が病気を治癒するから、体力の回復を強く意識して魔法を頼む」
「カイト様お願いします」
見つかった大小の病巣を消滅させ、健康な組織を再生するイメージで魔法を使い続ける。
極小さな病巣まで、見落とさない様に慎重に魔法を行使する。
どれくらいの時間魔法を使っていただろう。
やがてルシエルのお母さんの顔色が良くなって来る。息づかいも穏やかになりひとまず安堵する。
「何とかなったか」
「はぁ、はぁ、ありがとうございますカイト様」
「ルシエルのお母さんなら、俺にとっても義母親だろう。助けるのは当然だろう」
改めてよく見るとルシエルに良く似ている。
「ルシエルのお姉さんと言われもおかしくないね」
やつれてはいるが、ルシエルのお母さんはエルフだけあって、とてもルシエルと親子だと思えない見た目をしている。
「…………カイト様」
「分かってる。家に連れて帰ろう」
目に見えない癌も消すイメージで魔法を使ったけど、癌は再発が怖いから目の届く範囲に居て貰える方が安心だろうな。
暫くするとルシエルのお母さんが目を覚ました。
随分久しぶりに意識を取り戻したらしい。
「…………ル、ルシエル?!」
「お母様!!」
ルシエルがお母さんと抱き会って再会を喜んでいる。
「生きてまた会えるとは思っていませんでした。良く無事でしたねルシエル」
涙を流してルシエルの手を取り喜ぶルノワイエさん。
「お母様、私がこうして無事に生きているのは、ここに居るカイト様のお陰なの。
それに聞いてお母様、カイト様との間に子供が産まれたの。女の子でルーファリスと名付けたわ」
「まぁ、本当!良かったわね。
私もお婆ちゃんになったのね。ひとめ会いたかったわ……」
ルノワイエさん、自分の身体が治ったとまだ気付いてないな。
「ルノワイエさん、カイトといいます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
娘が俺との間に孫が出来たなんて、いきなり言われても困るだろうけど、一応挨拶はケジメだからな。
「いえ、カイト様。娘を助けていただきありがとうございます。生きている間に幸せそうな娘の顔が見れて、もう何も思い残す事はありません」
涙を流し俺に頭を下げるルノワイエさん。
「……えっと、お母様、病は私とカイト様で治癒しましたよ」
「…………えっ?」
ルノワイエさんは急に上半身をベッドから起こし、ペタペタと自分の身体を確かめている。
「あれ?痛くない。あれだけ全身が痛くて身体も動かせなかったのに……、本当に治ったの?!」
「ルノワイエさん、今の時点では治ったと言えると思いますが、この病は再発する可能性があります。ですから、ここからは俺からのお願いになりますけど、家でルシエルやルーファリスと一緒に暮らして貰えませんか。そうすれば俺達も安心なんですが」
「お母様、ルーファリスと一緒に暮らそう」
「…………お願いしても良いかしら」
ルノワイエさんは暫く考え頷いてくれた。
57
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる