異世界立志伝

小狐丸

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お爺ちゃん来訪

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 ある日突然バスターク辺境伯、要するにエルのお父さん、ジークフリートにとってはお爺ちゃんとなるゴドウィンさんが屋敷を訪れた。

 高位貴族が前触れなしに、いきなり訪れる事は有り得ない事なんだけど、お義父さんは気にする素振りも見せずにジークを抱いている。

「えっと、バスターク卿、いきなりの来訪、どうされたのですか?」

 俺が聞くと急に不機嫌な顔をする。

「ふんっ」

「えっ、あ、あの…………」

 俺が困っていると、そこにエルと義母のレイラさんがエル付きの侍女アンナさんを連れて部屋に入って来た。

「あら、カイト君、帰ってたの?」

「カイトおかえりなさい」

「カイト様、おかえりなさいませ」

 レイラさんがエル達と入って来て、あゝ、義父さんはレイラさんと一緒に来たのかと思ったんだけど、なんか変なんだ。

「えっと……」

 何を話ではいいのか困惑していると、レイラさんがクスクス笑った。

「レイラ、いい加減帰ってこんか」

 えっ?レイラさんジークが産まれてからずっと居るの?

「あらっ、可愛い初孫が生まれたのに、酷いお爺ちゃんですねぇ~」

 レイラさんがゴドウィンさんからジークを奪い取る。

「あ、あの、レイラさん。ひょっとしてずっと居たんですか?」

「あら、私が居たら迷惑かしら?」

「いえ、全然迷惑じゃないです。はい!」

 まさか、ジークが産まれてから一度も帰っていないとは思わなかった。それはお義父さんも機嫌悪くなるよな~。

 それでも、先触れもなしに辺境伯が領地を留守にするのは如何なものか。
 俺がそう思ったのは普通の感覚だったみたいだ。

「お父様、いきなり来るのはどうなの」

「そうよねぇ、貴方一応バスターク辺境伯家の当主なんだから。
 ねえ~、ジーク」

 エルとレイラさんのお義父さんの扱いが酷い。

「ふん、領地にはアルフォンスもクリストフも居るから大丈夫だ。フレデリックも居るしな」

 現在のバスターク辺境伯は、以前のように王国の盾の役目は果たしているものの、ゴンドワナ帝国とローラシア王国への警戒度が低くなっている。
 嫡男のアルフォンス、防衛の要クリストフが居れば問題ないのかもしれない。

「そんなこと言って、ただ単にジークの顔を見に来ただけでしょう」

「ふん、ジークが可愛いのは事実だから仕方がない。まぁ、儂の孫だから当然といえば当然の事だがな」

「あら、ジークはカイト君似だと思うわよ。エルに似ているところもあるけど、エルに似ているって事は私の家系の顔よね。あなたには似ていないわよ」

「なっ!何を言ってる!ジークの顔は、バスターク家の顔に決まっておるわ!」

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが何故かジークの顔がどちらに似ているかで言い争いを始めてしまった。

 でも、お世辞にもお義父さんの顔は美男子系ではないと思う。イカツイ武人の顔で、確かバスターク辺境伯の屋敷で見たバスターク家の先祖代々の肖像画は、美男子系ではなかった。
 エルが美人なのは、お義母さんのレイラさんの血筋によるところが大きいと思う。
 レイラさんはハーフエルフだし、エルもクォーターだ。

 そんな不毛な言い争いをしている所に、悪気はないのだが、爆弾を落とした人がいる。

「やっぱりルーファリスが一番可愛いわね」

「お母様、ジークフリートもルルも同じくらい可愛いでしょ」

「「……………………」」

 そう、サーリット王国から移り住んだ、ルノワイエさんが自分の孫が一番可愛いとデレデレしている。
 余り子供が生まれないエルフだけあって、孫に恵まれた事が嬉しくて仕方がないらしい。

「そちらのご婦人はどなたかな」

「え、えっと、ルシエルのお母さんです」

「ふむ、ご婦人。私はバスターク辺境伯を賜っているゴドウィン・フォン・バスタークだ。

 ルシエル殿の母御とお伺いしましたが」

「はい、ルノワイエと申します」

「ルノワイエ殿、先ほどの発言を訂正してくださらんか」

「えっ?何か訂正しないといけない事がありましたか?」

「あったでしょう!ジークよりもそのルー何とかが可愛いとか」

「…………ルーファリスです!」

 あゝ、ジジババの仁義なき戦いが始まった。





「なぁ、エル」

「イヤよ巻き込まれるのは」

「なぁ、ルシエル」

「すいません。私も無理です」

 どうでもいいけど、お義父さんもお義母さんも、いつ帰るんだろう。




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