異世界立志伝

小狐丸

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ゆっくりと忍びよる

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 ゴンドワナ帝国とローラシア王国の国境付近、ここに誰にも知られずヒッソリと力を溜め続ける存在があった。

 それは周辺に村も街も無い、小さな森に囲まれた場所に存在し、誰にも気付かれる事がなかった。

 それは小さな森の中にポッカリと空いた空間にあった。

 それは地下に続く大きな穴。

 そこに時折、野生動物や魔物が紛れ込む。

 何時からそれが在るのかはわからない。

 少なくとも五十年や百年ではなく、千年を超える時を過ごしているのは間違いなかった。

 それは濃密な魔素により魔物を誘き寄せ自らの糧とする。
 時には宝を餌に欲深い人間を誘き寄せる。

 人はそれをダンジョンと呼んだ。

 この大陸に、発見されたダンジョンはそう多くない。

 現在、知られているダンジョンは二つのみ。

 サーメイヤ王国に一つ、ゴンドワナ帝国に一つのダンジョンが確認されている。
 この二つのダンジョンは、国と冒険者ギルドにより厳重に管理されている。

 ダンジョンにはダンジョンコアが存在し、このダンジョンコアを破壊する事でダンジョンは消滅する。

 ダンジョンは、一種の魔物だと考えられている。

 その身の中に魔物や人間を誘き寄せ、自ら魔物を生み出す事で、中に入った魔物や人間を栄養とする。
 やがてその身に栄養を溜め込んだダンジョンは、深く大きく階層を増やしながら成長していく。

 現在、この大陸で管理されているダンジョンは、一度攻略されている。
 一度最下層のダンジョンコアを取り外すと、ダンジョンが固定化される。
 固定化されたダンジョンから産出される魔石やアイテムは、国に取って重要な資源となっている。
 こういったダンジョンを資源迷宮と呼ばれている。
 各国では、ダンジョンを発見すると、そのダンジョンが大きく階層が深くなり過ぎない内に攻略してダンジョンを固定化する。



 この小さな森の中にあるダンジョンは、誰にも知られず居たがために、非常にゆっくりと成長していた。

 ただ、ダンジョンも際限無く成長し続ける訳ではなく、その地や周辺にある魔素の濃度などが成長限界があった。

 そして成長限界を迎えたダンジョンは、その中で魔物を生み出し続ける。
 やがてダンジョンの中で飽和した魔物は、ついにダンジョンから溢れ出す時が来る。

 ダンジョンが魔物を吐き出し始める。

 魔物のスタンピード(集団暴走)が起こるのだ。

 過去、スタンピードにより街はおろか国まで亡んだ事がある。
 それ故、各国はダンジョンを見つけると、攻略して固定化し管理する事を目指す。ダンジョンが大きくなり過ぎて、攻略が難しいと判断されると、大規模な封印術式でダンジョンを封印処理してしまう。
 封印されたダンジョンは、ゆっくりと長い時間をかけて死んでいく事になる。



 小さな森の中、人知れずそのダンジョンはゆっくりと成長を続ける。

 ゴンドワナ帝国とローラシア王国が互いに争いあう間も、まだその二つの国がなかった頃に生まれたダンジョンは、確実に大きくなっていく。

 やがてダンジョンの成長が止まり、破滅へのカウントダウンが始まるまでもう少し…………。




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