異世界立志伝

スタンピード

　その日、ゴンドワナ帝国とローラシア王国の国境付近、その森はあった。

　誰も立ち入らない森の中央部。

　暗い大きな穴から、溢れ出すモノがあった。


　森に棲む魔物はその異変にいち早く気づき、森の外縁部に避難し始めていた。

　遂に名も無き迷宮が溢れだそうとしている。

　放置した迷宮が何故溢れ出すのか、誰にも分かっていない。

　迷宮ダンジョンは生き物だと言う研究者も居る。
　宝で人を誘き寄せ、ダンジョンの中で死んだ人間や、ダンジョンが生み出した魔物以外をその身に取り込む。取り込まれたモノは、ダンジョンコアの糧となり、新たな階層構築や新たな魔物を生み出す。

　その迷宮が魔物を溜め込み、溢れ出させる理由は分かっていない。

　通常、発見されているダンジョンは、二種類に分けられる。

　一つは、一度踏破されて迷宮核ダンジョンコアの成長が止まった、管理迷宮。

　もう一つは、未だ踏破されていない、迷宮核が成長を続け、階層が広がり続けている迷宮。

　後者は、ダンジョン内の魔物を間引く必要があり、その土地の魔素濃度や地脈の力で変わってくるが、定期的に内部の飽和状態にある魔物を吐き出す。

　それをスタンピードと呼ぶ。

　ダンジョンが大きく成長し過ぎ、踏破が困難となると、場合によってはスタンピードを防ぐ為に、ダンジョン自体を封印する必要がある。



　そして悲劇はゆっくりと始まる。

　数百年間、誰にも気付かれる事なく放置された名も無き迷宮は、遂に魔物を吐き出し始める。

　それはダンジョン内の魔素濃度が落ち着くまで、次々と魔物を供給し続ける。



　溢れ出した魔物に押し出される様に、森に棲む魔物が暴走を始める。





「大変だ！魔物の大群だ！」

　ダンジョンから一番近い村の猟師が最初にそれに気付いた。

「女子供を優先して街に逃せ！」

「荷物は最低限にしろ！」

　口々に叫びながら走り回る。



　スタンピードが発生した事は、ゴンドワナ帝国とローラシア王国両国に伝わる。
　魔物の大群は一方向へ溢れ出さずに、ゴンドワナ帝国とローラシア王国の両国へと進んだ。そしてそれはサーメイヤ王国にも…………。

　サーメイヤ王国の南、ゴンドワナ帝国とローラシア王国との国境を接するのは、バスターク辺境伯とチラーノス辺境伯領の半分を併合したドラーク伯爵だ。

　バスターク辺境伯領とドラーク伯爵領に近い、ローラシア王国国境付近の村や町の住人や、ゴンドワナ帝国国境付近の村や町の住人は、逃げる際に三つの選択肢があった。

　村で防備を固める者。
　自国の大きな街へと逃げる者。
　サーメイヤ王国へと逃げ出した者。

　そして、その三つの選択がその者達の運命を分ける。

　結果的に、村に残った者は全滅した。

　ゴンドワナ帝国とローラシア王国では、現在の国の状況で被害の差はあったが、どちらの国も多大な被害を受ける事になる。逃げ出した者達も多くが犠牲となった。

　バスターク辺境伯領とドラーク伯爵領へ逃げ出した者達は、早期に異変を察知し、大規模に軍と冒険者を動員した事で、その多くが命を助けられる結果となる。





「カイト様！ゴンドワナ帝国とローラシア王国国境付近でスタンピードです」

「最低限の守備隊を残して全軍国境に進軍！

　領民の安全を最優先！

　ゴンドワナ帝国とローラシア王国の避難民の救助も行なう！」

　領主館に走り込んで来たフーガの報告に、指示を出しながら装備を着込む。
　イリアとオウカが準備に取り掛かる。

　俺が装備を整え部屋を出ると、エル、イリア、オウカ、ルシエル、ランカス、バルデス、ユーファン、エピル、フィーネが待っていた。
　妊娠中のコレットは後方支援だ。

「ランカスはバルデスと騎士団を率いて騎馬で先行、エルとルキナは何時もの車両を使ってくれ。

　フーガは諜報部隊と国境を超えてくる避難民の救助、フィーネは空から偵察を頼む」

「はっ」「了解」「はい！」

　ランカスとバルデスが飛び出して行く。
　エルとルキナも装甲軍用車両のハンガーへと走って行った。

　そして残りの人員を連れて俺は国境付近へと転移する。