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傷痕
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ローラシア王国とゴンドワナ帝国の国境付近で起こった、ダンジョンから魔物が溢れだした事によるスタンピードは、二つの国に大きな傷痕を残した。
俺達は、ゴンドワナ帝国の救援要請を受け、魔物の討伐と人命救助のために、帝国内で活動する許可を得た。
国境を接しているサーメイヤ王国のバスターク辺境伯とドラーク伯爵領は、バスターク辺境伯側に少しの犠牲がでただけでなんとか護りとおせた。
このスタンピードを引き起こしたダンジョンの位置は、フーガ達によって発見された。
「良かったのですか?」
俺の横にゴーレム馬を並べたランカスが聞いて来た。
「仕方ないだろう。場所はゴンドワナ帝国内だからな。そこまで俺達がでしゃばる事は出来ないよ」
そう、ダンジョンの位置を帝国側に報告したところ、帝国が自分達でダンジョンの処理をすると言ってきた。まぁ、自分達の領地だから当然と言えば当然だろう。フーガの報告によると、あまり大きなダンジョンではないらしいから、この機会に踏破してダンジョンを潰してしまうつもりかもしれない。もしくは、一度踏破して管理ダンジョンとするのか。俺なら管理ダンジョンとして迷宮都市を建設するけど、多分今の帝国にはその余裕はないだろうな。
血の匂いが鼻にこびりついているようだ。
「それにしても酷いな」
ゴンドワナ帝国内を駆け回り、魔物の討伐と人命救助に走り回ったが、死体の埋葬に時間がかかった。俺達だけでどれくらいの亡くなった人達を埋葬したか、途中から数えていない。魔物に蹂躙された死体は損傷が大きく、さすがのドラーク軍の兵士達も辟易していた。
「そうですな……、今の帝国に村や街に配置する兵力に余裕はなかったのでしょうな」
「それ以上に、初動が遅すぎた。俺達よりもスタンピードの情報を掴むのが遅いなんて怠慢過ぎる」
今回のスタンピードによる、帝国の被害の実数は分からない。ローラシア王国側の情報はもっと分からないが、帝国は見る限り1,000や2,000じゃ済まないと思う。スタンピードが起きた周辺の土地は、暫くの間立ち直れないかもしれない。
「……流民が増えるかもな」
「国境で保護する部隊を配置しておきます」
ウチは流民は積極的に受け入れる。大勢の流民を受け入れると、一定数どうしようもない奴が混ざるので、治安悪化には気を付けないといけないが。
「それでフーガ、例の事は順調か?」
ブリッツに乗る俺の側に膝をつき控えるフーガに、頼んでいた案件の進捗状況を聞く。
「はっ、主人を亡くした者、主人に置き去りにされた者、共にドラーク領内に無事移送しました」
「全員解放は?」
「ルシエル様が順次解放して下さいました」
俺は、ゴンドワナ帝国とローラシア王国内で、スタンピードの被害に遭い、主人を亡くした奴隷、主人に置き去りにされた奴隷を救助する様にフーガ達に頼んでいた。その中でも、不当に奴隷とされた獣人族を中心に、希望を聞いてドラーク領へと移住を勧めた。
村や街が全滅に近い被害を受けた場所では、囮として残された奴隷や、主人は死んだが、幸運にも生き残った奴隷がいた。
内訳は、獣人族が八割、エルフやドワーフが残りの二割といった割合だった。中には人族でも違法に攫われて奴隷となった人達が居たようだ。
彼等は怪我の手当てを受けた後、ルシエルにより奴隷から順番に解放されていった。
「集落への帰還希望者はどのくらい居た?」
「およそ全体の二割程かと……」
「……意外と少ないな」
「すでに集落が存在しない者も多いと思われます」
獣人族に対する奴隷狩りは、時として集落ごと滅ぼす事もあるみたいだ。それに、種族間差別をしないドラーク領ならと、移住希望者が多いみたいだ。
ウチの領地は、幾ら人が居ても足りない状態だからありがたいんだけどな。
「さて、俺は一旦領都の屋敷に戻るわ」
「後のことはお任せ下さい」
「私も引き続き違法奴隷を保護します」
「ランカスとフーガも頼むよ」
俺はイリアを連れて、ルシエルが奴隷契約を解呪している場所まで戻る。
俺達は、ゴンドワナ帝国の救援要請を受け、魔物の討伐と人命救助のために、帝国内で活動する許可を得た。
国境を接しているサーメイヤ王国のバスターク辺境伯とドラーク伯爵領は、バスターク辺境伯側に少しの犠牲がでただけでなんとか護りとおせた。
このスタンピードを引き起こしたダンジョンの位置は、フーガ達によって発見された。
「良かったのですか?」
俺の横にゴーレム馬を並べたランカスが聞いて来た。
「仕方ないだろう。場所はゴンドワナ帝国内だからな。そこまで俺達がでしゃばる事は出来ないよ」
そう、ダンジョンの位置を帝国側に報告したところ、帝国が自分達でダンジョンの処理をすると言ってきた。まぁ、自分達の領地だから当然と言えば当然だろう。フーガの報告によると、あまり大きなダンジョンではないらしいから、この機会に踏破してダンジョンを潰してしまうつもりかもしれない。もしくは、一度踏破して管理ダンジョンとするのか。俺なら管理ダンジョンとして迷宮都市を建設するけど、多分今の帝国にはその余裕はないだろうな。
血の匂いが鼻にこびりついているようだ。
「それにしても酷いな」
ゴンドワナ帝国内を駆け回り、魔物の討伐と人命救助に走り回ったが、死体の埋葬に時間がかかった。俺達だけでどれくらいの亡くなった人達を埋葬したか、途中から数えていない。魔物に蹂躙された死体は損傷が大きく、さすがのドラーク軍の兵士達も辟易していた。
「そうですな……、今の帝国に村や街に配置する兵力に余裕はなかったのでしょうな」
「それ以上に、初動が遅すぎた。俺達よりもスタンピードの情報を掴むのが遅いなんて怠慢過ぎる」
今回のスタンピードによる、帝国の被害の実数は分からない。ローラシア王国側の情報はもっと分からないが、帝国は見る限り1,000や2,000じゃ済まないと思う。スタンピードが起きた周辺の土地は、暫くの間立ち直れないかもしれない。
「……流民が増えるかもな」
「国境で保護する部隊を配置しておきます」
ウチは流民は積極的に受け入れる。大勢の流民を受け入れると、一定数どうしようもない奴が混ざるので、治安悪化には気を付けないといけないが。
「それでフーガ、例の事は順調か?」
ブリッツに乗る俺の側に膝をつき控えるフーガに、頼んでいた案件の進捗状況を聞く。
「はっ、主人を亡くした者、主人に置き去りにされた者、共にドラーク領内に無事移送しました」
「全員解放は?」
「ルシエル様が順次解放して下さいました」
俺は、ゴンドワナ帝国とローラシア王国内で、スタンピードの被害に遭い、主人を亡くした奴隷、主人に置き去りにされた奴隷を救助する様にフーガ達に頼んでいた。その中でも、不当に奴隷とされた獣人族を中心に、希望を聞いてドラーク領へと移住を勧めた。
村や街が全滅に近い被害を受けた場所では、囮として残された奴隷や、主人は死んだが、幸運にも生き残った奴隷がいた。
内訳は、獣人族が八割、エルフやドワーフが残りの二割といった割合だった。中には人族でも違法に攫われて奴隷となった人達が居たようだ。
彼等は怪我の手当てを受けた後、ルシエルにより奴隷から順番に解放されていった。
「集落への帰還希望者はどのくらい居た?」
「およそ全体の二割程かと……」
「……意外と少ないな」
「すでに集落が存在しない者も多いと思われます」
獣人族に対する奴隷狩りは、時として集落ごと滅ぼす事もあるみたいだ。それに、種族間差別をしないドラーク領ならと、移住希望者が多いみたいだ。
ウチの領地は、幾ら人が居ても足りない状態だからありがたいんだけどな。
「さて、俺は一旦領都の屋敷に戻るわ」
「後のことはお任せ下さい」
「私も引き続き違法奴隷を保護します」
「ランカスとフーガも頼むよ」
俺はイリアを連れて、ルシエルが奴隷契約を解呪している場所まで戻る。
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