異世界立志伝

小狐丸

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盗賊・山賊荒れる国

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 サーメイヤ王国の王都から始まる荒廃は、徐々に周辺の町や村へと広がっていった。
 バスターク辺境伯やドラーク伯爵等中立派以外の貴族家は、王家の現状を敏感に感じ取り、それぞれが好き勝手に暴走しはじめる。重税を課して私財を貯め込もうとする者。軍備を増強して騒乱に備える者。
 重税を課せられた町や村では、税金が払えない領民が続出する。結果、その中から盗賊や山賊に身をやつす者も出始める。これにはゴンドワナ帝国やローラシア王国からの流民流入の影響もある。流れ込んだ流民の所為で、王都や貴族家が治める領都のスラムは拡大し、都市の治安悪化と盗賊や山賊に身をやつす者は増え続けていった。

 中央の貴族も、領地持ちの貴族も、荒れ始めたサーメイヤ王国を憂いて立て直そうと奔走する、中立派の言葉には耳を傾けなかった。





 サーメイヤ王国の王都ほど近くに、大胆にもアジトを持つ盗賊団があった。

 そのアジトを眺める人影が三つ。

「拐われた人は居ないみたいですね」

「あゝ、おいらの感知には引っかからないぜ」

「では、全員始末して大丈夫だな」

 盗賊のアジトを強襲すべく見ていたのは、幻獣種麒麟族のオウカ、ホビットのサンク、黒豹人族で諜報部隊隊長のフーガ。最近の盗賊や山賊が急増しているのを受けて、極秘裏に討伐に乗り出した。
 何故、極秘裏かと言うと、バスターク辺境伯領やドラーク伯爵領には盗賊や山賊は寄り付かず、他の貴族家の領地や王領で活動していたからだ。さすがに他領や王領の盗賊や山賊を、勝手に討伐する事は出来ない。

 そしてこの三人で動いている理由は、サンクは優れた斥候職だということ。オウカは経験を積ませる為に。フーガはオウカの護衛兼サーメイヤ王国内の現状把握の為の情報収集を兼ねてだった。
 それに盗賊や山賊程度なら、何百人居ようが三人で問題ない。

「じゃあオウカ、今回のアジトは洞窟だから、短槍で行こうか」

「了解しました」

 サンクから今日の課題がオウカへ与えられる。

「では某は見張りを片付けよう。

 フンッ!」

 そう言ってフーガの手からスローイングナイフが一息で三本投擲され、見張りの盗賊三人がその場に悲鳴を上げる事なく倒れる。

 オウカはフーガがスローイングナイフを投擲した瞬間、短槍を握り走り出していた。その後をサンクがフォローする為に続く。

「フッ!」

 ザシュ 「ギャッ」

 アジトに飛び込んだオウカは、盗賊の首に短槍を突き刺した。





「お頭、さすがサーメイヤ王国だけあって、商隊は美味しい儲けになったけどよ、俺は女が欲しいぜ」

「まあそうだな。近くの村を襲うか……」

 三大国の内、一人勝ち状態のサーメイヤ王国だけあって、商隊から得られた儲けは大きかった。

「ギャッ」

 盗賊の頭領と手下が酒盛りをしていた時、小さな悲鳴が聞こえた。

「チクショウ!襲撃だ!
 お前達!迎え撃つぞ!」

 盗賊達の目に映ったのは、たった三人の襲撃者だった。

「獣人族にホビットだと!
 たった三人だ!囲んで殺せ!」




 オウカは短槍で盗賊の首を突き刺し、一人一撃で葬って行く。

 サンクとフーガがオウカのフォローをして、短剣で盗賊達の首を狩っていく。

 狭い洞窟の中で、三人が粛々と首を狩っていく。

「クソッ! 何なんだ!」

 100人は居た手下達が、見る見るうちに葬られて行く。あまりの理不尽さに呆然とする盗賊の頭領。

 その時、盗賊の頭領は、三人の内、獣人族の女の鎧に龍のエンブレムを見付けた。それは帝国出身の男には間違いようのないエンブレム。男にとって、恐怖の象徴。

「こ、こいつら、ド、ドラーク伯爵家の者か!」

 ゴンドワナ帝国出身者達にとって、決して手を出してはいけない。敵対してはならない相手。

 恐慌におちいった盗賊達の末路はその時点で決まった。
 逃げようとしてもサンクとフーガが振るう刃が盗賊達の喉を斬り裂いた。
 100人以上居た手下がドンドン斃れていき、アジトの中は血の匂いが充満していく。

「ヒャァ~~~~!

 グゥェ!」

 恐怖に耐えきれず、逃げ出そうとした盗賊の頭領の喉へ短槍が突き刺さった。



「うん、まぁ合格点かな」

「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございます」

 サンクに合格点を貰い、微笑むオウカ。
 むせるような血の匂いが充満する場所で、見せる笑顔ではないとサンクは思ったが、きっと帰ってカイトに褒めて貰えるのが、嬉しいんだろうと納得する。

「では、戦利品を回収して、死体を焼いて一旦報告に戻ろう」

「オーケー!」

「はい!」

 王都近郊を荒らしていた大規模な盗賊は、冒険者ギルドが知らぬまま討伐される事となる。




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