158 / 163
悩むカイト
しおりを挟む
カイトは、清浄な澄んだ魔力に満ちた湖を眺め、ボォッとしていた。
ここは深淵の森奥深く、高い山に囲まれた聖域。
相変わらず、この場所には高ランクの魔物は居ない事を確認する。
ここは、カイトがこの世界へと現れた地。
カイトにとって、始まりの地だった。
どうして、カイトが湖を眺めながら黄昏ているのかと言うと、ただの気分転換なのだが……。
ここ最近のサーメイヤ王国の現状に対して、カイト自身の力不足を自覚し、初心に戻ってみたくなり、この場所へと訪れた。
何年振りだろう。この場所で師匠から戦う術を叩き込まれた事が、凄く昔のように感じる。
あの頃は、難しい事は何も考えなくて済んだ。ただひたすら師匠の技を盗み、己の力をつける事に夢中だった。
厳しくも楽しい日々だったと思う。
今の俺はどうだろうか?
サーメイヤ王国がおかしな方向に進み掛けているのに、俺ではどうする事も出来ない。
王都の法衣貴族達の政争に、俺はおろか義父のバスターク辺境伯でも、今の王とその周辺の腐敗を止める事が出来ないのだから…………。
静寂な空気が揺らぎ、周辺に濃密な魔力が溢れ出した。だけど、俺は危険を感じなかった。
「お久しぶりです。精霊女王様」
そう、湖から現れたのは、神々しい魔力に包まれた人の想像を超えた美しさの女性。加護を通して、何時も俺を見守ってくれている存在。
『随分悩んでいるようですね』
音も立てずに、湖の上を滑る様に近付いて来た精霊女王が俺に微笑みかけた。精霊女王様には何もかもお見通しだ。
「はい、盗賊や他国からの侵略なら武力で蹴散らせばお終いなんですけど…………」
『クスッ、カイトには貴族の政争は似合わないものね。
でもね、もうそろそろ決断しなきゃいけないかもしれないわよ』
精霊女王様から決断と言われて、俺は思わず顔をしかめる。精霊女王様が言う決断とは、今のサーメイヤ王国を見限ると言うことだ。俺が積極的に動いて、自分が思う国を造りあげろと言っているのだ。
「はぁ、でも、俺にはどうして良いのか分からないですよ」
『王弟とすげ替えて王の周辺を刷新するも良し、カイトが信頼するバスターク辺境伯を王に推すも良し、カイト自身が王となるも良いのではないですか?』
「…………はぁ、でも王弟に首をすげ替えるだけじゃダメですよね」
『そうね、周りがサポートして育ててあげないと、今と変わらない結果になるかもしれないわね。
カイトは王に成りたくはないの?』
「面倒だからやですよ。
俺は王になるタイプじゃないと思いますよ」
『そんな事はないわよ。立場が人を造る事もあるのよ。
あなたは、賢王バージェスも現王の拙さも、見てきているのだもの、案外、良い王に成れるかもしれないわよ』
精霊女王様に言われ、想像してみるけど、やっぱりないなと首を横に振る。
「王となれば、綺麗事だけじゃダメですから、俺には無理かもしれないですね。今は自分の領地という狭い範囲だから、好き勝手自分の思う様に出来ますけど、俺には清濁併せ呑む度量はありませんよ」
『フフフッ、カイトらしいわね。
……そうね、カイトは今のままが良いわね』
「ふぅ、そろそろ帰ります。あまり遅くなると、エルやイリアが心配するので。
今日はありがとうございました。少し気分が楽になりました」
立ち上がりながら精霊女王様に挨拶する。
『また顔を見せに来るのですよ』
「はい、また伺います。師匠のお墓まいりもしたいので」
『また会いましょう』
「ありがとうございます。また来ます」
俺は精霊女王様にそう言うと、自分の領地へ転移して帰った。
結局、答えは出なかったけど、話を聞いて貰えただけで、肩の荷が軽くなった気がした。
もう少し我儘に、傲慢に我を通してみよう。
ここは深淵の森奥深く、高い山に囲まれた聖域。
相変わらず、この場所には高ランクの魔物は居ない事を確認する。
ここは、カイトがこの世界へと現れた地。
カイトにとって、始まりの地だった。
どうして、カイトが湖を眺めながら黄昏ているのかと言うと、ただの気分転換なのだが……。
ここ最近のサーメイヤ王国の現状に対して、カイト自身の力不足を自覚し、初心に戻ってみたくなり、この場所へと訪れた。
何年振りだろう。この場所で師匠から戦う術を叩き込まれた事が、凄く昔のように感じる。
あの頃は、難しい事は何も考えなくて済んだ。ただひたすら師匠の技を盗み、己の力をつける事に夢中だった。
厳しくも楽しい日々だったと思う。
今の俺はどうだろうか?
サーメイヤ王国がおかしな方向に進み掛けているのに、俺ではどうする事も出来ない。
王都の法衣貴族達の政争に、俺はおろか義父のバスターク辺境伯でも、今の王とその周辺の腐敗を止める事が出来ないのだから…………。
静寂な空気が揺らぎ、周辺に濃密な魔力が溢れ出した。だけど、俺は危険を感じなかった。
「お久しぶりです。精霊女王様」
そう、湖から現れたのは、神々しい魔力に包まれた人の想像を超えた美しさの女性。加護を通して、何時も俺を見守ってくれている存在。
『随分悩んでいるようですね』
音も立てずに、湖の上を滑る様に近付いて来た精霊女王が俺に微笑みかけた。精霊女王様には何もかもお見通しだ。
「はい、盗賊や他国からの侵略なら武力で蹴散らせばお終いなんですけど…………」
『クスッ、カイトには貴族の政争は似合わないものね。
でもね、もうそろそろ決断しなきゃいけないかもしれないわよ』
精霊女王様から決断と言われて、俺は思わず顔をしかめる。精霊女王様が言う決断とは、今のサーメイヤ王国を見限ると言うことだ。俺が積極的に動いて、自分が思う国を造りあげろと言っているのだ。
「はぁ、でも、俺にはどうして良いのか分からないですよ」
『王弟とすげ替えて王の周辺を刷新するも良し、カイトが信頼するバスターク辺境伯を王に推すも良し、カイト自身が王となるも良いのではないですか?』
「…………はぁ、でも王弟に首をすげ替えるだけじゃダメですよね」
『そうね、周りがサポートして育ててあげないと、今と変わらない結果になるかもしれないわね。
カイトは王に成りたくはないの?』
「面倒だからやですよ。
俺は王になるタイプじゃないと思いますよ」
『そんな事はないわよ。立場が人を造る事もあるのよ。
あなたは、賢王バージェスも現王の拙さも、見てきているのだもの、案外、良い王に成れるかもしれないわよ』
精霊女王様に言われ、想像してみるけど、やっぱりないなと首を横に振る。
「王となれば、綺麗事だけじゃダメですから、俺には無理かもしれないですね。今は自分の領地という狭い範囲だから、好き勝手自分の思う様に出来ますけど、俺には清濁併せ呑む度量はありませんよ」
『フフフッ、カイトらしいわね。
……そうね、カイトは今のままが良いわね』
「ふぅ、そろそろ帰ります。あまり遅くなると、エルやイリアが心配するので。
今日はありがとうございました。少し気分が楽になりました」
立ち上がりながら精霊女王様に挨拶する。
『また顔を見せに来るのですよ』
「はい、また伺います。師匠のお墓まいりもしたいので」
『また会いましょう』
「ありがとうございます。また来ます」
俺は精霊女王様にそう言うと、自分の領地へ転移して帰った。
結局、答えは出なかったけど、話を聞いて貰えただけで、肩の荷が軽くなった気がした。
もう少し我儘に、傲慢に我を通してみよう。
51
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる