異世界立志伝

小狐丸

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悩むカイト

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 カイトは、清浄な澄んだ魔力に満ちた湖を眺め、ボォッとしていた。

 ここは深淵の森奥深く、高い山に囲まれた聖域。

 相変わらず、この場所には高ランクの魔物は居ない事を確認する。

 ここは、カイトがこの世界へと現れた地。
 カイトにとって、始まりの地だった。

 どうして、カイトが湖を眺めながら黄昏ているのかと言うと、ただの気分転換なのだが……。

 ここ最近のサーメイヤ王国の現状に対して、カイト自身の力不足を自覚し、初心に戻ってみたくなり、この場所へと訪れた。




 何年振りだろう。この場所で師匠から戦う術を叩き込まれた事が、凄く昔のように感じる。
 あの頃は、難しい事は何も考えなくて済んだ。ただひたすら師匠の技を盗み、己の力をつける事に夢中だった。

 厳しくも楽しい日々だったと思う。

 今の俺はどうだろうか?

 サーメイヤ王国がおかしな方向に進み掛けているのに、俺ではどうする事も出来ない。
 王都の法衣貴族達の政争に、俺はおろか義父のバスターク辺境伯でも、今の王とその周辺の腐敗を止める事が出来ないのだから…………。



 静寂な空気が揺らぎ、周辺に濃密な魔力が溢れ出した。だけど、俺は危険を感じなかった。

「お久しぶりです。精霊女王様」

 そう、湖から現れたのは、神々しい魔力に包まれた人の想像を超えた美しさの女性。加護を通して、何時も俺を見守ってくれている存在。

『随分悩んでいるようですね』

 音も立てずに、湖の上を滑る様に近付いて来た精霊女王が俺に微笑みかけた。精霊女王様には何もかもお見通しだ。

「はい、盗賊や他国からの侵略なら武力で蹴散らせばお終いなんですけど…………」

『クスッ、カイトには貴族の政争は似合わないものね。

 でもね、もうそろそろ決断しなきゃいけないかもしれないわよ』

 精霊女王様から決断と言われて、俺は思わず顔をしかめる。精霊女王様が言う決断とは、今のサーメイヤ王国を見限ると言うことだ。俺が積極的に動いて、自分が思う国を造りあげろと言っているのだ。

「はぁ、でも、俺にはどうして良いのか分からないですよ」

『王弟とすげ替えて王の周辺を刷新するも良し、カイトが信頼するバスターク辺境伯を王に推すも良し、カイト自身が王となるも良いのではないですか?』

「…………はぁ、でも王弟に首をすげ替えるだけじゃダメですよね」

『そうね、周りがサポートして育ててあげないと、今と変わらない結果になるかもしれないわね。

 カイトは王に成りたくはないの?』

「面倒だからやですよ。
 俺は王になるタイプじゃないと思いますよ」

『そんな事はないわよ。立場が人を造る事もあるのよ。
 あなたは、賢王バージェスも現王の拙さも、見てきているのだもの、案外、良い王に成れるかもしれないわよ』

 精霊女王様に言われ、想像してみるけど、やっぱりないなと首を横に振る。

「王となれば、綺麗事だけじゃダメですから、俺には無理かもしれないですね。今は自分の領地という狭い範囲だから、好き勝手自分の思う様に出来ますけど、俺には清濁併せ呑む度量はありませんよ」

『フフフッ、カイトらしいわね。
 ……そうね、カイトは今のままが良いわね』

「ふぅ、そろそろ帰ります。あまり遅くなると、エルやイリアが心配するので。

 今日はありがとうございました。少し気分が楽になりました」

 立ち上がりながら精霊女王様に挨拶する。

『また顔を見せに来るのですよ』

「はい、また伺います。師匠のお墓まいりもしたいので」

『また会いましょう』

「ありがとうございます。また来ます」

 俺は精霊女王様にそう言うと、自分の領地へ転移して帰った。

 結局、答えは出なかったけど、話を聞いて貰えただけで、肩の荷が軽くなった気がした。

 もう少し我儘に、傲慢に我を通してみよう。





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