黒兎は月夜に跳ねる

小狐丸

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十七話 研究バカと頑固な職人来たる

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 日課のオーラと魔力操作の訓練を済ませ、魔法の勉強と鍛錬、師匠やパメラさんからのこの世界についての勉強、それに師匠やガンツさん、パメラさんにマリアさんとの模擬戦。

 そしてリルと遊びながら数日を過ごした。

 忘れそうになるが、例の不思議な卵は、相変わらず俺の魔力を糧に成長してるんだと思う。多分だけどな。

 フランソワーズさんやユミルさんは、教会の中でお手伝いはしているみたいだが、まだ街に出るのは怖いようだ。
 そんな中、ルルースさんはよくリルの面倒を見てくれたり、俺とも挨拶以外にも雑談するまでに至っている。

 獣人族は身体的にも精神的にもタフなのかな? それともハンターだった事もあるのかな。

「ガンツさん、仕事は大丈夫なのか?」
「儂は金には困ってないからな」

 いや、そういう事じゃないと思うんだが……

 今日も模擬戦が終わった後、師匠とガンツさん、俺とリルでお茶を飲んでゆっくりとしていた。ガンツさんとは、ほぼ毎日顔を合わせている。

 俺との模擬戦の為に、毎日教会に来るのはまだいい。

 その後、教会でお茶を飲んだり、リルと遊んだり、ご飯を俺たちと一緒に食べたり、リルを可愛がったり……仕事しろよ、仕事。

 もうお分かりだと思うが、ガンツさんもリルの可愛さにやられて自分の孫のように可愛がっている。
 愛情を与えられずにいたリルは、この教会で師匠を始め、パメラさんやマリアさんは勿論、フランソワーズさん達からも可愛がられている。特にルルースさんは、積極的にリルの世話をしてくれている。



 そんな日々を送っていたある日の午後、教会の居住区に知らない気配を感じた。

 俺にこの距離まで気付かれずに侵入する者への警戒心が高まるが、気が付いている筈の師匠は警戒する様子はない。

「師匠、知り合いか?」
「ほぅ、流石シュートだな。バルカの気配を感じたか」
「バルカさんって言うと、エルフの錬金術師だったっけ」
「来たようじゃな」

 ガンツさんが視線を向けるとドアを開けて一人のエルフが入って来た。

「ガンツ、此処に居たのか。工房が閉まっていたので、此処だとは思ったが、呼び出しておいてそれはないんじゃないか?」
「おお! バルカ! 久しぶりじゃのう!」
「早かったじゃないか」

 ガンツさんが入って来たエルフの男性を歩み寄り、バンバンと背中を叩いて再会を喜んでいる。師匠も片手を上げて親しげに挨拶をしている。彼が錬金術師のバルカさんらしい。

 背中まで伸びる銀色の髪を一つに纏めた長身のエルフ。エルフの年齢は俺には分からないが、ダンディなおじさんって感じだ。おそらくかなりの年齢なんだろうな。

「可愛いレディと面白そうな少年がいるようだね。紹介してくれないか?」
「ああ、この鋼色に近い黒髪の子がシュート。私の弟子にした。そのシュートの膝の上の子がリルだ」
「ほぅ……イーリスの弟子ね……」

 師匠が俺の事を弟子と紹介すると、バルカさんが興味深げに見てくる。その視線が値踏みするようなものを含むが、それは俺でも理解できる。

 そりゃ気になるのも仕方ないよな。何処の馬の骨とも分からないのが、いきなり弟子って言われても、逆の立場なら俺でも警戒する。

 でもバルカさんは直ぐににっこりと笑い、俺に握手をして自己紹介する。

「私はバルカ。イーリスやガンツとは古い仲間で、エルフの錬金術師さ。よろしく頼むよシュート君、リル嬢」
「よろしくお願いします。バルカさん」
「……よろちくおねがいします」

 俺の真似をして、リルも小さな声で一生懸命挨拶する。

「ふむ、強いなシュート君。イーリス、何処でこんな逸材を拾ったんだい?」

 バルカさんは、俺と握手するとそこから何かを感じたのか、俺の実力を把握したのか、少し驚いた顔で師匠に聞いた。

「クックッ、私が拾われたのさ」
「ん?」

 師匠は俺との出会いをバルカさんに面白おかしく話して聞かせる。

「はぁ~、相変わらず君は抜けているね。放浪のあげく行き倒れるなんて。もっと教会の司祭という自覚を持った方がいいと思うがね」
「たまたまだよ。きっと神が私をシュートに巡り逢うようにしてくださったのさ」
「はぁ~、いい歳して何をしてるんだか……」

 バルカさんがやれやれという仕草をするのだが、それが美形のエルフだからか、凄く様になっている。

 バルカさんは一見、ダンディな四十代半ばくらいに見えるが、エルフなのでとんでもなく長い時間を生きているんだろうな。

「で、シュート君には例の話はしたのかい?」
「ああ、偶然にもシュートも故郷で似たような仕事をしていたらしいからね。人間的にも問題はないし、有名になり過ぎて動き難くなった私の代りに神が遣わしてくれたのさ」
「「クッハッハッハッ」」

 師匠のその言いように、ガンツさんやバルカさんも笑いだす。

「それで、僕を呼んだという事は、ザーレも呼んだのだろ? 装備の方向性は決まったのか?」
「ああ、シュートは多才じゃからな。シュチュエーションにより使う武器を替えたい」
「ほぉ。僕が思った以上に優秀という事か」
「それで極め付けが魔銃じゃ」
「おい、ガンツ!」

 ガンツさんが魔銃と言うとバルカさんの顔色が変わる。

 それもそうだろう。今現在、実用化された魔銃は師匠のフラガラッハだけだからな。

「まぁ落ち着けバルカ。先ず、これを見てみろ」

 ドンッ!

 ガンツさんが傍に置いてあった鞄から、預けてあったエンペラーグラトニースライムの核をテーブルの上に取り出した。

 ガンツさんも普通にマジックバッグ持ってるんだな。流石、ランク6だ。

「なっ!? こっ、これは、まさか!」
「流石、バルカ。伊達に長生きしておらんな」

 バルカさんの唖然とした顔を見て、ガンツさんはイタズラが成功して喜んでいる子供みたいだな。

「………………」
「こりゃ、暫くダメだな」
「どうせ、ザーレが来なくちゃ始まらないからいいんじゃないの」

 バルカさんにはガンツさんや師匠の声も聞こえていないみたいだ。

 夢中になって、エンペラーグラトニースライムの核(コア)を持ち、重さを確かめたり、様々な角度から眺めてみたり、日の光にかざしてみたり、コンコンと叩いてみたりしている。


 その日はバルカさんが核(コア)に夢中で話にならない為、俺はリルを連れて部屋に戻った。

 リルにも個室が与えられているんだが、流石に小さなリルは一人で寝るのは無理だった。

 パメラさんやマリアさんじゃなく、何故か俺のベッドに枕を持って入って来たリルを拒める訳もなく、今ではリルは俺と一緒の部屋で暮らしている。

 リルの部屋は、遊び部屋の扱いで、たまに一人で遊ぶ事もあるみたいだ。




 バルカさんがガンツさんと素材の在庫をチェックしあい、必要な素材のリストが出来た日の朝、教会に一人の男が訪れた。

 身長は百七十センチを少し切るくらいだろうか、ガンツさん程じゃないが太い腕と脚に、これもガンツさんよりも控えめだけど立派な髭をたくわえた、歳の頃は人間だったとしたら三十半ば。教会の居住区に勝手に入って来ている時点で、誰なのかは聞かなくても分かった。

「ザーレ、やっと来おったか。遅いぞ!」
「ガンツ兄さん、俺だって急いで来たんだぞ」

 今日も朝一で工房から来ていたガンツさんが、入って来た男、ザーレさんに文句を言う。
 因みに、ザーレさんがガンツさんを兄さん呼びするのは、別に兄弟という訳ではなく、職人として兄のように慕っているからだそうだ。

「ん? ザーレか、久しぶりだな。まぁ、そんな事はどうでもいい。早く必要な素材のリストを出せ」
「……はぁ、バルカは相変わらずだな」

 ザーレさんはマイペースなバルカさんに溜息を吐く。
 そして俺が一応挨拶するべきだろうと立ち上がると、にっこりと笑顔で握手して自己紹介してくれた。

「お前がイーリスが取った弟子のシュートか。俺はザーレ、職人だ。皮を使ったものなら、鎧や服から靴に鞄や小物、それに用途に合わせた鞍と、革製品なら何でも作る。それと木工細工も得意だ。シュートの装備はガンツ兄さんとバルカ、それと俺に任せろ」
「シュートです。なんの因果か、師匠の弟子になりました。こちらこそよろしく」
「もう俺たちは仲間だ。そんな丁寧に話さなくても大丈夫だ」
「分かった。これからもよろしく頼むよ」
「ああ」

 俺とザーレさんは、ガッシリと握手する。

 ザーレさんは、ガンツさんやバルカさんよりもまともみたいだ。

 そしてザーレさんは、俺の後ろに隠れたリルを見て、しゃがんで目線を合わせると、にっこりと微笑んで優しく声を掛けた。

「お嬢ちゃん、俺の名前はザーレだ。これからは俺もお嬢ちゃんと家族だ。仲良くしてくれたら嬉しい」
「……リルなの」
「ほぉ、リルか。良い名前だ。ほら、飴玉をあげよう」
「……」

 ザーレさんが何処からか取り出した飴を、リルに差し出したけど、受け取ってもいいのか分からないのか、戸惑って俺を見上げるリル。

「貰っていいんだよ」
「……ありがとう」

 俺が大丈夫と言うと、差し出された飴を受け取り少し嬉しそうに微笑む。

 リルは俺のズボンをギュッと握ったままだけど、ザーレさんの家族という言葉に少し警戒を解いたようだ。

 これでブラッディロータス(血染めの蓮)と言う少々血生臭い名前の結社のメンバーが一人を残して此処に集結した。




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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。

お手に取って頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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