黒兎は月夜に跳ねる

小狐丸

文字の大きさ
26 / 34

二十四話 古城はアンデッドの臭い

しおりを挟む
 俺の魔銃作成に使うリストに有った素材を得る為に、ザーレさんと相談してルートを決めた。

 まだ小さなリルに長旅はキツイだろうし、出来るだけ効率よく周りたいからな。




 そして俺達を乗せた馬車は街道を走り、大昔戦争で滅び廃墟となった言われている都市へと向かっていた。

 馭者席に座る俺の横に、チョコンとリルがルビーを抱いて座っている。

 馬車から眺める景色を観るのが楽しいのか、鼻歌まで聴こえてくる。

 馬車の中からザーレさんが話し掛けて来た。

「シュート、デュハランの情報は頭に入ってるか?」
「ああ、首なし鎧のアンデッドで、物理攻撃がメインだって事は分かってる。弱点は光(神聖)魔法だろ?」
「ああ、シュートなら簡単に討伐できる。何せ相性がいいからな」

 ザーレさんが言ったように、物理攻撃メインのアンデッドは、俺にとって相性が良すぎる。

 アンデッドに光魔法を撃ては、それ一発で終わるかもしれないからな。

 デュハランは、元の世界ではアンデッドではなく妖精の類いだったと思うが、この世界のデュハランは死霊に分類されるらしい。



 街道から外れ、嘗て街道だった荒れた道を行くとそれは在った。

 そこはどんよりとした魔力が漂う陰鬱な廃墟。

「うわぁ~、ワラワラと居るな」
「にぃにぃ」
「大丈夫、怖くないよ」

 馬車で廃墟となった街に入り、大通りを進むと、早速魔物の気配が近付いて来る。

 しかもこの廃墟の街に居る魔物は、全てがアンデッドだ。

「ピィー!」

 その時、リルが抱いていたルビーが口から光線を放ち、遠くからのそのそと姿を見せたゾンビを消滅させた。

「えっ!? ルビー、お前、そんな事も出来たのか」
「るびー、すごい!」
「ピィ!」

 リルが怖いのも忘れてルビーを褒めると、ルビーも誇らしげに胸を張る。

「さすがフェニックスってところか。今のは神聖属性の光線だろうな」
「じゃあザーレさん、マリアさん、ルルースさん、リルを頼みます」

 俺は馬車の守りをマリアさんとルルースさんに任せて、一番強い気配の方向へと駆け出す。

 胸のペンダントを握ると黒い兎面が俺の顔を隠す。

 廃墟の中心に、禍々しい魔力の気配を捕らえている。多分、あれがデュハランだろう。

「にぃにぃ! がんばってねぇ!」

 リルに手を振り周辺のアンデッドに向け、神聖属性の範囲攻撃を発動する。

「ホーリーレイン!」

 広範囲に光の雨が降り注ぎ、アンデッドが次々に煙を上げて形を保てず消えていく。

 ゾンビやスケルトン、グールなどの実体のある魔物だけじゃなく、ゴーストやレイスなどの実体を持たない魔物も魔石を残して消滅する。ゴーストやレイスの何処に魔石が有ったのか不思議だよな。


 俺はポッカリと空いた道を、デュハランらしき気配へ向け駆ける。

 大通りの真ん中に、配下のアンデッドを引き連れ、黒い馬鎧を装備したスケルトンホースに跨った、漆黒のフルプレートに身を包んだ騎士が居た。

 ただ、その騎士の兜は左腕に抱えられ、顔が有るべき首の上には、鎧から禍々しい黒い煙のような魔力が立ち昇っている。

 デュハランが右手に持つロングソードで俺を指すと、一斉に手下のアンデッドが動き出す。

「ホーリーレイン!」

 勿論、そんなのに付き合ってやる理由はない。

 俺も素材集めで忙しいんだ。

 ちゃっちゃと退治させてもらう。

 範囲を拡げて放った「ホーリーレイン」で、取り巻きの大部分が昇天する。

「ホーリーアロー!」

 それでも辛うじて残ったアンデッドに、光の矢をばら撒く。

「ホーリーレイン!」

 ガシャンッ!

 ダメ押しの「ホーリーレイン」でデュハランの乗る馬の方が先に昇天した。

 そのお陰で、デュハランが地面に叩きつけられる。

 それでも立ち上がり、ロングソードで間近まで接近した俺に斬りかかるデュハラン。

 流石にランク6の魔物だけある。

 弱点の攻撃を連続で受けても動けるか。

「残念、チャンバラごっこなら地獄で遊びな」

 ドンッ!

 ロングソードをかい潜り、胸へと神聖属性の魔力を込めた掌底を撃ち込む。

『グオォォォォーー!!』

 カランッ! ガシャン!

 鎧の胸の中心から波紋のように広がった神聖属性の魔力が、デュハランの全身へと浸透すると、禍々しい魔力が霧散し、その場でバラバラと鎧が分解され、兜が地面を転がった。

「相性が悪かったな。素材は使わせてもらうぞ」

 生前は騎士だったんだろうか? とは言っても、俺のスタイルは正々堂々って感じじゃないからな。悪く思うなよ。

 手早く落ちた剣や鎧に兜、魔石を回収すると、馬車まで急いで戻る。まだまだアンデッドは一杯いるからな。

 道に落ちている魔石は後で拾えばいいだろう。

 あのデュハランが、この廃墟のボス的存在だったのか、急激に禍々しい魔力が霧散して薄くなって来ている。

 今も俺が走りながら「ホーリーレイン」をあちこちに撃ちまくっている所為もあるのか? アンデッドが消滅して魔物の気配が薄れていく。



 俺が馬車まで戻って来た時には、戦闘らしき戦いは終わっていた。

 マリアさんは、シスターだけあって、神聖属性の攻撃魔法でアンデッドを浄化し、ルルースさんは火魔法でアンデッドを焼いていた。アンデッドには神聖属性と呼ばれる光属性の魔法が効くが、火属性の魔法で焼くのも光属性ほどではないが効果がある。

「もう終わりそうだな」
「早かったな」
「ああ、神聖属性の攻撃に弱すぎるからな」
「にぃにぃ!」

 馬車に近付くと、ザーレさんから声がかかる。

 その馬車から小さな影が飛びついて来る。

 勿論、ルビーを抱いたリルだ。

 嬉しそうに抱きついているところを見ると、怖くはなかったみたいだな。

「あのねぇ、あのねぇ、ほねがうごいてたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。るびーがねぇ、まものをいっぱいやっつけたの」
「凄いなルビー」
「ピィ!」

 リルが身振り手振りで説明する姿が可愛すぎる。とても此処がアンデッドまみれだった廃墟だとは思えないな。

「アンデッドの巣窟の雰囲気じゃないな」
「ははっ」

 俺がリルを抱いて話し相手をしていると、ザーレさんが呆れた顔でそう言う。

「で、目的の物は手に入ったのか?」
「ああ、あとは途中の散らばる魔石を回収すればオーケーだ」
「りる、おてつだいする!」
「ピィ!」

 抱っこしているリルが元気よく手を上げて、魔石を拾う手伝いをしてくれると言う。

 その真似をしてルビーも片方の翼を上げる。

「マリアさんもルルースさんもお疲れさま」
「いえ、マリアさんは別にして、私はあまりお役に立てませんでしたから」
「そんな事ないよ。ルルースさんも火魔法で活躍したよ」

 馬車を護ってくれてたマリアさんとルルースさんにも労いの言葉を言うと、ルルースさんの元気がない。

 自分ではあまり役に立っていないと思っているみたいだけど、流石にアンデッドには神聖魔法の方が相性がいいから仕方ない。

 この場合、リルと馬車を護りきったんだから十分だ。ルルースさんはリルの護衛で来て貰ったんだからな。

 俺がそう言うと、ザーレさんやマリアさんの意見も同じだった。
 リルが怖がらずにいれたのも、奴隷の時からルルースさんがリルを気遣ってくれてたからだと思う。

「どうしたの?」
「う、ううん。何でもないのよ」

 リルが心配したのかルルースさんに聞くと、やっとルルースさんの顔に笑顔が戻った。



 その後、全員総出で散らばる魔石を拾い集めて廃墟をあとにした。

 次に向かうのは土竜の胆石だ。

 モグラじゃない、土の中を棲家にするドラゴンだ。

 ドラゴンにも色々と種類がいる中の下位の竜、劣化竜(レッサードラゴン)にあたる。

 次は魔法オンリーじゃないと無理かな。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。

お手に取って頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...