幻獣使いの英雄譚

小狐丸

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激動編

ユキトは何処まで救えるか1

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 ここは先月建国を宣言した。商業都市連合改め、トルースタイン共和国に五つある基幹都市のひとつヘリオスの門前に、一人の少女がたどり着いた。

 その少女は、ボロボロになった服をまとい、靴も壊れ傷だらけだった。

「…………た、助けてください」

 憔悴しきった少女は、やっとの事でそれだけ言うと気を失った。
 門を護る兵士達が慌てて駆け寄る。

「おい!しっかりしろ! おーーい!衛生兵ーー!」




 意識がゆっくり浮上していき、少女が目を開けると、白く清潔な部屋の中で柔らかいベッドに寝かされているのが分かった。

「大丈夫?」

 声を掛けられ、その声がした方を見ると一人の人族の青年とその後ろに控える様に、エルフの美少女が立っていた。

「……あ、あのっ、わたし……」

 少女はなんとかベッドから体を起こして何かを訴えようとする。

「取り敢えず先にスープを飲もうか。その後で話は聞くから」

 青年がそう言うと、エルフの美少女がスープを少女に手渡した。
 少女は余程お腹が空いていたのか、一口食べた後、夢中になってスプーンを口に運んでいた。





 少女がヘリオスの門前で倒れた後、救護所へ運ばれたのだが、少女は運にも恵まれたのだろう。
 偶々、その日はユキトが土木工事でヘリオスに来ていた。そこで少女が救護所に運ばれた事を知り現場に向かうと、ボロボロの服を着て傷だらけで横たわる、10~12歳位の少女がいた。ユキトは、生活魔法のクリーンで汚れを落とし、回復魔法で傷を治すと念の為にハイヒールをかけておく。

「ユキト様、彼女は助けを求めていたそうです」

 サティスが、少女を運んだ兵士から報告を受けた事をユキトに伝えた。

「そう……、こんなに痩せ細って、今のトルースタインにはここまで食べるに困る村や町は無かったはずだよね」

「彼女が北門で倒れた事を考えますと、おそらくケディミナス教国からではないでしょうか」

「こんな子供が、助けを求める為に山を越えたのか……」

 ここの所、ヘリオス周辺ではヴォルフ率いる部隊が、訓練を兼ねて魔物の討伐を頻繁に行っているので、大氾濫後の魔素濃度が低い事も合わせ、魔物の数は少ないが、全く居ない訳ではないので、少女は本当に運が良かったようだ。

 その時少女が目を開けた。

「大丈夫?」

「……あ、あのっ、わたし……」

「取り敢えず先にスープを飲もうか。その後で話は聞くから」

 ユキトは先ず少女の体力を回復させる為に、食事を取らせることを優先する。

 少女が一息ついたのを確認すると、ユキトは少女の話を聞く事にする。

「僕はユキト。彼女はサティス。君の名は?」

「ココって言います」

「そうココちゃんだね。それでココちゃんは助けを求めてヘリオスの街まで来たんだよね。詳しい話を僕に話してくれるかい」

「お母さんを!妹を!村を助けてください!」

 ココが叫ぶ様にユキトに訴える。

 ココはやはりケディミナス教国のトルースタインとの国境付近にある村から来たらしい。
 ココの村では、ケディミナス教国転覆時の魔物からの被害でも少なくない被害があったが、その後村に来た軍隊に、働き盛りの男手を強制的に連れ去られたそうだ。暗黒教国は、人数の減った国民を集め、大規模農場で強制労働させているらしい。
 元々、人口が300人程の小さな村だったココの村は、成り立たない事態に陥っている。
 現在村に居るのは、老人と女子供か病人しか居ないとココが言う。子供のなかで最年長のココが、助けを求めて村を抜け出したそうだ。

「食べる物も底をつき、近隣の村や町も援助出来る余裕がないと言われ……。お母さんも病気で寝たきりなんです!どうか助けてください!」

 ユキトは話を聞いて考え込む。旧ケディミナス教国を国として認めるかとか、国交がないとか、内政干渉だとか、それを考えては動けなくなる。
 ココの村だけ救って終わる問題でもないだろう。だからと言って、旧ケディミナス教国の体制を変える為に、戦争を仕掛けるのも違う気がする。

「サティス、僕はフィリッポス先生に相談してくるから、ココちゃんの看病をお願い」

「分かりました」

 ユキトは、ココと目線を合わせ話し掛ける。

「直ぐに戻るから、サティスお姉さんと待っていてくれるかな。なに、心配しなくても大丈夫だよ。ココちゃんのお母さんも妹も、必ず助けてあげるから」

 ココの頭を撫でながら優しく言い聞かせる。

「……うん」

 ジークは、もう一度ココの頭を撫でるとトルースタイン共和国の首都、カンパネラへ転移した。




 コン コン

「ユキトです。今大丈夫ですか?」

「どうぞ、入ってください」

 ドアを開けユキトがその部屋に入ると、机の上に大量の書類が積まれた向こうに、フィリッポスが忙しそうにしていた。

「どうしました。ユキト君は今日は、ヘリオスじゃありませんでした?」


 そこでユキトは、ヘリオスの門前で倒れた少女を保護したこと。その少女が助けを求めていること。少女の住む村の置かれている現状をフィリッポスに説明した。

「……普通に考えれば、我々が動くのは難しいですね。ですが、ユキト君が態々私の元に来たという事は、助ける事は決定事項なんでしょう?」

 フィリッポスの言葉にユキトは頷く。

「では、条件があります。

 先ず、旧ケディミナス教国側に気付かれない事。
 あと、全ての村を救う事を諦める事。
 全てを救う事など出来ないのですから、その辺はユキト君も折り合いをつけて下さい。

 その二つを守るのなら、黙認しましょう。あくまで、黙認ですよ。ユキト君なら、誰にも気付かれる事なく、村人を救う事が出来るでしょう。ゲートを使えば良いのですから。
 
 そうそう、救助した村人はヘリオスで保護して下さい」

「分かりました。ありがとうございます」

 ユキトは、頭をさげると部屋を出て、ヘリオスへ転移して行った。

「ふぅ~、ユキト君には助けないという選択肢は、なかったのでしょうね。まあ、そこがユキト君の良いところですが……」

 フィリッポスは、旧ケディミナス教国とこのままで済まないと確信する。魔物を人為的に氾濫させたり、人間を魔人にして使役するような国とマトモに付き合える筈がない。

「邪神か闇の女神か知りませんが、碌でもない事は確かですね……」

 フィリッポスは、ひとり深い溜息をつく。
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