幻獣使いの英雄譚

小狐丸

文字の大きさ
47 / 63
激動編

ユキト、コソコソする

しおりを挟む
 ユキトはココの村人を丸ごと移住させてから、暫く同じように、このままでは死を待つばかりの村を探して、村人の同意が得られれば、住居や耕作地を用意して、移住を助けて周った。


(小さな村を幾つ救っても解決にならないよな)

 幾つかの小さな村を救う事は出来たかもしれないが、根本的な解決には至っていない。
 魔物により荒らされた畑は、復旧するには時間がかかるだろう。
 それに対しての救済措置を、この国は取っている形跡は見受けられなかった。
 人為的に魔物の氾濫を起こすような奴らが、小さな村々に対して救済するとは思えなかった。


 ユキトは、ある程度の規模の街を調査してみたが、中規模以上の街などには、一応食料の供給などの措置はされているみたいだ。

 あと中規模の村で、不自然に村人が消えている村があった。ユキトが入念に調査すると、僅かに魔力の残滓が確認出来た。

「何の魔法陣だったかわからないけど、碌でもない事だけは確信できるな」

「そうですね、余りいい気の流れを感じません。精霊もほとんど感じませんし」

 ユキトの呟きに、サティスも同意する。

「僕は一度旧聖都を調査しようと思う。サティスは移住した住民のサポートをお願い出来るかな?」

「本音を言えば、ユキト様に着いて行きたいのですが、ココちゃん達の事も心配ですし、今回は大人しく帰ります」

 サティスが少し不満気に言う。

「じゃあ、ルドラ。サティスをお願い」

 ユキトが苦笑いしながら、ルドラの漆黒の体を撫でる。
 その後、サティスを見送ったユキトは、旧聖都へ向けカイザーウルフのヴァイスの背に乗り移動する。




「ヴァイス、ここで大丈夫だ」

『お気をつけて』

 旧聖都を視界に捉える距離まで辿り着くと、ユキトはヴァイスを送還する。

 ユキトは気配を消し、さらに認識阻害のエンチャントを施したフード付きのローブを目深に被り、隠形の限りを尽くし、旧聖都へ忍び込む。

 旧聖都の中に入ったユキトは、街の中をつぶさに調べる。

(人口は少なくない。人々の表情が暗いのは仕方がないか……、しかし、魔人か……、悪趣味だな)

 ユキトが忍び込んだ旧聖都は、一見すると普通に賑やかな首都と、余り変わりがないように見えるかもしれない。ただそこに、人をもとに作り出されたであろう魔人の存在がなければ。

 しかも旧聖都に居るのは、人をベースにした魔人だけではなかった。

(……アークデーモン……)

 ユキトの探知範囲に、魔人を軽く凌駕する反応が複数感知する。
 アークデーモン、上位悪魔族の存在をユキトは確認する。

(あの住民の居なくなった村は、まさか……)

 あの不自然に住民の居なくなった村人は、アークデーモンを召喚する生贄されたのだろうと推測できた。

(全部で十体、なんの為にアークデーモンなんか召喚したんだ?当然、自衛の為じゃないだろう)

 ユキトは旧聖都の貧民街へ向かうと、そこはまるでゴーストタウンのようだった。
 それでも探知には人の反応があるので、無人ではないが、普通スラム街のような貧民街には、人で溢れている筈だった。

 ユキトは人の反応を探して歩き、弱い反応が集まっている場所へ足を向けた。

(……孤児院?)

 みすぼらしい教会跡の様な建物を見つける。
 弱々しい気配が気になったユキトは、意を決して孤児院を訪ねてみる。

「すいません」

 扉を開け、人の気配がある場所へ行くと、二十人程の子供達が、粗末なベッドに横になっていた。
 どの子供も痩せ細り、意識のない子供もいる。既に、亡くなっている子供も何人かいた。

「……どちら様ですか?」

 シスターらしき女性が部屋に入って来て、ユキトを訝しげに見て聞く。
 よく見ると、シスター自身も今にも倒れそうだ。

「子供達に食事を与えても良いですか?」

 ユキトがそう言うと、シスターは泣き崩れる。
 シスターの話では、国が倒れてから、孤児院への寄付金や国からの援助は無くなり、ろくに食べる物もなく、もう何日も耐えられない状態だったそうだ。

 ユキトは魔法やポーションを使い、子供達を回復させていき、消化に良いお粥を作り、皆んなに食べさせた。

「トルースタイン共和国に来ませんか?トルースタイン共和国というのは、以前の商業都市連合の事です。治安も良く種族差別もほとんどないので、子供達が暮らすには良い土地だと思います。孤児院の運営費も国費から出る筈です」

「……この子達を連れて越境することは無理だと思います」

 シスターはそう言って、少し持ち直しはしたが、まだまだ体力のない子供達を見る。

「大丈夫ですよ。ゲートを開けば一瞬ですから、あの子達のお墓も向こうに建ててあげましょう」

 ユキトはそう言って、間に合わずに亡くなっていた子供を見る。

「うぅっ、お、お願いします」

 シスターはそう言うと泣き崩れる。
 ユキトはシスターが落ち着くのを待ち、孤児院の中を必要な荷物を集めて収納していく。

 ユキトは旧聖都の保有する兵力を確認すると、孤児院の子供達を連れて聖都を脱出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...