幻獣使いの英雄譚

小狐丸

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その後の世界

新大陸

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 そこには国は無く、ただ自然の厳しさに、人々は抗えず、魔物の脅威に晒され、僅かな土地を耕し生きていた。

 その地には、武器を作り出す術が無い。

 その地に住む人は魔法を使う事が出来なかった。



 ユキト達が住む大陸から遥か東にその大陸はあった。

 大陸の大きさは、ユキト達が住む大陸の1/4程度、さして強力な魔物が生息している訳ではない。

 ただ、この大陸に住む人には魔法を使える者が居なかった。
 魔力を持たない訳ではないが、祖先がこの大陸に流れ着いて数百年前、魔法は限られた支配者の使う術だった。
 永い戦乱の中、国の形は無くなり、魔法を使う者は戦さに倒れ、やがて永い時を経て魔法を伝える者は居なくなった。


 魔法を失ったこの大陸は、人の住む土地を魔物や野生生物に奪われていった。





 海沿いの小さな集落。
 この大陸で海の近くに住むメリットは無い。
 海には陸に住む魔物よりも強力な魔物が住み、時折海の近くに住む生き物を捕食する。
 当然、そのターゲットには人間も含まれる。
 でも人間達は海沿いの小さな土地を耕し生きている。内陸には、弱いが群れで行動する魔物が多く住み、その弱い魔物でさえ、この大陸に住む人間には手に余った。



「お姉ちゃん、お腹空いた」

 小さな女の子が、姉に空腹を訴える。

「ミルモ、ごめんなさいね」

 姉もミルモと呼ばれた小さな妹に、謝るかとしか出来ない。
 ミルモもその姉も、そしてこの集落の人々全てが酷く痩せていた。

 姉の名前は、ハル。

 この集落では成人する事さえ難しい。
 若い大人は彼女一人だけだった。



 その日、海沿いの集落に空に巨大な物体が襲来する。人々は恐怖に震え、粗末な家とも呼べない小屋にこもって、わざわいが去るのを待つ事しか出来なかった。


「お姉ちゃん、お船が飛んでるよ」

「ミルモ、危ないから見ちゃダメ!」

 空を見上げるミルモをハルが引っ張る。




「ユキト様、小さな集落が見えます」

「なんか寂れてる感じがするな」

 サティスが下に見える集落を報告する。

「ルドラで降りてみるか」

「ユキトお兄ちゃん、アメリアも行く!」

「こら、アメリア!ワガママ言わないの」

 ユキトが下に降りると言った途端、アメリアも行きたいとネダルが、イリスに叱られる。

「私がアメリアちゃんの護衛に付きましょうか」

 兎耳を揺らしてティアが艦橋へ入って来た。

「じゃあ、ティアはアメリアとルドラで降りて、僕は自分で降りるから。
 サティス、船はこの高度を保って待機してくれ」


 ユキトはアメリアとティアを連れて、船から飛び出した。
 ティアはアメリアを前に抱きながら、ルドラの背に乗り空を飛ぶ。





 船から飛び出した見た事もない巨大な漆黒の魔物の出現に、集落の人々は絶望した。

 この大陸には、グリフィンの様な高位の魔物は存在しないが、その姿を見るだけで、それが自分達には抗うあらがう事すら出来ない存在だと分かった。


「お姉ちゃん、黒い鳥さんの背中に女の子が乗ってるよ」

「えっ?……人なの?」

 ミルモの言う通り、黒い魔物の背中には、女の子が乗っている。
 ハルがそのまま空を見上げていると、白い空を飛ぶ巨大な船から、人らしき影が飛び出した。
 やがてそれは、確かに人の姿をしているのがハルにも分かった。

「人が飛んでる?!」

 やがて黒い魔物と空を飛ぶ人間は、集落の真ん中に降り立った。

 黒い魔物は、巨大な翼を持ち、鷲の頭に鋭い鉤爪を持つ前脚、獅子の胴体と後脚を持っていた。
 その背中から、兎の耳を持つ少女が降り立ち、その後から小さな女の子が飛び降りた。
 そして、その側に降り立ったのは、ハルと年の頃も変わらない少年だった。

 集落の住民が、遠巻きに眺めてる。

 その時、ミルモが走り出した。

「女の子だー!」

「ミルモ!待ちなさい!」

 慌ててハルが、連れ戻そうと追いかける。




「あっ!ユキトお兄ちゃん、小さな女の子がいるよ」

 近寄って来た女の子に、ユキトは膝をついて話し掛ける。

「この集落の子かい?」

「うん!ミルモっていうの!お兄ちゃんは空を飛ぶお船に乗って来たの?」

「ミルモ!」

 そこにハルが追い付き、ミルモを背に庇う。

「心配しなくても危害は加えないよ。
 この集落の責任者は居るのかな?出来れば話を聞きたいんだけど」

 大陸に国という形が無くなり、文明が衰退して数百年、滅亡を待つだけだった人々の元へ、その日奇跡が舞い降りた。





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