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九話 家族会議
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家に戻って来た翌朝、皆んなで朝食を食べた後、アレクお父さまの執務室で家族会議だ。とはいえ、家族以外の執事長のセドリック、侍女長のカサンドラと侍女のユノス、騎士団長のガーランドも参加している。
ルミエール伯爵家を支える忠臣にも事情を説明しておく必要がある。
「集まって貰ったのは勿論、ユーリの事だ」
「では、先ずは私からの報告になります。ユーリお嬢様以外は報告済みですが、誘拐の実行犯に関しては、全員ルミエール領外で死体で発見されました。おそらく始末されたもようです」
アレクお父さまが話を振ると、ガーランドが最初に話し始める。私以外には報告済みのその内容は、余りにも予想通りの展開だった。
「川を使ってユーリを運んだ奴らは不明だが、おそらく生きてはいないだろう」
「その後、馬車で運んだ者達は、フォレストウルフに襲われ死んだ者と、馭者の男は崖下で食い荒らされた痕跡を見るに、全員が死亡でしょう」
アレクお父さまとガーランドの話から、実行犯を含め運び屋も全滅したらしい。
「結局、黒幕は分からず終いか」
「国内の貴族が噛んでいるのは間違いないですが、その黒幕が国外の勢力なのか、それとも王族を含めた国内勢力なのか……」
王族も含めるんだ。そんな表情が出てたんだろう。アレクお父さまが説明してくれた。
「分からないみたいだね。それはね。ユーリが女神様の髪色だからだよ」
「女神様の髪色……」
「この国で、フローラ程の女神様の髪色を持つ者はいなかった。それが、もう一人生まれたんだ。狙うのは、国内外問わないのさ。そこに我が国の王族も例外じゃない」
白銀に近い金色のプラチナブロンドは、聖属性に高い適性がある証し。メルティもフローラお母さま似だけど、聖属性への適性という点に関しては、私やフローラお母さまよりも低い。メルティは、金色が少し強いから。
メルティくらいの色合いでも、希少なのには間違いないのだけどね。
自国の王族なら、婚姻という手段があるのに何故となるけど、それはうちが伯爵家で、王家とでは家格が足りない。ルミエール家は、伯爵家では上位の家格だけど、王家が相手では全然足りないのよね。せめて侯爵家くらいでないとダメらしい。
そこで、それでも手に入れたいからと、王家が短絡的に誘拐などという手段を取るかと疑問もあるけど、王家にその気はなくても、その取り巻きは分からないという話だ。
「まあ、ユーリを傷者にした奴らには、必ず報いを受けさせてやる。それよりユノス、領内の警戒態勢はどうなってる?」
「はい、お館様。領内くまなくネズミ狩りを実行。幾つかの寝ぐらを発見し潰しました」
「やっぱり、他国だけじゃなく、国内の影かい?」
「……はい」
アレクお父さまがユノスに、領内の警戒態勢を聞くと、ユノスはネズミ(諜報組織)狩りを行ったと言う。しかも自国の貴族家からのネズミもいたみたい。ユノスの返事からすると、王家の影も混じってたみたいね。
「それとユーリだけど、王都の学園じゃなく、領都の学園に通わせようと思っている」
「それがよろしいでしょうな。領都ならユーリお嬢様をお護り出来ます」
「まあ、ユーリに護衛が必要かどうかは別にして、極力他家の耳目に晒さない方がいい」
ある程度以上の貴族家の子息子女は、王都にある学園に通うのが通例になっている。勿論、王国法で決められている訳じゃない。だから、特にルミエール伯爵領では、家臣の子供は自領の学園に通う者が多い。
何故なら、武術、魔法共に王都の学園よりも、遥かに高いレベルで学べるからだ。
その証拠に、二年毎に王国内から学園選抜が集う武術大会があるんだけど、ルミエール伯爵領の学園は、王都の学園を差し置き、毎年上位を独占している。
「ユーリが、エルローダスの学園に通うのなら、その年は我が領から王都の学園に通う子供は居なくなりそうだな」
「もともとローディン坊っちゃまのように、中央の貴族と縁を繋ぐ必要がなければ、わざわざ我が領から王都の学園に入学する者は少ないですからな」
ルミエール伯爵家に支える家臣には、爵位を持つ者もいる。そんな人達も、王都で学ぶよりエルローダスで同年代の子達と研鑽する事を選ぶ。
それは、ここが辺境で強力な魔物が多く、他国との盾となる立地故、尚武の気風が強く、常に切磋琢磨して自身を磨いている人達が多いから。
「それとこれは秘中の秘だ。他言無用で頼む。実は、ユーリが崖下に落ちたショックで、前世の記憶を思い出したらしい」
「「「…………」」」
アレクお父さまが、唐突に私に前世の記憶を思い出した事を言ったのだけど、ガーランドやセドリック、ユノスは困惑しているわね。何故か、カサンドラは驚いていないみたいだけど。
「お館様。前世ですか?」
「うむ。荒唐無稽で信じられないだろうが、一先ず話だけ聞いてくれ」
そしてアレクお父さまは、私が此処とは異なる世界で約八十年以上を武に生きた女性だったと説明した。一千年近い歴史ある武術を伝える家で、その武術を教える師範だった事。この世界の魔力操作に似た技術があり、そのお陰で、七歳にして卓越した魔力操作を身に付けている事などを説明する。
「なんと……」
アレクお父さまの話に、特に武人のガーランドが驚いている。
更にアレクお父様は、マーサおばあちゃんの話をする。私が、マーサおばあちゃんに救われたという情報は、このメンバーは共有している。
「煉獄の魔導士、焔の賢者の二つ名をもつ伝説の魔法使いマーサ・ロードウェル殿が、ユーリの命の恩人なのは報せていたが、ユーリは一月という短い間だが師事していたそうだ」
「まぁ! ユーリお嬢様が賢者様の弟子なのですね!」
「ユーリお嬢様の命の恩人となれば、是非、感謝を伝え、お礼をしなければなりませんね」
アレクお父さまの話が、マーサおばあちゃんの話になると、ユノス感嘆の声を上げ、カサンドラがお礼をしないとと言う。それを聞いて私はマーサおばあちゃんを思い出し哀しくなる。
私の変化に気付いたフローラお母さまが、ユノスとカサンドラを止める。
「カサンドラ、ユノス、待ちなさい。賢者様は、つい先日天へお還りになられました。感謝を伝えたいのは私も同じですが、それは落ち着いてからお墓に参らせてもらいましょう」
「そ、そうなのですね」
「ユーリお嬢様。年甲斐も無く浮かれてしまい申し訳ありません」
「ううん。いいの。今度、皆んなでお墓参りしましょう。マーサおばあちゃんも喜ぶと思うわ」
「……皆んなでねぇ。うん。行かないとね」
フローラお母さまから、マーサおばあちゃんが亡くなった事を聞くと、ユノスとカサンドラが申し訳なさそうにする。でもマーサおばあちゃんも大往生だったのだから、何時迄も私が悲しんでいるとマーサおばあちゃんが天国で悲しむ。この世界に天国があるか知らないけど。
そのユノスとカサンドラに、機会があればお墓参りに行こうと言うと、アレクお父さまが微妙な顔をする。場所が場所だからね。でも、カサンドラとユノスなら大丈夫な気がする。
そしてアレクお父さまは、皆んなが気になりつつも口に出せない、私の右腕について語る。
「もう皆んなも分かってると思うけど、ユーリの右腕の義手についてだ。この事は、前世の記憶がある事以上に秘するべき事なので、万が一秘密を守れないと思うなら、退出してくれても構わない。それによって、僕が君達の忠心を疑う事はないと約束しよう」
暫く待っても部屋を出る者はいなかった。
「ユーリの義手は神機なんだ」
沈黙が部屋を支配する。
お祖父さまの代から仕えるセドリックやカサンドラも困惑しているのが分かる。
「もともとは、賢者殿が遺跡から入手し、研究していた物だったらしいが、どんな事をしても傷一つ付ける事が叶わない金属の球だったそうだ。それが、何の偶然か、それとも必然だったのか、右腕を失くしたユーリに反応し適合、義手となったようなんだ」
「崖下へ堕ちたユーリは、賢者様の回復魔法で一命を取り留めたけど、右腕は助けられなかったみたいなの。でも、それが適合する条件の一つだったみたい」
アレクお父さまとフローラお母さまからの説明に、私も一応補足しておく。
「神機アガートラムが装着された瞬間、これがどういう物なのかわかったの」
私は、アガートラムがどういうものかを簡単に説明する。義手部分だけが神機ではなく、目に見えぬ程小さく分かれ増殖したアガートラムが、私の全身を強化していると。
そのお陰で、私は怪我をしても直ぐに回復するし、毒や麻痺などもほぼ効かない。
「なんと、状態異常に罹りにくいとは……」
「ガーランド、現状ユーリには呪いを含めた状態異常はほぼ無効らしいよ」
『神機に加えて、聖属性の僕と契約したからね』
「「「なっ!!」」」
「まさか、精霊!!」
驚くガーランドに、アレクお父さまが私は状態異常はほぼ無効だと言うと、呼んでもないのにゴクウが顕現して自慢気に胸を張った。
突如、現れたゴクウに、その場のお父さまとお母さまを除いた全員が驚き硬直する。
「おそらく上級精霊。エルフでもないユーリお嬢様が……」
カサンドラが、そう驚くのも無理はない。領内にいる精霊魔法使いは三人。その全員がエルフなのだから。加えて、その三人が契約している精霊は中級精霊だからね。
「はぁ、ユーリお嬢様が、王都の学園に通うのは無理というのは理解致しました」
「神機に関しては、教会が黙っていないでしょうしね。それでなくても女神様の髪色なのですから」
「セドリックとカサンドラの言う通りだ。ユーリの事は、可能な限り隠す方向で考えているよ」
「それもあっての徹底したネズミ狩りなのですな」
「ああ、国内外を問わず、ユーリを得ようとする勢力はなくならないだろうからね」
色々と隠さないといけない事が多過ぎて、とてもじゃないけど、王都の学園になんて通えないと、この場にいる皆んなは理解したみたい。
「それはそうと、ユーリお嬢様は前世で八十年近く武術を研鑽されたのなら、どの程度の実力なのでしょう? それによっては、手配する警護の人員も変わります」
思い出したように、ガーランドが私の現状での実力はどの程度かを聞いてきた。騎士団長のガーランドとしては当然の問いだと思う。
それに対して、アレクお父さまは少し悩む様子を見せてから正直に答えた。
「ユーリの話では、魔法は賢者殿に師事したとはいえ、期間が一月という短い。基礎的な部分を教えてもらい、後は賢者殿が書かれた魔導書で学ぶ段階かな。……武術に関しては、もう僕よりもずっと洗練されているかな」
「そうね。魔法はともかく、魔法無しでトライホーンベアを簡単に斃せる実力はあるみたいよ」
「なんと……、そこまでですか」
こと武術に関しては、積み重ねた歴史が違うもの。当然ね。
「では、お嬢様のお側に付ける者も考えねばなりませんな」
「そうだね。領都の学園に通うとしても、従者候補はよく考える必要があるね。今後、ユーリがターゲットとして襲撃されたとしても、ユーリ一人なら簡単に跳ね返すだろうけど、従者が足枷になるのはね」
「大丈夫。私が鍛えてあげるわ。教えるのは得意だから」
セドリックが、私が領都の学園に通うにあたり、従者候補が必要だと言った。それにアレクお父さまは、今回の事のような事件が起こる可能性を考えれば、その従者候補の選定は慎重にしないとと考え込む。
そこで私は、従者候補を自分で鍛える事を提案した。これでも長年師範として後進の育成に携わってたんだもの。出来る筈よ。
前世では、父を始め兄や弟から百合子は天才だから、人に教えるのに向いていないと言われ続けたけど、何十年も師範をしてたんだもの。私だって成長しているのよ。
「そ、そうかい?」
「大丈夫かしら」
「もう。お父さまもお母さまも、大丈夫です」
アレクお父さまとフローラお母さまが、疑わしげに私を見る。失礼だわ。大丈夫に決まってるじゃない。
武術の指導なんて、やって見せて、やらせてみて、その問題点を修正。それの繰り返しでOKよ。
取り敢えず、セドリックが年齢的に従者候補になり得る人選をすると言う。それをお父さまやお母さま、ガーランド達が選ぶという段取りが決まった。
さて、午後からはメルティとルードと遊んであげる約束だったわね。子供用のおもちゃとか開発した方がいいかしら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
ルミエール伯爵家を支える忠臣にも事情を説明しておく必要がある。
「集まって貰ったのは勿論、ユーリの事だ」
「では、先ずは私からの報告になります。ユーリお嬢様以外は報告済みですが、誘拐の実行犯に関しては、全員ルミエール領外で死体で発見されました。おそらく始末されたもようです」
アレクお父さまが話を振ると、ガーランドが最初に話し始める。私以外には報告済みのその内容は、余りにも予想通りの展開だった。
「川を使ってユーリを運んだ奴らは不明だが、おそらく生きてはいないだろう」
「その後、馬車で運んだ者達は、フォレストウルフに襲われ死んだ者と、馭者の男は崖下で食い荒らされた痕跡を見るに、全員が死亡でしょう」
アレクお父さまとガーランドの話から、実行犯を含め運び屋も全滅したらしい。
「結局、黒幕は分からず終いか」
「国内の貴族が噛んでいるのは間違いないですが、その黒幕が国外の勢力なのか、それとも王族を含めた国内勢力なのか……」
王族も含めるんだ。そんな表情が出てたんだろう。アレクお父さまが説明してくれた。
「分からないみたいだね。それはね。ユーリが女神様の髪色だからだよ」
「女神様の髪色……」
「この国で、フローラ程の女神様の髪色を持つ者はいなかった。それが、もう一人生まれたんだ。狙うのは、国内外問わないのさ。そこに我が国の王族も例外じゃない」
白銀に近い金色のプラチナブロンドは、聖属性に高い適性がある証し。メルティもフローラお母さま似だけど、聖属性への適性という点に関しては、私やフローラお母さまよりも低い。メルティは、金色が少し強いから。
メルティくらいの色合いでも、希少なのには間違いないのだけどね。
自国の王族なら、婚姻という手段があるのに何故となるけど、それはうちが伯爵家で、王家とでは家格が足りない。ルミエール家は、伯爵家では上位の家格だけど、王家が相手では全然足りないのよね。せめて侯爵家くらいでないとダメらしい。
そこで、それでも手に入れたいからと、王家が短絡的に誘拐などという手段を取るかと疑問もあるけど、王家にその気はなくても、その取り巻きは分からないという話だ。
「まあ、ユーリを傷者にした奴らには、必ず報いを受けさせてやる。それよりユノス、領内の警戒態勢はどうなってる?」
「はい、お館様。領内くまなくネズミ狩りを実行。幾つかの寝ぐらを発見し潰しました」
「やっぱり、他国だけじゃなく、国内の影かい?」
「……はい」
アレクお父さまがユノスに、領内の警戒態勢を聞くと、ユノスはネズミ(諜報組織)狩りを行ったと言う。しかも自国の貴族家からのネズミもいたみたい。ユノスの返事からすると、王家の影も混じってたみたいね。
「それとユーリだけど、王都の学園じゃなく、領都の学園に通わせようと思っている」
「それがよろしいでしょうな。領都ならユーリお嬢様をお護り出来ます」
「まあ、ユーリに護衛が必要かどうかは別にして、極力他家の耳目に晒さない方がいい」
ある程度以上の貴族家の子息子女は、王都にある学園に通うのが通例になっている。勿論、王国法で決められている訳じゃない。だから、特にルミエール伯爵領では、家臣の子供は自領の学園に通う者が多い。
何故なら、武術、魔法共に王都の学園よりも、遥かに高いレベルで学べるからだ。
その証拠に、二年毎に王国内から学園選抜が集う武術大会があるんだけど、ルミエール伯爵領の学園は、王都の学園を差し置き、毎年上位を独占している。
「ユーリが、エルローダスの学園に通うのなら、その年は我が領から王都の学園に通う子供は居なくなりそうだな」
「もともとローディン坊っちゃまのように、中央の貴族と縁を繋ぐ必要がなければ、わざわざ我が領から王都の学園に入学する者は少ないですからな」
ルミエール伯爵家に支える家臣には、爵位を持つ者もいる。そんな人達も、王都で学ぶよりエルローダスで同年代の子達と研鑽する事を選ぶ。
それは、ここが辺境で強力な魔物が多く、他国との盾となる立地故、尚武の気風が強く、常に切磋琢磨して自身を磨いている人達が多いから。
「それとこれは秘中の秘だ。他言無用で頼む。実は、ユーリが崖下に落ちたショックで、前世の記憶を思い出したらしい」
「「「…………」」」
アレクお父さまが、唐突に私に前世の記憶を思い出した事を言ったのだけど、ガーランドやセドリック、ユノスは困惑しているわね。何故か、カサンドラは驚いていないみたいだけど。
「お館様。前世ですか?」
「うむ。荒唐無稽で信じられないだろうが、一先ず話だけ聞いてくれ」
そしてアレクお父さまは、私が此処とは異なる世界で約八十年以上を武に生きた女性だったと説明した。一千年近い歴史ある武術を伝える家で、その武術を教える師範だった事。この世界の魔力操作に似た技術があり、そのお陰で、七歳にして卓越した魔力操作を身に付けている事などを説明する。
「なんと……」
アレクお父さまの話に、特に武人のガーランドが驚いている。
更にアレクお父様は、マーサおばあちゃんの話をする。私が、マーサおばあちゃんに救われたという情報は、このメンバーは共有している。
「煉獄の魔導士、焔の賢者の二つ名をもつ伝説の魔法使いマーサ・ロードウェル殿が、ユーリの命の恩人なのは報せていたが、ユーリは一月という短い間だが師事していたそうだ」
「まぁ! ユーリお嬢様が賢者様の弟子なのですね!」
「ユーリお嬢様の命の恩人となれば、是非、感謝を伝え、お礼をしなければなりませんね」
アレクお父さまの話が、マーサおばあちゃんの話になると、ユノス感嘆の声を上げ、カサンドラがお礼をしないとと言う。それを聞いて私はマーサおばあちゃんを思い出し哀しくなる。
私の変化に気付いたフローラお母さまが、ユノスとカサンドラを止める。
「カサンドラ、ユノス、待ちなさい。賢者様は、つい先日天へお還りになられました。感謝を伝えたいのは私も同じですが、それは落ち着いてからお墓に参らせてもらいましょう」
「そ、そうなのですね」
「ユーリお嬢様。年甲斐も無く浮かれてしまい申し訳ありません」
「ううん。いいの。今度、皆んなでお墓参りしましょう。マーサおばあちゃんも喜ぶと思うわ」
「……皆んなでねぇ。うん。行かないとね」
フローラお母さまから、マーサおばあちゃんが亡くなった事を聞くと、ユノスとカサンドラが申し訳なさそうにする。でもマーサおばあちゃんも大往生だったのだから、何時迄も私が悲しんでいるとマーサおばあちゃんが天国で悲しむ。この世界に天国があるか知らないけど。
そのユノスとカサンドラに、機会があればお墓参りに行こうと言うと、アレクお父さまが微妙な顔をする。場所が場所だからね。でも、カサンドラとユノスなら大丈夫な気がする。
そしてアレクお父さまは、皆んなが気になりつつも口に出せない、私の右腕について語る。
「もう皆んなも分かってると思うけど、ユーリの右腕の義手についてだ。この事は、前世の記憶がある事以上に秘するべき事なので、万が一秘密を守れないと思うなら、退出してくれても構わない。それによって、僕が君達の忠心を疑う事はないと約束しよう」
暫く待っても部屋を出る者はいなかった。
「ユーリの義手は神機なんだ」
沈黙が部屋を支配する。
お祖父さまの代から仕えるセドリックやカサンドラも困惑しているのが分かる。
「もともとは、賢者殿が遺跡から入手し、研究していた物だったらしいが、どんな事をしても傷一つ付ける事が叶わない金属の球だったそうだ。それが、何の偶然か、それとも必然だったのか、右腕を失くしたユーリに反応し適合、義手となったようなんだ」
「崖下へ堕ちたユーリは、賢者様の回復魔法で一命を取り留めたけど、右腕は助けられなかったみたいなの。でも、それが適合する条件の一つだったみたい」
アレクお父さまとフローラお母さまからの説明に、私も一応補足しておく。
「神機アガートラムが装着された瞬間、これがどういう物なのかわかったの」
私は、アガートラムがどういうものかを簡単に説明する。義手部分だけが神機ではなく、目に見えぬ程小さく分かれ増殖したアガートラムが、私の全身を強化していると。
そのお陰で、私は怪我をしても直ぐに回復するし、毒や麻痺などもほぼ効かない。
「なんと、状態異常に罹りにくいとは……」
「ガーランド、現状ユーリには呪いを含めた状態異常はほぼ無効らしいよ」
『神機に加えて、聖属性の僕と契約したからね』
「「「なっ!!」」」
「まさか、精霊!!」
驚くガーランドに、アレクお父さまが私は状態異常はほぼ無効だと言うと、呼んでもないのにゴクウが顕現して自慢気に胸を張った。
突如、現れたゴクウに、その場のお父さまとお母さまを除いた全員が驚き硬直する。
「おそらく上級精霊。エルフでもないユーリお嬢様が……」
カサンドラが、そう驚くのも無理はない。領内にいる精霊魔法使いは三人。その全員がエルフなのだから。加えて、その三人が契約している精霊は中級精霊だからね。
「はぁ、ユーリお嬢様が、王都の学園に通うのは無理というのは理解致しました」
「神機に関しては、教会が黙っていないでしょうしね。それでなくても女神様の髪色なのですから」
「セドリックとカサンドラの言う通りだ。ユーリの事は、可能な限り隠す方向で考えているよ」
「それもあっての徹底したネズミ狩りなのですな」
「ああ、国内外を問わず、ユーリを得ようとする勢力はなくならないだろうからね」
色々と隠さないといけない事が多過ぎて、とてもじゃないけど、王都の学園になんて通えないと、この場にいる皆んなは理解したみたい。
「それはそうと、ユーリお嬢様は前世で八十年近く武術を研鑽されたのなら、どの程度の実力なのでしょう? それによっては、手配する警護の人員も変わります」
思い出したように、ガーランドが私の現状での実力はどの程度かを聞いてきた。騎士団長のガーランドとしては当然の問いだと思う。
それに対して、アレクお父さまは少し悩む様子を見せてから正直に答えた。
「ユーリの話では、魔法は賢者殿に師事したとはいえ、期間が一月という短い。基礎的な部分を教えてもらい、後は賢者殿が書かれた魔導書で学ぶ段階かな。……武術に関しては、もう僕よりもずっと洗練されているかな」
「そうね。魔法はともかく、魔法無しでトライホーンベアを簡単に斃せる実力はあるみたいよ」
「なんと……、そこまでですか」
こと武術に関しては、積み重ねた歴史が違うもの。当然ね。
「では、お嬢様のお側に付ける者も考えねばなりませんな」
「そうだね。領都の学園に通うとしても、従者候補はよく考える必要があるね。今後、ユーリがターゲットとして襲撃されたとしても、ユーリ一人なら簡単に跳ね返すだろうけど、従者が足枷になるのはね」
「大丈夫。私が鍛えてあげるわ。教えるのは得意だから」
セドリックが、私が領都の学園に通うにあたり、従者候補が必要だと言った。それにアレクお父さまは、今回の事のような事件が起こる可能性を考えれば、その従者候補の選定は慎重にしないとと考え込む。
そこで私は、従者候補を自分で鍛える事を提案した。これでも長年師範として後進の育成に携わってたんだもの。出来る筈よ。
前世では、父を始め兄や弟から百合子は天才だから、人に教えるのに向いていないと言われ続けたけど、何十年も師範をしてたんだもの。私だって成長しているのよ。
「そ、そうかい?」
「大丈夫かしら」
「もう。お父さまもお母さまも、大丈夫です」
アレクお父さまとフローラお母さまが、疑わしげに私を見る。失礼だわ。大丈夫に決まってるじゃない。
武術の指導なんて、やって見せて、やらせてみて、その問題点を修正。それの繰り返しでOKよ。
取り敢えず、セドリックが年齢的に従者候補になり得る人選をすると言う。それをお父さまやお母さま、ガーランド達が選ぶという段取りが決まった。
さて、午後からはメルティとルードと遊んであげる約束だったわね。子供用のおもちゃとか開発した方がいいかしら。
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この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
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