銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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十話 ユーリ始動す

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 家族と重臣を集めた会議の後、皆んなが早速色々と活発に動き出した。

 そこで私も自重なく動く事にしたの。二度と攫われるなんて有り得ないし、私の周りも含めて護ってみせる。

「リンジー、丈夫で肌触りが良い生地って知らない?」
「お嬢様。ドレスを仕立てるのですか?」
「違うわ。普段着と稽古着かな」

 そこで先ず気になったのは着る物だった。

 伯爵令嬢なんだから、可愛いドレスが当たり前なんだろうけど、それじゃあ戦えない。それに義手の私がパーティーに出る事はないでしょうしね。そこで私付きのメイド、リンジーに良さ気な生地はないか聞いてみた。

 リンジーは、私の三つ上で十歳。私が誘拐されて、右腕が義手になった事がショックだったらしく、ユノスから戦闘訓練を受け始めて頑張っている健気な子。

「ドレスなら出入りの仕立て屋を呼びますけど、そうじゃないんですよね?」
「ええ。布地が欲しいの。最悪糸でもいいわ」

 私が欲しいは、長袍(チャンパオ)というカンフー映画でよく見る衣装だ。勿論、デザインは私が多少工夫するつもりだけど、あれなら普段使いから、突然戦闘になっても大丈夫。

 私はこれでも百合子時代、裁縫は得意だったのだ。和裁から洋裁までドンと来いよ。

「布というとワイルドコットンですが、それじゃダメなんですよね」
「丈夫さが足りないわ。付与できる余白も少ないだろうし」
「お嬢様。付与なんて出来るんですか?」
「これでも焔の賢者マーサ・ロードウェルの弟子よ。基礎の基礎は習ったわ。あとはマーサおばあちゃんの書いた本を見ながら練習ね」

 リンジーが言ったワイルドコットンとは、前世のコットン(木綿)と似たような植物。この世界では、このワイルドコットンが高級品で、平民は麻に似た植物から作った、少しごわつく生地で服を作っている。

 シルクに似たものもあるけど、これは一部の高位貴族しか手が出せない超高級品になる。

「そう言えば、マーサおばあちゃんの書いた本の中に、その手の事が書いてあったわね」

 私はマジックバッグから本をどんどん取り出す。これ、お父さまにお願いして、私専用の書斎を作ってもらおうかしら。書斎じゃ足りないわね。図書室が必要かも。

「あっ、あった。これよこれ」
「えっと……シルクワームですか? お嬢様、それって魔物素材ですよね」
「そうよ。だけど大人しいって書いてあるわ」

 マーサおばあちゃんの本には、棲息場所や飼い方まで書いてあった。私がおばあちゃんからもらった服も、魔物から採れた糸から作った物だったみたい。

「棲息場所は……あら、ルミエール領の森にもいるじゃない」
「お嬢様。その前に、お館様に許可を頂いて、シルクワームを飼育する準備が必要ですよ」

 ラッキーな事に、シルクワームはルミエール領の郊外に在る森に棲んでいるみたい。直ぐにでも捕獲しに行きたい私をリンジーが止める。

 確かにお父さまの許可は必要ね。多分、私とリンジーだけで行かせてくれる訳もないだろうし、シルクワームを飼育するなら準備も必要だろう。

「それもそうね。餌は……うわっ、ヒルクク草が要るじゃない。先ずは、ヒルクク草の栽培から始めないといけないわ」
「ヒルクク草って、ヒールポーションの材料ですよね。薬草の栽培なんて聞いた事ありませんよ」
「大丈夫、大丈夫。マーサおばあちゃんは、森でも薬草類を育ててたし、栽培方法も書いた本があるわ」

 マーサおばあちゃんは、森で普通に薬草類を育ててたけど、世間的には薬草類は栽培が出来ないから貴重だし、新米冒険者の定番の依頼だものね。

 そう。この世界にも異世界物定番の冒険者ギルドが存在する。まあ、私もあまりよく知らないけど、ラノベなんかとそう変わらないと思う。

「リンジー。お父さまに、お時間頂けるかどうか聞いてくれない」
「分かりました」

 早速、リンジーにアレクお父さまへのアポをお願いした。リンジーが、部屋を出て行くと、私はするべき事を頭の中でリストアップする。

『ユーリ。シルクワームもいいけど、ホーリースパイダーも色々な糸を出すよ』
「ホーリースパイダー? どんな魔物?」

 リンジーがいなくなると、ゴクウが姿を見せた。そのゴクウからホーリースパイダーという名が出てきた。

『魔物じゃないよ。聖獣って知ってる?』
「聖獣って、ペガサスやユニコーンだったかしら」
『他にもフェニックスやスピリットタートルとか、色々いるよ』

 ゴクウが言うには、ホーリースパイダーは魔物じゃなく聖獣らしい。そんなの飼っちゃダメなんじゃないかな。

「聖獣なんて、飼ってもいいの?」
『大丈夫だよ。ユーリが、棲む場所を整えてくれるなら、喜んで来ると思うよ』

 ゴクウが言うには、ホーリースパイダーは、魔力が濃い場所を好むらしい。これは魔物にも言えるのだから不思議ではないけど、ホーリースパイダーは更に清浄な魔力を好むそうだ。

「それって、森のおばあちゃんの家の周りみたいに、聖属性の魔力をばら撒けばいいの?」
『どうせ薬草類の栽培もするんだろ? なら魔力が濃い土地を用意しないといけないんだし、聖属性の魔力なら一石二鳥じゃないか』
「……それもそうか」

 どうやら森のマーサおばあちゃんの家を再現するみたい。まあ、どうせ薬草類を栽培するなら似たような事が必要なんだけどね。

「それで、そのホーリースパイダーは何処にいるの?」
『それは僕が連れて来るよ。ユーリは、専用の小屋を用意しておいてくれるかな。棲家は暗い方が安心できるみたい』
「分かったわ。どうせシルクワームの小屋も必要だしね」

 ホーリースパイダーの糸は、シルクワームの完全上位互換らしい。更に、付与する余白も多いから、重装甲の鎧を着る筈もない私にはピッタリだそうだ。

『シルクワーム製の生地は、稽古着とかにすればいいんじゃない。あと、メイドや侍女、執事達の服にすれば、それだけで普段から防具を装備しているようなものだしね』
「それはありだね」

 ホーリースパイダーは聖獣だけに、そんなに数が多くないらしく、普通の虫や魔物のように増えるのも簡単じゃないのだとか。糸の生産量を考えると、家臣全員にまで行き届かないだろう。





 その後、直ぐにアレクお父さまの都合がつき、執務室へと向かうと、何故かそこにはフローラお母さまもいた。執事長のセドリックと侍女長のカサンドラはともかく、フローラお母さままでいる事に首を傾げる。

 まあ、それはいい。アレクお父さまから許可をもらわないと。

「それで、話とはなんだい?」
「はい。実は、シルクワームを飼いたいので、場所を少し頂きたいのです」
「……えっと、シルクワームって、大きなイモムシの魔物だったよね」
「はい」
「ユーリちゃん。そのシルクワームをどうするの。確か、何もしなければ危険はない魔物だったわよね」
「ええ、お母さま。シルクワームの糸が欲しいのです」
「糸?」
「はい。普段着や稽古着を作る布地にするんです」
「まぁ!」

 おっ、フローラお母さまの反応は良さそうね。

「確かに、魔物素材から装備を作るのはよくあるけど、シルクワームを飼うのかい?」
「はい。ワイルドコットンやシルクもいいですけど、もっと着心地が良く丈夫な生地となると、シルクワームがいいとマーサおばあちゃんの本にもありましたから」
「そうよね。そのシルクワームの生地は、お母さまも使っていいのよね」

 ああ、やっぱりフローラお母さまは、ドレスの生地が欲しかったのね。他の誰もが着ていないドレス生地ってだけで、貴族の奥様方は欲しいみたい。

「お母さまには、シルクワームではなく、ホーリースパイダーの糸から織られた生地がいいと思うのですが」
「ホーリースパイダー? 初めて聞く名前ね」
「ホーリースパイダーは、魔物ではなく聖獣ですから。ゴクウが、シルクワームを飼うなら、ホーリースパイダーをと勧めてくれたの」
「聖獣だって!」
「聖獣ですって!」

 流石のアレクお父さまとフローラお母さまも、聖獣というワードには驚きの声をあげた。

 私はホーリースパイダーの糸が、シルクワームの糸の上位互換だと説明する。

「そ、その聖獣をユーリちゃんの精霊、ゴクウが連れて来るのはいいけど、何を食べるか分かるの?」
「はい。ゴクウが言うには、聖獣は好みの魔力さえ有れば大丈夫らしいです。嗜好品的に、何かを食べる事もあるそうですけど、ヒルクク草とからしいので、丁度薬草類の栽培もするので」
「えっ!? 薬草類の栽培なんて可能なの?」
「マーサおばあちゃんは栽培してましたよ」

 シルクワームの上位互換と説明すると、食いついてきたフローラお母さまから、聖獣を飼うと言っても何を食べるか分かってるの? と聞いてきた。

 勿論、その辺もゴクウに聞いてるので、聖獣は基本的に魔力を糧にしていると説明する。そして嗜好品用に、薬草類を栽培するからと言うと、お母さまだけじゃなく、その場の皆んなが目を見開いた。

「……これは外に漏らせませんな」
「そうですね。下手に情報を出すべきじゃありません」
「そうだね。それで、ユーリはどう考えているんだい?」

 セドリックとカサンドラは、薬草類が栽培可能という事を、世間には秘密にするべきだと言う。お父さまも同じ考えみたい。

 薬草の栽培方法って言う程大袈裟なものじゃない。要するに、栄養のある土と魔力が豊富な環境を整えてやれば薬草は育つ。ただ、実際に行うのはとても難しい。マーサおばあちゃんの家の周りみたいに、魔力溜まりのような環境を選ぶ必要がある。そしてそんな場所には、魔物が居るからね。

 薬草採取の依頼を冒険者がするのも、森や林、魔力が濃い場所に行かないといけないのはそういう理由だ。


「城の敷地の一画を頂けませんか? そこに私の工房と倉庫、図書室と薬草園、シルクワームとホーリースパイダーの飼育小屋を建てたいと思います」
「まぁ、図書室ですって! ユーリちゃん。それって、賢者様の遺された書籍よね!」
「え、ええ。マーサおばあちゃんが書いた物から、長年集めた物まで、かなり膨大な数ですから、何時迄もマジックバッグに容れておくのも勿体ないと思いまして」
「ええ、ええ。そうね。当然、お母さまにも読ませてくれるのよね!」
「は、はい。勿論」

 城の敷地の一画に、私専用の建物と薬草園を作りたいと話すと、フローラお母さまが図書室という言葉にテンションが上がる。賢者の遺した大量の蔵書類に、魔法使いであるフローラお母さまが興味を示すのは仕方ないかもね。

「……セドリック、場所の選定はお願いできるかい?」
「お任せください。あまり人が近付かない場所で、尚且つ本館から遠くなり過ぎない場所を探します」
「では、その場所の選定後、私は警護計画を立てます」
「頼む。ガーランド」
「ユーリお嬢様の身の回りのお世話をする人員は如何します?」
「側付きのメイドは、リンジーでいいだろう。侍女教育も受けているのだろう? ユノスから手解きも受けているらしいじゃないか。当座はそれで十分だろう」
「承知しました」

 アレクお父さまは、セドリックに場所の選定を指示し、それを受けてガーランドが警備を考え始める。これは、私の護衛という側面もあるけど、マーサおばあちゃんの貴重な魔導書を含む蔵書の数々や、倉庫に収納予定の世間的にはお宝と呼べる物を守るためだ。

 カサンドラが、私の身の回りの世話と言うけど、私は自分で自分の事くらい出来るから必要ないのだけど、それを言うと侍女達が悲しむのよね。



 城の敷地はとても広い。それこそ城壁の中に、訓練所だけじゃなくて森や泉が在るくらい。

 次の日、セドリックが提案してきたのは、泉と森の近くだった。この泉の水は、常に水が湧き出ているのでとても綺麗なのよね。

 そこからは、何故かフローラお母さまも参加しての建物の設計に入る。

 建設は、職人と土魔法使いが協力して、前世では考えられない短期間で済みそうだ。

「布地が欲しかったんだけど、随分と大袈裟になっちゃったわ」

 私のちょっとした思いつきが、もの凄く大事になってる気がするけど、仕方ないよね。




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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。




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