銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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十八話 孤児院

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 ルミエール伯爵領内にも当たり前のように教会が在り、そしてセーフティーネットとして孤児院が在る。

 マーサおばあちゃんの家から戻って季節は巡り、忙しくしていた私も少し余裕が出てきたので、今日はフローラお母さまと城下の孤児院へ慰問に行く事にした。

 孤児院への慰問は定期的に行っている。

 孤児院に来る子供は様々だ。親が亡くなって、引き取り手のない子供。我が領では少ないけれど、貧しくて泣く泣く親が手放した子供。子供が不用と棄てられた子供。でも、孤児院で受け入れたからには、全員に幸せになって貰いたい。

 ルミエール伯爵家として寄付をするのは勿論の事、読み書き計算を教える手助けもしている。

 孤児院に入ると、私を見つけた子供達が駆け寄って来る。

「姫様! 型の稽古、見てください!」
「わたしも!」
「ひめさまぁ!」
「俺も頑張ったぜ!」
「ルーシー、ミュシャ、キキ、元気そうね。ボラン、今日の仕事は終わったの?」

 ルーシーは、私と同じ七歳の女の子。ルミエール伯爵領以外の孤児院は、十二歳になると独立しないといけないけど、我がルミエール伯爵領では、この世界の多くの国が成人としている十六歳まで居れる。勿論、仕事を得たり冒険者としてもっと早く独立する子も居るけど、領内の学園が授業料は無料なので、卒業する十六歳まで残る子も多いの。

 ミュシャとキキは、まだ五歳の女の子。メルティやルードよりも歳は上だけど、この世界ではこの歳くらいから子供でも仕事のお手伝いが始まる。二人とも凄く頑張ってるって、孤児院を運営してくれている司祭様やシスターから聞いている。

 ボランは、十歳になる大柄の男の子。少しガキ大将なところもあるけど、下の子達の面倒見は良い。

 このエルローダスに在る孤児院は、ここだけだけど、子供が溢れて困っているなんて事はない。それだけお祖父さまやお父さま、代々のルミエール伯爵家当主が善政を行ってきたからでしょうね。

 因みに、冒険者登録が可能になる十二歳以上の子は、冒険者として出掛けている子もいるし、商家の見習いとして望まれ、昼間は働きに出ている子もいる。


 そしてルーシーやミュシャ、キキ、ボラン達の言う「型」とは、私なりに簡素化した太極拳の型と、天津無双流の型だ。

 地球の武術は、基本的に対人戦を想定したものだけど、この世界には魔物という明確な脅威があるからね。特に、このルミエール伯爵領は、ユースクリフ王国でも強い魔物が多いらしいから、武術もそれを想定するべきなの。

 だから、体捌きや呼吸法、歩法から魔力の操作を中心に学べるようアレンジしたの。

 もともと私が教える前から、領民も時間があれば訓練する習慣があったから、私が強制している訳じゃないわよ。

 それと、実は太極拳の套路とうろが、魔力を意識するのに凄く向いてるのに気付いた。そのお陰で、孤児院の子供達の魔力感知や魔力操作が凄く向上している。

 勿論、皆んな平民の子供達だから、保有魔力量は多くないけど、まだまだ成長の余地はある。
 マーサおばあちゃん特製のお茶を飲んで、孤児院で魔力放出する訓練を加えた。成長速度は私の薬草園程じゃないし品質はまだまだだけど、孤児院でも辛うじてヒルクル草とマナフル草の栽培が可能になった。

 これでこの孤児院の運営もだいぶ楽になる筈よね。しかも、此処は教会だから私が聖属性の魔力で浄化しなくても大丈夫だしね。

 全ての教会は知らないけど、もともと教会は神聖な場所なのは間違いない。毎日の祈りの所為なのか、放っておいても神聖な氣が溢れている。


「じゃあ、一緒に套路をしようか」
「「「うん!」」」

 小さなミュシャやキキに手を引かれて、孤児院の中庭へと移動する。ルミエール伯爵領は、辺境だから領都であるエルローダスも土地は余裕がある。孤児院の敷地の広いの。


 そこで太極拳の套路から始め、天津無双流の型に移る。

 型を終えると、それぞれ木剣や棒を持って振り始める。将来、冒険者になりたい子も、そうでない子も、戦う力を持っておくのは大切だと思う。特に、冒険者志望の子供には、登録できる年齢までに、ある程度戦えるようにしてあげる必要がある。それは此処が、他所の領から魔境と言われているルミエール伯爵領だから。雑魚の魔物も他領と違い強いからね。

 駆け出しの冒険者が、死亡率が高いのは何処の領でも同じだろうけど、ルミエール伯爵領ではそれを変えたい。


 ひと通り指導を終えると、丁度そのタイミングで、リンジーが皆んなにクッキーを配る、

「「「「わぁーーい!」」」」

 前世の記憶が戻った私からすると、素朴な味なんだけど、それでも皆んな凄く喜んでくれる。

 ルミエール伯爵領は、ユースクリフ王国は言うに及ばず、大陸を探してみても魔力の濃い地だと言われている。その所為で、強力な魔物が多く棲んでいるのだけど、悪い事ばかりじゃない。

 それは農作物の収穫量が多く味も良いという事。

 国に税として納める分を除いても、ルミエール伯爵領では、貧しくても飢える事は少ない。

 だから小麦や大麦も備蓄しても余裕があるから、麦芽糖から水飴でも作ろうかなって思ってる。お父さま的には、水飴よりもお酒だろうけどね。



 孤児院の子供に限らず、多くの領民に身に付けて欲しいのは身体強化の魔法なの。

 身体強化の魔法は、纏う魔力が多くなると扱いは難しいけど、燃費の良い魔法だから平民でも身に付ける事が出来るし、ものに出来れば戦闘だけじゃなく、避難するにも力仕事にも使える。しかも無属性だから、適性関係なしに誰にでも身に付ける事が出来るしね。

 身体強化は奥が深いの。それこそ、膨大な魔力量を誇る私なら、大抵の攻撃を跳ね返せるし、攻撃すればクレーターを形成する事も可能になる。

 まあ、これは巧みな魔力操作の技術ありきだけどね。


「ひめしゃま。えほん、よんで!」
「じゃあ、お部屋に入りましょうか」
「「「わぁーい!」」」

 オヤツを食べ終えると、ミュシャやキキ達よりも小さな子達が、絵本を読んでと私の服を掴んで見上げてくる。メルティやルードと同じくらいかな? 頭を撫で、部屋の中へと子供達と向かう。

 この絵本も、最近私が作った物。最初、可愛いメルティとルードの為にと作ったんだけど、よく考えたらこの世界には、子供が読む絵本なんて無かったのよね。

 アレクお父さまとフローラお母さまが感激して、領内に拡めたいって話になり、慌てて木版画印刷を造る羽目になった。文字部分は、ガンツに協力してもらい、金属を使い活版印刷にしたの。

 だってメルティとルードの為に作った絵本は、私が自分で描いたものだから、同じ物を沢山なんて無理よ。

 ただ、この木版画印刷と活版印刷。この世界の何処にも無かったみたいで、アレクお父さまとセドリックが大騒ぎしたの。アレクお父さまは、急遽紙の生産量を増やすように指示を出し、私も知っている限り製紙関係の知識を伝えたわ。

 そして、私がこの世界に神が存在すると理解せざるを得なかったのが、商業神メルクリウスの神殿に特許を申請し通ると、五年間その特許を侵害すると神罰が当たるというシステム。

 なに、その神様パワーの特許システムって驚いたものよ。

 勿論、特許料を商業神様の神殿に支払い、それが特許取得者に手数料を引いて支払われるシステムがちゃんとある。因みに、製紙の技術は既に特許切れだから誰が作っても問題ない。ただ、材料となる木々や豊富な水が必要な事もあり、何処でも作れるって訳でもないみたいだけどね。

 そんな訳で、商業神様の神殿は大きな街には、必ずユ・ルシア教の教会に併設されてある。勿論、この教会にもあるわ。

 ユ・ルシア教は、創世神ルシアを主神に、色々な神様を祀る多神教だから、ある程度の規模の教会には、ルシア様以外にも武神であり鍛治神でもあるアレス様や、多産と豊穣を司り母なる大地の女神地母神ボディス様の三柱の神様が祀られている事が多い。


 あと特許侵害の神罰も凄く分かりやすいそうで、顔に商業神様の神印が刺青のように浮かび、ジクジクと痛み続けるらしい。

 回復魔法やポーションも効果なく、唯一助かる方法は、商業神様の神殿を通して罰金を支払い、赦しを請うだけだそうだ。

 アレクお父さまに、知らずに特許侵害する可能性を聞くと、必ず先ず神からの警告があるらしい。

 その前に、特許期間が五年なので、大抵の場合特許の期限が切れているので、そうそう警告を受けるなんて事もないそうだ。

 神様からの警告なんて、怖すぎるわよね。


 それで、今日孤児院に来たのも、その木版画が関係している。

 絵師や彫り師は、一朝一夕にはいかないけれど、刷る方なら希望する年長の子供達にどうかとなったの。手に職を付けるのは良い事だから。

 ルミエール伯爵領は、常に魔物と他国からの脅威に晒されているから、食糧生産の増量と安定化、領内経済の活性化は、領地防衛、領民の安全を考えればとても大切なの。

 勿論、ユースクリフ王国の他領との交易もしている。お母さまの実家であるシルフィード辺境伯家とは、お隣という事もあり小麦を売ったり、緊急時の援軍の取り決めなど関係も深い。

 でも、他所の領に依存しない領地経営を目指すのは当然だもの。



 どうせ、私は王都の学園に通う事もないし、貴族令嬢として当たり前の社交の場とも無縁なのは決定している。義手だしね。

 なら、その分ルミエール伯爵領の富国強兵を進めてやる。強兵は王家に警戒される可能性が高いかもっと思ったけど、お父さま曰く「そんなの今更だから関係ないよ」との事なので、領民の安全を思えば、自重なんてする必要はないわ。その一歩が孤児院よね。



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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 とうとう本日放送予定です。
 楽しみにして頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。


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