銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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十九話 三年の歩み

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 私が誘拐され、マーサおばあちゃんに助けられ、奇跡的な確率で右腕が義手となり、ルミエール伯爵領に帰還する事が出来て三年が経った。

 ローディンお兄様もあと一年で学園を卒業で、領地に戻って次期当主として勉強する事になる。

 双子の妹と弟メルティアラとルードルフも六歳になり、勉強や魔法だけじゃなく、ダンスやマナーも習い始めている。

 メルティは、私やフローラお母様ほどじゃないけど、髪色から予想できた通り、少し聖属性の魔法が使えそう。回復魔法使いと名乗ってもいいレベルの素質はあるみたい。

 勿論、メルティとルードには、マーサお婆ちゃんの理論に基づき指導したお陰で、二人とも基本四属性が使えるようになっている。

 とはいえ、ルードは火と風が得意みたいで、メルティは水と氷の魔法が好みみたい。

 これはマーサお婆ちゃんも言ってたんだけど、得意な属性を決め、集中して訓練した方がものになりやすいってね。魔力量が多い貴族でも、四属性をまんべんなく訓練するのは難しい。それなら器用貧乏になるより、二つくらいに絞って訓練した方がいい。


 まぁ、私はそれに当て嵌まらないけどね。

 あれから三年。私の魔力量は止まる事なく成長し続けていて、マーサお婆ちゃんが言ってたように、将来的にドラゴン並みになりそう。

 そんな私だから、魔法の訓練はし放題なのよね。


 メルティとルードには、私も手取り足取り指導している。身内を褒める訳じゃないけど、二人とも天才なのよね。ローディンお兄様も、天才だから王都の学園では敵無しらしい。同じクラスに王子が居るらしいけど、側近になれってしつこいって言ってたわ。そのくらい優秀という事ね。

 そのローディンお兄様は、王都では訓練の相手になるのは、王都住みのうちの家臣くらいしか居ないから、夏と冬の長期休暇では集中して鍛錬に励んでいた。


 そして私の側近として訓練を始めていたララ、マーテル、パティ、ノックスの四人は、順調に成長している。

 ノックスが一つ歳上の十一歳。父親のガーランドに似て体格が良く、身長は既に165センチに届いている。

 ララやマーテル、パティも成長著しく、四人とも魔力量は増え続けているし、魔力感知と魔力操作もだいぶ上達した。

 身体強化の魔法に関しても、騎士団や執事、侍女達使用人の技量も上がってるから、まだ追いついたとは言えないけど、アレクお父様が言うには、近衛騎士団と比べても遜色ないレベルだって。でも同じくらいじゃダメよね。




 そんなふうに、この三年を振り返っていると、私専属の侍女リンジーがやって来た。リンジーも十三歳になり、体もその他も色々と成長している。

 我がルミエール家の戦闘侍女ユノスに師事したリンジーは、この三年で侍女としても戦闘の方面でも成長した。ユノスが師匠という事で、アサシンタイプに成長しているのが少し心配だけどね。

「ユーリお嬢様。ガンツさんが、工房の使用許可を欲しいと言ってきています」
「またなの。今度はなに?」

 オリハルコンの加工をして以来、ガンツは自分の工房を持っているけど、こうして時々私の工房の炉を使いたいと言ってくる。

 そしてガンツが、街にある自分の工房よりも、私の工房にある炉を使いたがるのにも理由はある。

 私の工房は、その周辺も含めて多くの精霊が集まり生まれている。炉にも当然のように火の精霊が住み着いているので、どうやら完成した物の品質が違うみたい。

「ホーリースパイダーの糸と織るミスリル糸を作りたいって言ってましたよ」
「そんなにミスリルって有ったかしら」
「お館様が発注していましたから」
「ああ、騎士団用のね」

 ミスリル自体は希少だからとても高価だけど、糸に加工するならそれ程多くは要らない。それに、このルミエール伯爵家は伯爵家としては裕福な内に入る。

 私が前世の記憶が戻ってからの領内改革も成功しているってのもあるけれど、それ以前から魔物が多い事による魔石を始めとした、魔物素材が高く売れるという理由もある。

 それに加え、木版画や活版印刷に関しては、特許料を支払っても尚使いたい技術だった事も大きいわね。

 あとうっかりしてたけど、この世界には娯楽の類いがほぼ無いのよね。それは、トランプや花札のようなカードゲームから、リバーシやチェス、双六のようなボードゲームまで、存在しなかった。

 勿論、異世界テンプレは抑えとかないとね。片っ端からアレクお父様が商業神様の神殿に登録したわよ。これだけ派手に動いていると、王家に睨まれるんじゃないかと心配したけど、アレクお父様曰く「ルミエール伯爵家に向かって、そんなくだらない事を言う訳がないさ」だって。

 私は理解できずに首を傾げたけど、深く考えても仕方ないと、その辺はスルーする事にしたわ。



 そんなこんなで、ルミエール伯爵家は余裕があるのだけど、アレクお父様が進める案件なら、私に否はない。一応、私の工房だから許可は取ってくれる。

「騎士団用の服を作る糸なら仕方ないわね。好きにしてとガンツに言っておいて」
「承知しました。そう、ガンツさんに言っておきます」

 リンジーがそう言って部屋から出て行った。私は、ララ、マーテル、パティ、ノックスの四人に声を掛ける。

「はい。今日はこのくらいかな。皆んなお疲れ様」
「ふぅ~、まだまだ。お嬢のレベルには程遠いな」
「当たり前じゃない。ノックスなんて、ユーリの足元にも及ばないわよ」
「分かってるよ!」

 私達は、今日の訓練の最後、魔力放出からの魔力操作と感知をしていたの。

 ノックスが、魔力操作の技術では、まだまだだと言うと、ララが全然及ばないのは当然だと指摘する。だけどこの三年で、この四人はかなり成長しているんだけどね。

「はぁ。地脈と宇宙そらから魔力を通して、世界と一体になるのって難しいです」
「ですです」
「魔力を意識的に取り込む事が出来れば、魔力の回復速度が劇的に向上するからね。保有魔力量も増えるし、難しいけど頑張って」

 マーテルとパティが、世界との一体感を感じるところで躓いている。それ自体は、私も目指している境地だから出来なくても仕方ない。

 私の工房周辺の環境は、この三年で随分変化があった。

 私の聖属性の魔力の所為で、清浄で濃い魔力が土地と空間に定着し、薬草園は希少な薬草類で溢れ、泉の水はまるで聖水の如く清らか。一年を通して様々な草花が咲いている。

 余程居心地が良かったのか、聖獣であるホーリースパイダーの数も増え、糸の生産も順調でフローラお母様もホクホクだ。でも、まだよそに売るほどないけどね。

 シルクワームの糸とは違い、ホーリースパイダーの糸は、迂闊に外に出せないレベルの物なので、交易で取引しているのは、シルクワームの糸の方なんだけどね。その交易も、現状フローラお母様の実家のシルフィード辺境伯家に、極小量しか売っていない。餌がヒルクル草だもの。シルクワームを余り増やせないし仕方ない。

「でも、皆んなもだいぶ魔力が増えたわね」
「ユーリに比べれば誤差よ」
「そんな事ないわよ。ララだって既に王都の宮廷魔導士並みでしょう? ララは寧ろこれから成長期なのに」

 マーサお婆ちゃん特性のお茶を飲んで、魔力を枯渇寸前まで放出するのを続ける事三年。私を含めたルミエール伯爵家の皆んなは、魔力量がグッと増えた。これはフローラお母様やアレクお父様達大人を含めてだ。流石に大人は上昇量は多くないけれど、それでも成長期が終わった大人にも効果があると分かったのが大きい。特に私達は、これからが成長期だから尚更先が楽しみになる。

 魔力量の成長は、だいたい七歳くらいから成人する十六歳くらいまでが最も成長すると言われている。その後、成長は鈍化するけど、二十代半ばから三十歳くらいでほぼ止まる。

 ただ、三十歳を超えた人も、マーサお婆ちゃん式魔力量増量訓練をすれば、多少増える事が分かった事に、ルミエール伯爵領の大人達は歓喜したわ。

「でもそれ言うとパティは、もうそこらの貴族よりも多いんじゃない?」
「ルミエール伯爵領以外で、貴族を見ないから分からないけど、多分平民出身なんて思われないよ」
「そ、そんな事ないですよぉ」

 ララとマーテルが言うように、平民の中では魔力量が多めだったパティも、この三年でルミエール以外の貴族の子供に負けないレベルに成長した。パティ自身は、ルミエール伯爵領を出た事がないから自信なさげだけどね。

「寧ろ私は、皆んなが手加減の練習をしないといけないと思うよ」
「ああ、それ有りそうね」
「はい。ルミエール伯爵家の皆さんもかなりレベルアップしてますもんね」
「身内と模擬戦するつもりで、他所の奴らとやったら、下手すりゃ簡単に殺しちゃうな」
「お嬢様。手加減ですか?」

 私が手加減の話をすると、ララは頷きマーテルも最近のルミエール家の地力が上がっていると言う。ノックスも普段、私達やうちの家臣達との模擬戦のつもりで他の人間の相手をすれば、簡単に殺してしまうと分かっている。パティだけは、自分の強さをいまいち分かってないみたいだけど、これは元が平民だから仕方ない。

 魔力が増え、魔力操作の技術も上がったララ達は、身体強化のレベルも子供の域ではなくなっているのよね。

「来年の武闘大会には出れないけど、その次の大会には確実に私達選手として選ばれるわ。その時の為に、手加減の練習も必要かなってね」
「ああ、あのくだらない大会か」
「王都の学園ではローディン様だけだものね」
「ローディン様も、来年が最後ですしね」
「武闘大会! 見に行きたいですね!」

 二年おきに、ユースクリフ王国の学園から生徒を選抜して行われる武闘大会。来年お兄様は、最終学年で最後の大会になる。

 お兄様は、次が三度目の出場で、個人戦の三連覇がかかっている。まあ、100パーセントお兄様の優勝だけどね。

 優勝はお兄様だけど、そもそも決勝トーナメントなんて、ルミエール伯爵家とシルフィード辺境伯家で独占している状態だしね。

「でもユーリ。確かあの大会、魔道具で死なないようになってた筈よ」
「う~ん。そうなんだけどね。それでも心配にならない?」

 ララが言うように武闘大会では、一定以上のダメージをカットする魔道具が使われていると聞いている。でも、私はそれを信用できないのよね。

「そんなのユーリだけよ。まあ、ユーリは手加減も上手いから大丈夫だろうけどね」
「まあ、お嬢は置いといて、俺たちも手加減は覚えた方がいいと思うぞ。王都に行く途中、盗賊なんぞに遭ってみろ。下手すりゃミンチにしちまうぞ」
「ああ、ありそうね」

 ララから手加減が上手いと言われても、いまいち素直に喜べない。そしてノックスが、私達が王都に向かう三年後、その道中の心配をする。うん。手加減の練習はしないとね。



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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 初回放送はいかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただければ幸いなのですが。
 次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。



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