銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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二十話 武術師範

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 今日は、ルミエール伯爵家の領都エルローダスに在る幼年期学園に武術の師範として来ている。

 ルミエール伯爵領には、王都の王立学園のように、十二歳から十六歳まで学ぶ高等学園と、七歳から十一歳まで通う幼年期学園が在る。イメージとしては、小学校と中学校という感じかな。

 勿論、幼年期学園や高等学園は大きな街にしかないので、村や小さな町では幼年期学園の替わりを教会が担い、高等学園は無料で寮を用意している。

 幼年期学園が、七歳から十一歳までとなっているけれど、実際には詰めて通うと二年程で卒業可能な勉強しか教えていない。

 どちらかと言うと、無料で提供される給食を、孤児院の子供達以外にも食べさせる意味合いが強い。

 豊かなルミエール伯爵領とはいえ、個人の能力は様々なので、当然貧富の差はあるし、日々の生活に余裕がない家庭もある。そういう家庭に対するセーフティネットが幼年期学園なの。

 だから幼年期学園に通いながら、家のお手伝いをしている子供が多い。農家なんてほぼそうなんじゃないかな。

 因みに、私やララ、マーテルやノックスなんかの貴族の子供は、幼年期学園に通わず、家庭教師を付けて勉強するのが慣習になっている。

 幼年期学園で教える範囲の勉強は、私達なら七歳の時点でとっくに済んでいるからね。

 それに、施しの意味合いの強い給食なんかを、私達が食べるのは違うもの。貴族や裕福な商人は、幼年期学園に寄付する立場だからね。



 私が幼年期学園の広い校庭に足を踏み入れると、あちこちから声が掛かる。

「姫さまだ!」
「姫さま!」
「ミュシャ、キキ、今日も元気ね」

 孤児院で暮らすミュシャとキキも、もう八歳になり、去年から幼年期学園に通っている。

 ガキ大将だったボランは、十三歳になり高等学園の方へ通っている。

 孤児でも衣食住を整え、ちゃんとした教育を得られれば、今のルミエール伯爵領なら日々の生活に困るような大人にはならないと思う。



 校庭には、動きやすい服装に着替えた子供達が集まっている。

 ミュシャやキキは、学園に入学する前から、孤児院で私が教えているので、この幼年期学園の武術訓練の時間は、リーダーを努めているみたい。

 ルミエール伯爵領に暮らす他の子供達に比べ、親の居ない孤児院の子供達は、冒険者になる割合が多いから、強くならないといけないものね。

「軽く体をほぐしたら、調息から始めるわよ」
「「「はい!」」」

 幼年期学園での武術訓練は、基礎を中心に行っている。

 まだまだ激しいトレーニングは、体に害のある年代だから、魔力を感知したり操作する訓練が主になる。

 魔力の感知も突き詰めれば、相手の動きの先を取る事だって可能になる。勿論、それには長い時間訓練する必要があるけど、ルミエール伯爵領の子供達なら、そんな達人が何人も生まれても不思議じゃないもの。



 魔力操作や感知に役立つとはいえ、天津無双流や太極拳の型だけを教える訳じゃない。剣や槍などの武器を持ち、正しい姿勢で振るい、体に覚え込ませる事は、子供の頃から始めた方がいい。だから、一通り型稽古が終わると、武器を扱う訓練に移る。

「ミュシャ、今日は何の武器の日?」
「今日は、剣の日です。姫さま!」

 幼年期学園では、色々な武器を使って訓練をする。多くの子供が、初めて武器という物に触れるのが入学してからなので、好みや適性を見極めるのが一つ。それと、違う種類の武器を扱う事によって、その武器の長所と短所を把握する意味合いもある。それに、幼年期学園の七歳から十一歳というのは、身体の成長が著しい時期だから、まだ武器を固定したくないのよね。

「そっか、ならララ達も手分けしてお願いね」
「ええ、任せてちょうだい」
「おう。身体の大きい奴には大剣でもいいんだろう?」
「ノックス、無理強いはダメよ」
「分かってるさ」

 ララ達は、教える側になる。平民出身のパティ以外は、五歳の頃から剣を振っていたし、この三年で私がみっちり指導したからね。余程特殊な武器以外はそこそこ使える。

「キキ、ちゃんと刃筋を立てて振るのよ。ほら、音が違うでしょう」
「はい!」
「ミュシャ、少し力み過ぎね。全身がガチガチだと鋭く振れないわよ」
「はい!」

 手取り足取り丁寧に指導する。分からない事は、何度も理解できるまで繰り返し教える。

 やって見せて、やらせてみて、どうしてそうするのか、理まで丁寧に教えると、上達に多少の差はあれど、子供達は着実に成長してくれる。

 私、前世で道場の師範代をしていた時より、教えるの上手くなっている気がする。

 振り下ろし、横薙ぎ、擦り上げ、突き。

 素振りの次には、足運びと共に連撃の練習に移る。これも最初は、決められた型の通り行われるけれど、上級生や孤児院組みは、思い思いに自分でイメージしたコンビネーションを組み立て連撃を繰り出す。



 そして武器術の最後は、模擬戦になる。

「じゃあ、皆んな防具を着けて!」
「「「「はーい!」」」」

 子供達同士の模擬戦など、今までは不可能だったんだけど、そこは前世を思い出した私が竹刀と防具を作った。模擬槍は以前からあったのに、剣は木剣しかなかったのよね。

 剣道の防具とは形を変え、この西洋風のファンタジー世界に違和感なく受け入れるよう気を遣ったわ。

 面、胸当て籠手と脚甲、ショルダーアーマーなどは魔物素材で、軽く頑丈な物を防具職人に発注した。

 本格的な革鎧でもいいんだけど、数が必要だからね。なるべく簡略化しないといけなかったから、ある程度は妥協も必要よね。

 この竹刀や模擬槍と防具による稽古は、ルミエール伯爵領の子供達の技量を格段に上げる事になった。

 本気で打ち合う稽古は大事よね。

 私やララ達や、騎士団や家臣達は、学園の子供達とは違い、模擬戦を行う時、防御力の強化を付与したシルクワーム製の稽古着を着込み、その上に革鎧や金属鎧を装備する。身体強化の魔法で自身を強化しているし、回復魔法使いが常に待機している、今までと変わらない鍛錬になる。

 まあ、シルクワーム製の稽古着が出来てから、だいぶ訓練時の怪我人も減ったけどね。

 さて、私も順番に受太刀してあげようかな。



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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 初回放送はいかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただければ幸いなのですが。
 次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。




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