22 / 35
二十二話 お墓参り
しおりを挟む
お揃いの外套を羽織り、エルローダスの街の門を出る。今日、これからマーサお婆ちゃんのお墓参りに行く。
「お嬢、本気で走って行くつもりですか?」
「ええ、なんならマーカスとジェスも走る?」
「いや、勘弁してください。まぁ、走れない事はないですけどね」
話し掛けてきたのは今日同行する予定の、騎士団で中隊を指揮するマーカスと斥候のジェス。
そう。私とララ、マーテル、パティ、ノックスは訓練を兼ねて走って行くのだ。
「ユーリは元気ねぇ」
「本当だね。でも女の子なのだから、もう少し鍛錬以外も興味を持って欲しいけどね」
「あら、お父様。私、鍛錬以外にもルミエール領の為に、色々と貢献してるわよ」
そして当然、アレクお父様とフローラお母様も一緒だ。是非マーサお婆ちゃんのお墓に参りたいという事で、二人して参加する事になった。
勿論、私達以外は馬に乗っている。それもルミエール伯爵家が所有する軍馬の中でも駿馬を揃えている。
こういう軍馬は、馬型の魔物の血が混じっていて、脚も速くスタミナもある。だけど、その所為で気性も荒く乗り手を選ぶけど、ルミエールの人間で乗りこなせない者はいない。
「じゃあ、出発するよ」
アレクお父様の号令で馬が駆け出す。
それを見て私達も駆ける。
私以外は身体強化の魔法を使い、馬を超えるスピードで走る。
私? 私はこの程度のスピードなら身体強化も必要ないもの。
街道を真っ直ぐに走ると、アレクお父様達が乗る馬を追い越してしまうので、訓練に丁度いいと道を外れて障害物を使ってパルクールのようにして進む。
因みに、今日はフローラお母様も長袍を着ている。動きやすいしね。色は白で、縁取りとか胸や裾などに花や鳥の刺繍を施してある。勿論、ホーリースパイダー製の布地だ。念入りにエンチャントしてあるから、下手な鎧よりも高い防御力を誇るし、状態異常耐性に快適化と防汚もあり、フローラお母様が気に入らない訳がないもの。
私とお揃いだってフローラお母様が喜ぶから、アレクお父様が少し拗ねてたけど、流石に伯爵家当主のお父様は長袍で外には出れないものね。
ルミエール伯爵領を北西に向かい、そこから街道を外れ川沿いを北上する。一度馬を休ませる為に少し休憩を取り、やがて森へと入る。
馬車一台がギリギリ通れる道を、足を止める事なく駆け抜ける。魔物の気配は感じるけど、面倒なので少し威圧すると逃げていき近付かない。
そして森を抜けると、崖の中腹を無理矢理削り造られた道に出る。
馬車が堕ちた場所は、直ぐに分かる。今もその痕跡が残っているから。
私が立ち止まると、ララやマーテル達もその場で待機し、お父様達も追い付いた。そう。走る私達の方が早かったの。
「マーカス、ジェス、馬を頼めるか」
「護衛はどうします?」
「……要るか?」
「要らないですね」
マーカスとジェスはお留守番みたい。崖の上で馬の世話をして待つみたい。マーカスが護衛は要るかお父様に聞くと、チラッと私を見て必要かと言う。そこ、即答しない。
「お嬢、この高さから堕ちて、よく生きてたな」
「本当にね。右腕だけで済んで幸いだったのね」
ノックスとララが、崖下を覗き込んで青い顔をしている。本当、ノックスやララが言う通りだと思う。よく生きてたわよね。マーサお婆ちゃんのお陰だよ。
「降りるわよ」
私は、そう声を掛けて飛び降りる。その後に続く四人。アレクお父様やフローラお母様も続く。
「此処は相変わらず濃い魔力だね」
「ええ、地形的に魔力が溜まりやすいんでしょうね」
「お父様、お母様、地脈も関係しているって、マーサお婆ちゃんは言ってたよ」
不帰の森を前にして、三年前に此処まで来た事のあるアレクお父様が、相変わらずの濃い魔力に溜息を吐く。フローラお母様は訪れるのは初めてだけれど、その興味は別のところにあるみたいで、魔力が濃くなる理由を考察している。お母様は、マーサお婆ちゃんが書いた書籍を今でも時間があれば読んでるからね。
「地脈か。僕達では理解できない分野だね」
「マーサお婆ちゃんが言うには、この森では突発的に魔力スポットが発生して、そこからも魔物が自然発生するそうだよ」
「まぁ! 繁殖で増える以外にもそんな増え方するのね」
『ユーリ、森からお客さんだよ』
「分かってる」
私が、アレクお父様とフローラお母様と話していると、ゴクウが森からの魔物接近を報せてくれる。私やお父様とお母様は既に察知していたけれど、ララ達は慌てて戦闘態勢をとる。
巨木の間から躍り出たのは、頭に二本の短い角が生えた大蛇。
ドガッ!!
鎌首を持ち上げようとした大蛇の頭を、先を読んだように瞬時に飛び上がった私が上から殴り、蛇の頭を地面に叩きつける。
「今よ!」
ララ、マーテル、パティ、ノックスが剣を振り被り、私に殴られ頭を地面に打ち付け、動きが一瞬止まった大蛇の頭へと殺到した。
ザンッ!! ドサッ!
四人の振り下ろした剣が、直径一メートル五十センチはあるだろう頭部を斬り落とした。
『へぇ。珍しいね。こいつ、三本角の熊と並んで、この森のツートップに数えられる程度に強い魔物なんだけど、こんな森の入り口まで出てきたんだ』
「ああ、それってララ達が居る所為じゃない? ララ達もこの三年で魔力量が増えたから、丁度いい餌だと勘違いしたかもね」
『ああ、それだね。ユーリは、魔力操作が完璧だから別にして、チミッ子達はまだまだだもんね』
「チミッ子って言うな!」
ノックスがゴクウに怒ってるけど、サッサと動かないと日が暮れちゃう。
襲って来たのは、全長五十メートルにもなる巨大な大蛇。その名前をサンダーヴァイパー。
猛毒の牙と二本角から放電される雷撃、強力な締め付けが武器の蛇の魔物。
ゴクウはこんな森の入り口付近に居る事に首を傾げたけど、おそらく私達の魔力を感じたのだろう。
マーサお婆ちゃんの書いた魔物図鑑によると、蛇系の魔物は獲物の温度と魔力を感知する能力が高いらしい。だからゴクウがチミッ子って揶揄っているララ達を餌と狙ったんだろうね。
「ねえユーリ。次は僕に任せてくれないか?」
「ええ、いいですよ」
「もう、アレクったら。その剣を使いたいだけでしょう」
「い、いいじゃないか。此処の魔物くらいじゃないと、使う機会がないんだから」
ララ達にこのクラスの魔物との戦闘を経験させたくて、私が手加減しながら初撃を入れたけど、アレクお父様も試し斬りがしたかったみたい。
まあ、分からなくもない。オリハルコン製の剣なんてこんな時くらいしか使い所がないものね。
「マジックバッグに容れておくね。これで防具が更新できるよ」
「まあ、これだけ大きければ、私達五人分の装備を何度か作ってもだいぶ余るわね」
三年前に狩った大蛇も大きかったけど、今回はそれよりもずっと大きいから、装備を作り放題だね。
今も、私やララ達は、長袍の上に着けている胸当や籠手、脛当ては、あの大蛇の革から作られたものだ。
今の装備もかなり防御力が高い、良い物なんだけど、サンダーヴァイパーの革は、物理耐性、魔法耐性共にずっと高いみたいだしね。
前回の大蛇の革も、ルミエール伯爵家の騎士団や従者、侍女、執事達が活用している。
これでまたルミエール伯爵領の強化に繋がるわね。
森の中へは、先頭が私とゴクウ。その次に、ララ、マーテル、パティとノックスが、そしてフローラお母様とアレクお父様が最後尾だ。
これは、索敵範囲が私が一番広いのと、マーサお婆ちゃんの家を知っているのが私だけっていう事もある。
森は相変わらず歩き難い。先ず、人が足を踏み入れる事はない場所なので仕方ないけどね。それでも私の体も成長したからだいぶ楽にはなったかな。
基本的に、私やアレクお父様とフローラお母様は戦わないでララ達に任せ、私達はサポートに徹したの。まあ、お父様がオリハルコンの剣を試したくて、何度か戦っていたけどね。
とはいえ、此処は大陸でも随一の強力な魔物が棲む場所。ララ達四人だけじゃ無理そうな魔物も多く、私やアレクお父様がちょっとだけお手伝いする事も多かった。怪我はフローラお母様が、瞬時に治すし、聖属性の魔法には、味方の防御力を上げたりするものもあるから、そんなサポートをしつつ進む事少し、私は立ち止まる。
目には見えないけれど、魔法使いなら分かるし、魔力に敏感な者なら、そこに結界があるのが分かるだろう。
「まぁ、これがユーリの張った結界なのね」
「うん。少しいじって皆んなが通れるようにするから待ってね」
私は結界に干渉して、皆んなが結界内へ入れるようにする。
「これでよし。これで皆んな入れる筈だよ」
一歩踏み出し結界を抜けると、これまでと同じく魔力は濃いものの清浄な神聖な空気に変化する。
「まぁ、ユーリの工房周辺と似た環境なのね」
「本当だね。これなら魔物も寄り付かないだろうね」
フローラお母様とアレクお父様が、結界内の雰囲気を見て感心している。
「お父様、お母様、こっちです」
私はマーサお婆ちゃんのお墓に案内する。
マーサお婆ちゃんのお墓の周りには、三年経った今も綺麗なお花が沢山咲いていた。
『微精霊や下級精霊が一杯いるから、お花が絶える事もないみたいだね』
私はその場に膝を折り、マーサお婆ちゃんに感謝の祈りを捧げる。
今私がこうして居れるのは、全部マーサお婆ちゃんのお陰だ。いくら感謝してもしきれない。
アレクお父様やフローラお母様、ララ、マーテル、パティ、ノックスも同じように祈ってくれている。
「賢者殿。ユーリが助かったのは貴女のお陰です。ルミエール伯爵家当主として、何より父親として、心からの感謝を……」
「賢者様。私の可愛いユーリを助けてくれてありがとうございます」
「マーサお婆ちゃん。少し時間が空いちゃったけど会いに来たよ」
アレクお父様やフローラお母様も、マーサお婆ちゃんのお墓に感謝の言葉をかけ、私もお婆ちゃんとの短くも楽しかった日々を思い出していた。
お墓参りを終えると、フローラお母様とララ達は家の中の掃除を、アレクお父様は家に不具合がないかチェックをする。
「お墓の周りは、精霊達が綺麗にしてくれてるの?」
『うん。雑草の除去だけだね』
どうりで三年経ったのに、お墓の周りが雑草だらけになってない訳だ。
私は結界用に聖属性の魔力を込めた魔石に、聖属性の魔力を一つ一つ補充していく。
意外と魔石の中の魔力は減っていない。
『そもそも、ユーリが此処に聖属性の魔力を放出してたからね。結界を維持するだけなら、そんなに魔力は消費しなかったのかもね』
「そうかもね。でも、マーサお婆ちゃんが教えてくれた、結界の術式が優秀って事じゃないかな」
『それもあるだろうね』
この調子なら、補充無しでも本当に十年や二十年以上保ちそうだ。
三年振りにお墓に参れてよかった。
最後に、フローラお母様と二人で、結界内に帰路での戦いに支障がない範囲で聖属性の魔力を放出し、私達はルミエール伯爵領へと帰る。
次、また必ず来る事を約束して。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
「お嬢、本気で走って行くつもりですか?」
「ええ、なんならマーカスとジェスも走る?」
「いや、勘弁してください。まぁ、走れない事はないですけどね」
話し掛けてきたのは今日同行する予定の、騎士団で中隊を指揮するマーカスと斥候のジェス。
そう。私とララ、マーテル、パティ、ノックスは訓練を兼ねて走って行くのだ。
「ユーリは元気ねぇ」
「本当だね。でも女の子なのだから、もう少し鍛錬以外も興味を持って欲しいけどね」
「あら、お父様。私、鍛錬以外にもルミエール領の為に、色々と貢献してるわよ」
そして当然、アレクお父様とフローラお母様も一緒だ。是非マーサお婆ちゃんのお墓に参りたいという事で、二人して参加する事になった。
勿論、私達以外は馬に乗っている。それもルミエール伯爵家が所有する軍馬の中でも駿馬を揃えている。
こういう軍馬は、馬型の魔物の血が混じっていて、脚も速くスタミナもある。だけど、その所為で気性も荒く乗り手を選ぶけど、ルミエールの人間で乗りこなせない者はいない。
「じゃあ、出発するよ」
アレクお父様の号令で馬が駆け出す。
それを見て私達も駆ける。
私以外は身体強化の魔法を使い、馬を超えるスピードで走る。
私? 私はこの程度のスピードなら身体強化も必要ないもの。
街道を真っ直ぐに走ると、アレクお父様達が乗る馬を追い越してしまうので、訓練に丁度いいと道を外れて障害物を使ってパルクールのようにして進む。
因みに、今日はフローラお母様も長袍を着ている。動きやすいしね。色は白で、縁取りとか胸や裾などに花や鳥の刺繍を施してある。勿論、ホーリースパイダー製の布地だ。念入りにエンチャントしてあるから、下手な鎧よりも高い防御力を誇るし、状態異常耐性に快適化と防汚もあり、フローラお母様が気に入らない訳がないもの。
私とお揃いだってフローラお母様が喜ぶから、アレクお父様が少し拗ねてたけど、流石に伯爵家当主のお父様は長袍で外には出れないものね。
ルミエール伯爵領を北西に向かい、そこから街道を外れ川沿いを北上する。一度馬を休ませる為に少し休憩を取り、やがて森へと入る。
馬車一台がギリギリ通れる道を、足を止める事なく駆け抜ける。魔物の気配は感じるけど、面倒なので少し威圧すると逃げていき近付かない。
そして森を抜けると、崖の中腹を無理矢理削り造られた道に出る。
馬車が堕ちた場所は、直ぐに分かる。今もその痕跡が残っているから。
私が立ち止まると、ララやマーテル達もその場で待機し、お父様達も追い付いた。そう。走る私達の方が早かったの。
「マーカス、ジェス、馬を頼めるか」
「護衛はどうします?」
「……要るか?」
「要らないですね」
マーカスとジェスはお留守番みたい。崖の上で馬の世話をして待つみたい。マーカスが護衛は要るかお父様に聞くと、チラッと私を見て必要かと言う。そこ、即答しない。
「お嬢、この高さから堕ちて、よく生きてたな」
「本当にね。右腕だけで済んで幸いだったのね」
ノックスとララが、崖下を覗き込んで青い顔をしている。本当、ノックスやララが言う通りだと思う。よく生きてたわよね。マーサお婆ちゃんのお陰だよ。
「降りるわよ」
私は、そう声を掛けて飛び降りる。その後に続く四人。アレクお父様やフローラお母様も続く。
「此処は相変わらず濃い魔力だね」
「ええ、地形的に魔力が溜まりやすいんでしょうね」
「お父様、お母様、地脈も関係しているって、マーサお婆ちゃんは言ってたよ」
不帰の森を前にして、三年前に此処まで来た事のあるアレクお父様が、相変わらずの濃い魔力に溜息を吐く。フローラお母様は訪れるのは初めてだけれど、その興味は別のところにあるみたいで、魔力が濃くなる理由を考察している。お母様は、マーサお婆ちゃんが書いた書籍を今でも時間があれば読んでるからね。
「地脈か。僕達では理解できない分野だね」
「マーサお婆ちゃんが言うには、この森では突発的に魔力スポットが発生して、そこからも魔物が自然発生するそうだよ」
「まぁ! 繁殖で増える以外にもそんな増え方するのね」
『ユーリ、森からお客さんだよ』
「分かってる」
私が、アレクお父様とフローラお母様と話していると、ゴクウが森からの魔物接近を報せてくれる。私やお父様とお母様は既に察知していたけれど、ララ達は慌てて戦闘態勢をとる。
巨木の間から躍り出たのは、頭に二本の短い角が生えた大蛇。
ドガッ!!
鎌首を持ち上げようとした大蛇の頭を、先を読んだように瞬時に飛び上がった私が上から殴り、蛇の頭を地面に叩きつける。
「今よ!」
ララ、マーテル、パティ、ノックスが剣を振り被り、私に殴られ頭を地面に打ち付け、動きが一瞬止まった大蛇の頭へと殺到した。
ザンッ!! ドサッ!
四人の振り下ろした剣が、直径一メートル五十センチはあるだろう頭部を斬り落とした。
『へぇ。珍しいね。こいつ、三本角の熊と並んで、この森のツートップに数えられる程度に強い魔物なんだけど、こんな森の入り口まで出てきたんだ』
「ああ、それってララ達が居る所為じゃない? ララ達もこの三年で魔力量が増えたから、丁度いい餌だと勘違いしたかもね」
『ああ、それだね。ユーリは、魔力操作が完璧だから別にして、チミッ子達はまだまだだもんね』
「チミッ子って言うな!」
ノックスがゴクウに怒ってるけど、サッサと動かないと日が暮れちゃう。
襲って来たのは、全長五十メートルにもなる巨大な大蛇。その名前をサンダーヴァイパー。
猛毒の牙と二本角から放電される雷撃、強力な締め付けが武器の蛇の魔物。
ゴクウはこんな森の入り口付近に居る事に首を傾げたけど、おそらく私達の魔力を感じたのだろう。
マーサお婆ちゃんの書いた魔物図鑑によると、蛇系の魔物は獲物の温度と魔力を感知する能力が高いらしい。だからゴクウがチミッ子って揶揄っているララ達を餌と狙ったんだろうね。
「ねえユーリ。次は僕に任せてくれないか?」
「ええ、いいですよ」
「もう、アレクったら。その剣を使いたいだけでしょう」
「い、いいじゃないか。此処の魔物くらいじゃないと、使う機会がないんだから」
ララ達にこのクラスの魔物との戦闘を経験させたくて、私が手加減しながら初撃を入れたけど、アレクお父様も試し斬りがしたかったみたい。
まあ、分からなくもない。オリハルコン製の剣なんてこんな時くらいしか使い所がないものね。
「マジックバッグに容れておくね。これで防具が更新できるよ」
「まあ、これだけ大きければ、私達五人分の装備を何度か作ってもだいぶ余るわね」
三年前に狩った大蛇も大きかったけど、今回はそれよりもずっと大きいから、装備を作り放題だね。
今も、私やララ達は、長袍の上に着けている胸当や籠手、脛当ては、あの大蛇の革から作られたものだ。
今の装備もかなり防御力が高い、良い物なんだけど、サンダーヴァイパーの革は、物理耐性、魔法耐性共にずっと高いみたいだしね。
前回の大蛇の革も、ルミエール伯爵家の騎士団や従者、侍女、執事達が活用している。
これでまたルミエール伯爵領の強化に繋がるわね。
森の中へは、先頭が私とゴクウ。その次に、ララ、マーテル、パティとノックスが、そしてフローラお母様とアレクお父様が最後尾だ。
これは、索敵範囲が私が一番広いのと、マーサお婆ちゃんの家を知っているのが私だけっていう事もある。
森は相変わらず歩き難い。先ず、人が足を踏み入れる事はない場所なので仕方ないけどね。それでも私の体も成長したからだいぶ楽にはなったかな。
基本的に、私やアレクお父様とフローラお母様は戦わないでララ達に任せ、私達はサポートに徹したの。まあ、お父様がオリハルコンの剣を試したくて、何度か戦っていたけどね。
とはいえ、此処は大陸でも随一の強力な魔物が棲む場所。ララ達四人だけじゃ無理そうな魔物も多く、私やアレクお父様がちょっとだけお手伝いする事も多かった。怪我はフローラお母様が、瞬時に治すし、聖属性の魔法には、味方の防御力を上げたりするものもあるから、そんなサポートをしつつ進む事少し、私は立ち止まる。
目には見えないけれど、魔法使いなら分かるし、魔力に敏感な者なら、そこに結界があるのが分かるだろう。
「まぁ、これがユーリの張った結界なのね」
「うん。少しいじって皆んなが通れるようにするから待ってね」
私は結界に干渉して、皆んなが結界内へ入れるようにする。
「これでよし。これで皆んな入れる筈だよ」
一歩踏み出し結界を抜けると、これまでと同じく魔力は濃いものの清浄な神聖な空気に変化する。
「まぁ、ユーリの工房周辺と似た環境なのね」
「本当だね。これなら魔物も寄り付かないだろうね」
フローラお母様とアレクお父様が、結界内の雰囲気を見て感心している。
「お父様、お母様、こっちです」
私はマーサお婆ちゃんのお墓に案内する。
マーサお婆ちゃんのお墓の周りには、三年経った今も綺麗なお花が沢山咲いていた。
『微精霊や下級精霊が一杯いるから、お花が絶える事もないみたいだね』
私はその場に膝を折り、マーサお婆ちゃんに感謝の祈りを捧げる。
今私がこうして居れるのは、全部マーサお婆ちゃんのお陰だ。いくら感謝してもしきれない。
アレクお父様やフローラお母様、ララ、マーテル、パティ、ノックスも同じように祈ってくれている。
「賢者殿。ユーリが助かったのは貴女のお陰です。ルミエール伯爵家当主として、何より父親として、心からの感謝を……」
「賢者様。私の可愛いユーリを助けてくれてありがとうございます」
「マーサお婆ちゃん。少し時間が空いちゃったけど会いに来たよ」
アレクお父様やフローラお母様も、マーサお婆ちゃんのお墓に感謝の言葉をかけ、私もお婆ちゃんとの短くも楽しかった日々を思い出していた。
お墓参りを終えると、フローラお母様とララ達は家の中の掃除を、アレクお父様は家に不具合がないかチェックをする。
「お墓の周りは、精霊達が綺麗にしてくれてるの?」
『うん。雑草の除去だけだね』
どうりで三年経ったのに、お墓の周りが雑草だらけになってない訳だ。
私は結界用に聖属性の魔力を込めた魔石に、聖属性の魔力を一つ一つ補充していく。
意外と魔石の中の魔力は減っていない。
『そもそも、ユーリが此処に聖属性の魔力を放出してたからね。結界を維持するだけなら、そんなに魔力は消費しなかったのかもね』
「そうかもね。でも、マーサお婆ちゃんが教えてくれた、結界の術式が優秀って事じゃないかな」
『それもあるだろうね』
この調子なら、補充無しでも本当に十年や二十年以上保ちそうだ。
三年振りにお墓に参れてよかった。
最後に、フローラお母様と二人で、結界内に帰路での戦いに支障がない範囲で聖属性の魔力を放出し、私達はルミエール伯爵領へと帰る。
次、また必ず来る事を約束して。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
232
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる