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二十四話 後始末
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詳しく調べるまでもなく、奴らはやっぱり盗賊じゃなかった。
シルフィードのジルベールお祖父様からは、凄く感謝されたけど、今はアレクお父様やフローラお母様は王都なので、御礼は後程という事になった。
盗賊、改め、傭兵団の処遇は、シルフィード辺境伯家で決める事になる。
そう。あいつらは、バルドル王国から、シルフィード辺境伯領を荒らすという依頼を受けていた傭兵団だった。
ただ、ジルベールお祖父様曰く、傭兵達の言う事を、そのまま信じるのは危ういらしい。お祖父様は、バルドル王国の裏にローデシア王国の影が見えると言っていた。
「どちらにしても、お父様達が戻ってからね」
「そうですな。ローディン様が戻られれば、ユーリお嬢様ももっと動きやすくなるでしょうし」
私は、工房の側に作った四阿で、ガーランドとリンジーの淹れてくれたお茶を飲みながら、盗賊改め傭兵団の件の報告を聞いていた。
「それと、あの傭兵団。かなり碌でもない傭兵団だったらしく、盗賊と言っても過言ではないような活動をしていたそうですな」
「でしょうね。私やララを見て、いやらしい顔して襲って来たんだもの」
私もララも、十一歳にしては背も高い方だけど、それでも子供にしか見えない。そんな子供に欲情する変態達なんて、最悪もいいところよね。
「まぁ、奴らの性癖は別にして、戦闘力では定評があったようです」
「それは、まあ数の不利があったとはいえ、シルフィード辺境伯家の騎士が怪我を負い、逃走を許しているんだものね」
国境付近を巡回する騎士は、それなりに実力がある者を揃えている筈だからね。
「まぁ、五十を超える人数では、流石に手に余るでしょう」
「うちの騎士達とは違うものね」
ガーランドが言うには、シルフィード辺境伯の国境付近を巡回する騎士は、小隊規模だったらしく、何人か盗賊に扮した傭兵団を仕留めたそうだけど、小隊では撃退するのが精一杯だったそうだ。
ルミエール伯爵家の騎士なら、五十人規模の傭兵団でも、ほぼ完封可能だと思うけどね。
「そう言えば、愚息は随分とやらかしたようで」
「そこまででもないけど、得物が大剣だからね。手加減も難しいと思うわ。捕縛目的なら棒か何か持たせた方がいいかも」
ガーランドが、息子であるノックスの事を謝ってきた。だけど、あれはノックスが大剣を使っている事も関係している。どうしたって破壊力があるからね。小技に向かない分、手加減は難しい。
「そもそも今回みたいに、生かして情報を取るなんて考えないものね」
「ですな。盗賊など生かしても無駄ですからな」
盗賊を捕縛して牢に放り込んでも税金の無駄なのよね。ラノベであるように、犯罪奴隷がない訳じゃないけど、ユースクリフ王国では奴隷制度はない。危険な鉱山に犯罪奴隷を、なんて話はない。鉱夫も素人の犯罪奴隷なんて使ったら危なくて仕方ないもの。
しかも軽犯罪の場合には、罰として労働奉仕とかあるし、例え殺人でも一応裁判はあるのだけれど、あの手の盗賊はほぼ死刑だからね。
まあ、それもルミエール伯爵領の常識で、中には犯罪者を隷属の魔法で縛って、過酷な労働刑にする貴族もあるらしい。奴隷制度はなくても、違法にまでならないところが、私的には中途半端で嫌な感じだ。
「お父様達の帰還の予定は?」
「もう王都を出た頃でしょうが、お館様も奥方様も人気ですから、偶に王都に出向くと面会希望が殺到するでしょうからな」
「うわぁ、面倒ね」
アレクお父様達は、ローディンお兄様の卒業式が終わると、幾つかのパーティーに出席して帰って来ると聞いている。ガーランドに、あとどのくらいで戻るのか聞くと、王都での用事が終わっても、帰って来るまでが大変らしい。
アレクお父様は、ユースクリフ王国が誇る剣聖だし、フローラお母様は女神様の髪色の聖魔法使い。滞在中は勿論、帰路の途中に立ち寄る貴族家や、それ以外の貴族家からも面会の要請があるみたい。
「お館様の帰還のタイミングに合わせて、シルフィード卿がお礼に来られる予定なので、何時になるか、何度も使い魔を飛ばして確認しているのですが……」
「本当、面倒ね。まぁ、シルフィードのお祖父様もお忙しいものね」
今回、被害をほぼ出さずに済んだけど、騎士には怪我人が出ているもの。シルフィードのジルベールお祖父様も、領内の引き締めや強化など、色々と忙しいと思う。そんな中、格下の伯爵家とはいえ、誠意を見せる意味で、自ら出向いて礼をすると、スケジュールの調整をしている。
まあ、ほぼ孫に会いに来る為なんだけどね。
ガーランドと話していると、そこに侍女のユノスがやって来た。
「ユーリお嬢様。例の奴らの持ち物に、証拠となる物はありませんでした。装備も、一般的な傭兵団が持つ物と大差ないですね」
「でしょうね。まあ、ただ素行の悪い傭兵団に、汚れ仕事を頼んだってだけかもね」
「おそらく。多分、依頼主が誰かも知らされていないと思います」
「分かったわ。じゃあ、その辺の事と自白した内容を含めて報告書をお願い」
「承知しました」
一礼してユノスが去って行く。
「わざわざ気配を消して消えなくてもいいのに」
「ククッ、ユノスも常に研鑽しておりますからな」
家の家人達の中で、隠密系の技術を持つ者達が、この数年何故か技術の研鑽に熱心だ。
まあ、何故かと言ったけど、理由は分かっている。私が原因だ。
私は、それこそ『氣』を感じ操るので、他人の氣にも敏感だ。気配を察知するという分野に限っては、アレクお父様やフローラお母様、先代のガドウィンお祖父様やサーシャお祖母様よりも優れている。それに加えて、魔力の感知や操作も高いレベルだと自負できる。
そうなると、我が家に仕える者の中で、隠密系の技術を持つ人達が、私の察知から逃れる事を目標に訓練し始めたの。訓練の方向性は間違いではないんだけどね。
「はぁ、ローデシア王国って、懲りないわね。それとバルドル王国も、ローデシア王国に尻尾振り過ぎだと思うの」
「まぁ、ローデシア王国は、シルフィード辺境伯家と我がルミエール伯爵家に、長年痛い目を見ておりますからな」
「それは知っているけど自業自得じゃない。諦めるって事を知らないのかしら」
「ユースクリフ王国は肥沃な恵まれた地ですから」
ローデシア王国の諦めの悪さって言うか、執着心は感心しちゃうわね。
ローデシア王国やバルドル王国は、ガーランドが言うように、肥沃で豊かなユースクリフ王国が欲しくて仕方ないのよね。
そして地味にルミエール伯爵領も、大穀倉地帯だ。魔力の濃い土地だけに、植物の成長が良い。その農地を荒らそうとする強力な魔物も多いけど、うちは農民も強いし猟師も木樵も立派な戦士だからね。
ルミエール伯爵家を継ぐ、ローディンお兄様も大変だと他人事の様に考えていると、ふと思った事をガーランドに聞いてみる。
「そう言えば、ローディンお兄様の婚約者って決まったのかしら。その手の話って聞いた事ないのだけれど」
「……はぁ、お嬢様は、興味のないお話は耳に入ってそのまま出ていかれるようですな。ロックウェル侯爵家の令嬢と婚約なされていますぞ」
「えっ!? ロックウェル侯爵家って、四大侯爵家じゃない。凄いわね」
「はぁ……」
ローディンお兄様は、伯爵家の嫡男なので、婚約者が居ても不思議ではない。今年成人の十六歳なので、決まっていなければおかしいくらいだ。
ただ、相手が四大侯爵家のロックウェル侯爵令嬢とは思わなかった。
四大侯爵家とは、侯爵家の中でも特に家格が高く、力のある家を指してそう呼ばれている。
「それで、どんな人なの?」
「お館様や奥方様からお話があった筈なのですがね。お名前は、エリザベス・ロックウェル侯爵令嬢。お歳はローディン様の一つ下だと聞いています」
「へぇ~。と言う事は、学園で出会ったのかな? そんな事ないか。貴族家の婚姻なんて政略結婚だもんね」
王都の学園で一つ下だったらしい。おお、青春なの? って思ったけど、貴族家の嫡男の婚姻なんて政略結婚よね。
「いえいえ。ルミエール伯爵家は、代々ほぼ恋愛結婚ですぞ」
「嘘! うちって本当、異端よね」
「まぁ、それは否定出来ませんな」
驚きの発見。アレクお父様やフローラお母様は勿論、ガドウィンお祖父様やサーシャお祖母様も恋愛結婚だったらしい。まあ、私には縁の無いな話だけどね。
とはいえ、政治的な側面がまったく皆無かと問われればそれも違う。ルミエール伯爵家と、フローラお母様の実家であるシルフィード辺境伯家は、お隣同士だし、軍事的な繋がりも強く、その関係でお父様とお母様は、子供の頃からのいわゆる幼馴染と言う奴ね。
そんな武門の名家同士の結び付きが強くなるのは、メリットも多いと言う訳。
ここでお兄様のお相手に私が驚いたのは、ロックウェル侯爵家は、どちらかと言えば武の家柄ではなく財務系の家柄で、代々優れた文官を輩出する家だから。
「どうやらローディン様を見たエリザベス嬢が、一目惚れしたらしいですぞ」
「お兄様、イケメンだけど、その方面は鈍感だからエリザベス様も苦労したでしょうね」
妹の私から見ても、ローディンお兄様は凄くイケメンだ。アレクお父様とフローラお母様の子供なんだから、当然と言えば当然なんだけど、ローディンお兄様自身に自覚は薄いのよね。
そもそも古くから続く貴族家の人間は、美形が多いのは当たり前で、そういう風に血を繋いできたからだ。
特に、ルミエール伯爵家やシルフィード辺境伯家は、その血に種族的に美形の多いエルフの血も入っているので余計になのかもね。その辺りは、中央の貴族からしたら田舎貴族と嫌われている原因でもあるんだけどね。
「まぁ、ユーリお嬢様は、社交界とは無縁ですから、エリザベス嬢を知らなくても仕方ないですな」
「興味もないし、私はコレだからね」
私は銀色の右手をプラプラさせて言う。
ルミエール伯爵家では、感じる事もないので忘れがちだけど、この世界の貴族は基本的に男尊女卑が激しい。貴族の子女として生まれたなら、どれだけ良い条件の嫁ぎ先を見つけるかが重要らしい。まったく意味が分からない。
そういう事で、私のように誘拐された事実が有り、しかも右腕が義手とくれば、その時点で普通の結婚は望めない。それは、私の義手を初めて見た、フローラお母様が嘆き悲しんだように、女性が活躍するルミエール伯爵家でも変わらない。
私としては、結婚に関しては、前世で失敗はしたけど経験済みだから、今世では武の道を歩むつもりなんだけどね。
さて、午後の鍛錬を始めようかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
シルフィードのジルベールお祖父様からは、凄く感謝されたけど、今はアレクお父様やフローラお母様は王都なので、御礼は後程という事になった。
盗賊、改め、傭兵団の処遇は、シルフィード辺境伯家で決める事になる。
そう。あいつらは、バルドル王国から、シルフィード辺境伯領を荒らすという依頼を受けていた傭兵団だった。
ただ、ジルベールお祖父様曰く、傭兵達の言う事を、そのまま信じるのは危ういらしい。お祖父様は、バルドル王国の裏にローデシア王国の影が見えると言っていた。
「どちらにしても、お父様達が戻ってからね」
「そうですな。ローディン様が戻られれば、ユーリお嬢様ももっと動きやすくなるでしょうし」
私は、工房の側に作った四阿で、ガーランドとリンジーの淹れてくれたお茶を飲みながら、盗賊改め傭兵団の件の報告を聞いていた。
「それと、あの傭兵団。かなり碌でもない傭兵団だったらしく、盗賊と言っても過言ではないような活動をしていたそうですな」
「でしょうね。私やララを見て、いやらしい顔して襲って来たんだもの」
私もララも、十一歳にしては背も高い方だけど、それでも子供にしか見えない。そんな子供に欲情する変態達なんて、最悪もいいところよね。
「まぁ、奴らの性癖は別にして、戦闘力では定評があったようです」
「それは、まあ数の不利があったとはいえ、シルフィード辺境伯家の騎士が怪我を負い、逃走を許しているんだものね」
国境付近を巡回する騎士は、それなりに実力がある者を揃えている筈だからね。
「まぁ、五十を超える人数では、流石に手に余るでしょう」
「うちの騎士達とは違うものね」
ガーランドが言うには、シルフィード辺境伯の国境付近を巡回する騎士は、小隊規模だったらしく、何人か盗賊に扮した傭兵団を仕留めたそうだけど、小隊では撃退するのが精一杯だったそうだ。
ルミエール伯爵家の騎士なら、五十人規模の傭兵団でも、ほぼ完封可能だと思うけどね。
「そう言えば、愚息は随分とやらかしたようで」
「そこまででもないけど、得物が大剣だからね。手加減も難しいと思うわ。捕縛目的なら棒か何か持たせた方がいいかも」
ガーランドが、息子であるノックスの事を謝ってきた。だけど、あれはノックスが大剣を使っている事も関係している。どうしたって破壊力があるからね。小技に向かない分、手加減は難しい。
「そもそも今回みたいに、生かして情報を取るなんて考えないものね」
「ですな。盗賊など生かしても無駄ですからな」
盗賊を捕縛して牢に放り込んでも税金の無駄なのよね。ラノベであるように、犯罪奴隷がない訳じゃないけど、ユースクリフ王国では奴隷制度はない。危険な鉱山に犯罪奴隷を、なんて話はない。鉱夫も素人の犯罪奴隷なんて使ったら危なくて仕方ないもの。
しかも軽犯罪の場合には、罰として労働奉仕とかあるし、例え殺人でも一応裁判はあるのだけれど、あの手の盗賊はほぼ死刑だからね。
まあ、それもルミエール伯爵領の常識で、中には犯罪者を隷属の魔法で縛って、過酷な労働刑にする貴族もあるらしい。奴隷制度はなくても、違法にまでならないところが、私的には中途半端で嫌な感じだ。
「お父様達の帰還の予定は?」
「もう王都を出た頃でしょうが、お館様も奥方様も人気ですから、偶に王都に出向くと面会希望が殺到するでしょうからな」
「うわぁ、面倒ね」
アレクお父様達は、ローディンお兄様の卒業式が終わると、幾つかのパーティーに出席して帰って来ると聞いている。ガーランドに、あとどのくらいで戻るのか聞くと、王都での用事が終わっても、帰って来るまでが大変らしい。
アレクお父様は、ユースクリフ王国が誇る剣聖だし、フローラお母様は女神様の髪色の聖魔法使い。滞在中は勿論、帰路の途中に立ち寄る貴族家や、それ以外の貴族家からも面会の要請があるみたい。
「お館様の帰還のタイミングに合わせて、シルフィード卿がお礼に来られる予定なので、何時になるか、何度も使い魔を飛ばして確認しているのですが……」
「本当、面倒ね。まぁ、シルフィードのお祖父様もお忙しいものね」
今回、被害をほぼ出さずに済んだけど、騎士には怪我人が出ているもの。シルフィードのジルベールお祖父様も、領内の引き締めや強化など、色々と忙しいと思う。そんな中、格下の伯爵家とはいえ、誠意を見せる意味で、自ら出向いて礼をすると、スケジュールの調整をしている。
まあ、ほぼ孫に会いに来る為なんだけどね。
ガーランドと話していると、そこに侍女のユノスがやって来た。
「ユーリお嬢様。例の奴らの持ち物に、証拠となる物はありませんでした。装備も、一般的な傭兵団が持つ物と大差ないですね」
「でしょうね。まあ、ただ素行の悪い傭兵団に、汚れ仕事を頼んだってだけかもね」
「おそらく。多分、依頼主が誰かも知らされていないと思います」
「分かったわ。じゃあ、その辺の事と自白した内容を含めて報告書をお願い」
「承知しました」
一礼してユノスが去って行く。
「わざわざ気配を消して消えなくてもいいのに」
「ククッ、ユノスも常に研鑽しておりますからな」
家の家人達の中で、隠密系の技術を持つ者達が、この数年何故か技術の研鑽に熱心だ。
まあ、何故かと言ったけど、理由は分かっている。私が原因だ。
私は、それこそ『氣』を感じ操るので、他人の氣にも敏感だ。気配を察知するという分野に限っては、アレクお父様やフローラお母様、先代のガドウィンお祖父様やサーシャお祖母様よりも優れている。それに加えて、魔力の感知や操作も高いレベルだと自負できる。
そうなると、我が家に仕える者の中で、隠密系の技術を持つ人達が、私の察知から逃れる事を目標に訓練し始めたの。訓練の方向性は間違いではないんだけどね。
「はぁ、ローデシア王国って、懲りないわね。それとバルドル王国も、ローデシア王国に尻尾振り過ぎだと思うの」
「まぁ、ローデシア王国は、シルフィード辺境伯家と我がルミエール伯爵家に、長年痛い目を見ておりますからな」
「それは知っているけど自業自得じゃない。諦めるって事を知らないのかしら」
「ユースクリフ王国は肥沃な恵まれた地ですから」
ローデシア王国の諦めの悪さって言うか、執着心は感心しちゃうわね。
ローデシア王国やバルドル王国は、ガーランドが言うように、肥沃で豊かなユースクリフ王国が欲しくて仕方ないのよね。
そして地味にルミエール伯爵領も、大穀倉地帯だ。魔力の濃い土地だけに、植物の成長が良い。その農地を荒らそうとする強力な魔物も多いけど、うちは農民も強いし猟師も木樵も立派な戦士だからね。
ルミエール伯爵家を継ぐ、ローディンお兄様も大変だと他人事の様に考えていると、ふと思った事をガーランドに聞いてみる。
「そう言えば、ローディンお兄様の婚約者って決まったのかしら。その手の話って聞いた事ないのだけれど」
「……はぁ、お嬢様は、興味のないお話は耳に入ってそのまま出ていかれるようですな。ロックウェル侯爵家の令嬢と婚約なされていますぞ」
「えっ!? ロックウェル侯爵家って、四大侯爵家じゃない。凄いわね」
「はぁ……」
ローディンお兄様は、伯爵家の嫡男なので、婚約者が居ても不思議ではない。今年成人の十六歳なので、決まっていなければおかしいくらいだ。
ただ、相手が四大侯爵家のロックウェル侯爵令嬢とは思わなかった。
四大侯爵家とは、侯爵家の中でも特に家格が高く、力のある家を指してそう呼ばれている。
「それで、どんな人なの?」
「お館様や奥方様からお話があった筈なのですがね。お名前は、エリザベス・ロックウェル侯爵令嬢。お歳はローディン様の一つ下だと聞いています」
「へぇ~。と言う事は、学園で出会ったのかな? そんな事ないか。貴族家の婚姻なんて政略結婚だもんね」
王都の学園で一つ下だったらしい。おお、青春なの? って思ったけど、貴族家の嫡男の婚姻なんて政略結婚よね。
「いえいえ。ルミエール伯爵家は、代々ほぼ恋愛結婚ですぞ」
「嘘! うちって本当、異端よね」
「まぁ、それは否定出来ませんな」
驚きの発見。アレクお父様やフローラお母様は勿論、ガドウィンお祖父様やサーシャお祖母様も恋愛結婚だったらしい。まあ、私には縁の無いな話だけどね。
とはいえ、政治的な側面がまったく皆無かと問われればそれも違う。ルミエール伯爵家と、フローラお母様の実家であるシルフィード辺境伯家は、お隣同士だし、軍事的な繋がりも強く、その関係でお父様とお母様は、子供の頃からのいわゆる幼馴染と言う奴ね。
そんな武門の名家同士の結び付きが強くなるのは、メリットも多いと言う訳。
ここでお兄様のお相手に私が驚いたのは、ロックウェル侯爵家は、どちらかと言えば武の家柄ではなく財務系の家柄で、代々優れた文官を輩出する家だから。
「どうやらローディン様を見たエリザベス嬢が、一目惚れしたらしいですぞ」
「お兄様、イケメンだけど、その方面は鈍感だからエリザベス様も苦労したでしょうね」
妹の私から見ても、ローディンお兄様は凄くイケメンだ。アレクお父様とフローラお母様の子供なんだから、当然と言えば当然なんだけど、ローディンお兄様自身に自覚は薄いのよね。
そもそも古くから続く貴族家の人間は、美形が多いのは当たり前で、そういう風に血を繋いできたからだ。
特に、ルミエール伯爵家やシルフィード辺境伯家は、その血に種族的に美形の多いエルフの血も入っているので余計になのかもね。その辺りは、中央の貴族からしたら田舎貴族と嫌われている原因でもあるんだけどね。
「まぁ、ユーリお嬢様は、社交界とは無縁ですから、エリザベス嬢を知らなくても仕方ないですな」
「興味もないし、私はコレだからね」
私は銀色の右手をプラプラさせて言う。
ルミエール伯爵家では、感じる事もないので忘れがちだけど、この世界の貴族は基本的に男尊女卑が激しい。貴族の子女として生まれたなら、どれだけ良い条件の嫁ぎ先を見つけるかが重要らしい。まったく意味が分からない。
そういう事で、私のように誘拐された事実が有り、しかも右腕が義手とくれば、その時点で普通の結婚は望めない。それは、私の義手を初めて見た、フローラお母様が嘆き悲しんだように、女性が活躍するルミエール伯爵家でも変わらない。
私としては、結婚に関しては、前世で失敗はしたけど経験済みだから、今世では武の道を歩むつもりなんだけどね。
さて、午後の鍛錬を始めようかな。
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この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
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