25 / 35
二十五話 再会
しおりを挟む
王都からアレクお父様達が乗る馬車が戻って来た。それを私達が出迎える。
「お姉さま!」
「お姉さま!」
馬車から一番に飛び出して来たのは、メルティとルード。二人が私に抱きついて来る。
「メルティ。ルード。お帰りなさい」
「「ただいま!」」
「メルティ、はしたないわよ」
ただ、馬車から飛び出したのを見て、フローラお母様がメルティを注意するも、二人はまだ七歳だものね。貴族令嬢としての教育も始まったばかりだから仕方ない。それに、公の場でなければOKよね。
その時、私がフワリと抱き上げられる。
「ユーリ!」
メルティとルードごと私を抱き上げたのは、学園を卒業し帰って来たローディンお兄様だ。
「もう。お兄様ったら。私はもう抱っこされる歳ではありませんよ」
「そんな事ないさ。三人とも何歳になっても、僕の可愛い妹と弟だからね」
三人をまとめて抱くローディンお兄様。ローディンお兄様は、十六歳になり背も百八十センチ近い。もう二年もすれば、百九十センチ近くあるお父様と同じくらいになりそう。
「ほらほら、家に入ってからにしよう」
アレクお父様が、パンパンと手を叩いて皆んなを屋敷の中に入るよう促す。
それもそうだ。馬車での長旅だもの。先ずは休んで頂かないとね。
ルミエール伯爵家の馬車は、魔物の血が混じった馬が轢くので普通の馬車よりもずっと速い。それに、この四年の間に私とガンツが馬車を改良に改良を重ね魔改造した結果、更に速度が上がっている。
ルミエール伯爵領は、魔物素材に困らない。訓練の一環で一杯手に入るからね。その質の良い魔物素材の扱いは、鍛治師のガンツと精霊魔法使い仲間のエルフ姉妹、シルエル、ウルエルに手伝ってもらい、私もマーサお婆ちゃんから教えてもらった錬金術と付与術を頑張った。
この四年、武術や魔法だけを鍛錬していた訳じゃない。マーサお婆ちゃんの遺産である様々な書籍や資料を受け継いだ私に、フローラお母様からその賢者の知識と経験、技を受け継ぐよう言われたの。
マーサお婆ちゃんから、調薬や錬金術などの触りは教えてもらってたので、あとはマーサお婆ちゃんが書いた本を手に頑張ったよ。その手助けをしてくれたのが、シルエルとウルエルだ。
そんなこんなで、魔物素材により馬車の軽量化と強化は勿論の事、馬車の構造的な改造を進め、振動を抑え軽量で操作性の良い馬車が完成したの。
まあ、とは言っても、自動車や新幹線みたいに快適に速い訳じゃない。王都まで数日掛かる道のりを座りっぱなしは疲れただろう。
私はメルティとルードの手を繋いで、屋敷の中へと向かった。
アレクお父様達が、旅の埃を落とす為にお風呂に入って出て来るのを、家族専用のリビングでお茶を飲みながら待つ。
お父様達が不在の間の報告もあるので、ガーランド、セドリック、カサンドラとユノスも一緒にお父様達を待つ。
まあ、フローラお母様の準備に時間が掛かるから、本当にのんびりと待っている感じなんだけどね。
ローディンお兄様とアレクお父様がルードと部屋に入って来る。フローラお母様とメルティはもう少し掛かるわね。
「そうそう。ローディンお兄様に、婚約者が居たのですね」
「いや、ユーリにも教えている筈だよ」
「はぁ、ユーリは忙し過ぎるんだよ。武術と魔法の鍛錬に、調薬に錬金術。おまけに魔道具開発までしてるからね」
「武術はともかく、マーサお婆ちゃんから受け継いだモノですから」
私がローディンお兄様の婚約者の話をすると、お兄様とお父様から呆れられてしまった。忙し過ぎると言われるけど、今は仕方ないと思うの。ルミエール伯爵家の戦力強化はだいぶ進んだけれど、その他はまだまだだもの。マーサお婆ちゃんって、多才過ぎると思う。
「今度、リズを紹介するよ」
「リズと呼んでるのね」
「まあ、一年後輩だからね」
「では、来年エリザベス様が卒業されたら婚姻ですか?」
「多分、そうなるかな」
エリザベスさんの話をするローディンお兄様の表情はとても優しい。良い関係なのだろう。
でも、ルミエール伯爵家に嫁ぐなら、これは聞いておかなければいけない。
「それでローディンお兄様。エリザベス様は、どのくらい戦えるのですか?」
「いや、ユーリ。何も戦えなくても問題ないじゃないか。貴族令嬢だよ」
「何を言ってるのですか! ルミエール伯爵家は、辺境に在り常に外敵に晒されています。領民の幼い子供からお年寄りまで、みんな常に備えていますよ」
「あ、ああ、うん。聞いているよ。この数年、熱心なユーリ信者が増えているってね」
私がエリザベスさんが、どの程度戦えるのか聞くと、ローディンお兄様は驚いた事に、戦えなくてもいいと仰った。
確かに、中央の貴族家では、貴族令嬢はもしもの時、潔く自決する作法を教えられるそうだ。そんなものルミエール伯爵家ではあり得ない。手足が動かなくなったとしても、相手の喉に噛み付いてでも敵を斃す気概を叩き込まれる。
ルミエール伯爵領では、働き盛りの大人は男女問わず、子供からお年寄りまで、自分に出来る鍛錬に励んでいるのに。
「それで、実際どうなのですか?」
「う~ん。王都の学園では成績は良いよ。でもくれぐれもルミエールと比べちゃダメだからね」
「それはいけませんね。分かりました。私が手取り足取り指導致します!」
「そうだね。ユーリが鍛えるなら安心だ。三年もすれば、一人前はなるんじゃないかな」
「父上! 煽らないでください! ユーリに預けたらリズが壊れてしまう!」
「失礼な。私とお母様が居て、壊れるなんてあり得ません。完璧に回復して差し上げます」
「いや、それ治すのが前提になってるじゃないか! 心が壊れるよ!」
王都の学園のレベルがどうなのかは、私は知らない。ただ、学園対抗武術大会で、ルミエール伯爵領やシルフィード辺境伯領の学園にやられっぱなしと聞いた事がある。
アレクお父様も賛成してくれたので、私がしっかりと鍛えてあげないと、と思っていると、ローディンお兄様が、エリザベスさんが壊れるなんて言い出す。失礼な。私とお母様に癒せない怪我なんてさせないわよ。
ただ、ローディンお兄様は、怪我自体がダメだと言い出す。鍛錬の中で、怪我くらい当たり前じゃない。怪我を怖がってちゃ鍛錬なんて出来ないわ。
私は、この世界に転生して、何が嬉しかったかと言うと、私に聖魔法の才能があった事と、見本となる優れた聖魔法使いのお母様が居た事。このお陰で、前世では考えられなかった激しい鍛錬も可能になったのだから。
「ダメだ。僕がこの気の狂ったルミエールからリズを守らないと……」
ローディンお兄様が、静かに決意しているけど、聞こえてますからね。
フローラお母様達とメルティが合流して、一先ずアレクお父様達が不在の間の報告が始まり、シルフィード辺境伯領を荒らそうとした傭兵団の話をする。
「……えー、えっと、ユーリと子供達だけで撃退したのかい? 五十人規模の傭兵団を? シルフィード辺境伯家の騎士が怪我をしたのに? ガーランド。何故止めないんだ?」
「ローディン様。止める理由がありませんので」
「えっ!? ガーランドの息子は、ユーリの一歳上で十二歳で、あとは全員十一歳だろう?」
「そうですが、それが何か?」
「あれ、みんな僕がおかしいみたいなしているけど、おかしいのはルミエールだからね!」
あの程度の傭兵団に、ローディンお兄様は心配し過ぎなのよね。ほら、みんなしらけちゃってるじゃない。
「落ち着きなさいローディン。ユーリとその親衛隊だもの。傭兵団程度が相手なら、手加減するのが大変だったんじゃないの? 情報を得る事を考えれば、全員始末する訳にもいかなかったみたいだしね」
「そうなのよお母様。私はともかく、相手が脆過ぎてノックスなんか特に手こずってたわ」
「愚息の未熟、お恥ずかしい限りです」
「仕方ないわよガーランド。ノックスの得物は大剣だもの。それでも何人かは生かしてたから上出来じゃない?」
「ああ、そうだった。ルミエールはこうだった。ルミエールの常識は世間の非常識だって忘れてたよ」
ローディンお兄様ったら、私の実力は知ってる筈なのに、それでも過保護なのよね。
「まあまあ、ルミエールの小さな武神とその眷属なんだから大丈夫だよ。それで、背後がバルドル王国だって?」
「そのバルドル王国って言うのも、ローデシア王国から言われてって感じだと思いますけどね」
アレクお父様は、背後関係が気になるみたい。私の誘拐事件。ローデシア王国はあれの最有力の黒幕候補だからね。
「腹立たしいね。だけど国内にもルミエールを面白く思っていない勢力は幾らでもあるからね」
「お父様。あと二年の我慢です」
懲りないローデシア王国とバルドル王国からのちょっかいに、アレクお父様も内心思うところがあるみたい。だけど、あと二年もあれば大丈夫。
「ユーリ。聞くのが怖いんだけど、あと二年で何が変わるのかな?」
「ローディンお兄様。そんなの決まっています。ルミエール伯爵家だけで、ローデシアもバルドルも叩き潰す準備です」
「……父上。可愛い妹が心配です」
「ローディン。ユーリの事は人とは思わず、エンシェントドラゴンとでも思いなさい」
ローディンお兄様は、現時点での私の本気を知らない。ララやノックス達の実力を知らない。そして、今のルミエール伯爵家騎士団の実力を知らない。
「そう言えばローディン。アーノルド殿下からの勧誘が激しかったらしいね」
「……父上。殿下には、ルミエール伯爵家を継ぐ身故、側近にはなれませんと、何度言ったか分かりませんよ」
「うん。ローディンお兄さましか、ルミエール家は無理だよね」
「ルードったら、面倒な事が嫌なだけでしょう。まぁ、でも真面目で誠実なローディンお兄様じゃないとね」
「はぁ、ルードが男だからって話もあったんだけどね。ルードもユーリも、当主を面倒事みたいに」
アーノルド殿下とは、今の王太子殿下の嫡男で、ローディンお兄様と同じ歳。優秀なローディンお兄様を側近に欲しかったみたい。
実際、ルードが次男だから、ローディンお兄様が次の次の国王の側近に成れなくはないけど、ルードにとってルミエール伯爵家の当主は面倒事みたいね。書類仕事に追われるお父様を見ているからかな。
話が途切れたタイミングで、アレクお父様が私の来年の学園入学に触れた。
「来年にはユーリもエルローダスの学園だな」
「はい。まぁ、今も週に二回通っていますけどね」
「えっ、そうなの?」
「ええ、武術と魔法の指導に出掛けていますよ。ローディンお兄様」
「ああ、指導する側なんだね」
私は、孤児院と同じく、学園にも定期的に通っている。勿論、目的はルミエール伯爵領の実力の底上げ。本当は、ローディンお兄様が在学中に、武術大会で打倒お兄様が目標だったんだけど、流石に無理だったわ。
その後、セドリックやカサンドラからの報告と、メルティとルードを退がらせて、ユノスから諜報関係の報告が行われた。
ローディンお兄様も戻って来たし、益々ルミエール伯爵領を盛り上げなくちゃね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
「お姉さま!」
「お姉さま!」
馬車から一番に飛び出して来たのは、メルティとルード。二人が私に抱きついて来る。
「メルティ。ルード。お帰りなさい」
「「ただいま!」」
「メルティ、はしたないわよ」
ただ、馬車から飛び出したのを見て、フローラお母様がメルティを注意するも、二人はまだ七歳だものね。貴族令嬢としての教育も始まったばかりだから仕方ない。それに、公の場でなければOKよね。
その時、私がフワリと抱き上げられる。
「ユーリ!」
メルティとルードごと私を抱き上げたのは、学園を卒業し帰って来たローディンお兄様だ。
「もう。お兄様ったら。私はもう抱っこされる歳ではありませんよ」
「そんな事ないさ。三人とも何歳になっても、僕の可愛い妹と弟だからね」
三人をまとめて抱くローディンお兄様。ローディンお兄様は、十六歳になり背も百八十センチ近い。もう二年もすれば、百九十センチ近くあるお父様と同じくらいになりそう。
「ほらほら、家に入ってからにしよう」
アレクお父様が、パンパンと手を叩いて皆んなを屋敷の中に入るよう促す。
それもそうだ。馬車での長旅だもの。先ずは休んで頂かないとね。
ルミエール伯爵家の馬車は、魔物の血が混じった馬が轢くので普通の馬車よりもずっと速い。それに、この四年の間に私とガンツが馬車を改良に改良を重ね魔改造した結果、更に速度が上がっている。
ルミエール伯爵領は、魔物素材に困らない。訓練の一環で一杯手に入るからね。その質の良い魔物素材の扱いは、鍛治師のガンツと精霊魔法使い仲間のエルフ姉妹、シルエル、ウルエルに手伝ってもらい、私もマーサお婆ちゃんから教えてもらった錬金術と付与術を頑張った。
この四年、武術や魔法だけを鍛錬していた訳じゃない。マーサお婆ちゃんの遺産である様々な書籍や資料を受け継いだ私に、フローラお母様からその賢者の知識と経験、技を受け継ぐよう言われたの。
マーサお婆ちゃんから、調薬や錬金術などの触りは教えてもらってたので、あとはマーサお婆ちゃんが書いた本を手に頑張ったよ。その手助けをしてくれたのが、シルエルとウルエルだ。
そんなこんなで、魔物素材により馬車の軽量化と強化は勿論の事、馬車の構造的な改造を進め、振動を抑え軽量で操作性の良い馬車が完成したの。
まあ、とは言っても、自動車や新幹線みたいに快適に速い訳じゃない。王都まで数日掛かる道のりを座りっぱなしは疲れただろう。
私はメルティとルードの手を繋いで、屋敷の中へと向かった。
アレクお父様達が、旅の埃を落とす為にお風呂に入って出て来るのを、家族専用のリビングでお茶を飲みながら待つ。
お父様達が不在の間の報告もあるので、ガーランド、セドリック、カサンドラとユノスも一緒にお父様達を待つ。
まあ、フローラお母様の準備に時間が掛かるから、本当にのんびりと待っている感じなんだけどね。
ローディンお兄様とアレクお父様がルードと部屋に入って来る。フローラお母様とメルティはもう少し掛かるわね。
「そうそう。ローディンお兄様に、婚約者が居たのですね」
「いや、ユーリにも教えている筈だよ」
「はぁ、ユーリは忙し過ぎるんだよ。武術と魔法の鍛錬に、調薬に錬金術。おまけに魔道具開発までしてるからね」
「武術はともかく、マーサお婆ちゃんから受け継いだモノですから」
私がローディンお兄様の婚約者の話をすると、お兄様とお父様から呆れられてしまった。忙し過ぎると言われるけど、今は仕方ないと思うの。ルミエール伯爵家の戦力強化はだいぶ進んだけれど、その他はまだまだだもの。マーサお婆ちゃんって、多才過ぎると思う。
「今度、リズを紹介するよ」
「リズと呼んでるのね」
「まあ、一年後輩だからね」
「では、来年エリザベス様が卒業されたら婚姻ですか?」
「多分、そうなるかな」
エリザベスさんの話をするローディンお兄様の表情はとても優しい。良い関係なのだろう。
でも、ルミエール伯爵家に嫁ぐなら、これは聞いておかなければいけない。
「それでローディンお兄様。エリザベス様は、どのくらい戦えるのですか?」
「いや、ユーリ。何も戦えなくても問題ないじゃないか。貴族令嬢だよ」
「何を言ってるのですか! ルミエール伯爵家は、辺境に在り常に外敵に晒されています。領民の幼い子供からお年寄りまで、みんな常に備えていますよ」
「あ、ああ、うん。聞いているよ。この数年、熱心なユーリ信者が増えているってね」
私がエリザベスさんが、どの程度戦えるのか聞くと、ローディンお兄様は驚いた事に、戦えなくてもいいと仰った。
確かに、中央の貴族家では、貴族令嬢はもしもの時、潔く自決する作法を教えられるそうだ。そんなものルミエール伯爵家ではあり得ない。手足が動かなくなったとしても、相手の喉に噛み付いてでも敵を斃す気概を叩き込まれる。
ルミエール伯爵領では、働き盛りの大人は男女問わず、子供からお年寄りまで、自分に出来る鍛錬に励んでいるのに。
「それで、実際どうなのですか?」
「う~ん。王都の学園では成績は良いよ。でもくれぐれもルミエールと比べちゃダメだからね」
「それはいけませんね。分かりました。私が手取り足取り指導致します!」
「そうだね。ユーリが鍛えるなら安心だ。三年もすれば、一人前はなるんじゃないかな」
「父上! 煽らないでください! ユーリに預けたらリズが壊れてしまう!」
「失礼な。私とお母様が居て、壊れるなんてあり得ません。完璧に回復して差し上げます」
「いや、それ治すのが前提になってるじゃないか! 心が壊れるよ!」
王都の学園のレベルがどうなのかは、私は知らない。ただ、学園対抗武術大会で、ルミエール伯爵領やシルフィード辺境伯領の学園にやられっぱなしと聞いた事がある。
アレクお父様も賛成してくれたので、私がしっかりと鍛えてあげないと、と思っていると、ローディンお兄様が、エリザベスさんが壊れるなんて言い出す。失礼な。私とお母様に癒せない怪我なんてさせないわよ。
ただ、ローディンお兄様は、怪我自体がダメだと言い出す。鍛錬の中で、怪我くらい当たり前じゃない。怪我を怖がってちゃ鍛錬なんて出来ないわ。
私は、この世界に転生して、何が嬉しかったかと言うと、私に聖魔法の才能があった事と、見本となる優れた聖魔法使いのお母様が居た事。このお陰で、前世では考えられなかった激しい鍛錬も可能になったのだから。
「ダメだ。僕がこの気の狂ったルミエールからリズを守らないと……」
ローディンお兄様が、静かに決意しているけど、聞こえてますからね。
フローラお母様達とメルティが合流して、一先ずアレクお父様達が不在の間の報告が始まり、シルフィード辺境伯領を荒らそうとした傭兵団の話をする。
「……えー、えっと、ユーリと子供達だけで撃退したのかい? 五十人規模の傭兵団を? シルフィード辺境伯家の騎士が怪我をしたのに? ガーランド。何故止めないんだ?」
「ローディン様。止める理由がありませんので」
「えっ!? ガーランドの息子は、ユーリの一歳上で十二歳で、あとは全員十一歳だろう?」
「そうですが、それが何か?」
「あれ、みんな僕がおかしいみたいなしているけど、おかしいのはルミエールだからね!」
あの程度の傭兵団に、ローディンお兄様は心配し過ぎなのよね。ほら、みんなしらけちゃってるじゃない。
「落ち着きなさいローディン。ユーリとその親衛隊だもの。傭兵団程度が相手なら、手加減するのが大変だったんじゃないの? 情報を得る事を考えれば、全員始末する訳にもいかなかったみたいだしね」
「そうなのよお母様。私はともかく、相手が脆過ぎてノックスなんか特に手こずってたわ」
「愚息の未熟、お恥ずかしい限りです」
「仕方ないわよガーランド。ノックスの得物は大剣だもの。それでも何人かは生かしてたから上出来じゃない?」
「ああ、そうだった。ルミエールはこうだった。ルミエールの常識は世間の非常識だって忘れてたよ」
ローディンお兄様ったら、私の実力は知ってる筈なのに、それでも過保護なのよね。
「まあまあ、ルミエールの小さな武神とその眷属なんだから大丈夫だよ。それで、背後がバルドル王国だって?」
「そのバルドル王国って言うのも、ローデシア王国から言われてって感じだと思いますけどね」
アレクお父様は、背後関係が気になるみたい。私の誘拐事件。ローデシア王国はあれの最有力の黒幕候補だからね。
「腹立たしいね。だけど国内にもルミエールを面白く思っていない勢力は幾らでもあるからね」
「お父様。あと二年の我慢です」
懲りないローデシア王国とバルドル王国からのちょっかいに、アレクお父様も内心思うところがあるみたい。だけど、あと二年もあれば大丈夫。
「ユーリ。聞くのが怖いんだけど、あと二年で何が変わるのかな?」
「ローディンお兄様。そんなの決まっています。ルミエール伯爵家だけで、ローデシアもバルドルも叩き潰す準備です」
「……父上。可愛い妹が心配です」
「ローディン。ユーリの事は人とは思わず、エンシェントドラゴンとでも思いなさい」
ローディンお兄様は、現時点での私の本気を知らない。ララやノックス達の実力を知らない。そして、今のルミエール伯爵家騎士団の実力を知らない。
「そう言えばローディン。アーノルド殿下からの勧誘が激しかったらしいね」
「……父上。殿下には、ルミエール伯爵家を継ぐ身故、側近にはなれませんと、何度言ったか分かりませんよ」
「うん。ローディンお兄さましか、ルミエール家は無理だよね」
「ルードったら、面倒な事が嫌なだけでしょう。まぁ、でも真面目で誠実なローディンお兄様じゃないとね」
「はぁ、ルードが男だからって話もあったんだけどね。ルードもユーリも、当主を面倒事みたいに」
アーノルド殿下とは、今の王太子殿下の嫡男で、ローディンお兄様と同じ歳。優秀なローディンお兄様を側近に欲しかったみたい。
実際、ルードが次男だから、ローディンお兄様が次の次の国王の側近に成れなくはないけど、ルードにとってルミエール伯爵家の当主は面倒事みたいね。書類仕事に追われるお父様を見ているからかな。
話が途切れたタイミングで、アレクお父様が私の来年の学園入学に触れた。
「来年にはユーリもエルローダスの学園だな」
「はい。まぁ、今も週に二回通っていますけどね」
「えっ、そうなの?」
「ええ、武術と魔法の指導に出掛けていますよ。ローディンお兄様」
「ああ、指導する側なんだね」
私は、孤児院と同じく、学園にも定期的に通っている。勿論、目的はルミエール伯爵領の実力の底上げ。本当は、ローディンお兄様が在学中に、武術大会で打倒お兄様が目標だったんだけど、流石に無理だったわ。
その後、セドリックやカサンドラからの報告と、メルティとルードを退がらせて、ユノスから諜報関係の報告が行われた。
ローディンお兄様も戻って来たし、益々ルミエール伯爵領を盛り上げなくちゃね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
229
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
姉妹差別の末路
京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します!
妹嫌悪。ゆるゆる設定
※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる