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二十八話 想定外にも程がある
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ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様の解呪が成功したその日は、お二人にはゆっくりと休んで頂いた。
時間的にはまだ朝だったけれど、私もヘトヘトだったし、その日は一日ベッドの中でゴロゴロさせてもらったわ。
「ユーリお嬢様。朝食はどうされます? 部屋までお持ちしますか?」
「う~ん。もう起きるわ」
「では、湯浴みの準備を致しますね」
「ありがとう。リンジー」
まだ体が重い感じだけど、これは精神的な疲れね。このままゴロゴロしててもよかったけれど、リンジーが起こしに来てくれたから、切り替えようと起き上がる。
昨日、お風呂にも入らずベッドに潜り込んだから、朝から贅沢だけどお風呂に入る。ああ、魔法で汚れは落としてからベッドに入ったよ。でも、元日本人、それも古い昭和生まれとしては、お風呂はお湯に浸からないとなんだかね。
家族用の食堂に行くと、私以外の全員が揃っていた。
「お姉さま!」
「お姉さま!」
「おはよう。ルード、メルティ」
ルードとメルティが嬉しそうに声を掛けてきた。ずっと部屋に篭ってたから心配させちゃったかな。
今日は、普段王都の屋敷にいるガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様も一緒だから賑やかだ。
「改めて礼を言う。ユーリのお陰で助かった。ありがとう」
「ユーリちゃん。ありがとうね」
「お祖父様、お祖母様、お元気になって良かったです」
顔色も良くなった、お祖父様とお祖母様を見て、本当に心の底から安堵する。
「まあまあ、先に朝食を済ませよう。積もる話はその後だ」
「はい」
アレクお父様の言う通り、私ももうお腹がぺこぺこなのよね。お祓いの前は、少しでも穢れを避けようと、水とお粥だけだったもの。
朝食を済ませ、家族用のリビングに移動し、落ち着いたところで昨日の話になる。ただ、この場には、家族以外にもガーランド、セドリック、カサンドラとユノスの何時ものメンバーに、オウルもいた。
「父上、特級呪物は、どういった経緯で?」
「ああ、時を告げる魔道具を買ったのじゃが、どうやら中に仕込んでいたようじゃ」
「……魔道具店は無関係でしょうね」
「うむ。そんな分かりやすいなら簡単じゃがな」
ガドウィンお祖父様の話では、時計の魔道具を購入したのが、時限爆弾を掴まされたみたい。時計の魔道具なんだから、お祖父様とお祖母様が開封したタイミングで、呪物が発動するんて簡単だったのかも。
「オウル、その辺はどうだ?」
「お館様の推測通り、魔道具店は関係ないですね。おそらく配送した人間が怪しいです。追ってはいますが、既に殺されているか、国外に逃げているか、どちらにしても追うのは難しいでしょう。ただ、あのクラスの特級呪物は、手に入れようと思って手に入れれる物ではありません」
オウルの話では、魔道具店はほぼ無関係だろうという事だ。ただ、オウルの関心は、あの特級呪物が、尋常な物じゃなかった事みたい。
「そう。そこだよ。王都の教会の司祭はともかく、フローラでも解呪できない呪いなんて、普通はあり得ないからね」
「そうね。お義父様、お義母様、力及ばず申し訳ありません」
アレクお父様も、オウルと同じで、フローラお母様が解呪できないなんて、それはもう異常な事態だとの見解だ。そこでフローラお母様が、改めてガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様に深々と頭を下げて謝罪した。
「フローラ。誰もお前を責めはせん」
「そうよ。貴女が無理なら、誰であっても無理だったって事よ」
そう、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が、フローラお母様を慰めるも、お母様の表情は芳しくない。
フローラお母様は、あれからマーサお婆ちゃんの遺した書籍をずっと調べている。聖魔法の儀式魔法なら、次に同じ事があったとしても、解呪が可能なのではないかって。
それは多分、フローラお母様の推測は当たっていると思う。私は少しやり過ぎちゃったけど、大神を降ろして行うお祓いなんて、神の呪いでも祓ってしまう。ってゴクウに言われたもの。
少し重くなった空気を変える為、私は別の話題を投げかける。
「それだけの特級呪物を封印して所持しているとなると、もう教会しか考えられないのですが」
「そうだね。その可能性が一番高いけど、絶対じゃない。それに、教会が封印していた呪物が使われたとしても、教会が主犯とは言い切れないからね」
「そうじゃ。確かに、我がルミエール家は、フローラを嫁にした事で、教会に睨まれたからの」
ガドウィンお祖父様が言うには、教会としてはフローラお母様の事を欲しかったのだとか。プラチナブロンドの女神様の髪色で、聖魔法の使い手。今でも教会に居るべきだと主張する馬鹿もいるんだって。
「ですが、お祖父様とお祖母様が亡くなって、一番喜ぶのは、ローデシア王国だと思います」
「うむ。ユーリの言う通りじゃ。あの国は、我がルミエール領を抜き、ユースクリフ王国を手に入れる事が悲願じゃからな」
損得で考えれば、ローデシア王国一択だ。だけど、女神様の髪色を手にしたい教会が話をややこしくする。しかも、あれ程の特級呪物は、教会しか扱えない。教会は、呪物の封印は仕事でもあるし、慣れてるからね。
「ローデシアでもバルドルでもない、第三国という線も捨て切れません」
「そうね。ユースクリフ王国は、豊かですから。それに、政治的にも今のところ安定していますから、それを掻き乱したい国は当然あるでしょう」
オウルは、ローデシア王国やバルドル王国以外も疑って掛かる必要があると言う。サーシャお祖母様も、その意見はあり得ると頷いた。
「お祖父様、国内の貴族という線はないのですか?」
「……あるじゃろうな。先日のシルフィード辺境伯領を荒らした傭兵団の事もある。我らを蹴落としたい馬鹿共は国内にもおるな」
「ユーリの誘拐の件も、ありますからね」
ローディンお兄様が、国内の貴族が犯人の線もあるのではと言うと、ガドウィンお祖父様も渋い顔で肯定する。そしてアレクお父様も、三年前の私が誘拐された事件をあげた。
あの事件も、ローデシア王国やバルドル王国だけじゃなく、国内の貴族勢力が関与していたのは間違いない。
「でも、国内の防衛力の要であるルミエール家の力を削ぐなんて、売国奴ではないですか」
「ローディン。人の気持ちなどという物は、そう簡単ではないのじゃよ」
「そうね。特に、この数年のルミエールは、発展著しいもの。足を引っ張りたい家は多いと思うわ」
ローディンお兄様は真面目だから、同じ国内の貴族が、ルミエール家を害しようとするのが許せないみたい。そんなお兄様を、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が諭すように宥める。
確かに、嫉妬や妬みの感情って厄介かもね。それがユースクリフ王国にとってマイナスだったとしても、感情を優先する馬鹿は居なくならないでしょうね。
「どちらにせよ、わしとサーシャは、一日も早く王都の屋敷に戻り、健在であると周囲に示す必要があるな」
そう。今回の呪物の件は継続して調べるし、対策も考えるけど、何よりも優先されるのは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が健在だと王都中に知らしめる事だ。そして、こんな事ではルミエール家は小揺るぎもしないと分からせる必要があるもの。
ただ、それを聞いたメルティとルードが不満の声を上げる。
「えっ! ガドウィンおじいさま、サーシャおばあさま、もう帰っちゃうの?」
「えー! いやだ!」
「ごめんなさいね。メルティちゃん、ルードちゃん」
「二人とも、我儘を言ってはダメだよ」
「「は~い」」
メルティもルードも、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が大好きだからね。アレクお父様に注意されると、渋々納得してくれたみたい。
「では、帰路の護衛の手配と、王都屋敷の警備の見直しをします」
「頼むよオウル」
オウルは、諜報部門のトップだから護衛の配置や警備計画の立案も仕事の内になる。お父様もオウルに頼むと一言。オウルに任せておけば大丈夫ね。
「じゃあ、王都に戻ったらパーティーを開かないたいけないわね」
「そうじゃな。各派閥に招待状をばら撒くか」
「では、パーティーの目玉が必要ですね」
「ユーリ、何かあるかい?」
もともとルミエール伯爵家が、パーティーを主催する事は珍しい。アレクお父様やフローラお母様は領地に引き篭もり、対外的な付き合いは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様に任せてたくらいだもの。そのお祖父様やお祖母様も、パーティーを喜ぶタイプじゃないから、主催するなんてレアなのよね。
ただ、だからお二人が健在だとアピールするには丁度いい。となると、パーティーに何か他家にアピールできる物がある方がいい。
「う~ん。シルクワームの布地が、ある程度なら出せると思います。それで仕立てたドレスをサーシャお祖母様に着て頂いたら如何ですか?」
「いいのかい? それでもそんなに注文には応えられないだろう?」
ホーリースパイダーの糸から織られた布地は、外には出せないけれど、シルクワームなら問題ない。ただ、アレクお父様が言うように、注文が殺到しても応えられない。
孤児院でもヒルクル草の栽培をしているので、今では城内の他の場所にもシルクワームの飼育小屋を作って育ているけれど、それでも他家の需要に対応できる量には程遠いもの。
「ええ、ですから、その辺りの駆け引きは、お祖父様とお祖母様にお任せします」
「うむ。頑張ってみるか」
「では、サーシャお祖母様、直ぐに仕立てに入りますので、私の工房の方にお願いします」
「あら、ユーリちゃんの工房なのね」
「はい。採寸とデザインの打ち合わせを含めて、明日の昼までに仕立ててみせます」
「まあ、早いのね」
そうと決まれば、サーシャお祖母様のドレスをシルクワームで仕立てないと。
今までは、私が使う以外では、フローラお母様用のドレスや下着、あとアレクお父様やローディンお兄様、騎士団の隊服くらいにしか使っていなかったのよね。
この数年で、やっとある程度のストックが出来た状況だから、国内の貴族のご婦人方や令嬢から注文が来ると、直ぐに無くなっちゃう。
それに、王族や高位貴族なんかは、自前でシルクワームを捕まえて、糸の生産をしているって聞く。まあ、餌のヒルクル草を手に入れるのに、採取しか方法がないから、びっくりするくらい高価になる。
そこに、僅かな量でもシルクワームの布地をルミエール伯爵家が販売するとなると、飛びつく貴族は一杯いるだろう。
もしかすると、王族から献上しろって言ってくるかもね。珍しい物や貴重な物は、王族に献上して当然って馬鹿もいるみたいだしね。
まあ、その辺はガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様なら大丈夫だろう。
特級呪物によるテロと言える今回の事件。オウルの主導で、王都を中心に調査するのは当然として、私は私で、王都や領都にある屋敷のセキュリティーの向上を考える事にした。
あとは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が、王都でパーティーを催し、国内外に健在だと示せれば、同じような手段は取り難いだろうとなった。
命を狙われて、随分と甘い対応だと思われるかもしれないけど、現状できる事が少ないのも事実なんだよなぁ。
懸念があるとすれば、教会からの注目を集める事になったのが、面倒がなければと願うばかりね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
時間的にはまだ朝だったけれど、私もヘトヘトだったし、その日は一日ベッドの中でゴロゴロさせてもらったわ。
「ユーリお嬢様。朝食はどうされます? 部屋までお持ちしますか?」
「う~ん。もう起きるわ」
「では、湯浴みの準備を致しますね」
「ありがとう。リンジー」
まだ体が重い感じだけど、これは精神的な疲れね。このままゴロゴロしててもよかったけれど、リンジーが起こしに来てくれたから、切り替えようと起き上がる。
昨日、お風呂にも入らずベッドに潜り込んだから、朝から贅沢だけどお風呂に入る。ああ、魔法で汚れは落としてからベッドに入ったよ。でも、元日本人、それも古い昭和生まれとしては、お風呂はお湯に浸からないとなんだかね。
家族用の食堂に行くと、私以外の全員が揃っていた。
「お姉さま!」
「お姉さま!」
「おはよう。ルード、メルティ」
ルードとメルティが嬉しそうに声を掛けてきた。ずっと部屋に篭ってたから心配させちゃったかな。
今日は、普段王都の屋敷にいるガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様も一緒だから賑やかだ。
「改めて礼を言う。ユーリのお陰で助かった。ありがとう」
「ユーリちゃん。ありがとうね」
「お祖父様、お祖母様、お元気になって良かったです」
顔色も良くなった、お祖父様とお祖母様を見て、本当に心の底から安堵する。
「まあまあ、先に朝食を済ませよう。積もる話はその後だ」
「はい」
アレクお父様の言う通り、私ももうお腹がぺこぺこなのよね。お祓いの前は、少しでも穢れを避けようと、水とお粥だけだったもの。
朝食を済ませ、家族用のリビングに移動し、落ち着いたところで昨日の話になる。ただ、この場には、家族以外にもガーランド、セドリック、カサンドラとユノスの何時ものメンバーに、オウルもいた。
「父上、特級呪物は、どういった経緯で?」
「ああ、時を告げる魔道具を買ったのじゃが、どうやら中に仕込んでいたようじゃ」
「……魔道具店は無関係でしょうね」
「うむ。そんな分かりやすいなら簡単じゃがな」
ガドウィンお祖父様の話では、時計の魔道具を購入したのが、時限爆弾を掴まされたみたい。時計の魔道具なんだから、お祖父様とお祖母様が開封したタイミングで、呪物が発動するんて簡単だったのかも。
「オウル、その辺はどうだ?」
「お館様の推測通り、魔道具店は関係ないですね。おそらく配送した人間が怪しいです。追ってはいますが、既に殺されているか、国外に逃げているか、どちらにしても追うのは難しいでしょう。ただ、あのクラスの特級呪物は、手に入れようと思って手に入れれる物ではありません」
オウルの話では、魔道具店はほぼ無関係だろうという事だ。ただ、オウルの関心は、あの特級呪物が、尋常な物じゃなかった事みたい。
「そう。そこだよ。王都の教会の司祭はともかく、フローラでも解呪できない呪いなんて、普通はあり得ないからね」
「そうね。お義父様、お義母様、力及ばず申し訳ありません」
アレクお父様も、オウルと同じで、フローラお母様が解呪できないなんて、それはもう異常な事態だとの見解だ。そこでフローラお母様が、改めてガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様に深々と頭を下げて謝罪した。
「フローラ。誰もお前を責めはせん」
「そうよ。貴女が無理なら、誰であっても無理だったって事よ」
そう、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が、フローラお母様を慰めるも、お母様の表情は芳しくない。
フローラお母様は、あれからマーサお婆ちゃんの遺した書籍をずっと調べている。聖魔法の儀式魔法なら、次に同じ事があったとしても、解呪が可能なのではないかって。
それは多分、フローラお母様の推測は当たっていると思う。私は少しやり過ぎちゃったけど、大神を降ろして行うお祓いなんて、神の呪いでも祓ってしまう。ってゴクウに言われたもの。
少し重くなった空気を変える為、私は別の話題を投げかける。
「それだけの特級呪物を封印して所持しているとなると、もう教会しか考えられないのですが」
「そうだね。その可能性が一番高いけど、絶対じゃない。それに、教会が封印していた呪物が使われたとしても、教会が主犯とは言い切れないからね」
「そうじゃ。確かに、我がルミエール家は、フローラを嫁にした事で、教会に睨まれたからの」
ガドウィンお祖父様が言うには、教会としてはフローラお母様の事を欲しかったのだとか。プラチナブロンドの女神様の髪色で、聖魔法の使い手。今でも教会に居るべきだと主張する馬鹿もいるんだって。
「ですが、お祖父様とお祖母様が亡くなって、一番喜ぶのは、ローデシア王国だと思います」
「うむ。ユーリの言う通りじゃ。あの国は、我がルミエール領を抜き、ユースクリフ王国を手に入れる事が悲願じゃからな」
損得で考えれば、ローデシア王国一択だ。だけど、女神様の髪色を手にしたい教会が話をややこしくする。しかも、あれ程の特級呪物は、教会しか扱えない。教会は、呪物の封印は仕事でもあるし、慣れてるからね。
「ローデシアでもバルドルでもない、第三国という線も捨て切れません」
「そうね。ユースクリフ王国は、豊かですから。それに、政治的にも今のところ安定していますから、それを掻き乱したい国は当然あるでしょう」
オウルは、ローデシア王国やバルドル王国以外も疑って掛かる必要があると言う。サーシャお祖母様も、その意見はあり得ると頷いた。
「お祖父様、国内の貴族という線はないのですか?」
「……あるじゃろうな。先日のシルフィード辺境伯領を荒らした傭兵団の事もある。我らを蹴落としたい馬鹿共は国内にもおるな」
「ユーリの誘拐の件も、ありますからね」
ローディンお兄様が、国内の貴族が犯人の線もあるのではと言うと、ガドウィンお祖父様も渋い顔で肯定する。そしてアレクお父様も、三年前の私が誘拐された事件をあげた。
あの事件も、ローデシア王国やバルドル王国だけじゃなく、国内の貴族勢力が関与していたのは間違いない。
「でも、国内の防衛力の要であるルミエール家の力を削ぐなんて、売国奴ではないですか」
「ローディン。人の気持ちなどという物は、そう簡単ではないのじゃよ」
「そうね。特に、この数年のルミエールは、発展著しいもの。足を引っ張りたい家は多いと思うわ」
ローディンお兄様は真面目だから、同じ国内の貴族が、ルミエール家を害しようとするのが許せないみたい。そんなお兄様を、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が諭すように宥める。
確かに、嫉妬や妬みの感情って厄介かもね。それがユースクリフ王国にとってマイナスだったとしても、感情を優先する馬鹿は居なくならないでしょうね。
「どちらにせよ、わしとサーシャは、一日も早く王都の屋敷に戻り、健在であると周囲に示す必要があるな」
そう。今回の呪物の件は継続して調べるし、対策も考えるけど、何よりも優先されるのは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が健在だと王都中に知らしめる事だ。そして、こんな事ではルミエール家は小揺るぎもしないと分からせる必要があるもの。
ただ、それを聞いたメルティとルードが不満の声を上げる。
「えっ! ガドウィンおじいさま、サーシャおばあさま、もう帰っちゃうの?」
「えー! いやだ!」
「ごめんなさいね。メルティちゃん、ルードちゃん」
「二人とも、我儘を言ってはダメだよ」
「「は~い」」
メルティもルードも、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が大好きだからね。アレクお父様に注意されると、渋々納得してくれたみたい。
「では、帰路の護衛の手配と、王都屋敷の警備の見直しをします」
「頼むよオウル」
オウルは、諜報部門のトップだから護衛の配置や警備計画の立案も仕事の内になる。お父様もオウルに頼むと一言。オウルに任せておけば大丈夫ね。
「じゃあ、王都に戻ったらパーティーを開かないたいけないわね」
「そうじゃな。各派閥に招待状をばら撒くか」
「では、パーティーの目玉が必要ですね」
「ユーリ、何かあるかい?」
もともとルミエール伯爵家が、パーティーを主催する事は珍しい。アレクお父様やフローラお母様は領地に引き篭もり、対外的な付き合いは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様に任せてたくらいだもの。そのお祖父様やお祖母様も、パーティーを喜ぶタイプじゃないから、主催するなんてレアなのよね。
ただ、だからお二人が健在だとアピールするには丁度いい。となると、パーティーに何か他家にアピールできる物がある方がいい。
「う~ん。シルクワームの布地が、ある程度なら出せると思います。それで仕立てたドレスをサーシャお祖母様に着て頂いたら如何ですか?」
「いいのかい? それでもそんなに注文には応えられないだろう?」
ホーリースパイダーの糸から織られた布地は、外には出せないけれど、シルクワームなら問題ない。ただ、アレクお父様が言うように、注文が殺到しても応えられない。
孤児院でもヒルクル草の栽培をしているので、今では城内の他の場所にもシルクワームの飼育小屋を作って育ているけれど、それでも他家の需要に対応できる量には程遠いもの。
「ええ、ですから、その辺りの駆け引きは、お祖父様とお祖母様にお任せします」
「うむ。頑張ってみるか」
「では、サーシャお祖母様、直ぐに仕立てに入りますので、私の工房の方にお願いします」
「あら、ユーリちゃんの工房なのね」
「はい。採寸とデザインの打ち合わせを含めて、明日の昼までに仕立ててみせます」
「まあ、早いのね」
そうと決まれば、サーシャお祖母様のドレスをシルクワームで仕立てないと。
今までは、私が使う以外では、フローラお母様用のドレスや下着、あとアレクお父様やローディンお兄様、騎士団の隊服くらいにしか使っていなかったのよね。
この数年で、やっとある程度のストックが出来た状況だから、国内の貴族のご婦人方や令嬢から注文が来ると、直ぐに無くなっちゃう。
それに、王族や高位貴族なんかは、自前でシルクワームを捕まえて、糸の生産をしているって聞く。まあ、餌のヒルクル草を手に入れるのに、採取しか方法がないから、びっくりするくらい高価になる。
そこに、僅かな量でもシルクワームの布地をルミエール伯爵家が販売するとなると、飛びつく貴族は一杯いるだろう。
もしかすると、王族から献上しろって言ってくるかもね。珍しい物や貴重な物は、王族に献上して当然って馬鹿もいるみたいだしね。
まあ、その辺はガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様なら大丈夫だろう。
特級呪物によるテロと言える今回の事件。オウルの主導で、王都を中心に調査するのは当然として、私は私で、王都や領都にある屋敷のセキュリティーの向上を考える事にした。
あとは、ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が、王都でパーティーを催し、国内外に健在だと示せれば、同じような手段は取り難いだろうとなった。
命を狙われて、随分と甘い対応だと思われるかもしれないけど、現状できる事が少ないのも事実なんだよなぁ。
懸念があるとすれば、教会からの注目を集める事になったのが、面倒がなければと願うばかりね。
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この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
初回放送はいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただければ幸いなのですが。
次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
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