銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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二十九話 際立つルミエール伯爵家

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 ガドウィンお祖父様とサーシャお祖母様が、王都へと戻って行った。


 その後、王都の屋敷から使い魔により、パーティーは成功し、サーシャお祖母様が着たシルクワームの布地で仕立てられたドレスは、貴族のご婦人方に大注目だったそうだ。

 当然、何処で手に入れたのか、問い合わせが殺到したそうだけど、シルクワームの糸を織った布地から仕立てた物だと告げると、その希少さが分かるだけに、何とか手に入れられないかしつこいくらいだと言う。

 まあ、ルミエール伯爵家は、伯爵家の中でも家格は上位なので、それ以下の家からは、それ程強く言って来る事はないし、侯爵家の筆頭であるシルフィード辺境伯家が、お母様の実家という事を除いても、隣領で関係性も良好な為、無茶を言う家は少ないのだそう。



 で、私が何をしているかと言うと、何と三本目のオリハルコンの剣を打つ準備だったりする。

 実は、この前の盗賊に扮した傭兵団の件で、ジルベールお祖父様とバーバラお祖母様が訪ねて来られたのだ。

 そう。フローラお母様の両親。シルフィード辺境伯だ。留守は、ウィリアム伯父さんに任せて、例の件のお礼をと来たのだけど、その時アレクお父様の剣を見てしまった。

 拵えは凄くノーマルな筈だけど、ジルベールお祖父様曰く、醸し出す雰囲気が、業物の匂いをプンプンさせてたんですって。


 ジルベールお祖父様は、ガドウィンお祖父様とほぼ同年代で、共に国難に立ち向かってきた戦友のような関係らしい。

 長く国境を護る盾であり矛であり続けた武人だけあり、名剣には敏感だったのかな。

 バーバラお祖母様は、久しぶりに娘であるお母様と会えてとても喜んでいる。メルティやルードとも、お隣りとはいえそう会える訳じゃないから嬉しそう。

 そう言う私とも、右腕がアガートラムになってから会うのは初めて。ローディンお兄様は、王都の学園に通っていた時に、何度か会ったらしいけどね。

 フローラお母様のプラチナブロンドの髪色は、バーバラお祖母様譲り。ただ、お祖母様は少し金色が強くメルティと同じくらいかな。フローラお母様ほど聖属性の適性は高くないけれど、聖魔法は一応使えると聞いている。でも、普段は回復魔法を使うなら、もう一つの適性がある水魔法を使っていると以前聞いた事がある。

 そしてバーバラお祖母様は、純粋な魔法使いタイプではなく、剣を持ち戦う魔法剣士だ。その影響なのか、フローラお母様も近接戦闘を普通に熟すからね。

「なぁ、お嬢。なんやかんやで三本目だぞ。いいのか?」
「いいのよ。オリハルコンは、私がマーサお婆ちゃんから相続した物だもの。王家に献上するなんて真っ平ごめんよ」
「まぁ、俺も宝物庫の肥やしになる剣なんて打ちたくはないがな」

 ガンツが、三本目になったオリハルコンの剣に、これでいいのかと聞いてきた。けど、前にも言ったけど、権威付けの飾りにしかならない剣なんて意味がない。勿体ないわよ。

「それでユーリや。わしの剣は、どのくらいで完成する? 今日か? 明日か?」
「ジルベールお祖父様。オリハルコンは凄く凄~~く、面倒なのです。とても手間が掛かりますし、時間も必要なのです。完成したらお届けしますから、大人しく待っていてください。あっ、それと、くれぐれもオリハルコンの剣を持っている事は内緒ですからね」
「ああ、誰にも言わんわ。知れば、王族が使えもせんのに、欲しがるからの」

 私とガンツが、大量に聖水を用意して、剣を打つ準備をしている側で、楽しみで待ちきれないと、年甲斐もなくウキウキするジルベールお祖父様。

 作業の面倒さを説明して、ついでに秘密厳守を重ねて言っておく。

 まぁ、ジルベールお祖父様も中央に思うところがあるんでしょうね。中央の連中は、守ってもらいながら、私達辺境の貴族を田舎者って馬鹿にしているからね。

「いや~、楽しみじゃのう。アレクやガドウィンから自慢されるのも我慢ならんからな」
「でも、いくらオリハルコンの剣を持ったとしても、お父様やガドウィンお祖父様のように、真っ先に前線に斬り込まないでくださいね」
「ああ、分かっておる。あ奴らのようなバケモノと一緒にするでない」

 ああ、やっぱりジルベールお祖父様から見ても、お父様やガドウィンお祖父様はバケモノなんだね。

 その後も、片手間にジルベールお祖父様の相手をしながら、オリハルコンを精錬する。ほんの僅かだけど、オリハルコンが扱いやすくなっているのは、気の所為じゃないと思う。間違いなく、大神の神威をこの身に降ろしたからでしょうね。

 まあ、考えても仕方ないか。






 その日、ユースクリフ王国の王都でも一際目立つ荘厳な建物。ユ・ルシア教の本教会。その中でも個人に割り当てられる部屋では特に豪華な部屋で、その部屋の主人は普段の居丈高な態度とは違い、顔を青くし小刻みに震えていた。

 ユ・ルシア教会の中でも、最も権威を持つ四人いる枢機卿の一人。他者を引き摺り落とし、蹴り落とし成り上がった男。バーウン枢機卿。

 彼が、顔を青くし何処か怯えたような表情をするのも仕方ない。

「……特級呪物だぞ。それも特級中の特級だ。発動すれば最後、解呪など不可能な筈だ」

 そう。ルミエール伯爵の王都屋敷に配達される魔道具に、特級呪物を仕込み送り込んだのは、バーウンの指示だった。

 ユ・ルシア教会には、呪物の封印や浄化といった役割を担う為、そういった呪物が集まるのは自然な流れだ。

 等級の低い呪物なら浄化し、教会の手に余る呪物は封印するのが、教会の仕事の一つでもある。

 因みに、バーウン自身、聖魔法は僅かながら使える。等級の低い呪物でも浄化できない程度だが、それでも水属性の回復魔法よりも、教会で成り上がるには聖魔法を使えるというのは重要な事だった。

 その聖属性の魔法も、バーウンが教会の中で他者を押し除け成り上がる過程で、ほぼ使えなくなっているのだが、それを本人が気付く事はない。

 そこに一人の男が部屋に入って来る。バーウン枢機卿の右腕であるムスレラ司祭だ。

「バーウン様。やはり間違いありませんでした。ルミエール伯爵家の先代夫妻、パーティーを開き、健在を周囲に見せ付けました」
「むぅ。あり得ん。それこそ神でもなければ解呪など不可能な特級呪物じゃぞ。間違いなく発動したのだな!」
「そ、それはもう。あの日、秘密裏にルミエール伯爵家に司祭が呼ばれましたから」

 王都のルミエール伯爵別邸にて、パーティーが開催されたと聞き、その耳を疑ったバーウンは、ムスレラ司祭に直ぐ調べるよう指示していた。

「ならどういう事だ。ルミエールの聖女は、特級呪物による呪いも解呪するとでも言うのか!」
「そ、そうとしか、考えられません」
「あり得ん! あってたまるか!」

 バーウンは現状を信じられないでいた。教会を権力闘争の場としか見ていなかった男でも、あの呪物の呪いを解呪するなど、それは本物の聖女ではないか。

 ルミエール伯爵夫人であるフローラが、聖女と呼ばれるのは、周囲が勝手に呼ぶ二つ名だ。実際に、創世の女神ルシアの加護がある訳ではない。ユ・ルシア教会にも苦々しく思う者が一定数いる。

「それよりもバーウン様。依頼主にはどう伝えましょう?」
「知るか! 失敗したと伝えろ!」
「しかし、既にお布施を頂いていますが」
「こっちも二つと手に入らん特級呪物を使ったのだ。本来なら、あの程度の金では手付けにもならんわ!」

 興奮するバーウン枢機卿。もう言っている事が無茶苦茶である。当然の事、今回のルミエール伯爵家の王都屋敷に、特級呪物を届けたのには依頼主が存在する。

 常勝将軍と呼ばれるガドウィン・ルミエールと、賢者の再来と謳われるサーシャ・ルミエール。この二人を亡き者と出来たなら。そう、願う者はそれなりに居る。

 今回、バーウン枢機卿に依頼したのもそういった者だ。

 この世界で最もメジャーな宗教組織であるユ・ルシア教会に、その様な後ろ暗い依頼を受ける生臭坊主がいるという事を嘆くべきか、しかしながらバーウンの様なグズは一定数存在するのが現実で、裏の世界では当たり前に知られる事実だった。

「……それよりもだ。ルミエールの聖女、どうにか手に入れられぬか」
「バーウン様、流石にそれは無茶かと……」

 とうとうバーウン枢機卿が無茶な望みを言い始めた。流石にムスレラ司祭が止める。

「聖女と呼ばれるのなら、その者は教会が管理するべきだと思わぬか?」
「バーウン様、それは口にしてはなりません」
「分かっておる」

 この世界には、明確に神の存在を感じる機会があるので、人々は神の存在を疑わない。神罰も実際にあるし、それが我が身に降り掛かる可能性もゼロではないのだ。

 そして、それは司祭や枢機卿とて変わらない。ムスレラ司祭は、バーウン枢機卿が酷く危ういのではと考え始めていた。




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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 初回放送はいかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただければ幸いなのですが。
 次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。





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