銀腕の武闘派聖女

小狐丸

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三十三話 本装備を作る

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 モンスタースタンピードからの魔物祭りが終わり、ルミエール伯爵領内は活気で沸いている。

 シルフィード辺境伯家も、ジルベールお祖父様やバーバラお祖母様が参加していた事もあり、大量の魔物肉や魔物素材を得たので、ホクホクみたいね。


 で、私とララ、マーテル、パティがもう直ぐ十五歳。ノックスが成人の十六歳になるので、そろそろ本装備を作ろうかという話になった。

 ララは、刃渡り60センチのショートソード二本。マーテルは、刃渡り100センチ、柄を入れると130センチの片手半剣(バスタードソード)。パティは、刃渡り90センチのロングソード。ノックスは、全長180センチの大剣。

 今後、多少体が成長しても、そのまま使えるだろう。

 私の工房で皆んなの希望を聞きながら、作る装備の話をしていると、ノックスが私を見て聞いてきた。

「お嬢のはいいのか?」
「私のはねぇ。オリハルコンの長杖と扇が有るしねぇ」
「剣も必要になる時もあるんじゃない? まあ、ユーリは長杖の先に魔法で刃を作れるから問題ないと言えばそうなんだろうけど」

 ノックスの疑問は、私の武器は要らないのかという事だった。でも、ララが言うように、杖の先に魔法で刃を作れるから、槍や薙刀みたいにも使える。その所為で、どうしても後回しにしちゃうんだよね。

「ユーリちゃん。狭い建物の中でも使える片手剣なんかどうかな?」
「そうですね。ユーリ様の剣捌き凄いですもん。使わないのは勿体ないです」

 マーテルとパティからも、一本剣を持ってた方がいいと勧められてしまった。私の剣術は、太極剣みたいに直剣じゃなくて、純日本風の剣術だから、片刃の曲剣。ようするに刀を使うものなんだよね。

 実は、ガンツと一緒に刀を打てないか、色々と頑張ってはいる。けど、そうは簡単にはいかなかった。そもそもミスリルやアダマンタイト、オリハルコンなんて、ファンタジー金属が有る世界。鋼を鍛えて打つだけじゃないのが難しい。

 それに、ホイホイとオリハルコンで刀を打つのも少々問題がある。お父様やお祖父様達に打った剣なら、この世界ではオーソドックスなスタイルの剣なので、ルミエール伯爵領産だとは思わないだろうけど、流石に刀は疑われる。

「う~ん。じゃあ、皆んなの装備と一緒に作るか」
「お嬢、それがいいぞ」
「まぁ、どっちみちアンタとガンツが作るんだけどね」
「そうだね。付与くらいかは手伝えるけど、それもユーリちゃんの方が上手いもんね」

 私がその気になると、ノックスやララ、マーテルも賛成してくれた。

 結局、皆んなの装備と一緒に刀を打つ事にした。丁度、アダマンタイトに極少量のオリハルコンを混ぜれば、本来のアダマンタイト製の武器よりも頑丈且つ魔力の通りもいいものが出来ると試行錯誤の末に分かってるからね。あれなら刀身は青味がかった黒。カッコよくない?

 それに、私の魔力量で強固な纏いをすれば、アレクお父様やガドウィンお祖父様やジルベールお祖父様のオリハルコンの剣とでも打ち合えると思う。

 工房前の広場で、円になり座禅を組み話し合っていた私達。話の区切りがついたと思ったのか、そこにゴクウ達精霊が姿を見せた。

『まあ、今はゴレムスやイフがいるから、剣を打つのも楽になったんじゃない』
『金属の精錬。手伝うぞ』
『炉の炎は俺に任せろ』
『炉の温度を上げるのは、僕の風にお任せだよ』
『あら、私の水で聖水を作れば効果は高いわよ』
『黒刀……私の色』

 ゴクウが言うように、ゴレムスのお陰で金属の精錬が楽になったし品質も上がった。それは、炉の火をイフに任せても同じで、お陰でルミエール伯爵家の騎士団の装備の品質は最上級と言える。

 そこに自分も負けてないと、ミズチとハヤテも声を上げる。ルナだけちょっと違うけどね。

 確かに、ミズチの出す水で聖水を作ると、最高品質の聖水が完成する。まあ、神々への祈りと祈祷、私のアガートラム経由の神気が必要なのは変わらないので、作るのが面倒なのは変わってないけどね。

 ハヤテの風も、上級精霊の起こす魔力のこもった風だからか、ただ炉の温度を上げるだけじゃないみたい。これは、私が転生してからは、普通の環境下での鍛治を余り知らないから、よく分からないけれど、ガンツが全然違うって言ってるから、そうなんでしょうね。


 ふむ。この際、皆んなの本装備を私と同じアダマンタイト合金で作るか。そう提案してみる。

「おお! 黒剣! かっこいい!」
「ふ~ん。いいんじゃない」
「父上に自慢出来ます!」
「わ、私なんかに、いいのですかね」

 ノックスは大喜びで、ララも頬がピクピクしているけど、嬉しいのを我慢してるのが丸わかりね。マーテルの父親もうちの騎士だから、剣自慢をするのは分かる。パティは平民出身だしね。遠慮がちになるのは仕方ない。だけど、パティの稼ぎはかなり良いんだけどね。


「じゃあ、この後は各自自由時間ね」

 ミーティング兼魔力操作兼魔力感知の鍛錬を終え、それぞれの自由時間となる。

 騎士団と一緒に訓練したり、魔法の訓練だったり、シルクワームとホーリースパイダーのお世話を手伝ってくれたりと、自分のしたい事をする。

 で、私は精霊達とオリハルコンとアダマンタイトの精錬だ。

 聖水は作り溜めてあるから、かなりの量がある。

「ガンツ、皆んなの剣の仕様は聞いてる?」
「ああ、お嬢。ちゃんと採寸も済んでるぞ」
「じゃあ、あとは私の剣だね」
「おっ、とうとうお嬢も自分用の剣を持つ気になったか」
「まぁ、皆んながあった方がいいって言うしね」

 その時、工房を覗く視線に振り返る。まぁ、誰が来てたなんて分かってたんだけどね。

「どうしたの二人とも。何か用事?」
「お姉様。お願いがあります」
「お姉ちゃん! 僕も剣が欲しい!」
「私は扇が欲しいです!」
「ああ……」

 メルティとルードが、工房に来たのは気配と魔力で分かっていた。可愛い妹と弟だからね。とはいえ、剣と扇? ルードの剣は分かるけど、メルティは扇なの?

「メルティ、扇なの?」
「はい! お姉様と同じがいいです!」
「うーん。まあ、いいけど。ルードの剣は、両刃の直剣?」
「はい! お父様やお祖父様みたいな剣がいいです!」
「流石にオリハルコンはダメだよ。形を似せるのら大丈夫だけど」

 オリハルコンは、マーサお婆ちゃんの遺産だからね。メルティとルードにならって思うけど、まだローディンお兄様にも渡してないし、二人には年齢的に早い。それ以前に、オリハルコンなんて、国の宝物庫にも短剣一本有るだけらしいからね。

「そうじゃな。お二方にはミスリルの合金で造って差し上げよう」
「ほんとう! ありがとう、ガンツ!」
「私の扇は、お姉様のと同じにしてね!」
「分かった。分かった。でも、ララ達の後だからね」

 喜ぶメルティとルードだけど、私は工房の扉が気になって仕方ない。

「はぁ、ローディンお兄様。何かご用ですか?」
「……ユーリ、僕だけ仲間外れは狡いじゃないか」
「はぁ」
「あ! ローディンお兄様!」
「えっ、お兄ちゃん?」

 そう、ローディンお兄様が、扉の隙間から覗いていたの。メルティとルードが驚いているけど、勿論私は気付いてたわよ。ローディンお兄様も多少は気配を消したり出来るけど、そんなタイプじゃないからね。

「お父様やお祖父様と同じような剣はダメですよ。どうせ、お父様かお祖父様の剣を受け継ぐのはお兄様なんですから」
「分かってるよ。でも、ユーリ達と同じか、メルティやルードと同じものは良いだろう?」

 もう。ローディンお兄様ったら、もう直ぐ二十歳になるのに、しかも嫡男のアロールが生まれて一児の父親だって言うのに、男ってほんと子供よね。

「分かりました。お父様の剣と重さと長さは同じくらいでよかったですよね」
「ああ、ありがとう、ユーリ! 楽しみにしているね!」

 ローディンお兄様は、それだけ言って走り去って行った。きっとお仕事放って来てたんでしょうね。



 ガンツとゴクウ達と工房に入ると、早速作業を始める。

「イフ様。炉に火を入れてくだされ」
『ああ、任せろ』
「ゴレムス様。アダマンタイトとミスリルの精錬をお願いします」
『容易い事だ』

 ガンツが、イフとゴレムスに指示を出し、私は精霊達にしっかりとしたイメージと共に魔力を渡す。

 炉に火を入れるくらいなら、イフだけで大丈夫だけど、金属の精錬になると精霊魔法を使った方がいい。

「じゃあ、ノックスの野郎の分からいくか。イフ様、炉の温度を上げてください。ハヤテ様、いい具合に風をお願いします!」
『任せろ』
『いい具合って、適当だねー』

 アダマンタイトは、ミスリルよりも高い温度と魔力が必要になるので、イフやハヤテが手伝ってくれるとグッと楽になる。

 ガンツが板状に加工したアダマンタイト合金を、炉で熱し鎚で打つ。

 この世界、剣は鍛造よりも鋳造の物が多いけれど、ドワーフの鍛治師は基本的に鍛造で武器を打つ。勿論、鋳造の技術がない訳じゃない。物によりけりって事ね。

 研ぎを後回しに、ガンツはドンドン剣を打っていく。まぁ、全員の分を頼まれているから、精霊達が協力しても日にちは掛かるのは仕方ない。

 最後に、試行錯誤した私の刀が打ちあがったのは一月後だった。これでも前世日本人での鍛刀を知っている私からすれば、信じられないスピードだけどね。魔法バンザイだ。

 黒い刀身に、よく見ると青い刃紋が波打つ。厚重ねで身幅も広く反りは浅め。拵えが和洋折衷なのは仕方ない。手に入る素材も日本とこの世界とでは違うしね。鍔は、武蔵鍔とも呼ばれる海鼠鍔。私は、前世からシンプルな海鼠鍔が好みだった。

 鞘だってトレント材。要するに木の魔物なんだけど、樫や黒檀みたいな硬い木が魔物になった、且つ年経たトレントから採れたものだから、凄く丈夫で攻撃や防御にも使える。勿論、付与魔法で強化してある。

 大満足の出来だ。ガンツには報酬を弾まないとね。



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 この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 初回放送はいかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただければ幸いなのですが。
 次回の放送も楽しんで頂けると嬉しいです。

 それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。


 あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。



 また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。

 12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。



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