ヴェルムのコレクション(短編集)

桂圭人

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ヴェルムとケース【閲覧注意】

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暗く赤い照明だけが灯る、紅蓮の四剣の本拠最深部。  
「永遠の紅蓮炉」のすぐ傍らに設けられた、特別な保管室。
そこに、透明な強化ガラスケースがたくさん並んでいる。
内部温度は厳密に40℃。人間の体温よりわずかに高い、熱を孕んだ空気。  
たくさんのケースの中の一台にイグナッツィオが眠っている。  
白い肌に無数の古傷。鎖で繋がれた痕、焼け焦げたような痣、刃で抉られた深い線。  
どれもヴェルムが知っている傷だ。  
どれも、ヴェルム自身が――あるいはヴェルムの名の下に――刻んだものだ。
ヴェルム=アークライトはケースの前に立ち、掌をガラスに押し当てる。  
熱が伝わる。ケースの外側ですら熱い。  
彼の白い髪が、紅蓮の照明を受けて淡く炎のように揺れる。

「……ただいま、イグナッツィオ」

静かな声。  
ケースのロックが解除され、ゆっくりと蓋が開く。  
温かく湿った空気が流れ出し、彼の頬を撫でる。  
イグナッツィオの体はまだ微かに温かい。  
AIの管理下で、腐敗を完全に止められた「常温睡眠」 
生きているわけではない。死んでもいない。  
ただ、ヴェルムの欲の都合のいい温度で、保存されているだけだ。
ヴェルムは片膝をつき、イグナッツィオの体を抱き起こす。  
重みも、柔らかさも、昔と変わらない。  
刺青まみれの胸に顔を埋め、深く息を吸う。  
血と焦げと、かすかに残る汗の匂い。

「たくさん傷付いたから……たくさん癒して」

囁くように、しかし熱を帯びた声。  
ヴェルムはイグナッツィオの顎を指で持ち上げ、唇を重ねる。  
冷たくはない。40℃のぬくもり。  
舌を絡め、深く、貪るように。  
まるで生きているかのように、反応はないのに、ヴェルムは勝手に感じ取る。  
イグナッツィオが、昔のように震えていると。  
昔のように、痛がりながらも受け入れていると。
ヴェルムの手が、イグナッツィオの傷跡をなぞる。  
ひとつひとつの瘢痕に指を這わせ、爪を立て、薄く血を滲ませる。  
新しい赤を、古い赤の上に重ねる。

「本当はさ、目覚めさせてさ、どっか一緒に行きたいな。あの時みたいに、出会った時のような、あの楽しさをな……」

彼はイグナッツィオの体を床に横たえ、自分の上着を脱ぎ捨てる。  
白い肌が紅蓮の光に染まり、まるで炎に焼かれているように見える。  
ヴェルムはイグナッツィオをうつ伏せにして脚を開かせて、その間に自らの腰を沈める。  
ゆっくりと、しかし容赦なく。

「もっと、たくさん話して。もっと、たくさん何処か連れ回してやりたいなぁ……」

腰を押し進め、深く繋がる。  
反応のない体が、ヴェルムの動きに合わせてわずかに揺れる。  
ヴェルムは目を細め、笑う。  
紅蓮のような、残酷で甘い笑み。

「いっぱい傷付き過ぎちゃった…だから、いっぱい癒してくんねぇかな……」

動きが速くなる。  
熱い息が、イグナッツィオの首筋にかかる。  
ヴェルムは耳元で囁き続ける。

「また……どっか……一緒に……行こうな」

最後に、ヴェルムは強く腰を打ちつけ、熱を解放する。  
白い髪が乱れ、紅い瞳が一瞬、燃えるように輝く。

「……愛してるよ、イグナッツィオ。だから、ずっとこの熱で、僕と一緒に燃えていてくれ」

ケースの蓋は開いたまま。  
40℃の空気が、二人の周りを甘く、淫らに満たしていく。  
紅蓮の炎は、決して消えない。  
たとえ相手が、もう息をしていなくても。
――そして、ヴェルムは静かに体を離す。  
イグナッツィオの体を丁寧にケースに戻し、傷跡に残った自分の爪痕を指でなぞる。  
新しい血が、ゆっくりと乾いていく。

「次に取り出す時は、もう少し長く……一緒にいよう」

ヴェルムはケースの蓋を閉め、ロックをかける。  
40℃の温度が、再びイグナッツィオを優しく包み込む。  
紅蓮炉の低く唸る鼓動が、遠くから響いてくる。  
それは、永遠に続く炎の約束のように。
ヴェルムは立ち上がり、背を向ける。  
白い髪が、紅い光に揺れながら、暗闇の奥へと消えていく。
ケースの中のイグナッツィオは、変わらず静かに眠っている。  
ただ、頬に残るヴェルムの唇の熱だけが、かすかに、赤く残っていた。
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