ヴェルムのコレクション(短編集)

桂圭人

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ヴェルムとケースその2【閲覧注意】

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暗く赤い照明だけが灯る、紅蓮の四剣の本拠最深部。  
「永遠の紅蓮炉」のすぐ傍らに設けられた、特別な保管室。  
透明な強化ガラスケースが無数に並ぶ中の一台。  
内部温度は厳密に40℃。熱を孕んだ空気が、ケースのガラスを曇らせている。  
ケースの中に、エボディオが横たわっている。  
短く刈り込んだ銀灰色の髪、鋭い輪郭の顔立ちに、細かな古傷が刻まれている。  
鎖の痕、焼け焦げた痣、刃物で抉られた深い線――どれもヴェルムが知っている傷。  
どれも、ヴェルム自身が、あるいはヴェルムの名の下に刻んだものだ。 
ヴェルム=アークライトはケースの前に立ち、掌をガラスに押し当てる。  
熱が伝わる。ケースの外側ですら熱い。  
白い髪が紅蓮の照明に揺れ、淡く炎のように見える。

「……ただいま、エボディオ」

静かな声。  
ケースのロックが解除され、ゆっくりと蓋が開く。  
温かく湿った空気が流れ出し、ヴェルムの頬を撫でる。  
エボディオのまぶたがゆっくりと開く。  
焦点の合った瞳が、すぐにヴェルムを捉える。  
体はまだ微かに震え、40℃の熱気が肌を上気させている。  
AIの管理下で腐敗は止められているが、意識ははっきりしている。  
生きている。死んではいない。  
ただ、ヴェルムの欲の都合のいい温度で、保存され続けているだけだ。
エボディオはゆっくり体を起こし、ケースの縁に手をかけて座る。  
声は少し掠れているが、言葉は明確だ。

「……また来たのか、ヴェルム。毎回毎回、ケース開けては俺を引っ張り出して……飽きないのか?」

ヴェルムは片膝をつき、エボディオの体を抱き寄せる。  
重みも、柔らかさも、昔と変わらない。  
古傷跡だらけの胸に顔を埋め、深く息を吸う。  
血と焦げと、かすかに残る汗の匂い。

「たくさん傷付いたから……たくさん癒して」

囁くように、しかし熱を帯びた声。  
ヴェルムはエボディオの顎を指で持ち上げ、唇を重ねる。  
40℃のぬくもり。  
舌を絡め、深く、貪るように。  
エボディオは一瞬体を硬くするが、すぐにヴェルムの背中に腕を回す。  
キスを返しながら、低く呟く。

「……癒すって、毎回同じこと言ってるな。結局、俺の傷の上に新しい傷を重ねるだけじゃねぇか」

ヴェルムは唇を離し、エボディオの瞳を覗き込む。  
紅い炎が揺れている。

「良いじゃねぇか。別にさぁ…癒してくれよぉ…こっちは、すっげぇ寂しかったんだよぉ……」

ヴェルムの手が、エボディオの傷跡をなぞる。  
ひとつひとつの瘢痕に指を這わせ、爪を立て、薄く血を滲ませる。  
エボディオは小さく息を吐き、痛みを堪えるように目を細める。

「……本当はさ、目覚めさせて、どっか一緒に行きたいんだろ?  あの時みたいに、出会った頃の楽しさを、もう一度味わいたいんだろ?」

ヴェルムは静かに頷き、エボディオの体を床に横たえる。  
自分の上着を脱ぎ捨て、白い肌が紅蓮の光に染まる。  
エボディオをうつ伏せにし、脚を開かせて、その間に腰を沈める。  
ゆっくりと、しかし容赦なく。

「もっと、たくさん話して。もっと、たくさん何処か連れ回してやりたい……」

腰を押し進め、深く繋がる。  
エボディオの体がわずかに震え、喉から低い呻きが漏れる。

「……ヴェルム……っ。毎回毎回、こんなことして……俺はもう、動けねぇ体なのに」

ヴェルムは目を細め、残酷で甘い笑みを浮かべる。  
動きが徐々に速くなる。

「すっげぇツラくて寂しくて傷付きまくったから、いっぱい癒して欲しいなぁ……」

熱い息が、エボディオの首筋にかかる。  
耳元で囁き続ける。

「例え動けなくても、僕が動けるようにしてやるからぁ……」

エボディオは枕に顔を埋め、掠れた声で返す。

「……もう、いいよ。俺はもう…気持ちでたくさんだ。だから、来るだけで十分だ」(もう…疲れた……)

ヴェルムは強く腰を打ちつけ、熱を解放する。  
白い髪が乱れ、紅い瞳が一瞬、燃えるように輝く。

「気持ちだけだなんて…正直…僕が苦しいよ。来るだけとか……あぁ……い…い…よ……君が、そう言うならな……」

エボディオは息を荒げ、ゆっくり体を起こす。  
ヴェルムの頬に手を当て、静かに言う。

「あぁ、分かったよ。もう伝わったから、またな。次は……どっか行くのを付き合ってやるからさ……」

ヴェルムはエボディオを抱きしめ、額を合わせる。

「……約束する。次は、もっと長く、どっか一緒に行こうな……」

ケースの蓋は開いたまま。  
40℃の空気が、二人の周りを甘く、淫らに満たしていく。  
紅蓮の炎は、決して消えない。  
たとえ相手が、もう自由に動けなくても。  
ヴェルムはエボディオを優しくケースに戻し、傷跡に残った自分の爪痕を指でなぞる。  
新しい血が、ゆっくりと乾いていく。

「次は、もう少し長く……一緒にいよう」

蓋を閉め、ロックをかける。  
40℃の温度が、再びエボディオを優しく包み込む。  
紅蓮炉の低く唸る鼓動が、遠くから響いてくる。  
ケースの中のエボディオは、静かに目を閉じる。  
ただ、唇に残るヴェルムの唇の熱だけが、かすかに、赤く残っていた。
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