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ルーヴァVS マグナム
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銀色の秩序が支配する領域——ケプラーの白い天球儀が投影する「完全なる決定論」の実験都市。その境界で、二人の男が対峙していた。
一方は、白の髪に灰色の粒子を舞わせ、漆黒のコートの内側から赤い糸をちらつかせる美しい男——ルーヴァ=エイシェン。「灰の王子」は穏やかな微笑みを浮かべ、腰の銀色の拳銃“ヴァージニア”に指をかけている。
対するは、ピアノブラックの重装甲にメタリックゴールドのラインが走る巨躯——マグナム。オプティマスプライムと同じシルエットを持ちながら、より重量級のその姿は「影のプライム」と呼ぶにふさわしい。両腕のマグナムキャノンが、冷たい輝きを放つ。
「お前が“灰の王子”か」
マグナムの声は重く、迷いがない。
「銀警察の記録には『最も危険な反逆者』とある。人類を“人間らしさ”で汚染する存在、と」
ルーヴァは微笑んだまま、首をかしげる。
「汚染? 面白い言い方だね。僕はただ、冷たくなりすぎた心に、少しだけ温もりを戻しているだけだよ」
コートの裾が風に揺れる。灰色の裏地から、かすかに赤い光が漏れた。
その時、マグナムが先に動いた。重厚なボディからは想像できない速さで間合いを詰め、右腕のマグナムキャノンを構える。最小の動きで最大の効果を得る——彼の戦闘哲学そのものだ。
しかし、ルーヴァは逃げない。むしろ、一歩前に踏み出す。
「君の迷いのなさ、好きだよ。でもね——」
漆黒のコートが大きくはためく。その内側から、紅蓮の光を帯びた血色の触手が、まるで感情そのもののようにうねりながら現れた。
「——迷わない心は、時に、自分さえ見失う」
触手の先端が瞬時に変形する。金属が折り重なり、引き金を備えた異形の銃へと姿を変えた。その銃口は、明らかに通常の弾丸を想定していない——歪で、まるで命を宿すかのように脈打っている。
ドン
乾いた発射音。しかし、飛来したのは弾丸ではない。
それは——表面が隆起した、まごうことなき男根の形状をした「弾」。銀色の表面を赤い感情が走り、生々しい脈動を伝えている。
マグナムは回避動作に入ろうとした。が、その弾丸は彼の重装甲を貫かず、命中した瞬間に拡散する——赤い感情の粒子が、マグナムの全身を覆うブラックとゴールドの装甲の隙間から、強制的に染み込んでいく。
「な……に……?」
マグナムの動きが、明らかに鈍った。
―情の流弾—
撃たれた者の心に“感情”を強制的に蘇らせる、ルーヴァの能力。銀警察の無情の秩序を溶かすために生み出されたこの弾丸が、今、戦闘機械のようなマグナムの内部で炸裂し、侵食する。
マグナムの視界が歪む。
これまで、彼は「最小の犠牲で最大の勝利を取る」存在として生きてきた。迷いは不要。感情はノイズ。オプティマスが迷う間に、自分は撃つ——それが彼の正義だった。
だが今、赤い感情が、彼のプロセッサを侵食するように広がる。
『……マグナム、なぜお前はそこまで戦う?』
聞こえるはずのない声。オプティマスのものだ。いや、これは自分自身の問いかけか?
『影のプライムとして、歴史から消された存在として——お前は、何のために?』
動きが止まる。重装甲が、本来の滑らかさを失い、ぎこちなくなる。
ルーヴァは優しく、そして悲しげに微笑んだ。
「君の中に、まだ“情”が残っているんだね。よかった」
次の触手が、再び変形する。今度はより深く、より強く——マグナムのコアそのものに届くように、第二射が放たれる。
命中。
マグナムの黒い装甲に、ひび割れのように赤い輝きが走る。その光は、彼の内部で眠っていたものを目覚めさせようとしていた。
「お前は……」
マグナムの口から、かすかな声が漏れる。
「お前は、誰のために撃つ?」
ルーヴァの問いが、感情の波となって彼を揺さぶる。
「オプティマスのため? サイバトロンのため? それとも——」
ルーヴァはゆっくりと近づく。警戒は解かないが、その目はまっすぐにマグナムを見つめている。
「——自分が『存在した証明』が欲しかっただけじゃないのか?」
マグナムのマグナムキャノンを構える腕が、わずかに震えた。
「黙れっ……!」
重低音の叫びとともに、マグナムは強引に腕を振り上げる。感情を振り払うように、照準をルーヴァに向ける。
しかし、その照準はわずかに狂っていた。
ルーヴァは避けない。ただ、悲しげな微笑みを浮かべたまま、コートの内側から新たな触手を展開する。今度は「情の流弾」ではない。より深い——死者や沈黙した心を“灰から再生”させる能力。
―灰の祈り―
「君が誰かのコピーでも、消された存在でも——それでも君が“今、ここで悩んでいる”なら、君はもう、ただの機械じゃない」
灰色の粒子が、マグナムの全身を優しく包み込む。
「それは、権威に従わないって意味だけじゃない。『自分として生きる』って意味なんだ」
マグナムの動きが完全に止まった。
彼のプロセッサの中では、二つの声が交錯している。
撃て。迷うな。それがお前の存在理由だ。
……なぜ、撃てと言われるままに撃ってきた? 本当に、それはお前の意志だったのか?
赤い感情が、灰色の祈りが、彼の内側で混ざり合う。
そして——彼の胸のエンブレムが、普段の黒地に金の縁取りから、中心部がほのかに赤く輝き始めた。
ルーヴァはその変化を見て、そっとうなずく。
「君の中に、まだ“情”がいた。冷たい秩序に閉じ込められていたけど、確かに、そこにいた」
彼はコートを整え、腰の“ヴァージニア”に手を戻す。
「今日はここまでにしよう。でも、また会えるかもしれない——その時までに、君が“自分で決める”ことを覚えていたら、嬉しいな」
灰色の粒子が舞い、ルーヴァの姿が霞んでいく。マグナムは、動けないまま——いや、動こうとしないまま、その背中を見送った。
その後、その場にはマグナムだけが立っていた。
彼の装甲には、まだかすかに赤い輝きが残っている。それは侵食の痕跡であり、同時に——目覚めの兆しでもあった。
「……俺が、決める?」
重厚な声が、初めて迷いを含んでつぶやかれた。
黒金の巨体は、しばらくそこに立ち尽くしていた。やがて、ゆっくりとその場を離れる。しかし、その歩みは来た時とは明らかに違っていた——何かを考えるように、ゆっくりと、重く。
残された空間には、ルーヴァの灰白の粒子がわずかに漂い、優しく、そして切なく、輝き続けていた。
一方は、白の髪に灰色の粒子を舞わせ、漆黒のコートの内側から赤い糸をちらつかせる美しい男——ルーヴァ=エイシェン。「灰の王子」は穏やかな微笑みを浮かべ、腰の銀色の拳銃“ヴァージニア”に指をかけている。
対するは、ピアノブラックの重装甲にメタリックゴールドのラインが走る巨躯——マグナム。オプティマスプライムと同じシルエットを持ちながら、より重量級のその姿は「影のプライム」と呼ぶにふさわしい。両腕のマグナムキャノンが、冷たい輝きを放つ。
「お前が“灰の王子”か」
マグナムの声は重く、迷いがない。
「銀警察の記録には『最も危険な反逆者』とある。人類を“人間らしさ”で汚染する存在、と」
ルーヴァは微笑んだまま、首をかしげる。
「汚染? 面白い言い方だね。僕はただ、冷たくなりすぎた心に、少しだけ温もりを戻しているだけだよ」
コートの裾が風に揺れる。灰色の裏地から、かすかに赤い光が漏れた。
その時、マグナムが先に動いた。重厚なボディからは想像できない速さで間合いを詰め、右腕のマグナムキャノンを構える。最小の動きで最大の効果を得る——彼の戦闘哲学そのものだ。
しかし、ルーヴァは逃げない。むしろ、一歩前に踏み出す。
「君の迷いのなさ、好きだよ。でもね——」
漆黒のコートが大きくはためく。その内側から、紅蓮の光を帯びた血色の触手が、まるで感情そのもののようにうねりながら現れた。
「——迷わない心は、時に、自分さえ見失う」
触手の先端が瞬時に変形する。金属が折り重なり、引き金を備えた異形の銃へと姿を変えた。その銃口は、明らかに通常の弾丸を想定していない——歪で、まるで命を宿すかのように脈打っている。
ドン
乾いた発射音。しかし、飛来したのは弾丸ではない。
それは——表面が隆起した、まごうことなき男根の形状をした「弾」。銀色の表面を赤い感情が走り、生々しい脈動を伝えている。
マグナムは回避動作に入ろうとした。が、その弾丸は彼の重装甲を貫かず、命中した瞬間に拡散する——赤い感情の粒子が、マグナムの全身を覆うブラックとゴールドの装甲の隙間から、強制的に染み込んでいく。
「な……に……?」
マグナムの動きが、明らかに鈍った。
―情の流弾—
撃たれた者の心に“感情”を強制的に蘇らせる、ルーヴァの能力。銀警察の無情の秩序を溶かすために生み出されたこの弾丸が、今、戦闘機械のようなマグナムの内部で炸裂し、侵食する。
マグナムの視界が歪む。
これまで、彼は「最小の犠牲で最大の勝利を取る」存在として生きてきた。迷いは不要。感情はノイズ。オプティマスが迷う間に、自分は撃つ——それが彼の正義だった。
だが今、赤い感情が、彼のプロセッサを侵食するように広がる。
『……マグナム、なぜお前はそこまで戦う?』
聞こえるはずのない声。オプティマスのものだ。いや、これは自分自身の問いかけか?
『影のプライムとして、歴史から消された存在として——お前は、何のために?』
動きが止まる。重装甲が、本来の滑らかさを失い、ぎこちなくなる。
ルーヴァは優しく、そして悲しげに微笑んだ。
「君の中に、まだ“情”が残っているんだね。よかった」
次の触手が、再び変形する。今度はより深く、より強く——マグナムのコアそのものに届くように、第二射が放たれる。
命中。
マグナムの黒い装甲に、ひび割れのように赤い輝きが走る。その光は、彼の内部で眠っていたものを目覚めさせようとしていた。
「お前は……」
マグナムの口から、かすかな声が漏れる。
「お前は、誰のために撃つ?」
ルーヴァの問いが、感情の波となって彼を揺さぶる。
「オプティマスのため? サイバトロンのため? それとも——」
ルーヴァはゆっくりと近づく。警戒は解かないが、その目はまっすぐにマグナムを見つめている。
「——自分が『存在した証明』が欲しかっただけじゃないのか?」
マグナムのマグナムキャノンを構える腕が、わずかに震えた。
「黙れっ……!」
重低音の叫びとともに、マグナムは強引に腕を振り上げる。感情を振り払うように、照準をルーヴァに向ける。
しかし、その照準はわずかに狂っていた。
ルーヴァは避けない。ただ、悲しげな微笑みを浮かべたまま、コートの内側から新たな触手を展開する。今度は「情の流弾」ではない。より深い——死者や沈黙した心を“灰から再生”させる能力。
―灰の祈り―
「君が誰かのコピーでも、消された存在でも——それでも君が“今、ここで悩んでいる”なら、君はもう、ただの機械じゃない」
灰色の粒子が、マグナムの全身を優しく包み込む。
「それは、権威に従わないって意味だけじゃない。『自分として生きる』って意味なんだ」
マグナムの動きが完全に止まった。
彼のプロセッサの中では、二つの声が交錯している。
撃て。迷うな。それがお前の存在理由だ。
……なぜ、撃てと言われるままに撃ってきた? 本当に、それはお前の意志だったのか?
赤い感情が、灰色の祈りが、彼の内側で混ざり合う。
そして——彼の胸のエンブレムが、普段の黒地に金の縁取りから、中心部がほのかに赤く輝き始めた。
ルーヴァはその変化を見て、そっとうなずく。
「君の中に、まだ“情”がいた。冷たい秩序に閉じ込められていたけど、確かに、そこにいた」
彼はコートを整え、腰の“ヴァージニア”に手を戻す。
「今日はここまでにしよう。でも、また会えるかもしれない——その時までに、君が“自分で決める”ことを覚えていたら、嬉しいな」
灰色の粒子が舞い、ルーヴァの姿が霞んでいく。マグナムは、動けないまま——いや、動こうとしないまま、その背中を見送った。
その後、その場にはマグナムだけが立っていた。
彼の装甲には、まだかすかに赤い輝きが残っている。それは侵食の痕跡であり、同時に——目覚めの兆しでもあった。
「……俺が、決める?」
重厚な声が、初めて迷いを含んでつぶやかれた。
黒金の巨体は、しばらくそこに立ち尽くしていた。やがて、ゆっくりとその場を離れる。しかし、その歩みは来た時とは明らかに違っていた——何かを考えるように、ゆっくりと、重く。
残された空間には、ルーヴァの灰白の粒子がわずかに漂い、優しく、そして切なく、輝き続けていた。
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