オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSアンティパシー

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夜の金将宮殿、回廊の奥。  
白大理石の床に、無数の黄色のランプが揺れる影を落としていた。

オルフェウス=マクレインは、いつもの位置――金将の間へと続く扉の前に立っていた。  
胸で鈍く光る重厚な盾型紋章。白徽警衛団の制服は、一歩も動かない岩のように揺るがない。

その静寂を、ざあっとノイズめいた足音が引き裂いた。

「やぁ、夜更かし仲間、一緒に遊ぼう」

闇の奥から現れたのは、背に黒い裂け目を走らせた長身。  
白から金へと逆流する髪。左右で色を異にする、端末の警告灯じみた瞳。

アンティパシー。  
反感そのものと化した、ゴールデン・アルカナ。

彼はゆっくりと右手を掲げる。  
手甲――断絶ソケットが、金血の脈動に合わせて淡く瞬いた。

「キミはいつも、誰かの“ために”しか存在していない。そんなの、哀れだと思わない?」

その瞬間、オルフェウスの耳元で、隊士たちの通信がぷつりと途切れた。  
味方の気配が、視界からも、感覚からも、ぱちんと外れていく。

孤立電流。  
近くにいる者同士の“繋がり”を、文字通り切断する力。

オルフェウスは眉ひとつ動かさず、左腕の巨大な盾を前に構えた。  
白徽の紋章が、ぎん、と高らかに鳴る。

「僕は護る。それが僕の存在だ」

「だったら、護ってみせてよ。――誰を?」

アンティパシーは薄く笑い、両手を広げた。

《ソーシャル・ブラックアウト》

半径二十メートル。  
世界から、音が落ちた。

回廊にいたはずの近衛たち十数名が、突然互いの姿を見失う。
味方同士が、敵を「敵」として認識できなくなる。  
誰が誰なのか分からない。剣を振り上げたまま、全員が凍りついた。

ただ一人、オルフェウスだけが、なおもアンティパシーの姿を捉え続けていた。

なぜか。

――盾の内側で、微かに灯る金将の紋章。  
それは“護るべき主”と結ばれた、たった一つのリンクだった。  
断絶ソケットは“複数の”繋がりを切る。  
だが、オルフェウスが繋いでいるのは、ただ一人だけ。

アンティパシーの瞳が、わずかに細まる。

「……なるほど。キミは“みんな”じゃなくて、“あの人だけ”を見ている。だから切れないのか」

「違う」

オルフェウスは一歩、前へ出た。  
大理石が、重い音を立ててひびく。

「僕は、護るべき人を護るために、みんなを守る。順番が違うだけだ」

盾が振り上げられる。  
白徽の紋章が、聖なる光を花のように散らした。

《白盾の誓約――インヴィンシブル・ロータス》

盾の表面に、無数の光の花弁が開く。  
それは“護る意志”そのものが結晶した、絶対防御。  
どんな攻撃も、どんな断絶も、その花弁を通り抜けることはできない。

対するように、アンティパシーの断絶ソケットが金血を激しく脈打たせる。

「だったら、試してみよう。その誓約は、キミ自身の“孤独”すら防げるのか?」

孤立電流が、今度は一点に収束する。  
狙いはオルフェウス自身。  
彼が最も恐れる、“誰からも必要とされない感覚”を、直接叩き込もうとする。

だが。

オルフェウスの瞳は、揺れなかった。

「……僕は、もう孤独じゃない」

静かに。だが、確かな響きで。

「金将が、僕を必要としてくれている。それだけで、十分だ」

盾が振り下ろされる。

光と断絶が激突した瞬間――  
凍りついていた回廊に、再び“繋がり”が流れ込んだ。

近衛たちが、一斉に我に返る。  
視界が戻る。声が戻る。  
隣にいる仲間の存在が、鮮やかに蘇る。

アンティパシーは、初めて表情を歪めた。  
断絶ソケットに、蜘蛛の巣のようなひびが走る。

「……っ、くだらない。たった一人のために、そこまで――」

「違う」

オルフェウスは、その言葉を静かに遮った。

「僕は、たった一人を守るために、世界を守る。それが、白徽警衛団の在り方だ」

盾が、最後の輝きを放つ。

轟音。  
閃光。  
そして、静寂。

金将の間の扉の前。  
オルフェウス=マクレインは、傷だらけの盾を胸に抱き、なおも微動だにせず立ち続けていた。
オルフェウスは、ほんのわずかに目を細める。  
それだけで、十分だった。

夜の回廊に、再び金色のランプが静かに揺れ始める。  
繋がりは、断たれてなどいなかった。
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