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オルフェウスVSクルーエルティ
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白徽城の最奥、黄金の間。
大理石の床には、乾ききらない血痕が幾筋も走っている。
その上で、また新しい戦いが始まろうとしていた。
オルフェウス=マクレインは、金将のすぐ前――その背後に立ち、巨大な盾型紋章を正面に構える。
重さ百二十キロを優に超える白銀の盾は、彼の体をほとんど覆い隠すほど巨大だ。
表面には無数の傷が刻まれているが、それでも一歩も退かない。
それが、オルフェウスという男の存在意義だった。
対峙するのは、クルーエルティ。
白金の皮膚が淡く発光し、血管の奥を走る黄金の血が脈打つたび、床の空気が、熱でも冷気でもない歪みを帯びる。
彼は微笑まない。ただ静かに、右手を上げた。
指先からこぼれる淡い光。それは“痛覚そのもの”を形にした刃だった。
「……キミが、今日の最後の壁か」
クルーエルティの声は低く、金属をこすり合わせたような摩擦音を含んでいる。
オルフェウスは答えない。
代わりに、盾をわずかに前へ滑らせた。
衝立のように、金将の姿を完全に覆い隠す。
戦いは、一瞬で始まった。
クルーエルティが動く。
床を蹴った瞬間、背骨を走る外骨格《痛覚シェル》が金色に瞬き、 無数の細い光の糸が全身からほとばしる。
次の瞬間には、すでにオルフェウスの懐にいた。
《ノンレーテンシー・アゴニー》
遅延ゼロの痛覚侵食。
触れた瞬間に神経図を“上書き”し、思考より先に肉体を悶絶させる必殺の一撃。
クルーエルティの右手が、盾の表面へと伸びる。
――だが。
衝撃は、来なかった。
オルフェウスの盾が、まるで生き物のようにわずかに歪み、触れた光の糸を、すべて飲み込んだのだ。
盾の中央に刻まれた白い百合の紋章が、一瞬だけ、血のような赤に染まる。
「――っ!?」
クルーエルティが、初めてわずかに表情を歪めた。
オルフェウスは低く静かに告げる。
「白徽警衛団の盾は、痛みを記憶する。君の痛覚など、何度目か分からない」
次の瞬間、オルフェウスが盾を振り下ろした。
盾の縁が空気を裂き、クルーエルティの肩を正確に叩き据える。
重く鈍い打撃音。白金の皮膚がひび割れ、内部から金の血が飛び散る。
クルーエルティは後方へ跳び退いた。
着地と同時に両手を広げ、無数の痛覚ブレードを一気に展開する。
部屋全体が金色の光で満たされ、空気そのものが悲鳴を上げた。
「なら、まとめて上書きしてやる」
光の刃が、雨のように降り注ぐ。
それでも、オルフェウスは動かない。
ただ、盾を掲げたまま、金将の前に立ち続ける。
光の刃が盾に突き刺さるたび、盾の表面の古い傷が一つずつ淡く輝き、痛みを吸い上げていく。
やがて、金色の雨が収束した。
盾の表面に、複雑な金色の紋様が無数に浮かび上がる。
それはクルーエルティ自身の痛覚回路を写し取った図面のようだった。
オルフェウスは盾を掲げたまま、一歩、前へ踏み出す。
「返す」
その一言とともに、盾が音もなく“開いた”。
内部に蓄積されたすべての痛覚が、一気に逆流する。
クルーエルティの身体が、初めて硬直した。
白金の皮膚が内側から波打ち、黄金の血管が逆流するように膨れ上がる。
膝が折れる。両手で頭を抱え――だが、声は出ない。
ただ、全身を激しく震わせながら、床に崩れ落ちた。
オルフェウスは盾を下ろし、片膝をつく。
「……お許しを。床を汚してしまいました」
背後では、クルーエルティがまだ痙攣している。
これまで一度として“痛覚を味わう”ことのなかった残酷の化身は、自分の技を、自分自身に浴びせられたまま、指一本動かせない。
オルフェウスはゆっくりと立ち上がった。
盾の表面は、いつの間にか、再び無垢な白へと戻っていく。
大理石の床には、乾ききらない血痕が幾筋も走っている。
その上で、また新しい戦いが始まろうとしていた。
オルフェウス=マクレインは、金将のすぐ前――その背後に立ち、巨大な盾型紋章を正面に構える。
重さ百二十キロを優に超える白銀の盾は、彼の体をほとんど覆い隠すほど巨大だ。
表面には無数の傷が刻まれているが、それでも一歩も退かない。
それが、オルフェウスという男の存在意義だった。
対峙するのは、クルーエルティ。
白金の皮膚が淡く発光し、血管の奥を走る黄金の血が脈打つたび、床の空気が、熱でも冷気でもない歪みを帯びる。
彼は微笑まない。ただ静かに、右手を上げた。
指先からこぼれる淡い光。それは“痛覚そのもの”を形にした刃だった。
「……キミが、今日の最後の壁か」
クルーエルティの声は低く、金属をこすり合わせたような摩擦音を含んでいる。
オルフェウスは答えない。
代わりに、盾をわずかに前へ滑らせた。
衝立のように、金将の姿を完全に覆い隠す。
戦いは、一瞬で始まった。
クルーエルティが動く。
床を蹴った瞬間、背骨を走る外骨格《痛覚シェル》が金色に瞬き、 無数の細い光の糸が全身からほとばしる。
次の瞬間には、すでにオルフェウスの懐にいた。
《ノンレーテンシー・アゴニー》
遅延ゼロの痛覚侵食。
触れた瞬間に神経図を“上書き”し、思考より先に肉体を悶絶させる必殺の一撃。
クルーエルティの右手が、盾の表面へと伸びる。
――だが。
衝撃は、来なかった。
オルフェウスの盾が、まるで生き物のようにわずかに歪み、触れた光の糸を、すべて飲み込んだのだ。
盾の中央に刻まれた白い百合の紋章が、一瞬だけ、血のような赤に染まる。
「――っ!?」
クルーエルティが、初めてわずかに表情を歪めた。
オルフェウスは低く静かに告げる。
「白徽警衛団の盾は、痛みを記憶する。君の痛覚など、何度目か分からない」
次の瞬間、オルフェウスが盾を振り下ろした。
盾の縁が空気を裂き、クルーエルティの肩を正確に叩き据える。
重く鈍い打撃音。白金の皮膚がひび割れ、内部から金の血が飛び散る。
クルーエルティは後方へ跳び退いた。
着地と同時に両手を広げ、無数の痛覚ブレードを一気に展開する。
部屋全体が金色の光で満たされ、空気そのものが悲鳴を上げた。
「なら、まとめて上書きしてやる」
光の刃が、雨のように降り注ぐ。
それでも、オルフェウスは動かない。
ただ、盾を掲げたまま、金将の前に立ち続ける。
光の刃が盾に突き刺さるたび、盾の表面の古い傷が一つずつ淡く輝き、痛みを吸い上げていく。
やがて、金色の雨が収束した。
盾の表面に、複雑な金色の紋様が無数に浮かび上がる。
それはクルーエルティ自身の痛覚回路を写し取った図面のようだった。
オルフェウスは盾を掲げたまま、一歩、前へ踏み出す。
「返す」
その一言とともに、盾が音もなく“開いた”。
内部に蓄積されたすべての痛覚が、一気に逆流する。
クルーエルティの身体が、初めて硬直した。
白金の皮膚が内側から波打ち、黄金の血管が逆流するように膨れ上がる。
膝が折れる。両手で頭を抱え――だが、声は出ない。
ただ、全身を激しく震わせながら、床に崩れ落ちた。
オルフェウスは盾を下ろし、片膝をつく。
「……お許しを。床を汚してしまいました」
背後では、クルーエルティがまだ痙攣している。
これまで一度として“痛覚を味わう”ことのなかった残酷の化身は、自分の技を、自分自身に浴びせられたまま、指一本動かせない。
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盾の表面は、いつの間にか、再び無垢な白へと戻っていく。
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