オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSグリード

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深夜の王宮裏庭。  
月は雲に隠れ、街灯だけが石畳を鈍く照らしていた。

金将の寝所へ続く細い通路。その入口を、たった一つの影が塞いでいる。

オルフェウス=マクレイン。  
白徽警衛団近衛隊長。  
胸の重厚な銀の盾型紋章が微かに光を返し、全身を覆う制服は、まるでそこだけ切り出された移動要塞のようだ。

彼は、無言で立っていた。  
背後の扉を、ただ一人で死守するように。

通路の奥から、ざわめくような音が近づいてくる。  
金属が砂になってこすれ合うような、妙な足音。

「ナーイートさーん、あーそーぼ」

闇の向こうから現れた男は、欠けた黄金の光輪を背に揺らしていた。

グリード。

白い髪に、金のハイライトが刻まれたように走る。  
通貨記号を思わせる瞳が、闇の中で怪しく光る。  
指先から滴る金色の液体は、床を這ううちに鎖へと形を変え、冷たい音を立てた。

オルフェウスは、一歩も動かない。

「……金将への無礼は、許さない」

低く、重い声。  
左腕で構えた盾に、浮き上がるように青筋が走る。

グリードはにやりと笑った。  
その歯までもが、嫌味なくらい完璧に黄金の液体が溢れて滴りまくっている。

「欲しいんだよ。あの人の“すべて”が。キミだって分かるだろ? 『欲しい』って気持ちを」

次の瞬間、金蝕ループが蛇のように飛びかかった。

金色の鎖が空中で分裂し、オルフェウスの四肢を絡め取ろうと殺到する。  
触れた瞬間、その対象の価値判断を“欲しい”に固定してしまう呪い。  
普通の人間なら、もう自分の命ごと差し出して、跪いているはずの支配力。

だが。

ガキィィィンッ。

重厚な盾が一閃した。  
金色の鎖は火花を散らして弾かれ、逆にオルフェウス自身の足元へ叩きつけられる。

「僕は――」

オルフェウスが盾を前へ突き出し、真正面から踏み込む。

「金将の盾だ。欲望など、最初から持っていない」

グリードの眉が、わずかに跳ねる。

「ふざけるな。人間なら、誰だって――」

「黙れ」

盾が唸りを上げた。
盾から放たれた白銀の光膜が、通路全体を覆う。  
金蝕ループが触れるたび、ジジッと焦げるような音を立てて焼き払われていく。

グリードは舌打ちし、両手を大きく広げた。

「なら、直接味わわせてやるよ」

背後の欠けた光輪が、激しく回転し始める。  
金色の粒子が渦を巻き、その身を覆うように集束していく。

「《ディザイア・エターナル》」

黄金の波動が一直線に放たれた。

触れた者の精神を、“欲望だけのホットループ”に叩き落とす。  
グリード最強の支配技。欲の熱に焼かれ、理性も記憶も、最後には自我すら蕩けて消える。

それでも、オルフェウスは盾を掲げたまま、一歩も引かない。

黄金の波動が、盾へ叩きつけられる。

――その瞬間。

白銀の光が、黄金を呑み込んだ。

「……な?」

グリードの瞳が、あり得ないものを見た子どものように見開かれる。

盾の表面に浮かんだ紋章が、まるで“欲望そのもの”を拒絶するかのように輝いていた。

オルフェウスは静かに告げる。

「僕の忠義は、欲望じゃない。義務だ」

そして、一歩。

ただそれだけの、一歩を前に出る。

その一歩が、グリードにとっての絶望だった。

振り下ろされた盾が、空気を震わせる。

轟音。

欠けていたはずの金色の光輪が、今度こそ完全に砕け散った。  
グリードの身体は、石畳に叩きつけられ、そのまま動きを止める。  
金蝕ループは力を失い、ただの黄金の水溜まりへと形を崩して、床の上にだらりと広がった。

グリードは這いながら、信じられないという顔で呟く。

「馬鹿な……本当に……何も“欲しくない”のか……?」

オルフェウスは答えない。  
ただ、静かに盾を下ろすだけだった。

背後の扉は、今日も無事だ。

雲の切れ間から、月が顔を出す。  
白い盾の表面が、淡く光を受けて浮かび上がる。

忠義は、欲望に負けない。  
ただ、それだけのことだった。
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