8 / 16
オルフェウスVSグリード
しおりを挟む
深夜の王宮裏庭。
月は雲に隠れ、街灯だけが石畳を鈍く照らしていた。
金将の寝所へ続く細い通路。その入口を、たった一つの影が塞いでいる。
オルフェウス=マクレイン。
白徽警衛団近衛隊長。
胸の重厚な銀の盾型紋章が微かに光を返し、全身を覆う制服は、まるでそこだけ切り出された移動要塞のようだ。
彼は、無言で立っていた。
背後の扉を、ただ一人で死守するように。
通路の奥から、ざわめくような音が近づいてくる。
金属が砂になってこすれ合うような、妙な足音。
「ナーイートさーん、あーそーぼ」
闇の向こうから現れた男は、欠けた黄金の光輪を背に揺らしていた。
グリード。
白い髪に、金のハイライトが刻まれたように走る。
通貨記号を思わせる瞳が、闇の中で怪しく光る。
指先から滴る金色の液体は、床を這ううちに鎖へと形を変え、冷たい音を立てた。
オルフェウスは、一歩も動かない。
「……金将への無礼は、許さない」
低く、重い声。
左腕で構えた盾に、浮き上がるように青筋が走る。
グリードはにやりと笑った。
その歯までもが、嫌味なくらい完璧に黄金の液体が溢れて滴りまくっている。
「欲しいんだよ。あの人の“すべて”が。キミだって分かるだろ? 『欲しい』って気持ちを」
次の瞬間、金蝕ループが蛇のように飛びかかった。
金色の鎖が空中で分裂し、オルフェウスの四肢を絡め取ろうと殺到する。
触れた瞬間、その対象の価値判断を“欲しい”に固定してしまう呪い。
普通の人間なら、もう自分の命ごと差し出して、跪いているはずの支配力。
だが。
ガキィィィンッ。
重厚な盾が一閃した。
金色の鎖は火花を散らして弾かれ、逆にオルフェウス自身の足元へ叩きつけられる。
「僕は――」
オルフェウスが盾を前へ突き出し、真正面から踏み込む。
「金将の盾だ。欲望など、最初から持っていない」
グリードの眉が、わずかに跳ねる。
「ふざけるな。人間なら、誰だって――」
「黙れ」
盾が唸りを上げた。
盾から放たれた白銀の光膜が、通路全体を覆う。
金蝕ループが触れるたび、ジジッと焦げるような音を立てて焼き払われていく。
グリードは舌打ちし、両手を大きく広げた。
「なら、直接味わわせてやるよ」
背後の欠けた光輪が、激しく回転し始める。
金色の粒子が渦を巻き、その身を覆うように集束していく。
「《ディザイア・エターナル》」
黄金の波動が一直線に放たれた。
触れた者の精神を、“欲望だけのホットループ”に叩き落とす。
グリード最強の支配技。欲の熱に焼かれ、理性も記憶も、最後には自我すら蕩けて消える。
それでも、オルフェウスは盾を掲げたまま、一歩も引かない。
黄金の波動が、盾へ叩きつけられる。
――その瞬間。
白銀の光が、黄金を呑み込んだ。
「……な?」
グリードの瞳が、あり得ないものを見た子どものように見開かれる。
盾の表面に浮かんだ紋章が、まるで“欲望そのもの”を拒絶するかのように輝いていた。
オルフェウスは静かに告げる。
「僕の忠義は、欲望じゃない。義務だ」
そして、一歩。
ただそれだけの、一歩を前に出る。
その一歩が、グリードにとっての絶望だった。
振り下ろされた盾が、空気を震わせる。
轟音。
欠けていたはずの金色の光輪が、今度こそ完全に砕け散った。
グリードの身体は、石畳に叩きつけられ、そのまま動きを止める。
金蝕ループは力を失い、ただの黄金の水溜まりへと形を崩して、床の上にだらりと広がった。
グリードは這いながら、信じられないという顔で呟く。
「馬鹿な……本当に……何も“欲しくない”のか……?」
オルフェウスは答えない。
ただ、静かに盾を下ろすだけだった。
背後の扉は、今日も無事だ。
雲の切れ間から、月が顔を出す。
白い盾の表面が、淡く光を受けて浮かび上がる。
忠義は、欲望に負けない。
ただ、それだけのことだった。
月は雲に隠れ、街灯だけが石畳を鈍く照らしていた。
金将の寝所へ続く細い通路。その入口を、たった一つの影が塞いでいる。
オルフェウス=マクレイン。
白徽警衛団近衛隊長。
胸の重厚な銀の盾型紋章が微かに光を返し、全身を覆う制服は、まるでそこだけ切り出された移動要塞のようだ。
彼は、無言で立っていた。
背後の扉を、ただ一人で死守するように。
通路の奥から、ざわめくような音が近づいてくる。
金属が砂になってこすれ合うような、妙な足音。
「ナーイートさーん、あーそーぼ」
闇の向こうから現れた男は、欠けた黄金の光輪を背に揺らしていた。
グリード。
白い髪に、金のハイライトが刻まれたように走る。
通貨記号を思わせる瞳が、闇の中で怪しく光る。
指先から滴る金色の液体は、床を這ううちに鎖へと形を変え、冷たい音を立てた。
オルフェウスは、一歩も動かない。
「……金将への無礼は、許さない」
低く、重い声。
左腕で構えた盾に、浮き上がるように青筋が走る。
グリードはにやりと笑った。
その歯までもが、嫌味なくらい完璧に黄金の液体が溢れて滴りまくっている。
「欲しいんだよ。あの人の“すべて”が。キミだって分かるだろ? 『欲しい』って気持ちを」
次の瞬間、金蝕ループが蛇のように飛びかかった。
金色の鎖が空中で分裂し、オルフェウスの四肢を絡め取ろうと殺到する。
触れた瞬間、その対象の価値判断を“欲しい”に固定してしまう呪い。
普通の人間なら、もう自分の命ごと差し出して、跪いているはずの支配力。
だが。
ガキィィィンッ。
重厚な盾が一閃した。
金色の鎖は火花を散らして弾かれ、逆にオルフェウス自身の足元へ叩きつけられる。
「僕は――」
オルフェウスが盾を前へ突き出し、真正面から踏み込む。
「金将の盾だ。欲望など、最初から持っていない」
グリードの眉が、わずかに跳ねる。
「ふざけるな。人間なら、誰だって――」
「黙れ」
盾が唸りを上げた。
盾から放たれた白銀の光膜が、通路全体を覆う。
金蝕ループが触れるたび、ジジッと焦げるような音を立てて焼き払われていく。
グリードは舌打ちし、両手を大きく広げた。
「なら、直接味わわせてやるよ」
背後の欠けた光輪が、激しく回転し始める。
金色の粒子が渦を巻き、その身を覆うように集束していく。
「《ディザイア・エターナル》」
黄金の波動が一直線に放たれた。
触れた者の精神を、“欲望だけのホットループ”に叩き落とす。
グリード最強の支配技。欲の熱に焼かれ、理性も記憶も、最後には自我すら蕩けて消える。
それでも、オルフェウスは盾を掲げたまま、一歩も引かない。
黄金の波動が、盾へ叩きつけられる。
――その瞬間。
白銀の光が、黄金を呑み込んだ。
「……な?」
グリードの瞳が、あり得ないものを見た子どものように見開かれる。
盾の表面に浮かんだ紋章が、まるで“欲望そのもの”を拒絶するかのように輝いていた。
オルフェウスは静かに告げる。
「僕の忠義は、欲望じゃない。義務だ」
そして、一歩。
ただそれだけの、一歩を前に出る。
その一歩が、グリードにとっての絶望だった。
振り下ろされた盾が、空気を震わせる。
轟音。
欠けていたはずの金色の光輪が、今度こそ完全に砕け散った。
グリードの身体は、石畳に叩きつけられ、そのまま動きを止める。
金蝕ループは力を失い、ただの黄金の水溜まりへと形を崩して、床の上にだらりと広がった。
グリードは這いながら、信じられないという顔で呟く。
「馬鹿な……本当に……何も“欲しくない”のか……?」
オルフェウスは答えない。
ただ、静かに盾を下ろすだけだった。
背後の扉は、今日も無事だ。
雲の切れ間から、月が顔を出す。
白い盾の表面が、淡く光を受けて浮かび上がる。
忠義は、欲望に負けない。
ただ、それだけのことだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる