オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSエイシズム

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白徽城の最奥、黄金の間。

大理石の床一面に刻まれた祈りの紋様は、今やすべて灰色に沈み、音を失ってひび割れていた。

扉を蹴破って現れたのは、白髪の男――エイシズム。  
背後には“削除済みの聖典”のホログラムが浮かび、淡い光を拒むように回転している。

「金将はどこだ」

低く、感情の削げ落ちた声。

その一言で、部屋の空気がざわめいた。  
残っていた祈りの残滓が、ノイズ混じりの霧となって散っていく。

扉の前に立つ影は、ただ一人。

重厚な金属製の盾を構えた、金将の護衛官――  
オルフェウス・マクレイン。

「絶対に通さない」

静かな声音とともに、盾の表面に浮かぶ白徽の紋章が、眩い光を放つ。  
それは純粋な“信仰の結晶”。  
彼の全身を覆う鎧すら、祈りで鍛えられた聖なる装甲だ。

エイシズムは灰典書《アッシュスクリプト》をゆっくりと開いた。  
ページの間を、金血のインクが這うように循環し、ざわざわと不快な音を立てる。

「祈りは無意味だ」

書が開かれた瞬間――  
オルフェウスの盾から放たれていた白光が、映像の乱れのように歪み、途切れ、そのまま消えた。

「……っ」

オルフェウスの眉が、わずかに震える。

当たり前のように流れ続けていた“守護の祈り”が、頭の中で砂になって崩れ落ちていく感覚。  
心の奥で鳴っていた金将の忠誠の音ですら、輪郭を失い始めていた。

エイシズムが一歩、前へ出る。  
彼の足元から、床の祈りの紋様が一つずつ灰に変わっていく。

「無駄だ。キミの信仰は既に――」

その言葉を遮るように、オルフェウスの盾が轟音と共に前へ突き出された。

「お黙り」

声は低く、震えている。

祈りは届かない。  
神の加護も、どこにも感じない。

それでも――。

「僕は金将の盾だ」

彼は自分の胸を拳で叩く。  
鎧が短く鳴った。  
それは祈りではなく、ただの肉体と、剥き出しの意志の音。

「祈りが無意味なら、僕自身の体で、止めてみせる」

オルフェウスが駆けた。  
重い盾を振りかぶり、全身をバネにして突進する。

エイシズムの灰典書が、金血の文字を浮かび上がらせた。

《ブレス・デリート》――発動。

一瞬、世界から音が消えた。

オルフェウスの足が、ぴたりと止まる。  
瞳の奥の光が、ゆっくりと灰色に塗り潰されていく。

希望プロセス、削除。  
心の最後の灯火が、ぽつり、と消えた。

だが。

止まったはずのオルフェウスの身体が、次の瞬間――  
糸の切れた人形のように前のめりに崩れながら、そのまま盾の全面をエイシズムの胸へ叩きつけた。

轟音。  
鈍い衝撃。

エイシズムの体が大きく後方へ吹き飛び、灰典書がその手から離れる。  
床に落ちた書が勝手に開き、ページがばらばらと散らばった。

オルフェウスは、その場に膝をついていた。

瞳は虚ろで、焦点を結ばない。  
口元から血が垂れ、顎を伝って床に落ちる。  

それでも、盾はまだ――  
金将の間へ続く道を、しっかりと塞いでいた。

「……まだ、だ」

かすれた声が、喉の奥から絞り出される。

「希望が……消えても……僕は、ここにいる……」

エイシズムはゆっくりと立ち上がる。  
長衣の胸元が大きく裂け、その下に刻まれた“金色の無”の紋章が、歪んだ形で露出していた。

「……面白い」

初めて、その冷たい声に、わずかな感情の揺らぎが混じる。

「キミの信仰は消した。希望も、祈りも、神への道も。それでもなお、盾を捨てないのか」

オルフェウスは答えない。

ただ、震える足でゆっくりと立ち上がり、再び盾を構える。  
体は限界をとうに越え、心は空洞になっている。  

それでも、盾だけは、金将の前に突き出されたままだ。

エイシズムは散らばった灰典書を拾い上げると、静かに呟いた。

「……次の一撃で、完全に消してやる」

白と灰の二人が、再び距離を詰めていく。

祈りの失われた黄金の間で、ただ、肉体と意志だけが―― 
これから激しくぶつかり合おうとしていた。
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