オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSインスタビリティ

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深夜の金将宮殿・玉座の間。

月光すら歪む大理石の床に、二人の影だけが落ちている。

オルフェウス・マクレインは、隊長部屋の前に立ちふさがり、重厚な金属製の盾型紋章を両腕に構えた。白徽警衛団の制服には、一つの傷も許されない。背後にいる隊長の命は、彼にとって世界そのものだった。

対峙するのは、白い影。

インスタビリティ。

髪も瞳も純白。左目の瞳孔にはクロックの針が刻まれ、それが常識を嘲笑うように逆回転している。ひび割れたコートの下で、白のゴスロリ衣装が現実と非現実の狭間を揺らめき、輪郭が一瞬ごとに崩れては再構成されていく。

「君が、隊長を狙う害獣(ガイジ)か」

オルフェウスの声は低く、静かだ。だがその盾の表面には、無数の防御結界が青白い光を灯していた。

インスタビリティは答えない。代わりに、右手をすっと掲げる。

掌の上で、金血粒子が量子ノイズへと変質し、黒と金の球体が生まれた。量子断片核。

その武器は「存在しているのか、いないのか」を一秒間に数億回も切り替え続けている。視界がチカチカと明滅し、現実のほうがバグって見える。

次の瞬間、球体が弾けた。

空間が割れる。

オルフェウスの足元の大理石が、唐突にブルースクリーン化し、無数のエラーコードを噴き上げた。床そのものが「クラッシュ」し、崩壊のドミノが彼に向かって這い上がってくる。

「っ!」

オルフェウスは盾を前に突き出し、全身の魔力を叩き込む。
盾の表面に黄金の紋章が浮かび上がり、無限の「リトライ」を強制する防御壁が展開される。崩壊の波がぶつかり合い、火花ではなく、「0と1の悲鳴」を上げて弾け飛んだ。

だが、インスタビリティは笑った。

唇が裂けるほど、大きく。

「無駄だよ」

一歩、踏み出す。

そのたびに、周囲の空気が「アップデート中…」の円環アイコンに変わる。

距離が、縮まらない。

いや――縮まりすぎている。

時間軸がねじれ、オルフェウスの視界が断続的にフリーズした。

0.3秒先の未来で、インスタビリティの指が彼の胸に触れている。  
0.1秒前の過去で、まだ十メートル先に立っている。

現実が、ループする。

《クラッシュ・ループ》発動。

オルフェウスの意識は、一瞬で無限の再起動地獄に叩き込まれた。

(エラー、心臓が停止しました → 強制再起動 → エラー、心臓が停止しました → 強制再起動 → )

肉体が痙攣し、膝から崩れ落ちる。

だが。

「──まだ、だ」

奥歯が軋むほど噛みしめ、オルフェウスは盾を地面に突き立てた。

白徽警衛団の誓いの言葉を、血反吐と一緒に吐き出す。

「我は金将の盾。我が主の前に、決して道を譲らぬ。たとえ世界が千度崩壊しようとも、万度再起動しようとも」

盾が、眩い光を放つ。

《最終防衛指令・エターナル・ガーディアン》

オルフェウスの存在そのものが「絶対に壊れない壁」へと書き換えられる。時間も因果も、量子ノイズすら弾く、ただ一つの「確定した存在」へ。

インスタビリティの瞳が、初めて揺れた。

「……面白い」

白い影が、今度は心の底から楽しそうに笑う。

量子断片核が、最大出力へと跳ね上がる。

空間が完全にブルースクリーンに染まり、全ての物質が「存在を拒否」されはじめた。

最後の衝突。

盾と核が激突した瞬間、玉座の間は光も音も時間も失う。

静寂。

やがて――

ひび割れた床に膝をついたオルフェウスが、なおも立ち上がる。

盾は無数の亀裂に覆われ、腕は血で濡れていた。

それでも彼は、まだ隊長の部屋の前に立っている。

インスタビリティの姿が、ノイズのように薄れていく。

「……次は、殺すよ」

白い影は最後にそう呟き、崩壊する文字列の群れと共に、画面の端から消えるみたいに消え去った。

オルフェウスは、盾を支えにしながら振り返る。

「隊長、ご無事で、何よりにございます」

隊長は、静かに一度うなずいた。

歪んでいた月が、ようやくまともな輪郭を取り戻し、玉座の間を照らし出す。

戦いは終わった。

だが、護衛官の戦いは――まだ終わらない。
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