オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSマテリアリズム

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夜の帝都。  
金将の私邸をぐるりと囲む、白銀の回廊。

月光を浴びて冷たく光る大理石の床に、二つの影が重なった。

「白徽警衛団近衛、オルフェウス・マクレイン。其方の侵入行為はここまでだ」

肩から胸までを覆う重厚な盾型紋章が、制服ごと軋む。  
彼は盾をぐっと構え、背後の扉を完全に塞いだ。

この扉の向こうにいるのは、隊長ただ一人。  
絶対に、通さない。

侵入者は、ゆっくりとネクタイを直した。

「……護衛官か。キミの忠誠心、いくらで売れる?」

マテリアリズム――物質主義者。

金貨のような瞳が妖しく光り、髪が揺れるたび、電子決済音めいた軽いチャイムが鳴る。  
着ているスーツの生地の上を、無数の数字が這うように流れ、オルフェウスの全身をスキャンしてくる。

【対象:オルフェウス・マクレイン】  
【忠誠値:999,999,999G】  
【防御力:88,000G】  
【魂純度:特Sランク(希少価値:極大)】

「素晴らしい……。こんな上物、市場には滅多に出回らない」

その言葉と同時に、彼の右手に現れたのは――  
無数の金貨が鎖で束ねられた、異形の塊武器《貨幣鎖ブロック》

鎖が蛇のようにうねり、先端がオルフェウスの盾に軽く触れた。

ジジジジッ――!

盾の表面が、一瞬でデジタル化していく。  
金属の質感が剥がれ落ち、代わりに無数の数値が浮かび上がった。

【白銀聖盾、現在の相場:42,000,000G】

「――売らせてもらう!」

鎖が巻き付き、盾が腕ごと引き剥がされそうになる。

歯を食いしばり、オルフェウスは左足を半歩踏み出した。  
そして――

「おおおッ!」

盾を大理石の床に叩きつけ、その反動と衝撃で鎖を弾き飛ばす。  
同時に腰の剣を抜き放った。

「隊長に指一本触れさせるな!」

一閃。  
聖なる白光をまとった剣が、マテリアリズムの胸をまっすぐ貫こうと走る。

だが、彼は笑みを崩さず、ほんのわずかに身を捩っただけで避ける。  
即座に、貨幣鎖がオルフェウスの剣に絡みついた。

【聖剣、落札参考価格:28,000,000G】

「――ッ!」

剣が、握力ごと持っていかれるように、オルフェウスの手からずるりと滑り落ちる。

「くそっ……!」

武器を一つ失いながらも、オルフェウスは即座に盾を前へ突き出した。  
盾の紋章が眩く輝き、白徽警衛団の結界術式が一気に立ち上がる。
半透明の光壁が噴き上がり、オルフェウスと扉の間に厚い壁を形成した。

マテリアリズムは、舌打ちとも笑いともつかない声を漏らす。

「……面倒だね。だけど、無駄だ」

彼はゆっくりと両手を広げた。

「さぁ、メインイベントの時間だ。《ソウル・オークション》――開始」

瞬間、胸の奥に、焼きごてを押し当てられたような灼熱が刻まれる。

【対象魂:オルフェウス・マクレイン】  
【初期価格:1,000,000,000G】  
【即決価格:∞】

「キミの“忠誠”そのものを、競り落とそう」

貨幣鎖が無数に枝分かれし、オルフェウスの四肢へと伸び、絡みついた。  
骨にまで食い込むような感覚と共に、魂が引きずり出されていく。

視界が金色のノイズに覆われ、頭の中で無数の値札が乱舞する。

(売られる……? 僕の忠誠が……?)

喉の奥から、得体の知れない恐怖が込み上げる。  
自分の中の大事なものに、勝手に値段がつけられていく。

だが――

オルフェウスは、目を閉じた。

脳裏に浮かぶのは、隊長の微笑み。  
あの人が、僕にくれた、たった一つの言葉。

『君は僕の盾だ。永遠に』

――それだけで、生きていける。

「ふざけるな……!」

喉が裂けるほどの声で、叫んでいた。

「僕の忠誠に、値段なんてつけられるかッ!!」

その瞬間、盾の紋章が爆発的な光を放つ。  
盾から放った光が魂の領域にまで介入し《ソウル・オークション》そのものを弾き返した。

焼き付いていた刻印がはじけ飛び、貨幣鎖が千切れ、数値が乱れ狂う。  
マテリアリズムの顔が、初めて歪んだ。

「な……!? 魂のトークン化を、拒否……だと……!?」

オルフェウスは、鎖を振り払うように一歩踏み込み、盾を大きく振りかぶった。

「僕の魂は――隊長のものだ。君なんかに、売り物扱いできるか!!」

盾全体が白熱し、聖光が奔る。

「これで、終わりだ!!」

吹き上がる光が、槍の形に収束し、一直線にマテリアリズムの胸を貫いた。

《貨幣鎖ブロック》が粉々に砕け散る。  
金色の瞳が、信じられないものでも見たように見開かれた。

「ま……さか……忠誠が……価格を……超える……?」

彼の身体は、デジタルノイズを撒き散らしながら崩れていく。  
輪郭が乱れ、数字の群れとなって宙を漂い、消えていく。

最後に、消えかけた唇がわずかに動いた。

「……非合理……極まりない……」

静寂。

オルフェウスは、ゆっくりと盾を下ろした。  
肩で息をしながら振り返ると、背後の扉の向こうから、穏やかな声が届く。

「……よくやったな、オルフェウス」

膝が、がくりと折れた。  
オルフェウスはその場で片膝をつき、深く頭を垂れる。

「隊長……お側にお戻りください。もう、何も通しません」

盾に刻まれた紋章が、静かに明滅する。

忠誠に、値段はつけられない。  
それだけは、何があっても譲れない。

「白銀に金が入って良いのは、通貨と君だけだ」 ――隊長
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