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オルフェウスVSアパシー
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白徽警衛団の本拠。
雪と硝煙の匂いがまだ残る、最上階の回廊。
金将の間へと続く最後の扉の前で、オルフェウス=マクレインは片膝をつき、盾を構えていた。
肩から腕にかけて一体化した重厚な金属製の盾型紋章は、無数の斬撃と凍結痕で白く曇っている。
それでも、彼は動かない。
隊長を守る――それが、彼の存在理由だった。
扉の向こうからは、足音すらしない。
ただ、温度だけが、じわじわと落ちていく。
「……来たか」
オルフェウスが低く呟いた瞬間、視界の端を、黒いコートの裾がかすめた。
アパシー。
無彩色の髪は、風もないのに一切揺れない。
白色の瞳は、まるで死んだ星のように光を返さない。
胸に埋め込まれた凍結心臓モジュールが、淡い青白い鼓動を繰り返すたび、回廊の気温が一段階ずつ落ちていく。
一瞬で、空気は十度以上も冷え込んだ。
吐く息が凍りついて白く濁り、床のタイルには細かな霜が走る。
「……人事に関与するなら情は不要」
アパシーの声は、厚い氷の下から響いてくるようにくぐもっていた。
「退け。感情は、不要だ」
オルフェウスは答えない。
代わりに、盾をぐっと前に突き出して構え直す。
盾の表面に刻まれた白徽の紋章が、微かに光を帯びる。
忠誠の証。
決して揺らがない誓い。
最初の一撃は、音もなく訪れた。
アパシーが一歩踏み出した瞬間、周囲の空気が歪む。
そこから、無数の氷柱データ紋が一斉に実体化し、鋭い槍となって襲いかかってきた。
冷たく、無慈悲で、感情そのものを削ぎ落とすための刃。
オルフェウスは、それを盾で正面から受け止める。
ガギィィィン――!
衝撃で床が砕け、片膝がさらに沈み込む。
骨にまで響く痛み。それでも、盾は割れない。
白徽の紋章が、凍結を拒むように光を強めていた。
「隊長は、僕が守る」
喉の奥から絞り出すように言い放ち、オルフェウスは盾を振り上げる。
盾の縁から放たれた衝撃波が、迫りくる氷柱をまとめて粉砕した。
砕け散った破片は風に舞い、次の瞬間には霧のように蒸発して消えていく。
アパシーの表情は、一切変わらない。
ただ、彼の胸の凍結心臓モジュールだけが、一段と強い光を放ち始めた。
「……無駄だ」
その言葉と同時に、回廊全体が一瞬で凍りつく。
《トータル・デテンパー》
青白い波動が、オルフェウスを丸ごと呑み込んだ。
視界が、真っ白に塗り潰される。
鼓動が、遠ざかっていく。
熱が。感情が。記憶が。――そして、忠誠心さえも、ひとつひとつ凍結されていく。
(……隊長の、顔が……)
思い出そうとする。
だが、輪郭が白い霜に覆われたようにぼやけていく。
凍結は、肉体だけではない。
心の奥底にまで、冷たさが染み込んでいく。
だが――
オルフェウスの盾が、かすかに震えた。
白徽の紋章が、まるで怒りを孕んだかのように激しく明滅する。
「守るって……決めたんだ……!」
凍りついた筋肉が、ギシギシと軋む。
液体のように固まった血液が、再び熱を帯びて流れ出す。
彼は、感情を凍らされることそのものを、拒絶した。
誓いが、忠誠が、ただ一人の主君を護りたいという想いが――
凍結心臓モジュールの支配を内側から焼き払う。
「うおおおおおおおお!!」
喉を裂く咆哮と共に、オルフェウスは凍結の殻を力づくで割り砕いた。
盾を振りかぶり、全身の力を込めて突進する。
アパシーの白色の瞳が、初めてわずかに揺れた。
次の瞬間、盾の一撃が、真正面から凍結心臓モジュールを叩きつける。
ガキィィィン――!
甲高い破砕音と共に、青白い光が爆ぜる。
モジュールの表面に、くっきりと大きな亀裂が走った。
アパシーの身体が後方へ吹き飛び、背中から壁に叩きつけられる。
黒いコートの裾が裂け、無彩色の髪が無防備に乱れた。
「……ありえない」
掠れた声が、氷の欠片のように零れる。
「感情が……凍らない?」
オルフェウスは、肩で荒く息をつきながら、ふらつく足で立ち上がる。
盾は半壊し、縁はボロボロに欠けていた。
それでも彼は、前に出る足を止めない。
「僕の心は……隊長のためにある」
声は掠れ、今にも消えそうだ。
それでも、言葉だけははっきりと響いた。
「だから――君なんかに、凍らせるもんか」
最後の一歩を踏み込む。
振り上げたのは、もはや“盾”とは呼べないほど傷んだ、その残骸。
それでも、オルフェウスは全身の力を込めて、それを振り下ろした。
凍結心臓モジュールが、今度こそ完全に砕け散る。
蜘蛛の巣状の亀裂が一瞬で全体に広がり、次の瞬間、砕けた破片が青白い霧となって四散した。
アパシーの体ががくりと崩れ、膝をつく。
灰色だった瞳に、初めて、わずかな色が滲む。
それは、驚愕か、戸惑いか――あるいは、失われていた“何か”の名残か。
「……負けた、か」
アパシーの声は、もう氷の下からではなく、人間の喉から出た音に近かった。
オルフェウスは、今にも崩れ落ちそうな身体を、意地だけで支えながら、静かに告げる。
「ここは――通さない」
雪が止んだ回廊に、ようやく静寂が戻る。
砕けた氷の欠片が、遅れて降る雪のように、ぱらぱらと床に散った。
白徽警衛団の護衛官は、傷だらけの盾の残骸を抱えたまま、ただ一人、扉の前に立ち続ける。
忠誠は、どんな極寒にも、凍らない。
雪と硝煙の匂いがまだ残る、最上階の回廊。
金将の間へと続く最後の扉の前で、オルフェウス=マクレインは片膝をつき、盾を構えていた。
肩から腕にかけて一体化した重厚な金属製の盾型紋章は、無数の斬撃と凍結痕で白く曇っている。
それでも、彼は動かない。
隊長を守る――それが、彼の存在理由だった。
扉の向こうからは、足音すらしない。
ただ、温度だけが、じわじわと落ちていく。
「……来たか」
オルフェウスが低く呟いた瞬間、視界の端を、黒いコートの裾がかすめた。
アパシー。
無彩色の髪は、風もないのに一切揺れない。
白色の瞳は、まるで死んだ星のように光を返さない。
胸に埋め込まれた凍結心臓モジュールが、淡い青白い鼓動を繰り返すたび、回廊の気温が一段階ずつ落ちていく。
一瞬で、空気は十度以上も冷え込んだ。
吐く息が凍りついて白く濁り、床のタイルには細かな霜が走る。
「……人事に関与するなら情は不要」
アパシーの声は、厚い氷の下から響いてくるようにくぐもっていた。
「退け。感情は、不要だ」
オルフェウスは答えない。
代わりに、盾をぐっと前に突き出して構え直す。
盾の表面に刻まれた白徽の紋章が、微かに光を帯びる。
忠誠の証。
決して揺らがない誓い。
最初の一撃は、音もなく訪れた。
アパシーが一歩踏み出した瞬間、周囲の空気が歪む。
そこから、無数の氷柱データ紋が一斉に実体化し、鋭い槍となって襲いかかってきた。
冷たく、無慈悲で、感情そのものを削ぎ落とすための刃。
オルフェウスは、それを盾で正面から受け止める。
ガギィィィン――!
衝撃で床が砕け、片膝がさらに沈み込む。
骨にまで響く痛み。それでも、盾は割れない。
白徽の紋章が、凍結を拒むように光を強めていた。
「隊長は、僕が守る」
喉の奥から絞り出すように言い放ち、オルフェウスは盾を振り上げる。
盾の縁から放たれた衝撃波が、迫りくる氷柱をまとめて粉砕した。
砕け散った破片は風に舞い、次の瞬間には霧のように蒸発して消えていく。
アパシーの表情は、一切変わらない。
ただ、彼の胸の凍結心臓モジュールだけが、一段と強い光を放ち始めた。
「……無駄だ」
その言葉と同時に、回廊全体が一瞬で凍りつく。
《トータル・デテンパー》
青白い波動が、オルフェウスを丸ごと呑み込んだ。
視界が、真っ白に塗り潰される。
鼓動が、遠ざかっていく。
熱が。感情が。記憶が。――そして、忠誠心さえも、ひとつひとつ凍結されていく。
(……隊長の、顔が……)
思い出そうとする。
だが、輪郭が白い霜に覆われたようにぼやけていく。
凍結は、肉体だけではない。
心の奥底にまで、冷たさが染み込んでいく。
だが――
オルフェウスの盾が、かすかに震えた。
白徽の紋章が、まるで怒りを孕んだかのように激しく明滅する。
「守るって……決めたんだ……!」
凍りついた筋肉が、ギシギシと軋む。
液体のように固まった血液が、再び熱を帯びて流れ出す。
彼は、感情を凍らされることそのものを、拒絶した。
誓いが、忠誠が、ただ一人の主君を護りたいという想いが――
凍結心臓モジュールの支配を内側から焼き払う。
「うおおおおおおおお!!」
喉を裂く咆哮と共に、オルフェウスは凍結の殻を力づくで割り砕いた。
盾を振りかぶり、全身の力を込めて突進する。
アパシーの白色の瞳が、初めてわずかに揺れた。
次の瞬間、盾の一撃が、真正面から凍結心臓モジュールを叩きつける。
ガキィィィン――!
甲高い破砕音と共に、青白い光が爆ぜる。
モジュールの表面に、くっきりと大きな亀裂が走った。
アパシーの身体が後方へ吹き飛び、背中から壁に叩きつけられる。
黒いコートの裾が裂け、無彩色の髪が無防備に乱れた。
「……ありえない」
掠れた声が、氷の欠片のように零れる。
「感情が……凍らない?」
オルフェウスは、肩で荒く息をつきながら、ふらつく足で立ち上がる。
盾は半壊し、縁はボロボロに欠けていた。
それでも彼は、前に出る足を止めない。
「僕の心は……隊長のためにある」
声は掠れ、今にも消えそうだ。
それでも、言葉だけははっきりと響いた。
「だから――君なんかに、凍らせるもんか」
最後の一歩を踏み込む。
振り上げたのは、もはや“盾”とは呼べないほど傷んだ、その残骸。
それでも、オルフェウスは全身の力を込めて、それを振り下ろした。
凍結心臓モジュールが、今度こそ完全に砕け散る。
蜘蛛の巣状の亀裂が一瞬で全体に広がり、次の瞬間、砕けた破片が青白い霧となって四散した。
アパシーの体ががくりと崩れ、膝をつく。
灰色だった瞳に、初めて、わずかな色が滲む。
それは、驚愕か、戸惑いか――あるいは、失われていた“何か”の名残か。
「……負けた、か」
アパシーの声は、もう氷の下からではなく、人間の喉から出た音に近かった。
オルフェウスは、今にも崩れ落ちそうな身体を、意地だけで支えながら、静かに告げる。
「ここは――通さない」
雪が止んだ回廊に、ようやく静寂が戻る。
砕けた氷の欠片が、遅れて降る雪のように、ぱらぱらと床に散った。
白徽警衛団の護衛官は、傷だらけの盾の残骸を抱えたまま、ただ一人、扉の前に立ち続ける。
忠誠は、どんな極寒にも、凍らない。
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