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ガシャバとコンパルション
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暗い地下施設の奥、鉄の扉が重く閉まる音が響いた。秘密警察の本部深部、尋問室。壁は無機質なコンクリートで、唯一の光源は天井から吊るされた冷たい白熱灯だけだ。
部屋の中央に、ガシャバが立っていた。後ろ刈り上げの白髪が灯りに映え、無表情の顔は前髪の影に隠れている。パツパツの軍服が彼の強靭な体躯を強調し、帽子の下から覗く白色の瞳は、獲物を値踏みするように静かに輝いていた。
向かい側に拘束された男——反体制派のスパイ——が椅子に縛り付けられている。男は汗だくで震えていたが、ガシャバは一言も発さず、ただ冷ややかに見下ろすだけだ。
「情報は吐く。抵抗は無駄だ」
ガシャバの声は低く、短く、氷のように冷たい。無駄な言葉を嫌う彼らしい一言だった。
スパイは歯を食いしばり、首を横に振った。
「ふん……国家の敵か。痛みは必要悪だ」
ガシャバが一歩踏み出す。その瞬間、部屋の扉が再び開いた。
入ってきたのは、白いロングコートに身を包んだ男。くるぶし丈のコートは金ボタンで完全に閉じられ、白い革靴と白手袋が完璧な統一感を演出している。白い髪、白い瞳、そして顔面に巻かれたクロスの包帯。白金の鎖のピアスがわずかに揺れた。
コンパルション=オーバーラプス。
彼は滑らかな足取りで部屋に入り、ガシャバの横に並んだ。スパイの目が驚愕に見開かれる。
「遅かったな」
ガシャバが短く言った。感情はない。ただ事実を述べるだけ。
コンパルションは微笑とも取れる微かな口元の動きを見せ、滑らかな声で答えた。
「待たせたね、長官。ボクはただ、完璧なタイミングをロードしていただけさ」
彼の視線がスパイに移る。白色の瞳が、まるでコードをスキャンするように冷たく光る。
スパイが叫んだ。
「お前は……あの噂の……!」
コンパルションは静かに手を上げた。白手袋の指先から、金色の光が滲み出す。鎖符——チェインコードが、虚空から実体化して現れる。一節ごとに刻まれた金血のルーンが、脈打つように輝いていた。
「選択肢? 不要だ。ボクがロードする」
鎖符が蛇のように伸び、スパイの体を瞬時に絡め取る。スパイが悲鳴を上げるが、すぐにその声は途切れた。鎖が胸奥に潜り込み、意志処理レイヤを乗っ取っていく。
スパイの瞳が虚ろになり、表情が消えた。
ガシャバは無言でそれを見守る。腕を組み、わずかに頷いた。
コンパルションが囁く。
「意志はバグりやすい。だからボクが修正する」
スパイ——いや、もはや操り人形——がゆっくりと口を開いた。声は自分のものだが、抑揚が違う。コンパルションのサブスレッドとして動いている。
「隠れ家の位置は……北区第三倉庫街、地下二階……パスコードは……」
情報が淀みなく流れ出す。
ガシャバが一歩前に出る。
「十分だ」
コンパルションは鎖符をわずかに緩め、スパイの体を椅子に沈めたまま、ガシャバの方を向く。
「これで秩序は守られるね、長官。ボクのオーバーライドは完璧だよ」
ガシャバの前髪の下、口元がかすかに動いた。それは微笑か、それともただの癖か。
「国家のためだ。……お前のような存在も、必要悪か」
コンパルションの包帯の下で、目が細められた気がした。
「考えるな、次はボクが思考する——なんて言いたくなるけど、長官は特別だ。キミの意志は、まだボクの上位権限じゃないからね」
ガシャバは答えず、ただ背を向けて扉に向かった。
「片付けは任せる。残りは僕が処理する」
コンパルションは静かに笑った。
「了解。ボクはいつでも、キミのプロセスをサポートするよ」
扉が閉まる。部屋に残されたのは、白い影と、金色の鎖に繋がれた人形だけ。
秩序は、今日も冷たく保たれた。
部屋の中央に、ガシャバが立っていた。後ろ刈り上げの白髪が灯りに映え、無表情の顔は前髪の影に隠れている。パツパツの軍服が彼の強靭な体躯を強調し、帽子の下から覗く白色の瞳は、獲物を値踏みするように静かに輝いていた。
向かい側に拘束された男——反体制派のスパイ——が椅子に縛り付けられている。男は汗だくで震えていたが、ガシャバは一言も発さず、ただ冷ややかに見下ろすだけだ。
「情報は吐く。抵抗は無駄だ」
ガシャバの声は低く、短く、氷のように冷たい。無駄な言葉を嫌う彼らしい一言だった。
スパイは歯を食いしばり、首を横に振った。
「ふん……国家の敵か。痛みは必要悪だ」
ガシャバが一歩踏み出す。その瞬間、部屋の扉が再び開いた。
入ってきたのは、白いロングコートに身を包んだ男。くるぶし丈のコートは金ボタンで完全に閉じられ、白い革靴と白手袋が完璧な統一感を演出している。白い髪、白い瞳、そして顔面に巻かれたクロスの包帯。白金の鎖のピアスがわずかに揺れた。
コンパルション=オーバーラプス。
彼は滑らかな足取りで部屋に入り、ガシャバの横に並んだ。スパイの目が驚愕に見開かれる。
「遅かったな」
ガシャバが短く言った。感情はない。ただ事実を述べるだけ。
コンパルションは微笑とも取れる微かな口元の動きを見せ、滑らかな声で答えた。
「待たせたね、長官。ボクはただ、完璧なタイミングをロードしていただけさ」
彼の視線がスパイに移る。白色の瞳が、まるでコードをスキャンするように冷たく光る。
スパイが叫んだ。
「お前は……あの噂の……!」
コンパルションは静かに手を上げた。白手袋の指先から、金色の光が滲み出す。鎖符——チェインコードが、虚空から実体化して現れる。一節ごとに刻まれた金血のルーンが、脈打つように輝いていた。
「選択肢? 不要だ。ボクがロードする」
鎖符が蛇のように伸び、スパイの体を瞬時に絡め取る。スパイが悲鳴を上げるが、すぐにその声は途切れた。鎖が胸奥に潜り込み、意志処理レイヤを乗っ取っていく。
スパイの瞳が虚ろになり、表情が消えた。
ガシャバは無言でそれを見守る。腕を組み、わずかに頷いた。
コンパルションが囁く。
「意志はバグりやすい。だからボクが修正する」
スパイ——いや、もはや操り人形——がゆっくりと口を開いた。声は自分のものだが、抑揚が違う。コンパルションのサブスレッドとして動いている。
「隠れ家の位置は……北区第三倉庫街、地下二階……パスコードは……」
情報が淀みなく流れ出す。
ガシャバが一歩前に出る。
「十分だ」
コンパルションは鎖符をわずかに緩め、スパイの体を椅子に沈めたまま、ガシャバの方を向く。
「これで秩序は守られるね、長官。ボクのオーバーライドは完璧だよ」
ガシャバの前髪の下、口元がかすかに動いた。それは微笑か、それともただの癖か。
「国家のためだ。……お前のような存在も、必要悪か」
コンパルションの包帯の下で、目が細められた気がした。
「考えるな、次はボクが思考する——なんて言いたくなるけど、長官は特別だ。キミの意志は、まだボクの上位権限じゃないからね」
ガシャバは答えず、ただ背を向けて扉に向かった。
「片付けは任せる。残りは僕が処理する」
コンパルションは静かに笑った。
「了解。ボクはいつでも、キミのプロセスをサポートするよ」
扉が閉まる。部屋に残されたのは、白い影と、金色の鎖に繋がれた人形だけ。
秩序は、今日も冷たく保たれた。
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