短編集

桂圭人

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箱潰し

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暗く湿った部屋の中で、アバリアはベッドに座り、膝を抱えていた。窓の外では雨が叩きつけ、彼女の心をさらに重くする。姉のセルネはいつも完璧で、家族の誇り。対して自分は、ただの影のような存在。母親の言葉が、頭の中で繰り返される。

「なんで貴方は何も結果を残せないの? ほんっと使えない。出来損ない。これならお姉ちゃんだけで良かったのに。早く死ねば楽なのに。はあ、またこれ」

アバリアはため息をつき、独り言のように呟いた。

「はぁ、またこれ。本当にウザイ。はあ。本当に死んだらこいつらはどう思うんだろ。決めた。私、明日死んでやる。どっかから飛び降りて死んでやる」

その言葉が、部屋の隅から響く不気味な笑い声を引き起こした。突然、現れたのは白髪の男――マッドネス=カオスフレア。黒赤のロングコートをまとい、顔半分を赤金の仮面で覆った彼は、首に巻いた赤い鎖を弄びながら、不安定な笑みを浮かべていた。

「ふふふ、面白いね。君の絶望、僕の狂気にぴったりだよ」

アバリアは驚いて後ずさったが、マッドネスは素早く近づき、彼女の肩に手を置いた。

「心配するな。僕は精神汚染機構の司令さ。四剣中最年少で、最狂の男。君たち姉妹を助けに来たんだ」

ちょうどその時、ドアが開き、母親が入ってきた。セルネも後ろに付き従い、母親の顔はいつものように冷たく、セルネだけを愛おしげに見つめていた。

「アバリア、またくだらないこと考えてるの? セルネみたいに優秀になれないなら、消えちゃえば?」

セルネは戸惑った表情で母親を止めた。

「お母さん、そんな……アバリアは妹よ。私だって、家族みんなで――」

だが母親はセルネを抱きしめ、アバリアを睨みつけた。

「セルネだけがいればいいの。この出来損ないなんか、いらないわ」

マッドネスはクスクスと笑い、ゆっくりと歩み寄った。

「ああ、なんて醜い愛情だ。君のような毒親が、世界を歪めるんだよ。さあ、最後の切り札をプレゼントしよう」

彼は手を差し出し、赤い光が母親を包み込んだ。母親の体がみるみる縮小し、手のひらサイズ以下の小さな箱へと変形した。「箱潰し」――マッドネスの究極の力。箱は地面に落ち、母親の叫び声が微かに響く。

「な、何これ……助けて、セルネ!」

マッドネスは赤革のブーツで箱を踏みつけた。パキン、という音が部屋に響き、箱は砕け散った。

「これで終わりさ。君たちの苦しみの源は、消えたよ」

アバリアは震えながら立ち上がり、セルネに駆け寄った。セルネも涙を浮かべ、妹を抱きしめた。

「アバリア、ごめんね……私、気づけなかった。お母さんのせいじゃなくて、私たちの家族を、ちゃんと守るよ」

マッドネスは満足げに笑い、部屋から消えていった。

「狂気の剣は、混沌を燃やす。君たち、生きろよ。世界は理不尽だけど、変えられるさ」

姉妹は互いに寄り添い、新しい始まりを感じた。雨は止み、窓から差し込む光が、希望のように輝いていた。
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