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第一章「仏は、恋から生まれた」
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「何だ!?」
リブリウスが勢いよく立ち上がった。
司令室の空気が一瞬で張り詰め、全員が反射的に身構える。
オペレーターが駆け込んでくる。
「議長! 緊急事態です!」
「何が起きた!」
「世界各地で、異常現象が発生しています!」
巨大スクリーンが切り替わり、映像が映し出される。
そこにあったのは──
街の中心に突如出現した、巨大な仏像様式の存在。
人の手によるものとは思えない威圧感を放ち、都市を見下ろしていた。
「……何だ、あれは」
アリエスが息を呑む。
「……敵?」
ジェミニアの双子が、ほぼ同時に問いかける。
「……分からない」
リブリウスは短く答えた。
映像の中、街は混乱に包まれている。
悲鳴。
怒号。
逃げ惑う人々。
しかし──
仏に近づいた一人の男が、突然その場で立ち止まった。
恐怖の表情が消え、穏やかな微笑みが浮かぶ。
彼は、ただ仏を見つめている。まるで──恋人を見るかのように。
「……これは」
キャンサルが映像データを解析する。
「周囲の人間から、感情反応が消えています」
「何だと?」
「喜怒哀楽、すべて消失」
一拍置いて、彼は続けた。
「残っているのは……恋愛感情だけです」
「……恋、だけ」
リブリウスの拳が強く握られる。
「我々が消そうとしてきた感情が……」
「今度は、すべてを飲み込もうとしているのか」
サジタリオンが星弓を手に取った。
「……議長」
「何だ」
「俺が行く。真理を確かめに!」
「待て、サジタリオン」
リブリウスが制止する。
「正体も目的も分からない」
「だからこそだ」
サジタリオンは薄く笑った。
「狩人は、獲物を見極めてから矢を放つ」
「……勝手な判断だな」
カプリコルヌが立ち上がる。
「ならば、私も同行する! 秩序を守るために」
「私も行く」
アクアリウムが静かに席を立つ。
「データ収集が必要だ」
「……私も」
ピスシアが夢遊病者のように立ち上がる。
「夢で見たの。この光景」
「……」
スコリスが、無言で立ち上がった。
「私も行きます」
「お前は後方支援だ、スコリス」
リブリウスが告げる。
「いいえ」
彼女は首を振る。
「私は影の毒使い。暗部で戦ってきました」
「戦場に立つ資格はあります」
リブリウスは、室内を見渡した。
十二の星座。
誰一人、座ったままの者はいない。
「……分かった」
彼はゆっくりと頷いた。
「全員で行く」
「十二の星座、一つの意志」
「我々は、ゾディアックオーダーだ」
「出撃準備を──」
その瞬間、オペレーターの叫びが響く。
「議長! 追加報告です!」
「何だ!」
「異常存在は一体ではありません!」
「世界各地で、合計六体確認!」
「形態は、それぞれ異なります!」
スクリーンが分割され、六体の仏が並ぶ。
エロス仏。
ルダス仏。
ストルゲ仏。
プラグマ仏。
マニア仏。
アガペ仏。
「……六恋仏」
キャンサルが低く呟く。
「ギリシャ哲学における愛の六分類」
「それが、仏として具現化している」
「……作戦を変更する」
リブリウスが即断する。
「二人一組で、それぞれの仏を迎撃」
「アリエス、サジタリオン。エロス仏を担当しろ」
二人が短く頷く。
「ジェミニア、ピスシア。ルダス仏だ」
双子とピスシアが応じる。
「キャンサル、スコリス。ストルゲ仏を」
二人が視線を交わし、頷いた。
「アクアリウム、我々はプラグマ仏を担当する」
「了解」
「レオニス、カプリコルヌ。マニア仏だ」
「任せろ」
「承知した」
「ヴァルゴリアは──」
リブリウスは一瞬だけ言葉を選び。
「アガペ仏を、単独で迎撃してもらう」
「……了解しました」
ヴァルゴリアは静かに頷いた。
「出撃!」
リブリウスの声が響く。
「人々の感情を、取り戻すために!」
十二の星座が、それぞれの戦場へ散っていく。
司令室に残ったのは、リブリウス一人だけだった。
「……本当に、これでいいのか」
彼は小さく呟く。
「恋愛を消そうとしてきた我々が……。恋愛の化身と戦うとは……皮肉な話だ」
だが、リブリウスは拳を握り締める。
「いや、矛盾ではない。我々の使命は、人々の感情を守ること。そう、恋愛が暴走し、他の感情を奪うなら──我々は、恋愛と戦う。……それだけだ」
静かに、しかし確かに。
十二の星は、恋から生まれた仏へと向かっていった。
リブリウスが勢いよく立ち上がった。
司令室の空気が一瞬で張り詰め、全員が反射的に身構える。
オペレーターが駆け込んでくる。
「議長! 緊急事態です!」
「何が起きた!」
「世界各地で、異常現象が発生しています!」
巨大スクリーンが切り替わり、映像が映し出される。
そこにあったのは──
街の中心に突如出現した、巨大な仏像様式の存在。
人の手によるものとは思えない威圧感を放ち、都市を見下ろしていた。
「……何だ、あれは」
アリエスが息を呑む。
「……敵?」
ジェミニアの双子が、ほぼ同時に問いかける。
「……分からない」
リブリウスは短く答えた。
映像の中、街は混乱に包まれている。
悲鳴。
怒号。
逃げ惑う人々。
しかし──
仏に近づいた一人の男が、突然その場で立ち止まった。
恐怖の表情が消え、穏やかな微笑みが浮かぶ。
彼は、ただ仏を見つめている。まるで──恋人を見るかのように。
「……これは」
キャンサルが映像データを解析する。
「周囲の人間から、感情反応が消えています」
「何だと?」
「喜怒哀楽、すべて消失」
一拍置いて、彼は続けた。
「残っているのは……恋愛感情だけです」
「……恋、だけ」
リブリウスの拳が強く握られる。
「我々が消そうとしてきた感情が……」
「今度は、すべてを飲み込もうとしているのか」
サジタリオンが星弓を手に取った。
「……議長」
「何だ」
「俺が行く。真理を確かめに!」
「待て、サジタリオン」
リブリウスが制止する。
「正体も目的も分からない」
「だからこそだ」
サジタリオンは薄く笑った。
「狩人は、獲物を見極めてから矢を放つ」
「……勝手な判断だな」
カプリコルヌが立ち上がる。
「ならば、私も同行する! 秩序を守るために」
「私も行く」
アクアリウムが静かに席を立つ。
「データ収集が必要だ」
「……私も」
ピスシアが夢遊病者のように立ち上がる。
「夢で見たの。この光景」
「……」
スコリスが、無言で立ち上がった。
「私も行きます」
「お前は後方支援だ、スコリス」
リブリウスが告げる。
「いいえ」
彼女は首を振る。
「私は影の毒使い。暗部で戦ってきました」
「戦場に立つ資格はあります」
リブリウスは、室内を見渡した。
十二の星座。
誰一人、座ったままの者はいない。
「……分かった」
彼はゆっくりと頷いた。
「全員で行く」
「十二の星座、一つの意志」
「我々は、ゾディアックオーダーだ」
「出撃準備を──」
その瞬間、オペレーターの叫びが響く。
「議長! 追加報告です!」
「何だ!」
「異常存在は一体ではありません!」
「世界各地で、合計六体確認!」
「形態は、それぞれ異なります!」
スクリーンが分割され、六体の仏が並ぶ。
エロス仏。
ルダス仏。
ストルゲ仏。
プラグマ仏。
マニア仏。
アガペ仏。
「……六恋仏」
キャンサルが低く呟く。
「ギリシャ哲学における愛の六分類」
「それが、仏として具現化している」
「……作戦を変更する」
リブリウスが即断する。
「二人一組で、それぞれの仏を迎撃」
「アリエス、サジタリオン。エロス仏を担当しろ」
二人が短く頷く。
「ジェミニア、ピスシア。ルダス仏だ」
双子とピスシアが応じる。
「キャンサル、スコリス。ストルゲ仏を」
二人が視線を交わし、頷いた。
「アクアリウム、我々はプラグマ仏を担当する」
「了解」
「レオニス、カプリコルヌ。マニア仏だ」
「任せろ」
「承知した」
「ヴァルゴリアは──」
リブリウスは一瞬だけ言葉を選び。
「アガペ仏を、単独で迎撃してもらう」
「……了解しました」
ヴァルゴリアは静かに頷いた。
「出撃!」
リブリウスの声が響く。
「人々の感情を、取り戻すために!」
十二の星座が、それぞれの戦場へ散っていく。
司令室に残ったのは、リブリウス一人だけだった。
「……本当に、これでいいのか」
彼は小さく呟く。
「恋愛を消そうとしてきた我々が……。恋愛の化身と戦うとは……皮肉な話だ」
だが、リブリウスは拳を握り締める。
「いや、矛盾ではない。我々の使命は、人々の感情を守ること。そう、恋愛が暴走し、他の感情を奪うなら──我々は、恋愛と戦う。……それだけだ」
静かに、しかし確かに。
十二の星は、恋から生まれた仏へと向かっていった。
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