ケプラー特集

桂圭人

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ケプラーVS涼音

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薄暗い廃墟めいたデジタル空間――涼音が「ワイヤード」と呼ぶ、古いサーバーの残骸が漂う領域。
現実の教室の喧騒から逃れるための、彼だけのシェルターだ。
青白いノイズが視界を覆う中、涼音は膝を抱え、古い携帯端末を胸に押し当てていた。

「……また汚染パケット。検出、拒絶。ファイアウォール強化」

独り言のように呟く。画面には意味のないログが流れ続ける。それが彼の平穏だった。
人間の声、視線、感情――すべてノイズ。ウイルス。接続なんて、絶対に許さない。

だが、その日。
空間が歪んだ。
星の光が無数の軌跡を描いて降り注ぐ。天球が割れ、何かが零れ落ちてくるようだった。端末が甲高いエラー音を吐き、画面が白く焼ける。

「エラーコード……不明? システムクラッシュ? 何だよこれ――」

視界の中心に、男が立っていた。
長身。白い髪、白い瞳。その奥で無限の星空が渦を巻く。肌に刻まれた金の文様が星光を反射し、深紺の法衣の袖では魔導陣――軌道環が静かに回っていた。
男は感情のない、しかし絶対的な声で言った。

「――発見した。ノイズの源を」

背筋が凍る。
これは人間じゃない。現実のいじめっ子とも違う。もっと深いところから来ている。

「……誰だよ。不正アクセスか? 即座に排除する」

震えを押し殺し、端末を握る。男は微動だにせず名を告げた。

「僕はケプラー。星の法則を統べる者。君の存在は、宇宙の完璧な軌道に乱れを生む」

白い瞳が、涼音を貫く。

「孤独。拒絶。感情。それらはすべてノイズだ」

ログを解析するように、彼の人生が読み上げられる。いじめ、孤立、逃避、そして密かな渇望。

「それが最も危険なウイルスだ」

「黙れ……!」

胸の奥を抉られ、言葉が荒れる。

「勝手にログ解析すんなよ、キモいわぁ!!!」

だが投げつけるはずの端末は、震えて動かない。

ケプラーが手を挙げる。軌道環が加速し、淡い光の楕円が涼音を囲んだ。

「恐れるな。救済だ。君を完璧な軌道へ固定する」

重力のような圧が、体を縛る。

「やめろ……! 接続拒否! 俺のシステムに触るな!」

初めて、声に本物の恐怖が混じった。

「秩序とは、哀しみをも計算することだ」

その冷たさが、どこか自分に似ていると気づく。

「……お前も、俺と同じじゃん」

一瞬、星空が揺れた。

「否。僕は完璧だ」

涼音は弱く笑う。

「完璧ならさ。なんで俺みたいなゴミデータを拾いに来たんだよ。……寂しいだけだろ?」

軌道環が、ほんのわずかに乱れた。

「そうか。では、完璧ではないなら、君のノイズを察知することは出来ないよ」

光が強まり、拘束が完成しかける。
涼音は端末を強く握った。

「リセット実行。……完璧なんて、ないから」

星光とノイズが衝突し、空間が歪む。

「……興味深いノイズだ。次は完全に排除する」

ケプラーはそう言い残し、消えた。
ワイヤードに静寂が戻る。
だが、何かが残った。
削除できない侵入ログ。根幹に組み込まれたような異常データ。

「……ルートキット級、か」

孤独が、いつもより重い。
その時、端末が震えた。星の文様を帯びた不明なパケット。
拒絶しかけて、手が止まる。

「……開封、許可」

『観測だ。君の不確定性を追跡する。証明してみせよ。ノイズが秩序を乱せるか』

涼音は唇を歪めた。

「上等だ。俺のゴミデータで、お前の星図、全部上書きしてやる」

『次なる交点を待つ』

通信は切れた。

それから数日後。
冬休みの校舎、誰もいない屋上。
星を見上げた瞬間、再び引きずり込まれる。
無限の星空。永遠の天球儀。
そして、待っていたケプラー。
干渉は激化し、星の軌道は乱れ、天球儀に亀裂が走る。

「認めよう。君は未知の変数だ」

二人の星図が重なり、互いの軌道を歪めていく。

「接続せよ。一時的に」

差し出された手。
拒絶のはずの言葉が、喉で止まる。

「……リセット可能だな」

「可能だ」

涼音は、ゆっくりと手を伸ばした。

「覚悟しろよ。めちゃくちゃにしてやる」

触れた瞬間、星空が爆発する。
ノイズと秩序が溶け合い、新しい軌道が生まれ始める。
叫びと吐息が重なり、交点は焦点へと達した。

――そして翌日、ケプラーは処刑されました。


「ショタコン」――アキト・ミカゲ

「通報者はクラスメイト」――ハルカ・フジワラ
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