虚理の冠に咲く一輪

桂圭人

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第一章 認識侵触

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図書館の最深部、一般利用者には存在を知らされていない地下九階。ここはガルマ=ガレクトの私的領域だった。

「…ゆえに、この世界の理性とは、編み目の粗い網に過ぎない」

彼は白い指でタブレットを撫でると、画面上の学術論文が文字単位で崩壊し、新たな論理へと再構成されていった。群青の裂け目が入った黒いコートの裾が、埃まみれの床を軽くなぞる。
彼の仕事は単純だった──この図書館に収められるあらゆる「知」をフィルタリングし、必要とあらば歪曲すること。組織にとって都合の悪い真実は「虚理の冠」によって粉飾され、反抗的な研究者たちは「誅罰の輪」で静かに消えていった。
そうして十年。
知識の暴君は孤独に君臨していた。感情など嗤うべき塵芥。人間の絆など支配の妨げでしかない。彼はそう信じていた。
ある雨の夜、その確信に最初の亀裂が入った。

「…ここは、一般の方は入れません」

ガルマが冷たく言い放った先に立っていたのは、新しく採用された司書補佐の女性──結城カナタだった。透明な傘を揺らしながら、彼女は首をかしげた。

「あの、田中館長から、地下書庫の整理を頼まれてしまって……」

「許可証を」

ガルマは手を差し出した。金属質のリングが鈍く光る。
カナタがあわててカバンを漁る間、彼は彼女を観察した。二十代半ばか。髪は少し乱れているが、瞳にはこの職場では珍しい純粋な好奇心が輝いていた。危険だ、とガルマの本能が囁いた。この種の無垢は、彼の完璧に制御された世界に、予測不能な変数を投じる。

「えっと、これです」

差し出された許可証は本物だった。ガルマはわずかに眉をひそめ、道を空けた。

「作業は午後五時まで。一秒でも遅れれば、二度とここへは入れない」
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