虚理の冠に咲く一輪

桂圭人

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第二章 歪んだ威圧

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次の一週間、ガルマはカナタを徹底的に無視した。彼女が地下書庫に来ても視線すら合わせず、タブレットで世界の論理を弄び続けた。ところが──

「ガルマさん、この写本、分類がおかしくないですか?」

三日目、彼女は大胆にも彼のデスクに近づき、十五世紀の錬金術記録を差し出した。

「『認識侵触』の痕跡がありますよ。原文では水銀の精製過程だったはずが、いまの分類では単なる神話資料になっている」

ガルマは初めて彼女を真正面から見た。白色の瞳が細くなる。

「…何を言っている?」

「私は大学で文献学を専攻していて、特に中世科学史が専門で…」

カナタは饒舌に説明し始めた。

「この写本の原本をデジタルアーカイブで見たことがあるんです。明らかに内容が改変されています」

氷のような静寂が地下書庫を満たした。
ガルマの指が、テーブルの上で微かに震えた。十年間、誰も気づかなかった。いや、気づいた者は皆、適切に「処理」された。この女性は、彼の完璧な支配システムに、たった一週間でヒビを入れた。

「面白い指摘だ」

彼はゆっくりと立ち上がった。コートの群青の裂け目が、暗闇の中で不気味に輝く。

「では、君に試練を与えよう。この改変が正当であることを証明できなければ...…」

「証明する必要はありません」

カナタの言葉に、ガルマは言葉を失った。

「改変事実は明らかです。ただ、なぜそんなことをするのか知りたいんです。ガルマさんは、知識を隠すのではなく、別の形で守っているんですよね?」

彼女の瞳には、恐怖ではなく、純粋な理解欲が燃えていた。
ガルマは初めて、自分が支配対象を「理解」しようとしている人物に出会った。
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