虚理の冠に咲く一輪

桂圭人

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第三章 暴君の戸惑い

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それから一ヶ月、ガルマは混乱していた。
毎日のようにカナタは地下書庫に現れ、彼の「作業」を観察し、時には質問を投げかけた。彼女は彼を暴君とも怪物とも恐れない。むしろ、彼の歪んだ知識体系に、どこか哀れみさえ込めているように見えた。

「ガルマさん、今日も世界を書き換えてるんですか?」

ある金曜日の夜、彼女はコーヒーカップを二つ持って現れた。彼の分まで。

「…何の用だ」

「勤務時間終了ですよ。たまには普通に会話しませんか?」

「会話は試練だ」

彼は反射的に言い返した。

「崇拝は支配の一形態に過ぎない」

「はいはい、またその難しい話」

カナタは彼のデスクの端に腰かけ、彼が普段着ているテーラードジャケットの群青の裂け目をじっと見つめた。

「ガルマさん、本当は誰にも理解されたくないんですか? それとも、本当は誰かに気づいてほしいんですか?」

その夜、ガルマは初めて、自分の住居で「自慰行為する程」彼女のことを考えた。

白髪を後ろで撫でながら、窓の外の街灯りを見つめる。彼の指は、普段ならタブレットを操り、世界の認識を歪めるために使われる。今はただ、彼女の笑顔を思い浮かべるだけで震えていた。

「ばかげている……」

彼は呟いた。
知識の暴君が、一介の司書補佐に心を乱されるなど。感情は嗤うべき塵芥だ。そう何度も自分に言い聞かせた。
だが、月曜日の朝、彼は無意識にいつもより丁寧に髪を整え、コートの裂け目の群青色がより鮮やかに映えるよう、少しだけ光の当たり方を調整していた。
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