虚理の冠に咲く一輪

桂圭人

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第四章 虚理の冠のひび割れ

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危機は突然訪れた。
組織の上層部が、カナタの「専門知識」に目をつけたのだ。彼女を研究部門に引き抜き、ガルマの支配下から遠ざけようという。

「断ってくれ」

地下書庫で、ガルマは初めて感情を露わにした。白色の瞳が激しく光る。

「なぜですか?」

カナタは困惑した。

「給料も上がるし、私の専門性も活かせるって言われて……」

「その『研究部門』の実態を知らないのか」

彼の声は低く、危険な響きを帯びていた。

「彼らは君のような純粋な知性を、兵器に変える。君が愛する文献も、歴史も、すべて戦争の道具として歪められる」

「でも、ガルマさんだって同じことをしているじゃないですか」

その一言が、すべてを変えた。
ガルマは突如としてカナタの前に立ちはだかり、両手で彼女の肩を押さえつけた。コートの裂け目から、歯車風のネックレスが激しく揺れる。

「僕のすることは…違う」

「どこが?」

「僕は…」

彼の声が詰まった。

「知そのものを守っている。たとえ手段が歪んでいても」

その瞬間、ガルマは気づいた。彼はもう、「虚理の冠」を彼女にかぶせることができない。彼女の前では、彼のあらゆる能力が無力だった。

認識侵触? 彼女はすでに彼の本質を見抜いている。
誅罰の輪? 彼女を傷つけることなど不可能だ。
虚理の冠? 彼女の純粋な理性の前では、粉飾はすべて剥がれ落ちる。

「…僕が、守りたかったのは……」

彼は呟くように言った。

「君のような存在が、この世界にまだいるということだ」
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